【台湾:婚姻平権を追う】台湾と日本の同性パートナーシップ条例の現状はどう違う?

高雄同志大遊行の巨大レインボーフラッグ

台湾の婚姻平權(婚姻平等の権利)を巡る動きをご紹介する【台湾:婚姻平權を追う】。2015年3月に東京・渋谷区議会にて可決されたのを皮切りに、台湾でも多くの自治体が制定に向けて動いた「同性パートナーシップ条例」。パートナーとして登録をするカップルが現在もなお増え続けているこの制度ですが、台湾と日本の現状にはどのような違いがあるのでしょうか?

台湾国民の約80%が利用可能に。

三多商圈を通る高雄同志大遊行

2016年高雄同志大遊行で中心街に差し掛かるパレード(撮影:Kazuki Mae)

台湾で初めて同性パートナーシップ条例を可決したのは、台湾南部最大の都市・高雄市。2015年5月に実施が決定され、この出来事がきっかけとなってパートナーシップ条例を採用する動きが台湾の各都市へと一気に波及していきました。

高雄的一小步,給台灣同志群族無限希望。高雄市民政局今天表示,「同性伴侶註記」將於本月20日開始受理,申請者可於戶役政資訊系統所內註記欄位,註記同性伴侶關係,(中略)註記對象限設籍於高雄的市民,雙方當事人僅需攜帶身分證及相關證明文件即可辦理。

出典:ETtoday東森新聞雲『全台首例!高雄市彩虹高掛 20日開放「同性伴侶」註記』

高雄の小さな一歩が、台湾のLGBTコミュニティに無限の希望を与えました。高雄市民政局は今日(2015年5月15日)、「同性伴侶註記(同性パートナーシップ条例)」利用の受け付けを5月20日より開始することを発表。申請者には高雄市戸籍データベース内の備考欄に「同性パートナー関係」と記載することが認められます。高雄市民のみを対象として行われるもので、双方の本人が身分証及び関連証明資料を携帯することで申請が可能となります。

訳:Kazuki Mae

2017年4月現在、同性パートナーシップ条例が実施されているのは、高雄市、台北市、台中市、台南市、新北市、嘉義市、桃園市、彰化縣、新竹縣、宜蘭縣の10都市。西部の主要都市全てを含んだこれらの地域に住む国民はおよそ1875万人で、台湾全体の人口の約80%に相当。この数字からも見て取れるように、未だ適用範囲が一部地域のみに限られている日本以上に、広範囲かつ急速な勢いで制度の普及が進んでいます。

また、2016年7月にはさらに新たな動きが。台北市、台中市、台南市、高雄市の台湾4大都市圏では制度の共同運用が実現。上記都市のいずれかにおいて登録を完了しているパートナーは、4都市間の転入・転出に関しては登録が失効されることはなく、引き続きパートナーとして認められるよう改正されました。

台北市、高雄市及台南市政府繼日前合作辦理同性伴侶註記後,將於7月15日起新增與台中市政府跨市合作,北、中、南大串聯合辦同性伴侶註記,只要設籍以上四市有同性伴侶註記需求的民眾,都可跨市至各戶政事務所辦理。

出典:聯合新聞網『同性伴侶註記 台中15日起也能跨市註記』

台北市、高雄市、台南市政府は同性パートナーシップ制度の共同運用に取り組んでいますが、(2016年)7月15日からは台中市も加わり、北部・中部・南部一大連合での運用を開始します。上記4都市においてパートナーシップ制度の利用を検討中の市民は、戶政事務所にて各都市共通の登録作業が行えるようになりました。

訳:Kazuki Mae

登録数は台湾全国で1000組以上!

