「無性別」と言う性自認。踊るラッキーBOY想真くんの場合(後編)

2017年7月に開催された第26回レインボーリール東京~東京国際レズビアン&ゲイ映画祭で上映されたドキュメンタリー映画「私はワタシ~Over the Rainbow~」(増田玄樹・監督/東ちづる・製作)。
様々なセクシュアル・マイノリティが登場してインタビューに答えていくこの作品で、初めて「無性別」という言葉を知りました。
映画の中で「無性別」であると語っていた人がダンサーの想真くんです。
「無性別」とはどういうことなのか、とても興味を抱いた僕は、想真くんにお話を伺うことにしました。

前編では「性別が分かれていることが理解できない」と感じた幼い頃から、男女に分かれたトイレのどちらに入るかを選べず引きこもりになった時代を経て、病院で「無性別である」と言う診断を受けて自分の苦しみの理由が分かったことを語ってくれました。
しかし、それは全てを解決することではありませんでした。
想真くんの話は、続きます。

※前編はこちら ‎ ‎。

 

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社会で生きるために決めた「男子で生きていこう」

 

想真(以下”S”):まず、まわりのみんなに言うようになった。言えることでちょっと楽。
まだ社会には出れないけど、コミュニケーションがほんの少しだけ取りやすくなった。
そしたら、もっと前に進むにはどうしたら ? って考えて…、この「男子」って決めるところにたどりつきました(笑)。

無性では(社会に)出ていけないのは、さんざんトライして分かってる。
この社会には選ばなきゃいけないっていうのがあって。
トイレの問題もある。
だれでも入っていい「だれでもトイレ」はどこにでもあるわけじゃない。

どうしたらいい?
(男女を)選ぼう。
女子はムリ…、自分が気持悪すぎる。
よし! ずっと「男子」で生きていこうって決めました。

そしたら、すごく楽になって。

僕って、新しい場所に行くとき、最初に確認するのはトイレなんですよ。
たとえばダンススタジオとか。でも更衣室とかトイレが分かれているから、今まではなかなか行けなくて。
でも、もう「男子」って決めたから、全部そうすればいい。
男子として着替えればいいし、男子トイレに行く。
男女分かれて〜って言われたら男子の方に行けばいい。
迷わない。
一切迷わなくていい。
僕は男子だ。

いたる(以下”I”):今まで迷っていたから、どこにも行けなかった壁みたいなものが無くなった?

S:すごく楽にはなりました。

「あ、男の子だったんだあ」
って言われたら、以前は戸惑ってたけど、もう
「はい、男子です」って言える(笑)。

「女の子みたいだね」
「ああ、よく言われます」って。

自分の中で「男子」っていう人物を作りあげた感じです。

I:じゃあ、今はチケット取るために性別求められたら「しゃあねえな」ってピッとクリックできちゃう?

S:やりますね。そういうのちょっと面倒くさいけど、「はい、男子です!」って。

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カミングアウトして後悔…でも新しい出会いで気づけたこと

I:大変だった部分が減ってきて、人と関わりやすくなってきたのですか?

S:ほかにもいろいろあるけど、性別っていう部分ではやっとちょっと進めた気がする。
そのあとは男子としてなんとか楽に生きてこれたから。

そしたら、とあるTV番組で大々的にカミングアウトしませんか? って話が来て。
去年その番組で、1000人くらいのお客さんを前にカミングアウトしたんですよ。
「無性です」っていうカミングアウトを。
その頃、僕のことを男子と思ってくれてた友だちがいっぱいいて、(カミングアウトを聞いて)周りの反応も、ほんとうにいろいろで。
「男女とか無性とか関係なく、想真は想真だよ」
と言ってくれる人もあれば、普段、肩組んだりハグして遊んでくれてた友だちが、急にスキンシップ無くなったりとか(笑)
そんななんか寂しい思いもあって、カミングアウトしてから一時期、どうしていいのかほんとうに分からなくなっちゃって。

「ああ、まだ早かったんだ…」って思った。
「まだ無性(別)っていう世間に知られていないものを言うのが早すぎた」って思って。
(無性が)どういうものか聞かれても、うまく答えられない。
みんなに自分を伝える言葉がわからなくて。カミングアウトした自分を守ってあげれなくなっちゃったんですよ。
まだ言うのが早かった、男子でいれば良かった。そういう悩みの時期に入ってしまって。

でも、そのあと(カミングアウトした)番組を、女優の東ちづるさんが見てくれていて僕に声をかけてくれたんです。
(東ちづるさんが代表をつとめるGet in touchで)いろいろ活動する中で、
(カミングアウトが)早かった、って思ってたけど、「あれはあれで良かった」と思えるようになってきたんです。Get in touchって、まぜこぜじゃないですか。
(※「一般社団法人Get in touch」は誰も排除しない「まぜこぜの社会」をめざして、アートや音楽、映像、舞台などのエンターテインメントを通じてマイノリティーのPR活動をおこなう。代表理事 東ちづるさん)

