「私たちのお金哲学・カードを置いて街に出よう」新・老後どうする? 年収300万未満の人生サヴァイヴ術 007

過酷な残業を重ねても増えない収入、シングルで生きる老後像が思い描けない、パートナーがいても老後の安心感など見えてこない、知らん顔などできない親や家族の問題も降りかかってくる……。
「自分の人生、これから先どうなっていくのかなぁ?」
そんな漠然とした不安、感じたことありますよね。

セクシュアル・マイノリティ当事者が抱える不安を少しでも解消するべく、決してキラキラはしていないけど地に足つけた活動で学んできた偏屈者ライター永易至文が語り下ろす生活密着コラム。
第七回は「お金の貯め方」について語る後編です。前編では、お金を貯めるための考え方を話してもらいましたが、今回はより具体的な実践編です。

●いま取り戻したい、昭和の「現金感覚」

N:今回は、お金をめぐるちょっとしたことをいくつかお話してみたいと思うんですけど。

I:小ネタ大好き。お金のことも、もっと気楽に話したいね。うかがいましょうか。

N:お金について考えるとき、いま、「現金感覚」を取り戻すことが大事じゃないかと思うんです。
具体的にいうと、カードでものを買わない
駅で切符買うのでもコンビニでジュース買うんでも、みんなカードの入った財布を叩きつけて電子マネーで払ってるけど、それが結局、自分が日にいくらお金を使っているかわからなくしているんじゃない?
前回、家計簿に数字記入するだけで全然違うよってお話したけど、現金で払ってレシートをもらい、それを家計簿ににつける、そういうアナログな生活に戻すことで、お金感覚を回復し、収支の健全化にも役立つじゃないかと思うんだけど、どうでしょ?

I:カードって持ってればついつい使っちゃうけど、そこを現金にすると「使いしぶる」んだよね。買うまえにこれ必要かなって思いとどまるだろうし、節約になるよね。
実際、カードはお金を使うことを「ためらわせない」効果があるよね(笑)。
いつからだろ、こんな生活になっちゃったの。カードはそもそも打ち出の小槌じゃない(笑)。

N:え、やっぱりそうですか。
私、そもそもカードはもたない、いつもニコニコ現金払いな昭和の人だし、クレジットカードやキャッシュカードは自宅に置いたままなのでわからないんだけど……。

I:おなじことは、ネットでものを買うことにも言える気がする。
ア●ゾンはダメだね、危ない危ない(笑)。「ポチり厳禁!」ってパソコンに書いて貼っておくべきだね。
あと、移動中にアマ●ン見ない(笑)。ツイッターでもなんでもプロモーションが上がってきて、もうその場でポチポチ買っちゃうんだから、ダメダメ(笑)。
●マゾンで買うなら代引にするべきだね。商品が届いた時に財布からお金を出すことで、現金感覚を保てそうだし。手数料かからないからカード決済しちゃうんだろうけど、逆につぎつぎ買わされてしまう仕組みだよね。ポチってすると脳内ドーパミンがパーっと出て、なにか達成した感がある。それを脳みそが覚えてクセになるのかも。
あとネットゲームの課金も危ない。

N:買い物依存症ですね、そりゃ(笑)。
収入が乏しいわりにネット買いに溺れている人は多いかもね。ゲームも楽しむお金はいくらまでと決めて(前提として先に貯金を取りのけておく)、その範囲で買う・楽しむが原則だけど、いまのカード類って残高がなくても自動貸越しとかしてくるから、あれもひどい(笑)。
いたるところでお金を使わせようって、口を開けて待ってるよね。

I:おとなは財布のなかなんか気にせず、カードでサラッと買い物してこそオシャレなんて、そんな広告戦略にだまされちゃダメだね。
大きなものを買うときも現金を用意して店舗に行って、現金を払って買うようにすれば、そのまえにホントに必要かどうか何度も考えるでしょ。

●庶民なりにできることはある

N:私、「三丁目の夕日」ノスタルジーにふける趣味はないんだけど、堅実な暮らしを取り戻すのに、昭和の後半・末期の生活スタイル、具体的には「現金経済」に戻るのは悪くないと思うのよ、全部とはいわないまでも。こんなアイデアもあるよ。

・封筒管理法
一か月分の生活費を現金でおろしてその範囲で生活。おもな費目ごとに封筒に分けて生活すると、なお渋い。

・小銭貯金
現金主義の前提で、1日に何度か財布を整理し、1円玉と5円玉を取りのける(気分スッキリ効果がある)。ある程度たまったら郵便局で数えてもらって入金。半年で1万円近くたまることもあり。あるいは、500円玉があったら貯めると決めるなど、自分で財布整理のルールを作るとよい。

半年でこのくらいたまります。ちょっとした飲み代ぐらいにはなります。

半年でこのくらいたまります。ちょっとした飲み代ぐらいにはなります。

・つもり貯金
たとえば自分でバリカンで頭を刈る人(私も)は、刈るたびにカットにいったつもりで千円、貯金箱に入れる。

・禁煙と減量
タバコ一箱500円の時代なんで、このさい禁煙すると節約効果は巨大で健康にもよい!
減量も、デブ好き彼氏を裏切っても、健康のためにはよい。病院にかかればお金かかる。
セーファーセックスも、性感染症もらわないという点で、節約になる。