台灣同志遊行でレインボーフラッグを背負って歩くカップル

2016年台灣同志遊行でレインボーフラッグを纏うカップル(撮影:Kazuki Mae)

高雄市で同性パートナーシップ条例が実施されてから、およそ2年。2016年10月時点において、台湾全国ですでに1000組を超える同性カップルが登録を完了しており、市民レベルでも日本を上回るペースで制度の浸透が進んでいます。

高雄市在2015年5月率先開放「同性伴侶註記」後,其他5都及宜蘭、彰化、新竹縣等縣市也陸續跟進。(中略)目前全台6都已累積1280對註記的同性伴侶,其中女性伴侶對數卻比男性高出許多,比例懸殊竟高達4倍之多。

出典:自由時報『6都同志伴侶註記1280對 男女比例懸殊高達4倍』

高雄市が2015年5月「同性パートナーシップ条例」を率先して施行した後、その他5つの主要都市と宜蘭、彰化、新竹県などの県市も続いて参入。(2016年10月)現在までに台湾全国6都市において、すでに1280組の同性カップルが登録を完了しています。登録カップル数としては、女性カップルが男性カップルに比べ約4倍と高い数字なっています。

訳:Kazuki Mae

また、台湾国籍を持たない外国人の場合も、「姓名聲明書(中国語名の声明書)」や「婚姻狀況證明文件(未婚であることを証明する書類)」を提出することで、台湾人の同性パートナーとパートナーシップ制度への登録が可能です。ただし、パートナーとしてビザ発給が受けられる制度ではないため、合法的に台湾に滞在するためのビザ(就労ビザや投資ビザなど)は各自で確保しておく必要があります。

同性パートナーとして登録すれば何が認められる?

彩虹台南遊行の署名活動

同性パートナーシップ条例実施を求める署名活動(撮影:Kazuki Mae)

ますます多くのカップルが登録をしている台湾の同性パートナーシップ条例ですが、日本と同じく、残念ながら法的効力を持つ制度としては認められていないのが現状です。しかし、限られた範囲とは言え、生活の中で効力を発揮する場面はいくつか存在しており、具体的には以下のような事例が挙げられています。

(1)這個註記除了可以作為醫療法上「關係人」之證明,據以順利簽署手術同意書、侵入性檢查與治療同意書、享有醫療資訊知情權。

(2)勞動部已同意同性伴侶可以請「家庭照顧假」。

(3)外交部已同意同性伴侶可以幫對方代辦護照。

出典:多元成家大補帖『同性伴侶註記答客問 註記到底有什麼用?』

(1)(パートナーが病院に運ばれた際に)医療法上の「関係人」としての証明となると共に、手術同意書や侵襲性検査及び治療の同意書へのサイン、病状通告を聞く権利などが認められる。

(2)同性カップルも「家事休暇(パートナーの看病、介護などのための休暇)」を申請することができる。

(3)同性パートナーが本人に代わってパスポートの代理人申請をすることができる。

訳:Kazuki Mae

特に、(1)のメリットが得られる点を重要視するカップルの方は多く、台湾の著名歌手がミュージックビデオで同性カップルの医療問題をテーマとして取り上げるなど、社会的にも注目度の高い話題となっています。

しかし、当事者にとっては、たとえパートナーシップ条例を利用して登録作業を行っていたとしても、血縁家族の決定権が優先される(パートナーとしての自分の意思は無視される)のではという危惧は依然として深く残っており、不安が完全に払拭されるには至っていない状況です。

同性パートナーシップ条例の「次」を目指して、台湾は進む。

現時点では、同性カップルの権利を保障する上で最も有効な手段となっている「同性パートナーシップ条例」。条例施行の先陣を切った日本にも勝る勢いで認知度、普及度ともに急速に高まっている台湾ではありますが、当事者たちの視線はすでに「次」のステップへと向けられつつあります。先月行われた同性婚の合憲・違憲を判断する審議の結果は来月5月24日にも発表される見込みとなっており、「婚姻平權(婚姻の平等)」を目指す台湾のさらなる一歩に、期待が寄せられています。

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ABOUTこの記事をかいた人

1987年香川県生まれ。旅で訪れた台湾に恋して、2012年に来台。2013年には念願の海外社会人デビューを果たし、現在台北にて広告関連のデザイナーとして奔走中。台湾でのLGBTな日々をつづるブログ『にじいろ台湾』を書いています。