全部見せます!LGBT映画の祭典 レインボー・リール東京

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日本のLGBT関連の大きなイベントでもっとも長く続いているのが、世界のセクシュアル・マイノリティをテーマにした映画を上映する「レインボー・リール東京」です。
2015年までは「東京国際レズビアン&ゲイ映画祭」として開催され、2016年から名称を変更。
2017年で第26回を迎えました。
7月8日(土)シネマート新宿での先行上映からスタートして、7月14日(金)〜17日(月・祝)のスパイラルホールでの集中上映まで、今年は全13プログラムが上映されました。
そのうち12プログラムを拝見させてもらいました。
すでに4プログラムに関してはレビュー記事を公開しています。

女性の視点で描く本当の愛と欲望。レズビアン映画「アンダーハーマウス」に込めた監督の想いとは?

LGBT映画の祭典・レインボーリール東京  最速レポート

上記の記事でご紹介した作品以外にも、注目すべきプログラムが多かった今年の「レインボー・リール東京」。
どんな作品が上映されたのか、まとめて一挙にご紹介しましょう。

スパイラルホールの前に、期間中レインボーフラッグがたなびいています。

スパイラルホールの前には、会期中レインボーフラッグがたなびいています。

 「僕の世界の中心は」Die Mitte der Welt

ゲイの少年を取り巻く家族環境はあまりに複雑。
ネタが豊富すぎて突っ込みどころ満載なまま驚愕の結末へ!

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■物語
サマーキャンプから帰ってきたフィルは、双子の姉妹と母の間に険悪な空気を感じ取る。祖母が住んでいた家は「VISIBLE」(可視、目に見える=悪目立ち、というネガティブな意味合いのよう)と呼ばれているおとぎ話に出てきそうなメルヘンチックな外観。その家に住む母と双子の姉も、家に負けず劣らずの強烈な問題を抱えている。
家の居心地 が悪くなると、フィルは近所に住む母の友達のレズビアン・カップルの家に逃げ出すことが多い。学校でフィルが仲良しなのは、個性的女子のカット。カミングアウトしているカットとは互いに秘密なしで何でも話せる仲だと思っていたのだが、フィルのタイプど真ん中の 新入生ニコラスがやってきたことによってカットとの仲にも変化が訪れ…。

■解説
ドイツ・オーストリア合作のこの作品。主演の美少年フィルを演じるのは、2015 年東京国際映画祭で最優秀男優賞(『ヒトラーの忘れもの』) を受賞したルイス・ホフマン。

■一言レビュー
ここ数年、「ゲイである」苦悩、とかカミングアウトをテーマにしただけでは映画が成立しないような時代になってきたなと、レインボーリール東京の上映作を見ながらしみじみ感じているのですが、この作品は、まさにその典型と言えるでしょう。というか、ゲイ以外の要素がてんこ盛りすぎて、家族ものなのか、恋愛ものなのか、ファンタジーなのか、ホラーなのか、何だかよく分からないまま、どんどん物語が進んでいってしまいます。とはいえ、ネタがてんこ盛りな分、飽きる間もなくラストを迎えるので、退屈することはないのですけどね。個人的には、モノガミー(のゲイ)とポリガミー(のバイセクシュアル男子)の決して相容れない恋愛問題にもう少し焦点を絞って欲しかったという物足りなさが残りました。

 

「フィニッシュ・ホールド」Signature Move

パキスタン系vsメキシコ系の家族文化が激突!
女子プロレスをモチーフにした女性2人の恋の行方は?

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■物語
シカゴに住むパキスタン系アメリカ人の女性弁護士ザイナブは、アメリカ移住以来厳格な保守思想を持つようになった母と2人暮らし。娘の結婚を願う母には、レズビアンであることをカミングアウトできずにいた。弁護士業務のメインは移⺠問題で、多忙な毎日を過ごしているザイナブは、ある日、ドルで払えないのでプロレスジムでのトレーニング代をただにするからという元女子プロレスラーからの依頼を受ける。それ以降は、仕事と母からのストレスを、プロレス(ルチャ・リブレ)ジムでのトレーニングで解消する日々。
ある日、バーでザイナブはメキシコ系の書店主アルマと知り合い、テキーラ・ショットを何回も酌み交わした勢いで肉体関係を結んでしますう。実はアルマの母は元女子プロレスラーで…。

