教えて!HIV/エイズの最新情報【第二回】ウィルス検出限界以下は感染源にはなりえない

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<前回の記事>
第一回「服薬の最新情報とウイルス検出限界以下とは?」

インターネットで検索すると、HIV陽性の方の体験記などのブログがたくさんヒットします。しかし、書かれていることや治療の実態などは本当に様々で、どれが事実なのか頭を悩ましてしまう方も少なくないでしょう。
そこで、HIV陽性と判明してから受ける治療の今とこれからについての最新情報を、ぷれいす東京代表生島嗣さんに伺ってまいります。

第二回は、「ウィルス検出限界以下は感染源にはなりえない」です。

ぷれいす東京
「自分らしく生きることを応援します」をモットーに、HIV/エイズや性感染症、セクシュアルヘルスをテーマに、市民一人一人が自分らしく生きられるような地域の環境づくりに取り組む特定非営利活動法人。

ウィルス検出限界以下の陽性者は感染源にならない

いたる(以下”い”):前回教えていただいた「ウィルス検出限界以下」に関して、具体的にはどういうことなのか、もう少し詳しく教えていただけますか?

生島(以下”生”):2016年、アフリカのダーバンで国際エイズ会議が開かれまして、そこで発表されたデータなんですが。
HIV+とHIV-の888カップル(内訳:ゲイ、バイセクシュアルカップルが340、異性間が548)を観察して、どれくらいパートナーに感染するかを調べたデータが発表されました。
HIV陽性者の方は血液中のウィルスの量が200コピー以下で、日本の検出限界以下よりちょっと高めではありますが、治療によりHIVが十分に低く抑えられている人が調査の対象になっていました。
観察中にコンドームなしの性行為をしているカップルが結構いました。結果は11人のHIV-のパートナーがHIV+になりました。
11人の感染が起こった人のHIVの遺伝子と、陽性パートナーの遺伝子を比較すると、一人も一致しなかったんですね。
で、その感染した11人のうちの10人はゲイ、バイセクシュアル男性なんですよ。
つまりパートナー以外からもらってきた、という調査結果で微妙にリアルなんですけど(笑)。
この調査では、888カップル中、パートナーとたとえコンドームを使わなかったとしても感染した人は一人もいませんでしたっていう結果になっているんですね。
ただ、この結果はコンドームは不要であることを示すものではないのですね。体液由来の性感染症は他にもあるので、やはりコンドームをきちんと使っていただくのがベターだと思います。でも、HIVのことだけ考えると、ちゃんとHIV陽性とわかっていて、定期的な服薬で血液中のHIVが検出限界以下に抑えられている人たちは、もはや感染源とは言えない状態になっていると、いうことなんですね。
HIV陽性者だとカミングアウトされた時に、自分のエッチの対象から外したりとか、付き合う相手から外したりする人もいるけど、そんなことしなくてもいいですよ、って結果になっているんです。男の選択肢は減らさない方がいいんじゃない?って(笑)個人的には思います。
僕も過去に付き合っていたことあるし。特に自分はそれで感染しませんでしたし。

い:自分の体の状態を把握している人の方が、わからない人よりは安全なんですね。

生:そうなんです。感染を把握してちゃんと医学的なケアをしている人たちは、もはや感染源として考えなくていい時代になってきている、ということなんですね。
最近、日本NPOセンターさんの企画で、電通のクリエイターさんにぷれいす東京のポスターを作っていただいたんですよ。

「うつらないよ、ちゃんと治療しているから」
「そうなんですHIVは早期治療によって、人への感染を起こさない状態に快復できる時代です」

というコピーを女性のコピーライターが作ってくれたんです。
もはや感染源ではないにもかかわらず、セックスの相手とかパートナーにカミングアウトすると、陽性者は必要以上に怖がられたり、避けられるという反応を受けることがあるわけです。
ですから、このポスターには陽性者から
「よくぞ、作ってくれた」
「どんどんこれを宣伝してください」
と、ものすごい反響があります。

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今、ゲイとして生活するなかで何を心配しないといけないかというと、自分が感染していることに気づいている人と出会うことではないと思います。むしろ、自分の感染を知らずにいる人たちがいて、その人たちと性行為をするときに、どういう風にセックスするかということの方が、大きな課題です。
ですので、みなさんが抱えているだろうHIVへの恐怖や不安というものは、陽性とわかって治療している人たちに向けるべきものではなく、少し対象をずらしていただいた方がいいのだと思います。

い:HIVに関してはすごい速度で何段階もフェーズが変わっているのに、僕と同じようにちょっと古めなフェーズに囚われたままでいる人が少なくないようですね。

生:そうかもしれない。
なんかもう知ってるし、関係ないし、ではなく、状況がどんどん変わっているので、やっぱりその都度、情報をアップデートし続けていただきたいですね。

なぜHIV検査に行けないのか?

い:都市伝説レベルで古い情報が残っている感じもしますよね。HIV陽性だと分かってしまった後の悲劇、みたいな。

生:治療がすごく変わったっていうのがあるし、予防の概念も少しづつ変わってきているって現状もありますね。
HIVの感染予防はコンドームを使うっていうのがメインストリームであるわけです。けれども、大きな変化としては「トリートメント・アズ・プリベンション(治療することが予防である)」っていう考えが出てきたのが、この5年くらいでしょうか。
コミュニティの中で早く自分の感染に気がつく人を増やして、みんなが治療することで感染の拡大が防げるっていう考え方がその根底にあります。個人の問題というよりもコミュニティの課題として考えるということでしょうか。

い:そのためには検査を受けて自分の体の状態を把握する人が増えないといけないですね。そのあたりは如何なのでしょうか?

