LGBT映画の祭典・レインボーリール東京 最速レポート

7月8日(土)から開催中の、LGBT映画の祭典「第26回レインボー・リール東京」。
7月14日(金)からは、いよいよ後半戦、青山スパイラルホールでの集中上映が始まります。
今回は、前半のシネマート新宿で上映された3つの注目プログラムをご紹介します。
いずれの作品もスパイラルホールで上映されますので、興味を持たれたらぜひスパイラルホールに足を延ばしてみてはいかがでしょうか。

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LGBT映画の祭典・第26回レインボー・リール東京 全作品ガイド

キキ ー夜明けはまだ遠くー

今のアメリカは本当にLGBTにとって住みやすい国なのか?
苦境を生きる有色人種の若い当事者たちの本音から探るドキュメンタリー。

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■スパイラルホールでの上映日時
7月15日(土)11:15〜

■物語
舞台は、現代のニューヨーク。2015年の全米で同性婚容認の最高裁判断が降った時期を挟む4年間、ブルックリンで暮らす有色人種のセクシュアル・マイノリティの若者に焦点を当てたドキュメンタリー。
様々な理由で家を出た10代の当事者たちを保護するために、いくつものホームと呼ばれるコミュニティがある。そのホームのリーダーも、同じ立場の20代前半の当事者たち。
そんなホームが集まり、ヴォーグ・ダンスの腕を競う「キキ(ボールルーム)」と呼ばれるイベントが開催されている。ホームとキキに関わる当事者たちが語る率直な話から、セクシュアル・マイノリティの中でもマイノリティである有色人種の当事者が置かれた過酷な現実が明らかになっていく。

■解説

4 年間にわたって撮影され た本作は、圧巻のダンス映像に加え、数多くのインタビューからアンダーグラウンドのカルチャーに迫 る。2016 年ベルリン国際映画祭でテディ賞最優秀ドキュメンタリー賞を受賞し、世界の映画祭で高く 評価された。

■注目点

巨大なプライド・パレードが開催されたり、同性婚が容認されたり、ナショナル・クライアントのセクシュアル・マイノリティに対する対応など、LGBTの人権問題では先進国であると思われているアメリカ合衆国。しかし、それは都会だけのことであり、保守的な地方ではセクシュアル・マイノリティに対する過酷な差別がある現実を知る人は少なくないでしょう。
しかし、それは都会と地方という違いだけではありません。
LGBTのコミュニティが成立している大都会ニューヨークでも、厳然たる格差は存在します。
それが、白人と有色人種という違いです。
高学歴・高収入の白人や一部の有色人種が構成するコミュニティがいわば”シャイニー系”であるならば、そことは全く異なる貧困環境に置かれた有色人種の当事者たちもいます。
若くして家を追い出された貧困の有色人種の当事者たちの多くは、ストリート・キッズとして体を売って日銭を稼ぎドラッグに手を染めていく負のスパイラルに陥ってしまいます。
この映画で描かれる貧困層の当事者が抱える問題は、50年前のニューヨークを舞台にした映画「ストーンウォール」で描かれた状況と変わっていません。
ストーンウォールの叛乱以降、アメリカの当事者たちが獲得してきた権利とはほど遠いところに置かれている現代の若者たちの実態を知る意味でも、これは見るに値する作品です。
彼らが置かれた状況の理不尽さを的確に表したと思われる、黒人のトランス・セクシュアル(MTF)の言葉が印象に残りました。
「(同性婚が全米で容認されたのは)白人の当事者が望んだことだからね」

『キキ ―夜明けはまだ遠く―』
【英題】Kiki
監督:サラ・ジョルディノ
2016|スウェーデン、アメリカ|94 分|英語
★日本初上映

 

マッドメアリー

自分の気持ちと折り合いをつけられずに荒れ狂う女子。
彼女が本当に手に入れたい答えは見つけられるのだろうか?

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■スパイラルホールでの上映日時
7月15日(土)18:10〜

■物語
舞台は、アイルランドの地方都市。
いわゆる手のつけられない不良娘・メアリーは、街の唯一のクラブで気に入らない女子に暴行を働き顔に大きな傷をつけてしまい、収監される。
半年後に釈放された時には、メアリーを取り巻く状況は大きく変わっていた。
夜な夜なツルんでいた親友のシャーリーンは、年上の実直な社会人との結婚を目前に控え、過去と決別した清楚な女性へと変貌。
それでもメアリーに花嫁付添人のリーダーを依頼してくる。
しかし、共に付添人をやるのは二人でバカにしていたはずのデブで冴えない級友。
ところが、今やその彼女がメアリーに取って代わりシャーリーンの親友づらをしている。
結婚式に同伴するボーイフレンドもいないことを指摘されたメアリーは、すべてのことが気に入らずイライラの毎日が続く。
ところが、結婚式のビデオ撮影を担当する女性・ジェスと出会ったことから、メアリーの心に変化が生まれ始める。