■解説
男前でカッコイイ主人公ザイナブを演じるFawzia Mirzaはパキスタン系カナダ人。大学卒業後にロースクールで資格を取得、弁護士として2年働いたのちに俳優に転身。レズビアンであり、ムスリムであり、有色人種であり、という北米大陸におけるマイノリティであるという自身のアイデンティティに向き合い、俳優、脚本家、アクティビストとして活動。本作は、Fawzia Mirzaが製作・脚本・主演として作り上げた初の主演映画でもある。

■一言レビュー
「フィニッシュ・ホールド」もまた、「レズビアンである」というだけでは物語が成立しない時代ならではのレズビアン映画です。確かに物語の中心には、レズビアンの恋愛と家族へのカミングアウト、が据えられてはいるのですが、それ以上にパキスタン系とメキシコ系の家族文化の違いや、北米大陸(アメリカとメキシコ)に於ける女子プロレス(ルチャ・リブレ)文化ネタが興味深いのです。主演のFawzia Mirza始め、ほとんど女性キャラしか登場しないのですが、いずれも実に達者で魅力的な役者揃いなので、セクシュアリティ関係なく楽しめる作品です。というか、ものすごく楽しみました。日本で劇場公開される可能性がほとんどなさそうなこういう作品に出会えるのが、レインボーリール東京ならではの魅力だと再確認できました。

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■オープニング・イベントは田亀源五郎氏を迎えてのトークショー

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7月14日(金)スパイラルホールでオープニングイベントが上映前に開催。
MCはエスムラルダ氏。レインボー・リール東京代表の宮沢秀樹氏の挨拶の後に登壇した田亀氏は、最新刊「弟の夫」第4巻の話題を中心に、トークイベント後にオープニング作品として上映された「僕の世界の中心は」の感想なども話した。

 

「たぶん明日」Baka Bukas

昔からの同性の親友に恋をしたら反則?
願いが叶う喜びと、生じる問題の狭間の苦悩は甘くて苦い。

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■物語
舞台はマニラ。20代の映像クリエイターであるアレックスは、家族や周囲に対してレズビアンであることをオープンにしている。元カノとヨリを戻そうともがいたり、TV局にレズビアンを主役にした番組企画をプレゼンしては厳しい批評に晒されたりと、今ひとつパッとしない毎日。そんな日々でもアレックスを元気にさせるのが古くからの親友で、女優としてブレイク中のジェス。実は子供のことからジェスに対して恋心を抱いているアレックスは、彼女にはレズビアンだということをひた隠しにしていた。しかし、ひょんなことからその事実がジェスにバレてしまい…。

■解説
レズビアンであるサマンサ・リーが製作・脚本も務めた初監督作品。2016年秋にフィリピンで初上映。同年12月に開催されたインディ映画の祭典 Cinema One Original Film Festival では、主演女優賞、観客賞などを受賞。

■一言レビュー
マニラを舞台にした直球のレズビアン・ドラマ、と思いきや、「同性愛者がストレートの親友に恋をし続けていたら」という感情に焦点が当たっていて、これはレズビアンだろうがゲイだろうがバイセクシュアルだろうが、感情移入できるテーマで興味深い作品でした。主演のJasmine Curtis-Smith は、クリエイターという裏方の役なのでナチュラルで地味目なメイクですが、それゆえ美形な顔が際立っていて、その美しさと可愛さに見惚れてしまいました。
アレックスの友人のスタイリストとカメラマンのゲイ2人の使い方が、作品にとって上質のスパイスになっていて好感度が高い作品です。

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■「たぶん明日」上映後のトークイベントより
上映後には来日したサマンサ・リー監督が登場して、観客とのトークセッションを開催した。

Q:この映画を製作したきっかけは?
監督:フィリピンではLGBTQを描くときに、とてもステレオタイプな描き方をされることが多いです。例えばゲイならマッチョだったり、過剰にフェミニンだったりと。そうではない本当の姿を描く必要があると考えました。そして、私より若い世代に対して、カミングアウトを恐れないで欲しいというメッセージを伝えたいと考えました。

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Q:プレゼンの場面が印象的でしたが
監督:あれは、実際に私が企画をプレゼンした時に言われた言葉そのままなのです。あそこに出ているのも私がプレゼンした時にいた人たちなんです。「あの時と同じこと言ってください」と頼んだんです(笑)。

Q:作品を通してペールトーンのような淡い色彩が多いと感じましたが
監督:女性からの視点というのを表現したかったので、ペールトーンや柔らかい色を選びました。恋をしている時のフワフワした夢の中にいるような気持ちも表現できるのではと考えました。

