【ジェンダーマリアージュ】同性婚の権利を勝ち取ったドキュメンタリー映画は、エキサイティングな衝撃と感動だった。

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2016年1月30日に、東京&大阪で1週間限定レイトショー上映がスタートしたドキュメンタリー映画「ジェンダーマリアージュ」は多くの観客を動員し、公開劇場が続々と増えています。日本でも同性婚が話題になり始めた今だからこそ見るべきこの映画の魅力をご紹介します。

ドキュメンタリー映画ってつまらないんじゃない?

ドキュメンタリー映画、ご覧になったことありますか?シネコンで公開される娯楽映画が大好きっていう方からすると、
「なんか真面目で堅苦しそう」
とか
「退屈でつまらなそう」
とか、そんなイメージを抱きがちだと思います。

実際、以前は僕もそうでした。都内のミニシアターで公開されるドキュメンタリー映画を見に行こうと思ったこともありませんでした。

ところが、「東京国際レズビアン&ゲイ映画祭」を取材して、何本ものドキュメンタリー映画を見る機会ができたことで、それまで抱いていた印象が大きく変わったのです。

「事実は小説より奇なり」 と、昔から言われていますが、これは本当のことだったのです。

ドキュメンタリー映画の題材となる事件や物事には、フィクションを遥かに凌駕するようなドラマがその裏で繰り広げられています。そのドラマを、映像で写真で、そして膨大な人々の証言で解き明かして行くことこそがドキュメンタリー映画の醍醐味であります。そして、まったく知らなかった事件や物事、人々を知り、解き明かされて行くドラマに感情移入して、怒りや哀しみや喜びという感情を共有するのは、ドキュメンタリー映画ならではの体験です。

特に「東京国際レズビアン&ゲイ映画祭」で上映されるドキュメンタリーは、セクシャル・マイノリティに関する作品ばかりなので、より身近に感じることができる分、感情移入もしやすくなります。そして、映画祭で上映されるドキュメンタリー映画が後に日本で公開される可能性は極めて低いので、「スクリーンで見る機会は一生に一度しかないかも」、そう考えて、毎年映画祭で見る作品を選ぶ時にドキュメンタリー映画は必ず優先的に選ぶようにしています。

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全米で同性婚が合法化されたことの真の意味を知る

今回、「ジェンダー・マリアージュ〜全米を揺るがした同性婚裁判〜」というタイトルで公開されるこの作品は、2014年の東京国際レズビアン&ゲイ映画祭で「アゲンスト8」というタイトルで上映されました。これは実際の裁判を巡るドキュメンタリー映画です。

では、この作品で解き明かされてくのはどんな裁判だったのか、簡単にご紹介します。

2008年に同性婚が認められた米・カリフォルニア州。ところが同年11月に結婚を男女間に限定する州憲法修正案「提案8号」が議会を通過し、再び同性婚が禁止されました。この「提案8号」は人権侵害であると州を提訴した2組のレズビアンとゲイのカップル。最終的にはアメリカ合衆国最高裁判所で争われることになるこの訴訟と、これに関わった人々のドラマにカメラは迫って行きます。

昨年6月、全米の州で同性婚が合法化されたことが大きなニュースとなりました。己の不勉強ぶりを晒しますが、アメリカでの同性婚の権利獲得の流れをよく分かっていなかった自分にとって、ニュースの本当の価値はその時はよく理解できていませんでした。しかし、この作品を見ることで、それが如何に大きな意味を持つことなのか、はっきり分かりました。

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セクマイに寛容なイメージの西海岸での差別の実態

ロスアンジェルスやサンフランシスコがあるカリフォルニア州といえば、多くのセクシャル・マイノリティが暮らす進歩的な土地柄、というイメージを抱いていました。ところが、僅か7年前に同性婚が否定される事態になっていたとは、正直驚きでした。

進歩的なイメージのあるカリフォルニア州ですらこうなのですから、もっとガチガチ保守的な州では、同性婚を合法化するためのハードルはさらに高いだろうと容易に想像がつきます。訴訟の原告となったレズビアンとゲイの2組のカップルに対して狂信的保守層から心ないヘイト攻撃を加えられる場面からは、宗教が深く関わっているセクマイ差別の根の深さを感じさせられます。そして最終的な判決が下される日、アメリカ最高裁判所前に集まった膨大な数の支持者とアンチの騒ぎっぷりからも、この裁判が如何に注目度が高いものだったのかうかがうことができます。

