LGBTインバウンドの可能性とは?IGLTAアジアのアンバサダーに聞く

ここ数年、増え続ける海外からの観光客。
2020年に向けてますます拡大すること確実なインバウンド需要ですが、当然、その中にはLGBTのツーリストも少なくありません。
LGBT市場が確立している欧米からのツーリストは、旅行に関する様々な局面でLGBTフレンドリーであることが必須であるという方は少なくありません。

欧米を中心に、全世界の旅行関係の企業や自治体の観光局などが加盟しているIGLTAという協会があります。
IGLTAの正式名称は、The International Gay & Lesbian Travel Association(国際ゲイ&レズビアン旅行協会)です。

東京レインボープライドを始め、各地のプライド・イベントにもブース出展をしてきたので、IGLTAの名称を目にされた方もいらっしゃると思います。
IGLTAがどのような組織で、そして日本ではどのような活動をしているのか。
そして、IGLTAに加盟することでインバウンド需要を喚起することができるのか。
IGLTAアジア・アンバサダーとして活動している小泉伸太郎さんに、お話を伺いました。

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(左)東京レインボープライド2016(右)YOKOHAMAダイバーシティパレード

IGLTAとはどんな組織?

いたる(以下”い”):まずは、小泉さんがどのような仕事をされているのか教えてください。

小泉(以下”小”):SKトラベルコンサルティング株式会社/Out Asia Travel 代表取締役の小泉と申します。外国人旅行客を増やしたいと考えているホテル・旅館・地方自治体に対し、海外旅行会社対策を中心としたインバウンド・サポート・サービスをしています。また、インバウンドのランドオペレーターでもあります。欧米から来日するゲイの観光客の地上手配(ランド・オペレーション)、ホテル予約やツアー・ガイドとかレストランの予約などを手配しています。
それから、株式会社アウトジャパンの代表取締役でもあります。
こちらは企業や自治体のLGBT施策の推進をサポートするための研修、セミナー、講演活動やコンサルティング並びにプロモーションを行っています。
私自身が、海外の旅行会社やLGBT関連のメディアやIGLTAのネットワークを使って、海外の様々な企業の方を知っているので、それらの知見を得て、欧米に比べるとLGBT対策が遅れている日本の企業がアライ企業として成り立っていくためのサポートをしています。LGBT基礎編の研修から、その会社のプロダクトをどのようにLGBT向けに販売していくのかというプロモーションなどを行っているコンサルティング会社です。

い:そして、IGLTAの仕事もされているんですね?

小:はい、IGLTAのアジア・アンバサダーです。
これはボランティアの大使です。欧米に比べてアジアの加盟企業が少ないIGLTAは、アジアの会員を増やしていこうと考えています。そこで私がボランティアの大使に任命されて、アジア各国の会員を増やすための普及活動に取り組むことになりました。

い:では、そのIGLTAについて伺って参ります。毎年、東京レインボープライドの会場に、結構大きなブースを出展されていますよね。しかし、多くの方には「何だろう?」と思われているだけで、認知がまだされていないと思うのです。
IGLTAがどういう組織で、何をやっているのかを今日は教えていただきたいと考えています。
まずIGLTA自体はいつできたのですか?

小:IGLTAは正式名称を「The International Gay & Lesbian Travel Association」と言います。1983年にできた組織で、全世界で約2000社以上のメンバーが加盟しています。加盟しているメンバーは、旅行会社、航空会社、ホテル、地方自治体、観光局、もしくはアライになりたい企業です。旅行関係が主体の組織ですが、旅行関係ではない企業が加盟することも可能です。
本部はフロリダにあります。アメリカの会員が最も多く、全体の70%を占めています。次いで、ヨーロッパと南米が多いです。

い:アジア、日本においてはいつから活動が始まったのですか?