生:そこがちょっと問題なんです。
UNAIDS(国連合同エイズ計画)が提唱している「90-90-90」という努力目標があります。
これは、

HIVに感染している人の90%がHIV検査で感染に気づく
そのうちの90%が抗HIV薬を服薬する
さらに、そのうちの90%が血液中のウイルス量を検出可能値以下に抑える
(90% Tested, 90% Treated, 90% HIV Suppress)

というものです。
日本は1998年に薬害エイズ裁判が和解となり、HIVの治療拠点病院が全国に整備されたり、障害認定の対象になることによって、医療費の自己負担が低く抑えられるようになりました。
そのため、2つ目、3つ目の90は既にクリアーしていると思われます。
アメリカだと国民皆保険じゃないので、最初の90は85%まで行ってるんですが、2つ目3っつ目が40%とか20%とかすごく低いんですね。その根底にあるのは格差社会であることで。健康保険に全員が入れないということがすごく影響しているんですね。
その点、日本は国民健康保険もあり、生活保護もあり、社会保障がしっかりしています。
ですので、日本の課題は最初の90なんです。いろいろな調査結果から見ると、ゲイ男性で過去に一回でも検査をしたことがある人が4割から6割くらいの間なんですね。

い:意外に少ないんですね。

生:検査を受けないのには、3つの大きな理由があって。

1つ目は、陽性とわかったら怖い。
身近に陽性者もいないし、どうなるか想像もできない。人間関係とか、あるいは自分の身体の健康がどうなるのかも含めて、その先が見えない、イメージできないという不安です。
2つ目は、根拠はないけど自分は多分大丈夫じゃないかなって。
関係ないって言い切れないけど多分大丈夫なはず、という風に可能性を棚上げにしている感じでしょうか。
3つ目は、どこでどうやって検査を受けたらいいか分からないっていうもの。
調べれば本当は色々あるんですけど、「分からない」とアンケートで答える方が結構いらっしゃいます。
※検査ができる場所に関する情報は文末をご参照ください。

この3つのハードルを乗り越えられない人が少なくないという現状があります。
もし感染がわかった後のことをすごく心配しているのであるならば、現在のすごく進んだ医療があり、なおかつ社会保障が整っていて自己負担がすごく少なくて済むということを知って欲しいんです。
平均的なサラリーマンだったら、自己負担するのは月に平均1万円くらい。HIV陽性者のうち、二ヶ月か三ヶ月に一度の通院という人が7割くらいなので、治療が安定すると二ヶ月から三ヶ月に一度1万円払えば、高価な薬が手に入って飲めるようになるんですね。
感染がわかった直後の人たちに、相談のなかで、最近はこういう社会制度があってサポートは結構充実していますよ、っていうと
「知りませんでした」
「なぜもっと早く検査を受けなかったんだろう」
という方が結構います。

い:経済的な不安というものがまずないんだってことを知らなきゃいけないし、それと同じく、陽性だと判明したからといってその先に待っているものが死ではないということ。この2つがわかれば検査に行くハードルはかなり下がるはずですよね。

生:下がりますね。
他によくある質問としては、プライバシーが守られるかどうか、ですね。
都会の保健所だと、近所の人、親戚が保健所にいるというのはあまりないですが、地元は無理だという場合には、離れた場所の保健所でも問題なく利用できます。それも難しいという場合には、ネットで販売しているHIV検査キットを利用するのも手です。僕も何度か、利用したことがあります。僕は違った意味で保健所に顔バレしているので(笑)。結果が陽性であった時のことを考えると、保健所の方が専門病院とのパイプがあるのでオススメです。
病院に通院することになったとしても、勤務先に勝手に伝わるわけじゃないんです。さらに、HIV陽性という事実は(勤務先に)報告する義務はないんですよ。
むしろ早めに検査で感染に気づき、服薬を開始すれば、個人情報をよりコントロールできます。
日本では、年間に新たに1500人くらい陽性と分かるんですけど、そのうち3割くらいの人は免疫が下がって症状が出てから、いわゆる「エイズ発症」で感染が判明するんですね。
その中には「入院スタート」という人たちもいるんですよ。入院スタートになってしまうと、周囲の人から「どうしたの?」と尋ねられて、何らかの説明が必要になってしまう可能性が高くなります。
早めにわかるっていうのは、早期に進んだ医療にアクセスできるというメリットもあるし、自分の個人情報を守りやすいってことでもあります。
まあ、たとえ入院したとしても個人情報は守れるんです。説明が必要になる場合にどう答えればいいのかをお医者さんも一緒に考えてくれますし。セクシュアリティのことも含めて、とってもサポーティブだと思います。

知れば知るほど、HIVに関する医療の進歩の速度に驚かされます。そして、今の日本が抱える問題点も見えてきました。次回、最終回は、海外で実践されている新しい予防や治療に関して伺います。

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※主にゲイ、バイセクシュアル男性(MSM)を対象に、LOVEライフ、セクシュアルヘルス(性の健康)、メンタルヘルス(こころの健康、薬物使用など)に関する情報を発信しています。

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ABOUTこの記事をかいた人

いたる

LGBTに関する様々な情報、トピック、人を、深く掘り下げたり、体験したり、直接会って話を聞いたりしてきちんと理解し、それを誰もが分かる平易な言葉で広く伝えることが自分の使命と自認している51歳、大分県別府市出身。LGBT関連のバー/飲食店情報を網羅する「jgcm/agcm」プロデューサー。ゲイ雑誌「月刊G-men」元編集長。現在、毎週火曜日に新宿2丁目の「A Day In The Life」(新宿区新宿2-13-16 藤井ビル 203 )にてセクシャリティ・フリーのゲイバー「いたるの部屋」を営業中。 Twitterアカウント @itaru1964