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Q:主人公のお母さんの映画における存在とは?
監督:主人公のアレックスは、自分がレズビアンであることをまだ完全には受け入れ切れていないので、母親を重荷に感じているところがあります。しかし、この母親は娘のセクシュアリティをすべて受け入れています。この母親のような強さをアレックスにも持って欲しいという願いを込めて描いています。

「私はワタシ〜Over the Rainbow〜」I am what I am. –Over the Rainbow-

アクティビストや著名人が語る日本LGBT界隈の現状。
女優・東ちづるが初めて挑んだドキュメンタリー・フィルム。

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■解説
痛み、苦悩、ファンタジー、希望・・・。企画・キャスティング・プロデューサーの東ちづる氏をイ ンタビュアーに、40 人以上のセクシュアル・マイノリティの人たちの言葉を紡いだ記録映画。ゲイ雑誌「バ ディ」や「G-men」の創刊や、現在も HIV 陽性者ネットワーク・ジャンププラス理事などで活躍しつ づける⻑谷川博史氏を軸に、ピーター氏、はるな愛氏などの著名人や、多くの当事者の活動家たち、生きづらさを 感じる当事者たちの生の声から、日本のLGBTを取り巻く現状の一端が見えてくるドキュメンタリー。

■上映後のトークイベントより
上映後には、この作品の製作者である東ちづる氏と、監督の増田玄樹氏が登壇して、この作品への想いを語るトークイベントが開催された。

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東ちづる氏
「当事者の方に、『自分たちのことを説明するような映画を作って欲しい』と言われ、ずーっと考えていた時に長谷川さんにお会いして、この人を撮ることで映画が作れるかもと思いました」

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増田玄樹氏
インタビューを撮影するというのは、みなさんの言葉をひたすら受け止めているだけなんで、流れを誰も持っていないのです。まず方向性がわからないところがあって編集が大変でした」

70時間に及ぶという膨大なインタビュー映像から切り取られた多くの当事者の「言葉」から、日本のセクシュアル・マイノリティが置かれている状況の一面が浮かび上がってくるこの映画。
東氏は、レインボーリール東京で上映されることが目標であり、そしてこれがスタートだと語りました。

東ちづる氏
この映画は営利目的ではありません。これから配給をなんとかつけてもらいたいなと思っています。映画館で上映して、そのあとは上映会をしてほしいなと思っています。まずは学校の職員室、企業、団体、自治体、いろいろなところで上映会をしてほしいなと思っています」

映画製作に関する様々な裏話が飛び出したこのトークイベントの模様と、この作品に関しては改めて特集記事を公開予定です。お楽しみに。

 

「17歳にもなると」Quand on a 17 ans

気になる男子にどう接していいのか分からない思春期男子。
不器用な田舎の男の子たちの感情表現は乱暴で切ない。

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■物語
舞台はフランス、スペインとの国境近くのピレネー山脈近くの片田舎の街。
17歳のダミアンは、医師として働く母と2人で軍人の父の帰りを待っている。高校ではダミアンは周囲からちょっと浮いた存在。
同じく高校で浮いた存在なのが黒人のトマ。山に住む子供のいない酪農家の夫婦の養子となったトマとダミアンは、なぜだか互いが気にくわなくなり、小さな衝突を繰り返すようになる。
ある日、急な往診でトマの家を訪ねたダミアンの母により、トマの養母が妊娠していることが分かる。出産までの間、ダミアンの家でトマが暮らすことになり、いがみ合うダミアンとトマの関係が変わっていくのだが…。

■解説
「ブロンテ姉妹」「野生の葦」「夜の子供たち」など多くの名作を発表しているフランス映画界の巨匠アンドレ・テシネ監督(74歳)が、レズビアンである監督・脚本家のセリーヌ・シアマ(「トムボーイ」が第20回東京国際レズビアン&ゲイ映画祭で上映)を脚本に迎えて作った本作。2016年ベルリン国際映画祭コンペティション部門出品。