セクマイに対するヘイト攻撃と言えば、昨年末、渋谷区、世田谷区、宝塚市など続々と同性パートナーシップ条例が施行された直後から頻発した議員や公務員によるセクマイ差別発言を思い出す方も少なくないでしょう。

あの一連の差別発言に宗教的価値観が加味されると、どんな酷いことになるでしょうか。作中では存外あっさりと描かれてるにも関わらず、原告となった2組のカップルに対するヘイト攻撃の凄じさは確実に伝わってきます。だからこそ、この裁判に勝訴したこと、そしてそれが全米での同性婚合法化に繋がっていくことの重要さをよく理解することができるのです。

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人間ドラマであり、法廷ドラマとしてもズバ抜けた面白さ

日本ではよく知られていなかった事実を知る、という面白さ以外にもこの映画は違う面白い側面があります。
ひとつは、人間ドラマとしての楽しみです。

裁判の原告となるレズビアンとゲイの2組のカップル。この4人とその家族たちの物語に感情移入すると、映画のラストにより大きな興奮と感動を得ることができるでしょう。

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そしてもうひとつは、法廷ドラマとしての楽しみです。

この映画は、法廷ドラマとしても秀逸な面白さを内包しているのです。たとえば「アリー My Love」「ロー&オーダー」「私はラブリーガル」「グッドワイフ」などの海外ドラマや、「告発の行方」「キューティーブロンド」などの映画で描かれる法廷ドラマが好きな方は、同性婚にこれっぽちも興味がなくても楽しめること確実です。

2000年のアメリカ大統領選挙を巡る「ブッシュ対ゴア事件」を覚えていらっしゃいますか?大接戦となったこの選挙で、勝敗を決めたフロリダ州の結果に瑕疵があるとして票の数え直しをゴア陣営が求めた裁判です。

全米どころか全世界が注目した(結果如何ではゴア大統領が誕生したかもしれないのですから)この裁判で、ブッシュとゴアそれぞれの代理人として闘ったのが、セオドア・オルソン元総務長官とデイビッド・ボイス弁護士。
共和党と民主党、つまり保守とリベラルと明確に立場の異なる2人ですが、同性婚の是非を争うこの映画で描かれる裁判ではチームを組んで原告の代理人となったのです。
有能で、かつ老獪さも持ち合わせた実力者2人によって編み出されて行く法廷戦術は、ノンフィクションを軽く凌駕してしまうダイナミックさとデリケートさの両立。
如何に精緻に戦略を練ることが勝利に繋がるのだと実感させられます。

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色々な楽しみ方のあるこのドキュメンタリー映画は、東京では1週間の限定レイトショーで公開スタートしましたが、連日満席でさらに1週間上映が延長されました。さらに3月からは劇場を変えて2週間の上映が決定しています。同じく1週間の限定レイトショーを終えた大阪でも、劇場を変えてさらに2週間上映されました。その後公開された神戸でも上映終了後に別の劇場での公開が決定されています。さらに神奈川・名古屋・長野・博多と。続々と各地で公開が始まっています。(参照:『ジェンダー・マリアージュ』上映スケジュール

映画館に見に行けない方や、お住まいの近くで上映館がない方でこの作品を見たい、多くの方に見て欲しいという方には「市民上映会」を企画するという方法もあります。日本でもセクシャルマイノリティの人権や同性婚が議論される機運が高まり始めた今だからこそ、必見のドキュメンタリー映画です。

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ジェンダー・マリアージュ〜全米を揺るがした同性婚裁判〜
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■ 監督・プロデューサー:ベン・コトナー、ライアン・ホワイト
■ 編集:ケイト・アメンド、A.C.E.
■ 音楽:ブレイク・ニーリー
■ 配給:ユナイテッドピープル
■ 2013 年/アメリカ/英語/112 分
■公式サイト:http://unitedpeople.jp/against8/
■上映スケジュールはこちら
■市民上映会に興味のある方はこちら

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いたる

LGBTに関する様々な情報、トピック、人を、深く掘り下げたり、体験したり、直接会って話を聞いたりしてきちんと理解し、それを誰もが分かる平易な言葉で広く伝えることが自分の使命と自認している51歳、大分県別府市出身。LGBT関連のバー/飲食店情報を網羅する「jgcm/agcm」プロデューサー。ゲイ雑誌「月刊G-men」元編集長。現在、毎週火曜日に新宿2丁目の「A Day In The Life」(新宿区新宿2-13-16 藤井ビル 203 )にてセクシャリティ・フリーのゲイバー「いたるの部屋」を営業中。 Twitterアカウント @itaru1964