女性の視点で描く本当の愛と欲望。レズビアン映画「アンダーハーマウス」に込めた監督の想いとは?

今年のレインボーリール東京は初日から札止め満員の異常事態発生!

2017年7月8日(土)最高気温33.7度。
梅雨の最中にもかかわらず、真夏のような日差しが照りつける日に、今年もLGBT映画の祭典・第26回レインボーリール東京が開幕しました。

昨年と同じく、前半(8日〜14日)は映画館・シネマート新宿で連日19時より1プログラムずつ上映、そして14日〜17日の後半は青山スパイラルで本祭が開催、連日4〜5プログラム(オープニングの14日を除く)が集中上映されます。

今年のレインボーリール東京は、例年以上に注目を集めているようです。
というのも、8日のオープニング作品「ファーザーズ」は定員335名のシネマート新宿スクリーン1が、文字通りの札止め満員。立ち見も多数出た上に、入場できず涙を飲んだ人も多数いたという賑わいとなりました。

シネマート新宿では3年連続開催していますが、札止め満員になったのは初めての事態。実行委員の皆さまも予想以上の混雑ぶりに嬉しい悲鳴をあげていました。

男の子の養子を育てるゲイカップルを描いたタイ映画「ファーザーズ」は7月15日(土)15:55よりスパイラルで上映されます(こちらも札止め満員になりそうとのこと)。

※第26回レインボーリール東京で上映される全作品の詳細はこちらをご参照ください。

ほぼ満席の2日目は、話題のエロティックなレズビアン映画登場

7月9日(日)最高気温32.5度。
初日の熱気に負けず劣らずのほぼ満席となった2日目は、2016年のトロント国際映画祭で「今年もっともセクシーな作品」と評されたカナダ映画「アンダー・ハー・マウス(原題:Below Her Mouth)」が上映されました。

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やり手のビジネスマンである婚約者のライルと同棲するファッション誌の編集者・ジャスミン。しかし、ライルの出張中に隣家の屋根を修理する大工の逞しく美しい女性・ダラスと目があったことから、ジャスミンの心に大きなさざ波が起きる。

女性が女性に恋に落ちていく過程を、繊細かつ丹念に、そして艶かしくエロティックに描き出すこの作品は、すべてのスタッフが女性のみで作られました。
そして、主役のダラスを演じるエリカ・リンダーの衝撃的なデビュー作としても大きな話題を呼んでいます。

エイプリル・マレン監督と女性スタッフたち

エイプリル・マレン監督と女性スタッフたち

上映後には、来日したエイプリル・マレン監督を迎えたトーク・イベントが開催されました。
この作品に込めた想いを率直に語ってくれた監督。その模様をご紹介しましょう。

 

女性の視点で描いた、女性の本当の愛と欲望

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Q:この作品を監督しようと思った、最大の理由は?

エイプリル・マレン監督(以下”A”):私は、常に新しいものに挑戦することが好きなのです。
この作品は、今まで作ってきた過去の作品とは全然違うものだったからな、大きなチャレンジになると思いました。

人はどうして人に惹きつけられるのか、ということに私はとても興味がありました。
人が恋に落ちる瞬間というのは本当に不思議なものです。
心臓がバクバクして、心拍数も変わるし、声だって変わってくる。
この相手と一緒に居られるなら人生を変えてしまっても構わない、とすら思うわけじゃないですか。
この脚本は、女性がある女性と出会い恋に落ちていく48時間の過程を描いています。
それを90分という時間で映画にするというのはとてもにチャレンジングであり、やりがいがあると考えました。

もう、脚本がとにかく素晴らしかったんです。
美しくて、非常に生々しくてセクシーで。
最初に読んだ時、そのあまりの凄さに怖くなってしまったくらいなんですよ。

Q:なぜオール女性スタッフでラブストーリーを製作しようと思ったのでしょうか?