小:10年以上前にアメリカ法人のJALパックが、日系企業としては初めてIGLTAに加盟しました。その後、日本企業としては初めてホテルグランヴィア京都が加盟しました。
それ以降、日本ではIGLTAの認知を高めるための啓蒙活動もされていなかったので、数年間加盟企業は増えませんでした。
その後、6年くらい前に旅行会社が4社加盟したです。それから加盟する企業が徐々に増えて、現在は30社です。この5年くらいで7倍にまで増えてきたので、IGLTA自体もアジアに注目するようになりました。アジアの旅行業界の中でもIGLTAに加盟してLGBTのお客様を迎え入れたいと考える会社が増えてきたと認識しているようです。

い:日本以外のアジアではどれくらい?

小:まだ少ないですね。タイに10社弱中国本土に数件、というところです。台湾、韓国は0です。
私がアジアのアンバサダーになった当初は、アジアのネットワークを使って加盟社を増やそうと考えていました。でも今は、まず日本で会員を増やして成功ケースを作り上げ、それをモデルケースとして台湾や香港に働きかける、という戦略で行こうと考えています。香港でもシンガポールでも、興味を示す会社があれば、私が英語でサポートしています。夢は、アジアの会員数を増やしてIGLTAの中にアジア軍団を作り上げることです。

い:IGLTAに加盟したい場合の条件などはあるのですか?

小:基本的にはどなたでも加盟できます。しかし、日本の場合は、似非LGBTフレンドリーな会社に利用されたくないという考えから、加盟希望社様に関しては最初に私どもが面談した上で、企業向けのLGBT基礎研修的なものを受けていただくことを必須としています。

IGLTAに加盟して変わることは?

い:では研修を受けてIGLTAに加盟した場合、例えばホテルなどではどのようなことが変わっていくのでしょうか?

小:一番最初に取り組んでいただくのは従業員の方への教育です。
サービス業としては本当に当たり前のことだと思いますが、例えば同性カップルのお客様とか、トランスジェンダーのお客様に対して怪訝そうな顔をしないとか。
ダブルの部屋に予約を入れているにもかかわらず、チェックイン時に「ツインのお間違いでは?」と尋ねないとか。
そういうことが自然にやれるようになるには、「セクシュアル・マイノリティは普通に存在します」ということを従業員の方がきちんと認識していないいけないわけです。
スタッフ全員が周知しているような風土であることが、LGBTフレンドリーの第一歩だと考えています。
そういう認識を持っていただくためにも、まずはセミナーをきちんと受けてくださいと、最初にお話しするようにしています。

い:例えば旅行代理店の場合も同じ認識を持つことから始めるわけですね?

小:旅行代理店さんの場合も、お客様のどんなリクエストにも気持ち良く応じることが必要ですから。
またトランスジェンダーの方は、パスポートの性別とご本人の性自認に違いがある場合があります。航空券にはパスポート記載の性別が記されるわけですが、そのことをお客様にご説明する際、お客様のセクシュアリティを理解している人が説明するのと、そうでない人が説明するのでは、お客様の受け取り方も大きく変わると思うのです。
こういうことも重要なことだと考えています。

い:今は30社が加盟しているそうですが、増えるペースは加速していますか?

小:してますね。IGLTAの名前がいろいろなメディアで紹介され始めたのは大きいようです。
また加盟されたホテルさんが同業の間で話をされるみたいです。
IGLTAに加盟したら、インバウンドのお客さんが増えた」というように。
その口コミの影響力はすごいです。
実例としては、加盟されている沖縄のホテルさんが、知り合いの飛騨高山のホテルさんにIGLTAの事を話したら興味を持って連絡してきてくれたことがあります。
最近は、私たちから「IGLTAです」と広報して回らなくても、加盟店さんの口コミで増えてきているのが現状です。

インバウンド需要増加の実例

い:IGLTAに加盟するとお客さんが増えたと云う言葉がありましたが、実際にそういう例は多いのですか?

