台湾の同性婚合法化への討論は今どこまで進んでいるのか?

台灣同志遊行2016

台湾LGBTプライドに合わせて急展開!台湾の国会で新たな動きが。

10月29日(土)、台湾・台北ではアジア最大級のプライドパレードである「台灣同志遊行(台湾LGBTプライド)」が開催され、8万人を超える動員数を記録。昨年の記録を更新し、さらなる盛り上がりを見せています。また、LGBTプライドに合わせて、蔡英文台湾総統は昨年に続いてFacebook上で同性婚の支持を表明台北市政府でもレインボーフラッグが掲げられるなど、LGBTフレンドリーなニュースが立て続けに飛び込んできています。

そんな中、台湾の国会で同性婚の合法化をめぐる新たな動きが。10月24日(月)、台湾の国会で「民法改正草案」が提出され、早ければ今会期中にも具体的な討論を行う準備段階に入る可能性が出てきました。

「民法」が改正されれば、何が変わるのか。

台灣民法修正案記者會

画像出典:聯合新聞網

公視新聞議題中心の報道によると、今回の「民法改正草案」は10月24日、立法院(日本でいう国会)で最大勢力となっている蔡英文総統率いる「民進党」の立法委員34名と、新勢力の「時代力量」3名、「国民党」1名の38名によって署名、提案されたもので、この草案をまとめた尤美女民進党立法委員は、改正されるべき部分として次の3つの事項を挙げています。

① 將民法972條「婚約應由男女當事人自行決定」,「男女」改為「雙方」

② 將973條的男女適婚年齡皆改成18歲

③ 部分修法將同志納入權益保障範圍,如夫妻之權利義務、收養權等等。

Via:公視新聞議題中心『朝野38立委連署修民法 促同志婚姻合法化』

① 民法972條「婚姻は男女当人によって決定される」の「男女」を「双方」に改正。

② 民法973條に定められている男女の結婚可能年齢を18歳に改正。

③ LGBT当事者を権益保障範囲(現法の「夫婦の権利義務」や「養子縁組の権利」)に含めるために関連する部分の修正。

訳:Kazuki Mae

①の改正によって、婚姻の性別に関する記載を改めることで、二人が異性、同性のどちらであっても婚姻制度が利用できる他、③の修正が加えられることで、現在の異性カップルに認められている保障内容を同性カップルにも同様に適用することができるようになります。

さらに注目すべきは②の男女の結婚年齢を変更する点で、現行では男性17歳、女性15歳となっているものを一律18歳に修正。性別による年齢の差をなくすことで、異性、男性同士、女性同士、いかなる関係であっても、あらゆる人が同じように婚姻制度を利用できるようになります。この3つの事項が改正されれば、性別も年齢も問わない真の意味での「婚姻平權(婚姻平等の権利)」が台湾で認められることになるという提案です。

日本における同性婚をめぐる審議では、「日本国憲法」に記載されている「婚姻は、両性のみによって成立」「両性」の解釈の仕方がポイントとして挙げられます。台湾でも性別の記載を改めるという意味では日本と同じ争点ではあるのですが、事情が異なるのは「憲法」を改正するのではなく、憲法の下に定められた「民法」を改正するという点。実は台湾で採用されている「中華民國憲法」には「婚姻」に関する明確な記載はないため、「民法」さえ改正することができれば、同性婚を法律上認めることは可能とされています。

台灣同志諮詢熱線の統計によると、今回民進党より提案された草案を含め、現在提出されている「婚姻平權」に関する草案への署名・支持を表明している立法委員は総勢54名。立法院内における支持率は約48%で、まだ立場を表明していない立法委員の動き次第では過半数を超える可能性も出てきています。もしこの「民法改正草案」が可決されれば、台湾はアジアで初めて同性婚を実現した国ということになります。