A:女性の視点から、恋とは、愛とは、欲望とは何なのか、を描きたいと考えたのです。
今までそういう映画はたくさん作られてきていますけれど、すべて男性が見た、男性の視点で語られているものなのです。
女性が恋に落ちた時どういう感情の動きになるのか、欲情した時はどういう感じなのか、女性にとってのセックスの喜びとはどういうものなのか。
男性視点の作品では、その本質が描けていないと思っていたんですね。

脚本もプロデューサーも、そして監督の私も女性ですが、それだけじゃなく現場のスタッフも全員女性で固めることで、本当に女性視点からの作品を作れると考えました。
とはいえ、なかなか女性のスタッフが集まらなくて結構大変だったんです。
スタッフ全員を揃えるまでに、結局6か月もかかりました。

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Q:今回、演技経験がないモデルのエリカ・リンダーを主役にキャスティングした理由は?

A:私たちがダラスを演じる女優に求めていたのは、女性を愛する女性としてのリアリティを感じさせることでした。
レズビアン役を演じる女優ではなく、女性を愛する女性にダラスを演じてもらいたかったのです。
しかし、私たちのイメージに合う人を見つけ出すのは至難の技でした。

困り果てた末に、グーグルで新人の検索していたら彼女のモノクロの動画がヒットして、そこに目が留まりました。
動画の中のエリカは。何も喋らずに、様々なポーズを取っていました。
私は、彼女の顔に釘付けになりました。
これはもう完璧にダラスだと、まさにパーフェクトな顔だと思いました。

エリカはとてもスター性があると感じました。
身のこなしもとても素敵だし、彼女から目を離すことのできない魅力を持っていました。
ダラスを演じられるのは彼女しかいない思い、声をかけることにしま した。
しかし、動画の中でエリカは無言だったので、そもそも英語を話せるのかどうかさえ分かりません(エリカはスウェーデン人)。
彼女に会うまでの10日間、「どうか英語を喋れる子でありますように」と祈り続けていました。

演技未経験の彼女は、撮影開始当初はとても緊張していた。
でも、私が監督としてやるべきことは、彼女が本来持っているものを膨らませるだけだったのです。だから彼女もすぐに現場に馴染んで、ダラスの役を彼女らしく自然に演じてくれました。

彼女は私が発見したスターだと思っているんですよ。
いわば、私にとってのジョニー・デップのようなものです。

Q:この映画を通して、監督が伝えたいこととは?

A:私は、この映画を通じて「自由」というものを描きたかったんです。
愛は愛であり、それ以外の何物でもない。
その自由を描きたかったんです。
性別や、年齢や、宗教など関係なく、愛は愛にすぎないのだいうことを描きたかったんです。

世界の中では、保守的な環境の中、自分の本当の愛を公言することを恐れ隠して生きている人もたくさんいます。
そういう人たちにこそこの映画を見て、愛の自由を感じてもらいたいです。

この秋、映画館で”ネオイケメン”エリカ・リンダーに会える!

この「アンダー・ハー・マウス」をどうしても見たい、という方に朗報です。
10月7日より、日本でも劇場公開されることが決定しました。
美しく繊細で、官能的で、エモーショナルなこの作品。
女性の視点で描き出されるリアルな愛の自由を、ぜひ映画館で体感してください。

アンダー・ハー・マウス
原題:Below Her Mouth

監督:エイプリル・マレン
脚本:ステファニー・ファブリッツィ
プロデューサー:メリッサ・コフラン
出演:エリカ・リンダー、ナタリー・クリル、セバスチャン・ビゴット ほか
2016年/カナダ/92分
配給:シンカ     © 2016,Serendipity Point Films Inc.

10月7日(土)よりシネマート新宿シネマート心斎橋他全国順次ロードショー

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いたる

LGBTに関する様々な情報、トピック、人を、深く掘り下げたり、体験したり、直接会って話を聞いたりしてきちんと理解し、それを誰もが分かる平易な言葉で広く伝えることが自分の使命と自認している51歳、大分県別府市出身。LGBT関連のバー/飲食店情報を網羅する「jgcm/agcm」プロデューサー。ゲイ雑誌「月刊G-men」元編集長。現在、毎週火曜日に新宿2丁目の「A Day In The Life」(新宿区新宿2-13-16 藤井ビル 203 )にてセクシャリティ・フリーのゲイバー「いたるの部屋」を営業中。 Twitterアカウント @itaru1964