・もう一つの財布
ただでさえ忙しい毎日なので副業をオススメはしませんが、もし週末ゲイバー店子のバイトとか、ネットオークションのせどりとか、細切れ時間とアイデアがある人はチャレンジしてみましょう。そのお金はべつの貯金通帳を使ってためておき、普段は手をつけない。ひそかに貯まっているのは、嬉しいものです。

それから、もし障害者手帳を持っている人は、マル優制度は知っておくとよいよ。

I:なにそれ?

N:利子で増える時代でないんだけど、その少ない利子にも2割、税金がかかります。障害者手帳を持っている人は、貯金の元本350万円までの利子が非課税、国債などの公債も額面が350万円までの利子が非課税になります。もし定期貯金したり個人国債買ったりするときは、窓口で聞いてみるといいですよ。

I:だれかと一緒に暮らすって、節約にならない?

N:おー、古典的なところ来ましたね。
手取り20万の人が、20万で家賃や食費、光熱費払ってその残りで暮らすのはなかなか大変だけど、もし20万の人が二人寄れば、40万で暮らすわけじゃないですか。
昔から「ひとり口は食われんが、ふたり口なら食われる」って、これですね。
恋人とか親友とか、諸般の事情はあるだろうけど、共同生活は考えてもいい選択肢よね。
こんなときこそ最近流行りの「同性カップル歓迎の不動産屋」などにトライしてみるといいかも。

I:下半身は別れてるのに、生活として繋がっているから生活を共にし続けるゲイカップルとかいるかもね。

●借金のない暮らしがいちばん

I:いろいろお金とのつきあい方をめぐって話してきたけど、収入が乏しいなら乏しいなりで、堅実にやっていく方法もあるってことだね。

N:ライフプランニングなんていうと、富裕層のための利殖話みたいな印象があるけど、メディアに踊る虚妄のような「LGBTマーケット●兆円」の裏側にいる私らみたいなフツーの人が、ときには楽しみながらフツーに暮らしつづけるにはどうするか、具体的に考えようという話なのね。
徳川慶朝(よしとも)さんという、慶喜のひ孫にあたるかたがエッセーで、
「きょうはうな重が食べたいな、と思うとき、あまり財布のなかを気にせずに食べられるぐらいが豊かさの目安」
と書いてました。将軍様のご子孫、華族の末裔の、含蓄ある言葉だと思います。

I:借金もなく、おだやかにそんな暮らしができたら理想だね。
カード経済であっというまに借金ができる時代は、見かけの経済規模は大きくても、本当に豊かと言えるのか。

N:社会が、富裕層と貧困層への二極化が進んで、貧困に陥ったり、そこにHIVや依存症やいろんな「生きづらさ」を抱えてしまった人には、いまはさまざまなNPOのサポート体制がある程度あるけど、「中間層」にはなんのサポートもないのね。
経済成長の時代なら中間層はフツーに生活してればある程度、余剰もあり自然に貯金もできたんだろうけど、じつは黙せる中間層がいま厳しいと私は思ってましてね。
パープル・ハンズって、私も含めた黙せる中間層の暮らし改善運動、学びの場というのが趣旨だし、この連載もそんなことを提案できたらいいな、と思っています。

I:次回からの連載も、「中間層」に役立つ内容で頼みますよ。

二回にわたって、お金の貯め方について話してもらいました。収入と使い方を見直して、給料もらったらすぐ貯金、を心がけていきましょう。次回もお楽しみに。

新・老後どうする? のバックナンバーはこちらから

<今週の永易さん>

 永易さんが運営するNPO法人パープル・ハンズでは、性的マイノリティの暮らしや老後の「確かな情報センター」として、当事者の専門家の立場からかずかずのご相談に応じています。
お話を共感的にうかがい、課題を整理し、現行の法律や制度を活用し、多大な費用をかけないで、まずは具体的にできることを紹介したり、一緒に解決策を考えているそうです。
 相談は通常、2時間程度・5千円の相談料がかかりますが、現在、一般財団法人ゆうちょ財団さんの助成金を得て、無料で提供されているので、生活や老後のことできになることがある方は、積極的なご利用をお勧めします。

 お申し込みは、相談内容のあらましと相談希望日時(土日や夜間も対応可)を記して、パープル・ハンズ( info@purple-hands.net )までメールでお送りください。

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ABOUTこの記事をかいた人

永易 至文

永易至文(ながやす・しぶん) 1966年愛媛県生まれ。90年代にいわゆるゲイリブサークルにかかわりゲイである自分を受容。出版社を経て2002年からフリーランスライター/編集者。2013年からNPO法人パープル・ハンズ事務局長、行政書士(東中野さくら行政書士事務所)。 NPO法人パープル・ハンズ http://purple-hands.net