あの頃は、無性ってことを言葉で伝えなきゃいけないって思ってたし、全部を分かってもらわなきゃいけない、と思ってた。でも、なんか地球にはいろんな人がいて、いろんな人たちに一人ずつ全部を理解してもらうって、それは無理やし(笑)。

「いろんな人がいるよ」って伝えるには、僕はあのタイミングが良かったんだって思えてきた。
「無性? そんなのあるの? よく分からない」って思われたことが、良かったんじゃないかって思えるようになってきた。

今もまだ、無性はうまく伝えられてなくて。両性と間違われたり、中性、真ん中とか言われたり、やっぱり難しい。

でも最近は、色々なセクシュアリティの人と出会って話すから、
「ああ、この言葉いいな」
「その言葉は自分に合ってるな」
って思うものを取り入れて(自分のことを)話すようにしてて。

だから今のこの環境は、すごくありがたいです。全く同じ人はいなくても、似てるとかこれは違うとか、そういう判断ができるから。

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地球をハッピーにする使命があるから

 

I:見られることが嫌だったのに、今は逆に舞台に上がって視線を集める側になった。それってすごく大きい変化じゃないですか。どういうことで変わったんですか?

S:僕、ダンスしてる時って、男女を考えていないんですよ。
そういう人間的なところに僕はいないと思っていて、まっさらで、この身体を信じて踊っているから、なんか全く考えなくなっちゃうんですよね。
僕、ダンスがあって本当に良かったと思っています。
不思議な感じですけど。
この身体すごい好きだし、ダンスしている時は(笑)。

I:それは自分の思ったことを表現出来る体ということですか?

S:まかせています、この子(身体)に(笑)。

でもダンスしてない時のこの身体には、まだちょっと落ち込む。
だから、ずっと舞台に立ってたらいいんだろうけど(笑)そういうわけにもいかないんで。

自分を表現するとき自分に嘘ついちゃいけないと思ってて。そしたら(性別は)無いんですよ。
あったら自分の表現にならなくて、でも、わざと無くすわけじゃなくて、踊ってたら自然に無かった。
無いのがほんとうだから。

あっ、僕、宇宙人なのでちょっと宇宙の話になりますが。
地球に人間ができあがったとき、男と女って創られてはいないと思うんですよ。
男と女って決めたのは、勝手に地球人が決めただけで、地球に人間が作られた時には男女は無かったと思ってます。

僕は地球をハッピーにする、それが自分の使命。
そうすると踊る時に
地球ハッピーのことしか考えてないんですよ。
だから、自然にここ(地面を指す)が無くなっているんですよ、人間が作った領域がなくなっているんで、ここ(自分の頭の上と、自分の真ん中を指す)でしかいない。

I:自分のやりたかった自己表現としてダンスをやるようになり、自分の体がそこにフィットしてる今は幸せですか?

S:そうですね。ダンスがあって本当に良かった。

最初のころ、引きこもりをテーマに踊ってたり、自分をさらけ出しちゃうことで周りのみんなが喜んでくれる、そういうところから「(自分の表現をしても)いいんだ」って思えるようになって。

2年前に「僕地球をハッピーにするんだ」って急に使命を思い出して、海外を回るようになったんです。

カンボジアはかなり行きました。
村とか孤児院をまわったり、フェスティバルで障害持ってる子たちのワークショップしたり。
あと、フィリピンや韓国とか、それから昨年の夏は、パレスチナ公演もありました。
ベトナム公演はベトナム政府から招待をうけていて、年に2回は出演してます。

I:想真くんが回ってきたアジアを中心とした海外であろうが日本であろうが身体表現で伝えるという意味では国境みたいなものは意識しない?

S:ないですよ、全く。パフォーマンスしてる時は。

ただ、男女のことになるとやっぱり色々あって。
パスポート見せるのがすっごい嫌だったんです。
海外行くとどこでもパスポートが必須で。

『性別のこと気にしてんのは日本くらいだ!』って思ってても、『こっち(アジアを中心とした海外)の方が辛いじゃないか?』みたいな。
僕のことを「She」って言うから、(心の中で)「Heだよ!」って叫んでたり。
男女で言語が違うこともある。
もちろん男子の言葉を使うけど。

向こうでゲストハウスに泊まるとき、男子、女子、ミックスって部屋が分かれてるんですよ。
「僕はミックスに入りたい」って最初に伝える。
完全に(男女に)分かれている時は「男子です」って説明するんです。
そうすると「ああ!」ってすぐ分かってくれる。
「でも戸籍では…。決まりではちょっと…」なんていう日本みたいに堅苦しいのはなくて、
即「OK~!」ってわかってくれる、それがすごい嬉しかったです。