■解説

2017年アイルランド・アカデミー賞で最優秀映画賞を受賞した、イタイタしくもチャーミングな友情と恋のドラマ。

■注目点

刺激のない田舎町でのつまらない生活。
かといって、都会に出て暮らしていく術もない。
一緒にアホなことをしてツルんでいた友達は、先に卒業して大人になっていく。
自分だけが取り残されていくという不安と孤独。
イライラする気持ちが募れば募るほど、周囲の人間がバカに見えて仕方ない。
そんな心理状態に陥ってしまうと、人とのコミュニケーションが円滑に進むはずもありません。
ドツボにはまってしまいもがけばもがくほど底なしの深みにはまっていく感覚。
決して共感はできないけど、主人公の生き方のあまりの不器用さに胸が締め付けられるような苦しさが伝わってきます。
もがき苦しみ抜いた末にメアリーが見つけた本当の自分は、レズビアンなのかデミロマンティックなのか。
観客に委ねられた答えをどう受け取るかで、その印象が大きく異なる興味深い作品です。

『マッド・メアリー』
【英題】A Date for Mad Mary
監督:ダレン・ソーントン
2016|アイルランド|82 分|英語
★日本初上映

迷い子たちの物語

国籍もセクシュアリティも超えて結ばれる男の友情。
彼らが抱える”家族”の問題に直面する濃厚な数日間。

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■スパイラルホールでの上映日時
7月15日(土)13:45〜

■物語

舞台は、台北。
フィリピンからやってきた青年アレックスは、松山空港からイトコが住むマンションへと車を走らせる。
翌日から仕事で香港へ行くというイトコの家に、アレックスは1週間くらい滞在する予定らしい。
そのイトコから、「教会でお前の母さんを見かけた。会いに行けばいいじゃないか」と言われる。
アレックスの母は、彼が幼い頃に離婚して、今は台北で新たな家庭を作っているようだ。
母の住むマンションの前に行っても、訪ねることもできず帰ってきてしまうアレックス。
その夜、偶然に知り合ったゲイの医大生ジェリーと仲良くなる。
性的な関係は生まれない2人の間には、奇妙な強い友情の絆が結ばれていく。
2人を結ぶキーとなるのは、それぞれが抱える”家族”との問題。
ジェリーは台湾原住民であり、父親は部族の長老。
大学を卒業後、ジェリーは父の後を継いで長老にならねばならない未来が待っている。
しかし、台北でゲイである自分を解放し、ボーイフレンドと同棲しているジェリーは親の期待に応えられないことに苦悩していた。
ジェリーの気持ちを知ったアレックスは、ジェリーの実家へ遊びに行こうと提案するのだが。

■解説

フィリピンのクィア映画界の革新者ホセリト・アルタレホスが国際共同製作に初挑戦した野心作。台北を中心に撮影された作中では、英語、中国語、タガログ語、アタヤル語が語られ、アジアならではの人種、民族の混在ぶりが描かれる。

■注目点

ストレートとゲイの友情が描かれるこの作品には、主人公2人の間に性的な匂いは全く存在しません。
それではつまらない、と思いますか?
いえいえ、それこそがこの作品の魅力なのです。
ストレート男性は、こちらがゲイだと分ると無用な警戒モードに入ることが往々にしてあります。
目には見えない精神的な一線を引かれてしまったような感じがすると、それ以上踏み込んでいけなくなるような疎外感を覚えてしまいます。
作中のジェリーは、出会った時からアレックスに対して性的な興味を示すことはありません。
それどころか同級生の女子とくっつけようとすらします。
だからこそ、アレックスがゲイのジェリーに対して心を開いて行く過程にリアリティーが生まれました。
「性的な匂いをさせなければ、ストレートに要らぬ警戒心を抱せることはない」
この真理、今後のストレート男性との付き合い方の参考にできること確実です。
主役2人の間に性的な化学反応を生まれさせなくとも、この作品はゲイ映画ならではの魅力に満ちています。
田舎の保守的な家族の期待に応えられないと苦悩するジェリーの姿に、自分を重ね合わせて見ることのできる人も少なくないでしょう。
また、アレックスを演じるフィリピン人俳優オリーブ・アキーノの。男っぽさと少年ぽさが同居した可愛さに胸をキュンキュンさせるだけでも、この映画見る価値ありと思わせます。

『迷い子たちの物語』
【英題】Tale of the Lost Boys
監督:ホセリト・アルタレホス
2017|台湾、フィリピン|90 分|英語、タガログ語、中国語、アタヤル語
★日本初上映

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いたる

LGBTに関する様々な情報、トピック、人を、深く掘り下げたり、体験したり、直接会って話を聞いたりしてきちんと理解し、それを誰もが分かる平易な言葉で広く伝えることが自分の使命と自認している51歳、大分県別府市出身。LGBT関連のバー/飲食店情報を網羅する「jgcm/agcm」プロデューサー。ゲイ雑誌「月刊G-men」元編集長。現在、毎週火曜日に新宿2丁目の「A Day In The Life」(新宿区新宿2-13-16 藤井ビル 203 )にてセクシャリティ・フリーのゲイバー「いたるの部屋」を営業中。 Twitterアカウント @itaru1964