小:それは実際にありますね。その要因は2つあると思います。
1つは欧米IGLTAがきちんとプロモーションしているので、海外の方がIGLTAのサイトを見てホテルを検索するです。
日本の場合はホテル以外も含めてまだ30社しか加盟されていないので、逆に日本で宿を探そうとIGLTAのサイトを検索すると非常に目立ちます
「LGBTフレンドリーである」と云う事ホテルを決めるときの指標にされる方は少なくありませんので、実際に増えているようです。
2つ目の要因がちょっと大きくて、ホテルの側の意識の変化です。
IGLTAに加盟されたホテルのスタッフさんは研修を受けられているので、フロントにいらしたお客様に対する認識も変わっているのです。
例えば、以前は男性2人を「友人同士」と認識していたのが、今は「恋人同士」だとわかるようになってくる。
それをどんどんカウントしていくことで、以前は気付かないで埋没していたかもしれない数字が、ちゃんと現れてきてます

い:実際、IGLTAのサイトを使ってホテルを探すお客様は多いのですね。

小:若い方よりは30代後半以上の方々の方に浸透度が高いと思われます。
ミレニアル世代と呼ばれる若い方々が、ホテルが「LGBTフレンドリーである」ことにどういう意識を持っているかは把握しかねています。
欧米の方では30代後半以上の方が「LGBTフレンドリーであるか、否か」にセンシティブで、IGLTAのサイトをホテル探しに利用される方は多いです。
アメリカでは当たり前になっている「LGBTフレンドリーな環境」であるかどうかを確認するための指標になっているようです。
そういう方達は、旅行の予定を組むときはLGBT専門の旅行会社を使うことが多いです。海外にはLGBT専門の旅行会社は、たくさんります
シカゴにあるLGBTの旅行会社は、一年に何十本もの団体ツアーを組むのです
例えば日本のツアーなら東京に集合して、関西方面から九州を回る10人単位の旅程だったりするとホテルはIGLTA加盟店を選ぶことが多いです。

い:IGLTAのサイト経由で、個人が直接予約する場合もあれば、旅行会社が予約する場合もあるということですね。

小:手配をする旅行会社にとっては、お客様が旅先で嫌な思いをされないことが最も大事なわけです。
旅先で嫌な思いをされたら、旅行会社にクレームが行きます。
だからこそ、IGLTAに加盟してLGBTフレンドリーな意識が徹底しているスタッフさんが揃っているホテルなら、お客様が快適に過ごしていただける可能性が高いという判断基準になるわけです。
私も、OUT ASIA TRAVELとして海外の旅行会社から問い合わせが来た時は、やはりIGLTA加盟のホテルをご紹介するようにしています。
お客様からクレームが入るようなホテルをご紹介してしまうと、弊社の評判も落ちてしまいますので。

IGLTAの加盟社が増えている理由

い:もっと日本でも加盟するホテルが増えるといいですね。

小:確かにそうですね。でも、加盟数だけ増えればいいというものでもないかと思っています。
例えば東京レインボープライドでブースを出すときは、IGLTAとして枠をおさえて加盟店さんに「参加しませんか?」とお声がけするようにしています
参加していただけば一緒になってプロモーションができますし、それだけではなく全国各地から参加してくださる皆様で意見交換会とか交流会をきます
その場でそれぞれの状況などを情報交換したり、逆にクロスセールといってお互いにお客様をご紹介し合うなんてこともります
研修、情報交換、お客様の相互ご紹介など、目に見える形で現れてきていることがご好評いただいています。
加盟店さんが増えてきているのは、そう言ったベネフィットがきちんと見えてきているからだと思います
急激に加盟店数が増えてしまうと、今ご好評いただいているベネフィットが受けられなくなる可能性も生じるかもと考えています。