そういう経験を最初にしたのはフィリピン。
ほんとうに嬉しかった。
話せばわかってくれる、すぐ分かってくれた。

何回も行っているベトナム公演で、ベトナムの女の子から
「今まで女子だと思ってた、ごめんなさい…かわいい顔してるから」って言われたことが。
かと思えば、本当に僕のことを男子だと思って女の子に告白されちゃったりもするし。

でも、海外で無性(別)って説明することはまだないですね。
今のところ必要ないかなって。あんまりそこ(男女)をみんな気にしてないから。

I:話していて感じたことなんで、あっているかどうかはわからないけど、海外で女の子に謝られた事とか、告られた事とか、すごく楽しそうにお話されているなって見えるんですよ。それは当たってます?

S:ガッカリするときもあるけど、別にそれはそれで人間の自然な反応かなって思えちゃって。
男子に見てくれたらラッキーみたいな(笑)。
だから今はなんか楽しいですよ。

I:人と積極的に関わるようになって5年間。考え方とか、物事の捉え方とか、変化した面はすごく多いのではないかと思います。そして、これから先、想真さんは何をしていこうと考えていますか?

S:地球ハッピー! それしか考えられない(笑)

もっといろんな国をまわって、いろんなことを体感して、もっと自分と違う人たちを感じていく。
そして出会う地球の人たちに、僕ができることをする。
それが、ダンスかもしれないし、こうやって僕自身のことを話すことかもしれないし。

性がある、性が無い、他にもいろんな人たちがいて、みんな地球で生きていて、これからもまたいろんなことを感じまくるだろうし、性ってなんだろう? ってこの先も思い続けてるかもしれない。
もっとつらい経験して泣いたり後悔したり(笑)するかもしれない。
でもぜったいそれがほんとうの笑顔につながっていくから。
だから僕、ワクワクするんですよ。

地球にはほんとうにいろんな人たちがいるから、みんながみんな違うことを感じて楽しんで、みんなが‘それぞれ1人1人の”地球ハッピー”でいられたら、僕はほんとうにすごくうれしいです。

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幼い頃のことから、今、そしてこれから先のことまで、赤裸々に話してくれた想真くん。
「無性(別)」であるという感覚は実感としてまでは分からなくとも、「無性(別)」の人がいるということは理解していただけたでしょうか。
”地球ハッピー”を目標に、アクティブに活動していくと語ってくれた想真くん。
興味を持たれた方は、ぜひ想真くんのパフォーマンスを体験してください。

 

【踊るラッキーBOY想真 出演情報】

1)平成まぜこぜ一座
「月夜のからくりハウス」

2017年12月10日(日) 18:00開演
会場:クラブeX(品川プリンスホテル) 東京都港区高輪4-10-30
品川駅から徒歩2分

小人プロレス、車椅子ダンサー、全盲の落語家、寝たきり芸人、糸あやつり人形、ドラァグクイーンなどなど…
摩訶不思議なパフォーマーたちがくりひろげる一夜限りのエンターテイメント

総合プロデュース:一般社団法人Get in touch
詳細は、こちらをご参照ください。

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2)天理パフォーマンスフェスティバル 出演

2017年10月28日(土)13:00 〜17:00(想真君の出演は15:00〜の予定)
会場:CoFuFun 天理駅前野外ステージ
公式サイト

このイベントは、現在、奈良県で初めて同時開催されている「第32回国民文化祭・なら2017」「第17回全国障害者芸術・文化祭なら大会」の一環として開催されます。
2017年9月~11月の三ヶ月間にわたり、奈良県内全39市町村で障害のある人とない人が一体となってイベントを盛りあげています。
「第32回国民文化祭・なら2017」
「第17回全国障害者芸術・文化祭なら大会」公式サイト

踊るラッキーBOY想真公式サイト

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ABOUTこの記事をかいた人

いたる

LGBTに関する様々な情報、トピック、人を、深く掘り下げたり、体験したり、直接会って話を聞いたりしてきちんと理解し、それを誰もが分かる平易な言葉で広く伝えることが自分の使命と自認している51歳、大分県別府市出身。LGBT関連のバー/飲食店情報を網羅する「jgcm/agcm」プロデューサー。ゲイ雑誌「月刊G-men」元編集長。現在、毎週火曜日に新宿2丁目の「A Day In The Life」(新宿区新宿2-13-16 藤井ビル 203 )にてセクシャリティ・フリーのゲイバー「いたるの部屋」を営業中。 Twitterアカウント @itaru1964