LGBTが見えてくると差別も激しくなるもの?〜”世界に広がるLGBT迫害戦争”と日本の状況

2016年7月19日号のニューズウィーク誌に、「世界に広がるLGBT迫害戦争」という記事が掲載されました。
記事の全文は下記をご参照ください。

■”世界に広がるLGBT迫害戦争” ニューズウィーク

この記事では、世界的に同性婚が認められ始めるなど性的少数者の人権活動が大きく躍進を遂げる一方で、ホモフォビア(同性愛者嫌悪)による事件が多発していることをレポートしています。


差別解消に向けた世界の潮流とは裏腹に、今もLGBTを狙った殺人や暴行は各地で多発している。「(オーランドの事件は)世界に広がる深い憎しみのごく一部だ」と、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)のチャールズ・ラドクリフは言う。

FBIの統計によれば、ホモフォビア(同性愛者嫌悪)が生む暴力は、人種差別に起因する暴力に次いで多い。LGBTが全人口に占める割合は小さいにもかかわらずだ。しかも統計に表れる値は氷山の一角で、大半の事件は報告されない。

性的少数者への暴力は同性愛者だけに限ったことではありません。
トルコでは下記のような事件が起きています。

そんな海外の状況を見ても、日本では当事者ですらどこか他人事のような感覚の人が少なくないです。


・欧米と違って日本では表立ったLGBT差別がない。
・クローゼットで居れば平和に暮せているのに、わざわざ声を上げる必要がない。
・パレードなど性的少数者を顕在化させる運動をすることで、寝た子を起こすような逆効果になるのでは?

当事者の中からも、こういう意見が20年以上前から語られています。

でも、日本では本当に性的少数者への差別がなかったと思いますか?
愛知ヤクルトで起きたトランスジェンダー強制カミングアウト事件や、LETIBEE LIFEで取り上げた下記のような差別問題は、日本でLGBTの存在が目に見えてきたから初めて起きたことでしょうか?

性同一性障害カミングアウト強制 愛知ヤクルト提訴の反響
一橋大学ロースクールでのアウティング転落事件〜原告代理人弁護士に聞く、問題の全容
【サムソン高橋の「ゲスの極み放談」】差別意識って本当に根深く困ったもの
頻発する性的マイノリティ差別発言を見逃してはならない理由

つい最近まで、日本では性的少数者のほとんどはオープンに声をあげることはなく、クローゼットな生活をしていました。
(もちろん現在でもクローゼットな生活をしている人の方が、オープンにしている人よりもその割合は遥かに多いです。)
つまり一般的には「存在しないもの」として扱われる生き方を自ら選んできたのです。
そのため、性的少数者を狙った暴行事件などが起きても、記事やTVで大きく取り上げられることもなく、強烈な印象が残らないで終わってしまう場合がほとんどでした。

たとえば、こんな事件が起きています。

■虹色百話~性的マイノリティーへの招待 第32話 新木場事件

これは2000年2月11日に、新木場の「都立夢の島緑道公園」で、いわゆる”ホモ狩り”に遭ったゲイが殺された事件です。
それ以前にも、駒沢公園や芦花公園など、当時、ゲイが集まると言われていた”ハッテン場”と呼ばれる公園で”ホモ狩り”の殺人事件が発生しています。

公共の場で遊び相手を探す=ハッテン行為、の末に殺されたという理由から、同じ当事者の間でも
「深夜の公園でハッテンする方が悪い」
「危険だと分かっているところに自分から行く方が悪い」

と、突き放すような意見も出てきました。
そして、
「殺されたのは公園でハッテンしていたから」
だから公園に行かない自分たちは関係ない
、と他人事のように結論づける当事者も少なくありませんでした。

しかし、犯人たちはこう語っています。


金を巻き上げても相手はホモなので、警察に届けを出せばホモがばれる弱みがある」ため、被害届も出さないのでやりやすかった

殺された人は「ハッテンしていたから」襲われたのではなく、「ゲイだから」襲われて殺されたのです。この犯人たちは、他にも「ホモ狩り」を繰り返していたようですが、表沙汰になっていないだけで、泣き寝入りした被害者は少なくないようです。
当時、「ホモ狩り」と称する暴力行為に及んでいたのは、逮捕された彼らだけではありません。

先日のフロリダ銃乱射事件の時、当初ISのテロだと思われていた時点では日本でも盛んに報道されました。しかし事件の場所は「ナイトクラブ」という表現で、「ゲイクラブ」であると正しくは伝えられませんでした。さらに、犯人もゲイであることが分かると、途端に報道の扱いが小さくなっていきました

LGBTの人権、経済効果など光の当たる面は積極的に報道されても、性的少数者が関わった暴力・殺人など闇の面は日本ではきちんと報道されません。
2016年の今ですらこの状況なのですから、新木場事件のような「ホモ狩り」に関しても、闇に葬り去られた事件は少なくないと思われます。

欧米と違ってクローゼットな性的少数者に対する差別は、暴力・殺人など一見、過激にならないものも多いです。
日本においての「LGBT迫害戦争」は、もっと静かに、陰湿な形で進められます。

次回は、職場で受けた差別の実像をレポートします。

【この項、つづく】

■TOP画像引用元
http://www.newsweek.com/gay-lgbt-war-against-gays-violence-orlando-united-nations-469926

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ABOUTこの記事をかいた人

いたる

LGBTに関する様々な情報、トピック、人を、深く掘り下げたり、体験したり、直接会って話を聞いたりしてきちんと理解し、それを誰もが分かる平易な言葉で広く伝えることが自分の使命と自認している51歳、大分県別府市出身。LGBT関連のバー/飲食店情報を網羅する「jgcm/agcm」プロデューサー。ゲイ雑誌「月刊G-men」元編集長。現在、毎週火曜日に新宿2丁目の「A Day In The Life」(新宿区新宿2-13-16 藤井ビル 203 )にてセクシャリティ・フリーのゲイバー「いたるの部屋」を営業中。 Twitterアカウント @itaru1964