■一言レビュー
幼稚園や小学生の頃に、気になる女の子にちょっかいを仕掛けてしまう男の子、という話は古今東西よく聞くことであります。
この映画は、まさにそんな男の子がそのまま思春期を迎えてしまい、気になる対象が同性だったら、という物語です。
主人公のダミアン君は、見た目がひ弱でいじめられっ子な雰囲気を醸し出しています。
このパターンだと、ゲイっぽさを隠さず過剰にガーリーなキャラになりそうなものですが、そこは巨匠アンドレ・テシネだけあって一味違います。
フランスの片田舎の街で、父は軍人という環境のダミアンは、隣人である元軍人のおっちゃんに護身術を教わる毎日。
見た目と違って、中身は結構無骨な野郎系なのです。
ダミアンが気になって仕方ない存在が、山から通ってくる酪農家の養子であるトム。
高校に通いながら、養父を率先して手伝い牛馬の世話をトムもまた無骨な男子。
この無骨な思春期男子2人が互いに意識しあってしまうと、距離の縮め方が分からずにちょっかい出し合っては喧嘩しては怪我をするの繰り返し。
あまりに不器用すぎてイライラさせられながらも、そんな2人が愛おしくてたまらなくなります。
この2人の関係性の変化だけでも青春ドラマとしてなかなか興味深いのですが、そこに互いの家族に関するドラマが絡み合いより一層深い印象が残りました。
今年のレインボーリール東京の上映作品の中でも最長上映時間でありながら、最後まで飽きさせずに見せる技は、さすが手練れの巨匠だけあります。
個人的には、ダミアンの母がトムとの淫夢を見てしまう場面が唐突すぎ、かつ以降の展開に絡んでこないので意図不明と感じましたが、とても面白い作品でした。

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■レインボー・リール東京 公式グッズも大好評

スパイラルホール前のホワイエには協賛企業やドリンク販売のブースが並ぶ映画祭関連のグッズが販売されるKIOSK(キオスク)には、レインボーリール東京の様々な公式グッズが販売され注目を集めていた。

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オープニング・イベントに登壇した田亀源五郎氏のコミックス「弟の夫」も販売された。

「ファーザーズ」FATHERS

養子を育てるゲイカップルが、本当の親になれるのか?
法の整備と、互いの愛情と、社会の無理解の板挟みの中、選び取るものとは。

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■物語
舞台はタイの首都バンコク。
付き合い始めてから13年経つブーンとユクの裕福なゲイカップルは孤児の少年を養子として育てている。同性婚が認められそうだという話もあり、強固なチームワークが生まれている3人の未来は大きく拡がっているように思えた。だが小学校でゲイ嫌いの同級生の父親と関わったことから、3人の前に暗雲が立ちこめはじめる。
一家のもとに現れた児童権利保護団体のスタッフによって、消息が分からなかった少年の実の母が見つけ出される。このままブーンとユクと暮らすのか、それとも実の母の元で暮らすのが幸せなのか。大きな決断を迫られるのだが…。

■解説
Utt PanichkulNat Sakdatorn というイケメン役者2人が演じるゲイカップルを演じて、大きな話題を呼んだ作品。タイの映画祭でも多数ノミネート。
今年のレインボーリール東京では最大の注目を集め、シネマート新宿(335席)の上映は立ち見も出る満員札止め、スパイラルホールでも満席となる。

■一言レビュー
イケメン俳優2人が育てる養子の少年が見事にイケメン候補生。
そんなイケメン3人が暮らす高級住宅、登校と出社に使うサイドカー付きのバイク、小旅行に向かう先の高級リゾートなど、絵空事のファンタジーかと思わせるほど現実感がありません。
イケメン尽くしに加えて絵に描いたようなセレブ感満載の嘘くさい生活、とても感情移入などできそうにない要素が揃っていますが、そこで白けさせないところがこの映画の面白いところ。
現実感のない3人の生活は、理解のない他者(社会)を介在させない、いわば聖域を強調するための仕掛けだったのです。
そんな聖域が長続きするはずもなく、小さな綻び(リゾートでの夜に2人がベッドで戯れていたことを少年に知られてしまう)から決壊が始まると、魅力的な生活は一気に色あせていきます。自分たちと少年のことだけを考えていれば良かったイケメン2人も、否応なく手強い社会と向き合っていかねばならなくなります。
同性婚が認められていないタイの現状では、少年は法的にゲイカップルの片方の養子として認められたに過ぎません。
周囲の子供と違う環境で子供をきちんと育てられるのか、母親の不在を少年にどう説明して納得させるのか、ゲイの養親よりも血の繋がった実母に育てられるのが子供にとって幸せなのではないか。
ゲイの観点で見れば理解のない社会の理不尽さに憤りを覚えますが、観点を変えれば子育てをするゲイカップルは社会的には理解不能な存在に思えるのでしょう。
法的に正式な養子であるという主張と、子供は実の母に育てられるのが幸福ではという社会の思い込みの対立は、幸せだったはずのゲイカップルの間にも軋みを生じさせます。
ファンタジーのような聖域に思えた暮らしが色あせた現実に変貌していくのを、果たして止めることができるのか。
終盤、抱えきれなくなった苦悩をぶつけ合う主人公2人から、真の意味で親になると決断することの重みが伝わってきます。

