教えて!HIV/エイズの最新情報【第一回】服薬の最新情報とウイルス検出限界以下とは?

インターネットで検索すると、HIV陽性の方の体験記などのブログがたくさんヒットします。しかし、書かれていることや治療の実態などは本当に様々で、どれが事実なのか頭を悩ましてしまう方も少なくないでしょう。
そこで、HIV陽性と判明してから受ける治療の今とこれからについての最新情報を、ぷれいす東京代表の生島嗣さんに伺ってまいります。

第一回は、「服薬の最新情報とウイルス検出限界以下とは?」です。

ぷれいす東京
「自分らしく生きることを応援します」をモットーに、HIV/エイズや性感染症、セクシュアルヘルスをテーマに、市民一人一人が自分らしく生きられるような地域の環境づくりに取り組む特定非営利活動法人。

一日1~2回の服薬でウイルス検出限界以下に

いたる(以下”い”):HIV/エイズに関して、実は半端に古い知識しか持ち合わせていないもので、今日は最新の情報を教えていただきたいのです。よろしくお願いします。
まずは、誰もが知りたいと思うHIVの治療の”今”を分かりやすく解説してください。

生島(以下”生”):陽性であることがわかり病院にいくと、多くの人は最初は血液検査を2回ぐらいして自分の免疫状態はどれぐらいなのかを調べるんですね。その時に、ある一定の血液の中にウィルスがどれくらいいるかってことも同時に調べるんです。これを「ウィルス量の測定」と言います。治療のスタート時点でそのウィルス量は、個人差がすごく大きいんです。
その後は、免疫の状態を確認しながら服薬を開始することになります。
もし症状が出ている場合はまず症状の治療をするんですが、特に症状が出ていない場合も多いです。そういう場合は、一日に1回か2回、抗HIV薬(HIVの増殖を抑える薬)服薬をすることになります。

い:本当に半端に古い知識しかなくて申し訳ないのですが、複数の薬を一日3回服用しなければならないと思っていたのですが、そうでもないんですね。

生:1996年にアメリカの研究者が三つの薬を組み合わせるとウィルスの増殖を抑える効果が高いということを発見しました。これをHAART (Highly Active Anti-Retroviral Therapy) と言います。
最初の頃は副作用がキツかったり、薬の量が多かったりとか、いろいろと患者さんにとって負担になる部分もありました。でも、その後研究がどんどん進んで、副作用、服用する回数も少なくなり、なおかつ効果が持続する時間が長くなったりと、体への負担がどんどん減ってきているんです。
服用回数も、服用する錠剤の数も減ってきています。一番少ない人は一日1錠だけになってきました。その1錠の中にウイルスの増殖する3つのプロセスを邪魔するような機能が組み込まれているんです。
3箇所同時に抑えることで、半年から一年くらいすると多くの方は血液中にウィルスがまったく存在しない状態になります。
その状態のことを「ウィルス検出限界以下」と呼びます。
医薬品開発は、すごく進歩していますよ。

かなり少なくなってきている薬の副作用

い:これまた半端に古い知識なのですが。副作用で頬がこけてお腹だけ出ちゃうといったことがあると言われてましたが、今も同じような副作用があったりするのでしょうか?

生:昔のサンフランシスコなどでは、「HIVです」とカミングアウトしなくても、見た目で、手足が細くなったり頬がこけていたりするのでなんとなく分かってしまうってことがあり、「エイズ・ルック」と呼んでいたらしいんです。けれども、今の薬は副作用が少なくなり、「脂肪の代謝異常」という脂肪の付いている場所が移動してしまうっていう副作用も少なくなってきていますね。新しい薬を服用している人たちは、服用を始めてみても「何も変化ないんだけど」という人たちが増えてきました

い:1980年代にゲイの癌と言われていた時代からほんの30数年で、医学はどんどん進歩して変わってきているんだなって、今お話を伺って思い知っています。「ウィルス検出限界以下」まで副作用がほとんどなく抑えられるようになってきた、ということですが、一度「ウィルス検出限界以下」までなったとして、その後どれくらいの期間抑えられるのかはまだ分かっていないのでしょうか?

生:血液中にウィルスが出ていない状態が続けば理論的には薬剤耐性は出現しないと言われています。ずっと飲み続けられるんですね。ただ、副作用が出た場合などには薬剤変更する、ということはあり得るでしょうが、基本的にはずっと服用し続けることができると言われている現状です。
今は抗HIV薬を服用するという治療が主流で、他に遺伝子療法とワクチンという大きな2つの治療法の開発が進んでいます。ただ、実用段階まできているのはまだそんなにないのですが、抗HIV薬とワクチンを組み合わせた治療はちょっと前にイギリスで臨床試験があって非常に効果が高いと報道されてましたけど、今は薬を飲み続けるという治療がメインとなっています。

進歩する医療に合わせてイメージもアップデートを

生:ぷれいす東京の研究グループでは、 5年に一回、これまでに3回のHIV陽性者の生活実態調査をやっています。2012~2013年とその10年前(2002~2003)で大きく変わったのは1日に1回の服薬をしている人の割合です。2002~2003年には全体の約2%強でしたが、10年経つと全体の60%弱になっています。短期間に非常に大きな変化があったんですね。
1~2年すると、多分、一月に一回注射すれば薬を服用しないでいいという薬剤が実用段階に入ると思うんですね。海外ではすでに臨床試験の段階にきています。アメリカで承認されたものは数ヶ月で日本でも承認されるので、日本でもこの治療が受けられるようになると思います。
ただ、「自分は薬を飲む方がいい」という声もあるみたいです。注射は嫌だ、という人もいますから。飲むか注射か、を選ぶ時代は割とすぐに来るかもしれませんね。

い:毎日決められた時間に服用しなければならないというストレスからは開放される可能性があるわけですね。それも割とすごく近い時期に。

生:医療の進歩はものすごいスピードで進化しています。HIV陽性者のブログなどには、すごく治療が大変そうに書かれているものもありますが、最近飲み始めた人の話を聞くと「驚くほど何事もなかったです」という方も結構多いんですね。ですから、ぜひHIVの治療に対するイメージをアップデートしてほしいなと思っています。

服薬回数や副作用が劇的に少なくなり、さらに進歩している医療の今を知って驚くばかりです。
次回は、「ウイルス検出限界以下」に関してさらに詳しいお話や、治療にかかるお金のことなど、さらに興味深いテーマで伺ってまいります。

■生島さんが立ち上げたこちらの情報サイトもぜひご覧ください。
LASH  Love Life and Sexual Health
※主にゲイ、バイセクシュアル男性(MSM)を対象に、LOVEライフ、セクシュアルヘルス(性の健康)、メンタルヘルス(こころの健康、薬物使用など)に関する情報を発信しています。

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ABOUTこの記事をかいた人

いたる

LGBTに関する様々な情報、トピック、人を、深く掘り下げたり、体験したり、直接会って話を聞いたりしてきちんと理解し、それを誰もが分かる平易な言葉で広く伝えることが自分の使命と自認している51歳、大分県別府市出身。LGBT関連のバー/飲食店情報を網羅する「jgcm/agcm」プロデューサー。ゲイ雑誌「月刊G-men」元編集長。現在、毎週火曜日に新宿2丁目の「A Day In The Life」(新宿区新宿2-13-16 藤井ビル 203 )にてセクシャリティ・フリーのゲイバー「いたるの部屋」を営業中。 Twitterアカウント @itaru1964