同性婚をめぐるもう一つの争点「同性伴侶法」とは。

上記の「民法改正草案」の他に、実は台湾ではもう一つの同性婚に関連する審議が進められています。「同性伴侶法」と呼ばれるもので、フランスの「PACS(民事連帯契約)」やイギリスの「シビル・パートナーシップ制度」に相当する「婚姻」に準ずる制度を認めるための法律です。

台灣法務部長 邱太三

画像出典:上報 UP MEDIA

自由時報の報道によると、台湾における「同性伴侶法」は現在、法務部主導で法案提出に向けた準備が進められており、邱太三法務部長はこの制度への支持を表明するとともに、来年9月にも行政院での本格的な審議に入りたいとしています。

「民法改正草案」が同性カップルへの全面的な「婚姻の権利」を一挙に認めるものに対して、「同性伴侶法」は同性カップルへの権利を少しずつ認めていくことで、社会への適応度も考慮しつつ段階を踏んで進めていくもの。しかし、制度に盛り込まれる権利保障の範囲が未だ不透明であることや、1年以上という研究・準備期間の長さから制度実現への後ろ向きな態度が見て取れるとして、LGBTコミュニティの間では高い支持を集めるには至っていません。

また、「同性伴侶法」はその名の通り「同性カップル」にのみ適用される特別な法律。蔡英文総統が唱えていた「婚姻平權(婚姻平等の権利)」と方向性が異なるのではという反対意見も出ています。

對於同性婚姻法制化,法務部長邱太三30日表示,修民法親屬編較複雜,他支持制定同性伴侶法。台灣伴侶權益推動聯盟(中略)直指政策方向與馬政府無異,將同性婚姻排除於既定的婚姻制度外,是假平等真歧視,邱太三的說法像在推託找藉口。

(台灣伴侶權益推動聯盟執行長)許秀雯也反對為同志伴侶另立專法,強調「隔離並非真平等」,制定專法像是種族隔離,異性伴侶用民法制度,同性伴侶用另一套伴侶制度。

Via:風媒體『邱太三支持「同性伴侶法」同志團體批:隔離不是真平等』

同性婚姻の法制化に関して、邱太三法務部長は30日、民法(親屬篇)を修正するのは複雑であるとして、新たに「同性伴侶法」を制定することを支持すると表明しました。台灣伴侶權益推動聯盟はこの政策の方向性に対して、馬英九前政権と何らの変化も見られないと指摘。同性婚姻を規定の婚姻制度の外に置くことは、「偽りの平等」であって「真の偏見」に他ならない、邱太三氏の態度は言い訳をして断る理由を探しているようにしか見えないと批判しました。

台灣伴侶權益推動聯盟の許秀雯執行長は同性カップルに対して新たな別の法律を制定することに反対しており、「隔離は全くもって真の平等ではない」と強調。異性カップルには民法制度、同性カップルには別のパートナーシップ制度と、種族によって隔離するのと何ら変わらない制度であるとして批判を強めています。

訳:Kazuki Mae

台湾が目指すべきは年齢や性別、セクシャリティにかかわらず、あらゆる人が同じように権利を保障される社会。そのあるべき姿を実現するためには「民法改正」と「同性伴侶法」のどちらを選ぶべきなのか。台湾の国会で、そして市民の間で今、熱い議論が交わされています。

「民法改正」と「同性伴侶法」、その行方はいかに。

今日は、台湾における同性婚合法化に向けた討論の現況を整理してみました。どちらの案が優勢に立つのかはこれからの国会での動き次第になりそうですが、「婚姻平權」支持の姿勢を保ち続けている蔡英文総統の任期中には、同性婚に関する法律面での何らかの変化が出てくるのはほぼ確実と言えるところまで来ています。今後の動向に注目です。

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台灣同志遊行2016

ABOUTこの記事をかいた人

1987年香川県生まれ。旅で訪れた台湾に恋して、2012年に来台。2013年には念願の海外社会人デビューを果たし、現在台北にて広告関連のデザイナーとして奔走中。台湾でのLGBTな日々をつづるブログ『にじいろ台湾』を書いています。