い:確かに急激に数が増えると、そういう問題も起きるかもしれませんね。ところでIGLTAでは年に一度総会が開かれると伺いました。

小:はい、毎年4~5月ごろに開かれています
全世界の2000社くらいの加盟店の中から数百社が一堂に集まり、エデュケーションセミナー(マーケットに対して、世界でどんなことが行われているのか?)が開かれたり、ネットワーキングを目的としたイベントがあります。
食事会やパーティーなどで、様々な国の加盟店と触れ合い、情報交換することでお互いのビジネスチャンスを広げていきます。
会場は一年おきにアメリカと、それ以外の国の中から選ばれます。
アメリカのLGBTフレンドリーな都市で開催したら、翌年はアメリカ以外の国が会場になります。
2015年はロスアンジェルス、2016年は南アフリカのケープタウン、2017年はフロリダ、2018年はカナダのトロントです。
アメリカ国内で開催される時は5~700社、どこの国からも遠い南半球のケープタウンで開催された2016年も350社集まったらしいです。

い:総会は大きなビジネスチャンスの場でもあるのですね。今年はフロリダですから、多くの加盟店が集まりそうですね。総会で新たな発見などあったら、またお話を聞かせてください。

ゲイだけのスノーリゾート・イベント

:では、最後に日本のIGLTA関連でイベントがありましたら教えてください。

小:3月11日~12日に、IGLTA加盟のグランデコ・スノーリゾート主催の「グランデコ・レインボー・ウィークエンド」が開催されます。
グランデコ・スノーリゾートのスキー場で昼間はスキーを楽しみ、夜は裏磐梯グランデコ東急ホテルゲイ・オンリーのクラブ・イベントやプール・パーティー、そして温泉も楽しもうというイベントです。
グランデコスキーリゾートのレストラン夜はクラブに変身させます。
そして裏磐梯グランデコ東急ホテルの温水プールは照明を落として雰囲気のあるパーティー会場にしますよ。

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2016年グランデコ・レインボーウィークエンドより

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グランデコ・スノーリゾートさんは4年前にIGLTAに加盟されました。
当事者のスタッフさんがいらして、社内でカミングアウトされて「ゲイのスキーツアー」の企画を出したのです
2015年からこのイベントが毎年開催されています。
2015年は約50人、2016年は約100人と、参加される方は倍増しています。
2016年までは、仙台のゲイバーにフライヤーを置いてもらったりして東北方面中心にプロモーションしていました。
東北各地から車で参加される方が多かったのですが、今年は首都圏からの参加も増えるだろうと試算しています。
当日朝に、新宿2丁目からピンクのツアーバスを出します、もちろんお帰りも新宿までお届けします。
今年からは、新たにIGLTAに加盟された大和リゾートさんの裏磐梯ロイヤルホテルも宿泊ホテルに加わりました。
こちらはリーズナブルなご料金で宿泊していただけます。
イベントのご料金には、宿泊代(2食つき)、2日分のリフト代、クラブイベント、プールパーティーの入場料が含まれています。
新宿からのバスプランで参加される場合は往復のバス代6000円が加算されます。
スキーとゲイmixのパーティーが楽しめる2日間です。
パウダースノーで雪質も最高のグランデコ・スノーリゾートで最高の冬の思い出を作ってください。

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Flyer Omote

■グランデコ・レインボーウィークエンドの詳細はこちら
グランデコ・レインボーウィークエンド

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グランデコ・スノーリゾート
裏磐梯グランデコ東急ホテル
裏磐梯ロイヤルホテル

小泉伸太郎さん

小泉伸太郎さん

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OUT ASIA TRAVEL
OUT JAPAN
SKトラベルコンサルティング

■The International Gay & Lesbian Travel Association公式サイトはこちら
IGLTA

ABOUTこの記事をかいた人

いたる

LGBTに関する様々な情報、トピック、人を、深く掘り下げたり、体験したり、直接会って話を聞いたりしてきちんと理解し、それを誰もが分かる平易な言葉で広く伝えることが自分の使命と自認している51歳、大分県別府市出身。LGBT関連のバー/飲食店情報を網羅する「jgcm/agcm」プロデューサー。ゲイ雑誌「月刊G-men」元編集長。現在、毎週火曜日に新宿2丁目の「A Day In The Life」(新宿区新宿2-13-16 藤井ビル 203 )にてセクシャリティ・フリーのゲイバー「いたるの部屋」を営業中。 Twitterアカウント @itaru1964