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短編集「QUEER×APAC ~APQFFA傑作選2017~」

レインボーリール東京で見逃せないプログラムが、短編集です。
セクシュアル・マイノリティがテーマのショートフィルムを見る機会はほとんどないだけに、ここで上映される作品には一期一会の楽しみがあります。
今年は、2015年に結成されたアジア・太平洋地域でのLGBT映画の支援・振興を目的とするAsia Pacific Queer Film Festival Alliance(APQFFA)に加盟している映画祭が推薦する6本が上映されました。

■始まりの駅 Heart Station

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上海プライド映画祭推薦の、アメリカ・中国合作映画。タオ・ジア監督作品。
リスキーなセックスをしてしまい、PEP(暴露後予防内服)をしながら3ヶ月後の検査結果を不安な気持ちで待っている主人公が描かれます。
昨年のレインボーリール東京で上映された「パリ05:59」を観た時に、治療法が進んだ現在ではHIVに感染した(もしくは、したかも)と言うだけでは映画のテーマにするのも難しくなってきたんだなと思ったのですが、この作品は正面からそこを描きます。
PEP(なぜだか字幕では「PrEP=暴露前予防内服」となってましたが)という先端治療をしているにも関わらず、主人公の心の動きが20年以上前の「リビング・エンド」のような死を意識した絶望感というギャップに違和感しか残りませんでした。

■晴れ舞台 Katchi

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アクス国際マイノリティ映画祭推薦のパキスタン映画。アミナ・マリク監督作品。
周囲の男の子たちとは興味、関心の方向が違っていて、それを理由に疎まれてしまう主人公。
女性の装いに強く惹きつけられる息子をなんとか受け入れようとするも、保守的で厳格な父との板挟みになる母の苦悩。
社会の理解がない中で、自分らしく生きようとするトランスジェンダー女性が描かれます。
パキスタン社会の雰囲気が感じられるのは面白く、全てを受け入れようとする母の強さも魅力的なのですが、主人公の描き方にもう一歩食い足りない印象が残ったのは残念でした。

■ある日 Any Other Day

2. Any Other Day

カシシュ・ムンバイ国際クィア映画祭推薦のインド映画。スリカント・アナンスクリシュナン、ヴィクラント・ドテ共同監督作品。
パキスタンとお隣の国・インドのショートフィルムもまた、母の強さが描かれる作品です。
ゲイの友人(恋人?)と夜に歩いていただけで警察官に不審者扱いされる主人公。
ゲイフォビア丸出しで難癖つけながら、果ては主人公を犯そうとする不良警官たちをなぎ倒す母ちゃんの迫力はすごいです。
インドでの同性愛者へのあからさまな差別の実態を見せつけた上で、「母は強し」は万国共通なんだと実感させられる作品でした。

■誕生日パーティー The Baby Lu’au

ホノルル・レインボー映画祭推薦のアメリカ映画。ジャナ・パク・ムーア監督作品。
祖父が危篤だと連絡を受けた弁護士のブルックは、仕事を投げ出しオアフの実家に5年ぶりに帰ってきました。
ところがそこでは祖父の盛大な誕生日パーティーが開催されています。
騙されたことに怒るブルックに、小さな災難が続けて降りかかり、さらに知らなかった家族の秘密が明かされます。
ウェルメイドな脚本に、こなれた演技の役者陣、撮影・演出・編集も手堅く、まさにショートフィルムのお手本のような見事な作品です。
差別や無理解、苦悩がテーマの暗いアジアの作品が続いた後に、同性愛である事が何の障害にもならないという状況がカラリと描かれたこの作品。
太平洋の西と東で、こんなにも状況が違うのかと、改めて見せつけられたようで、とても印象深く、かつ楽しめる作品でした。

