失恋でボロボロになった時
半年ほど前の話になりますが、家族へのカムアウトを行いました。
家族へのカムアウトは、母親からです。いつか話せたらいいなと思ってはいましたが、その時は全くするつもりではありませんでした。
きっかけは、失恋です。恥ずかしい話ですが、昨年末に抉られるような辛い失恋を経験し、人生で一番っていうくらい、凹んだ時期がありました。それがきっかけでタバコも吸うようになって、家にもろくに帰らずひたすらアプリで新しい人と知り合い、飲み歩いては朝帰りを繰り返し、たまに家に帰っても不機嫌な状態で腐り切っていた時期。
一人になれば泣くばかりで、仕事にも身が入らず友人の言葉にも上の空。
そんなある日、家で母親と二人きりになる時間がありました。
一生忘れられない母の言葉
「最近どうしたの?」
私にはこれといって反抗期がなく、グレる事もなく、親と衝突する事も無く育ってきました。そんな自分の初めての反抗期、遅過ぎる思春期に、ニヤニヤしながら聞いてきた母。
「ぶっちゃけ、失恋してさ。」
話したいような、話したくないような、情緒不安定の中でついこぼした一言でした。
「あっ、そうなの。なんかでも安心したわ。あんたにもそういう事があるんだ。」
たった、それだけの言葉。
いつもなら受け流せるのに、その時ばかりはなぜかとても傷付き、受け流せませんでした。家に彼女を連れてこないどころか、女友達とばかりよく遊ぶ息子を見て、母もなんとなくは不安に思っていたのでしょう。
安心した、という言葉が、息子がゲイじゃなくて良かったと、そういう意味に聞こえました。
変な期待を持たせたくない。これ以上、母を裏切りたくない。
「ごめん、違う、違うんだよ。」
泣くつもりじゃなかったのに、涙が溢れて止まらず、やっと口に出来た言葉でした。
「俺、ゲイなんだよ。」
やっと口にしたカムアウトは、想像していた以上に、後戻りできない恐怖でいっぱいでした。
ずっと、自分がゲイである事が、親不孝だと思っていました。
長男だから自分が末代だとか、孫の顔を見せてあげられないとか。
親としてそういう喜びが無い事は苦しい事だと、勝手に思い込んでいました。
特に私は、息子として何か親が誇りに思う事をひとつもしていないと思っていて、余計に、そんな夢すら叶えてあげられないんだという思いが、罪悪感を募らせました。
親不孝でごめん。もし嫌だと思うなら家を出ていく。そんなネガティブな言葉ばかりが口を突いて出ました。
そんな言葉に、本気で怒られました。
「テメェの母親ナメんな!」
「生まれて来てくれた事が、一番の親孝行。それ以上は何も期待してねーよ!」
「たかがそれだけの事で、拒絶されると思われた事がショック。てめぇの母親ナメんな!」
「お前が幸せに生きていてくれるなら、どんな形でもそれが私にとって一番の幸せなんだよ!」
母も泣いていましたし、きっと強がりもあったのだろうと思います。
それでも、母からもらった言葉の中で、一番心に突き刺さるものでした。
裏切りたくないという思いで自分をひた隠しにしていた事が、家族を信じ切れず裏切っていた事に、その時気付かされました。
その後、落ち着いてから、ゆっくりと過去をなぞり、だからあの時ああだったんだねと笑いながら語り合う事が出来ました。
「息子がゲイだなんて、あたしの人生、ほんと波乱万丈で楽しい!」
と言ってのけた母の強さたるや、この人には一生敵わないなと思いました。
妹の言葉
母へカムアウトをした際、父と妹にはどう伝えたものかと迷っていました。
母には話したかったら話していいからねと言っていたので、その後、話を聞いた妹からLINEが飛んできました。
なんでもっと早く言ってくれなかったの!と、それだけでも嬉しい言葉でしたが、
なんだか妹にも罪悪感があって、普通の兄じゃなくてごめんなと送ってしまいました。
「普通って何?私は、お兄ちゃんがお兄ちゃんで良かったと思ってる。」
一時期は殺し合いのような喧嘩をするほどの仲でしたが、そんな妹からさえも、こんな素敵な言葉をもらえるとは思ってもみませんでした。「普通」という言葉に長年苦しんできた私としては、自分から言った言葉が跳ね返された事が、嬉しくてたまりませんでした。
家族に打ち明けるということ
家族に打ち明けてから、特に私の生活は何も変わっていません。
ただ、妹とたまに恋愛の話が出来るようになった事や、テレビでイケメンが出た時にかっこいい!と何も臆せず言えるようになった事、彼氏が出来た喜びを報告出来る事。ストレートの人達と同じように、家族の何気ない会話をより一層楽しめるようになった事が、一番うれしい事かもしれません。
その後の余談ですが、彼氏とのツーショット写真数枚をLINEの家族グループに誤送信してしまった事がありました。
流石に頭が真っ白になりましたが、お兄ちゃんと服装が似てる~という妹の返事や、イケメン彼氏によろしくという母の冗談のおかげもあって笑い話で済んだので、今思うと本当にカムアウトしておいて良かったなとホッとしています。(笑)
父親に関しては、正直まだ面と向かって話をしていないので少し不安はあります。
母から聞いた話では、「病院行かなくていいのか?って心配してたよ。」と笑いながら言われました。
それでも、一緒にお酒を飲んだり映画を観たり、趣味と時間を共有できているので、何も問題は無いのかなと感じています。
家族へのカムアウトは、友人に対してよりも、職場に対してよりも、遥かにハードルの高いものだと思います。一番身近で大切な存在だからこそ、一番否定されたくない存在です。しかしだからこそ、そこを乗り越えた時の喜びは、生まれて来て良かったと心から思えるものでした。
カムアウトはゴールじゃない
家族に打ち明けて、本当に良かったと私は思っています。
しかし、同時に家族の不安も感じました。
ひとつ母から言われたのは、誰にでも打ち明けるのはやめて欲しいという事でした。
本当に自分が信頼できる人にだけ、打ち明けて欲しい。まだまだ誤解されやすい事だからこそ、気を付けて欲しいと言われました。
結果として、傷付くのはあなただけに留まらない、私たちだって傷付く事があるのだからと。それから、息子を受け容れる事は簡単にできても、LGBT自体に対する理解はなかなか難しいとも言っていました。
カムアウトが成功したからと言って、これから何でも自由に語れるわけではない、その事はしっかりと頭に入れて、少しずつでも理解してもらえればいいかなと思っています。
カムアウトは、ゴールではなく、むしろスタートラインに立っただけでした。
家族にとっても、自分自身がLGBTを受け容れる世の中になるキッカケになって欲しい。
家族に話した事で、一つ新しい決意を持って、これから本当の意味で自分らしく生きていけるような気がしています。
彼氏を家に連れて紹介するとか、同性婚についてとか、そういう未来を家族が当たり前に想像してもらえるように、少しずつ少しずつ、話していけたらいいなと。
いつか、俺は世界で一番幸せですと、胸を張って言えること。生んでくれた事に感謝できること。
そんな親孝行がしたいなと、今は思っています。