■モモ Momo

Momo

ソウル・プライド映画祭推薦の韓国映画。チャン・ヨンジュ監督作品。
ドイツに留学する元カノの飼い猫・モモを引き取る事にソヒですが、同棲している今の彼女ユジンは「勝手に決めないで、猫は嫌い」と当然ながら反発します。
猫を挟んで、3人の女性の複雑な感情が交錯します。
かつて恋人同士だった2人の友情とは異なる微妙な愛情と、それに対する反発や嫉妬。
静かな映画にも関わらず、交わされる感情はヒリヒリするようなスリリングさ。
見てはいけないものを見させられているようないたたまれなさを感じつつ、ラストは危機を乗り越えた2人が、猫と共に新たな日常を築いていく様が描かれ安堵しました。
この作品もまた、脚本、演出、演技が見事で、韓国映画のエンターテインメント性の高さを見せつけられた秀作です。

■ダム The Dam

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マルディグラ映画祭推薦のオーストラリア映画。ブレンドン・マクドナル監督作品。
ガンで死期が迫る高齢の男の前に、10年ぶりに旧友が現れます。
若い頃、ダム建設現場で共に働いた2人の間には特別な関係が結ばれていた事が暗示されます。
一緒に働いたダムを見に行こうと誘う旧友。
しかし、男には旧友に対する複雑な感情があり、思い出のダムの上で押し殺し続けていた想いを爆発させます。
わずか16分のショートフィルムにも関わらず、長い時間をかけて一人の男を愛し続けた重みと、愛に自信を持てずに逃げ続けた辛さを見事に描き出します。
水の中で戯れる逞しく溌剌とした若い日のよく似た印象の2人が挿入されることで、今の、方や死期が迫った弱々しさと、方や高齢ながら逞しく生命力に溢れているという残酷なまでのギャップが強調されます。
人生の終盤になって初めて自分の本心と向き合うことで沸き起こる深い切なさ、これには参りました。

全6作、いずれも印象深い作品が揃った今年の短編集「QUEER×APAC ~APQFFA傑作選2017~」はとても見応えがありました。

■今年も色々ありました。映画祭スナップ集

レインボー・リール・コンペティション2017 観客投票でグランプリに選ばれた「カランコエの花」の中川駿監督

レインボー・リール・コンペティション2017 観客投票でグランプリに選ばれた「カランコエの花」の中川駿監督

「カランコエの花」中川駿 監督とキャストのみなさん

「カランコエの花」中川駿
監督とキャストのみなさん

三ツ矢雄二さんも来場。「私はワタシ」上映後の一コマ。

三ツ矢雄二さんも来場。「私はワタシ」上映後の一コマ。

上映前のスパイラルホールはレインボーに彩られていました。

上映前のスパイラルホールはレインボーに彩られていました。

オープニング・イベントのMCはエスムラルダさん

オープニング・イベントのMCはエスムラルダさん

トークイベントには欠かせない手話通訳のヒデさん。どんな言葉も訳してくれるとエスムラルダさんからも絶大な信頼を受けています。

トークイベントには欠かせない手話通訳のヒデさん。どんな言葉も訳してくれるとエスムラルダさんからも絶大な信頼を受けています。

レインボー・リール・コンペティション2017とクロージング・イベントの進行役 ブルボンヌさん(右)と映画ライターよしひろまさみちさん(左)

レインボー・リール・コンペティション2017とクロージング・イベントの進行役 ブルボンヌさん(右)と映画ライターよしひろまさみちさん(左)

大勢のボランティアさんたちのおかげで、今年も無事に開催できました。ありがとうございました。

大勢のボランティアさんたちのおかげで、今年も無事に開催できました。ありがとうございました。

多くの人が参加してくれたことを喜ぶ、宮澤秀樹代表。

多くの人が参加してくれたことを喜ぶ、宮沢秀樹代表

 

レインボー・リール東京の雰囲気は伝わりましたでしょうか?
お世辞抜きに、今年はどのプログラムもハズレなしでとても楽しめる作品ぞろいでした。
また来年夏も、素晴らしい作品に出会えることを楽しみにしています。

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ABOUTこの記事をかいた人

いたる

LGBTに関する様々な情報、トピック、人を、深く掘り下げたり、体験したり、直接会って話を聞いたりしてきちんと理解し、それを誰もが分かる平易な言葉で広く伝えることが自分の使命と自認している51歳、大分県別府市出身。LGBT関連のバー/飲食店情報を網羅する「jgcm/agcm」プロデューサー。ゲイ雑誌「月刊G-men」元編集長。現在、毎週火曜日に新宿2丁目の「A Day In The Life」(新宿区新宿2-13-16 藤井ビル 203 )にてセクシャリティ・フリーのゲイバー「いたるの部屋」を営業中。 Twitterアカウント @itaru1964