2017年3月27日、新雑誌インクルージョン&ダイバーシティ マガジン”Oriijin”(ダイヤモンド社)の創刊を記念した
「LGBT-friendly ORIIJIN オリイジンMagazine LAUNCH PARTY」
が開催されました。
誌面に登場した当事者と、会場に集まった当事者の間で熱のこもった議論が交わされたイベントの模様をレポートします。
このLAUNCH PARTY(ラウンチパーティー=発売記念パーティー)の主催はフルーツインスーツ日本。会場はNagatacho GRIDのB1″Space0″。東京の真ん中にある、シェア・オフィスビルの地下にあるイベントスペースです。
最初は”Oriijin”の福島宏之編集長の挨拶から。
今、世の中がLGBTの方にどう向き合っているか、そしてこれからどう向き合っていくべきか、ということを出版社として、きちんと間違いのないように情報を発信したいなというところからスタートした雑誌です。
僕らとしては、なるべく多くの人にこの媒体を知って欲しいんです。
LGBTやダイバーシティやインクルージョンということを、アライでも当事者でもなく普通の方が、「なんだろう? 今どうなっているんだろう?」
と気づいていただいて、手にとっていただける媒体になればいいと思っているんです。
(壇上のスタッフを紹介して)僕ら実は職種がみんな違うんですね、僕は編集で、広告を集める営業、書店に本を置く営業、一般の方々に届く宣伝担当、まさにこの4人が四者四様、多様性の中でこの媒体を企画して、みんなで考え、作って、そして世の中に送り出したという形です。
うまくいけばまた三ヶ月後くらいに出したいなあと思っています。
実はここからがお願い事なんですけど、一人でも多くの方に
「Oriijinって雑誌が出たよ」
「いろんな人が出てくるんだけど、結果的に正しいことを言ってるみたいだよ」
正しいのかそうでないのかは読んだ人に判断していただくとしても、何か面白いことがメディアになったよ、と伝えていただけるとありがたいです。
僕らはそのために約半年間、一生懸命みんなで考えて作ってきましたので、どうぞ、よろしくお願いします。
続いて、創刊号の誌面に携わった4人の当事者が登壇。
自己紹介の後に、司会のローレン氏が投げかけるテーマ、そして会場の当事者からの質問に応える形で、日本のLGBT当事者を取り巻く様々な問題について意見交換がなされました。
いずれも興味深い話題でしたので、そのエッセンスを抜粋してご紹介します。
まずは登壇した4名の当事者の自己紹介から。
小泉伸太郎氏
私は3つの顔を持っています。
一つは「アウトアジアトラベル」LGBTフレンドリーな旅行会社の社長です。
「アウトジャパン」旅行に特化したLGBTマーケティングの会社です、”LGBTRツーリズム・ハンドブック”というものを販売しておりまして、旅行業界の方々にLGBTツーリズムを浸透させていくことを目的としています。
「IGLTAグローバル・アンバサダーinアジア」になっておりまして、アジアの旅行関係の方々、ホテルや旅行会社、地方自治体にIGLTAのメンバーになってもらうよう努力して、ゆくゆくはアジア全体が欧米諸国のようにLGBTフレンドリーな旅行が楽しめるようになってもらいたいと考えています。
後藤純一氏
私は20年くらい前からゲイライターとしていろいろな媒体で書いています。最初はバディというゲイ雑誌がありまして、そちらの編集を10年くらいやっておりました。バディ編集部を退職後は「All About Japan」というポータルサイトの中で【同性愛・セクシュアルマイノリティ】というチャンネルがありまして、そちらの方でライターを務めております。2年前に「職場のLGBT読本」という、企業の人担当の方や、ダイバーシティ担当の方に是非読んでいただきたいような「LGBTとはなんぞや」とか「企業は何をしたら良いのか」みたいなことをまとめた1冊を書かせていただきました。
あと、個人的になんですけど、20年前からドラァグ・クイーンをやっておりまして、多分日本初だと思うんですけど2001年の東京レズビアン&ゲイパレードで一日中ドラァグ・クイーンのショーを見せたり、ミックス・トークをするようなイベントを開催させていただきまして、その時の写真がAERAに載りました。
森永貴彦氏
今、LGBT総合研究所という会社を作って、企業のLGBTマーケティングをしているのが私の活動内容です。日本では、まだまだLGBTが可視化されていない状況かなあとは思いますけど、国内の企業さんと一緒に商品開発をしたりとか、ポジティブなメッセージでプロモーション開発をしたりとか、ということにチャレンジしています。
個人的なスタンスではあるんですが、人権というスタンスも非常に重要だと思うのですが、それに加えてLGBTのカルチャーというものを如何にポジティブに世の中に出していくかということを大事にしながら、仕事させていただいています。
マイケル・クレモンズ氏
僕がドラァグ・クイーンをやったのはいつだったか思い出そうとしているんだけど。(笑)
と語り始めたマイケル氏、25年前に日本に来て、同性のパートナーと結婚して20年の金融のプロフェッショナル。現在、保育園に通う双子の娘さんとパートナーとの4人暮らし。自分の、そして世の中すべての子供たちに対して何ができるかを、常に考え続けているという。
登壇した4名の自己紹介に続き、司会のローレン氏や会場に参加した方々から登壇した方への質問が相次ぎ、熱い答弁が交わされました。その一部を抜粋してご紹介します。
Q.多様性は自分にとってどんな意味がありますか?
小泉伸太郎氏
私の仕事の分野(旅行)に関しては、すでに欧米諸国ではLGBTフレンドリーというのが一般的なので、LGBTツーリズムというのがすでに確立されています。
ただ一つ問題なのは、日本は英語を話せる人が少ないことです。
もったいないと思うのは、日本にはこんなに素晴らしい観光資源があるのに、「私たちはLGBTフレンドリーです」と海外の方に表明してないんですよね。
今、私たちがやっているのは日本の自治体の観光局に、ぜひとも日本がLGBTフレンドリーになってくださいとお願いしています。
日本人に関しては、アウトバウンドまたは日本国内の旅行に関してもLGBTツーリズムはまだまだ浸透していないのですが、実際に動いている人はいるので、もっと魅力的な旅行商品を作る必要があると考えています。
成功事例としては、3月にグランデコスノーリゾートで開催したスキーウィークエンドがあります。3年前から始めたのですが参加者は年々増加し、今年は150人まで増えました。来年は300人を目指しています。
楽しいイベントであれば当事者が動くことが分かったので、これは日本人に対してのLGBTツーリズムに有効なことだと思いました。
Q 日本の「調和」という概念が多様性を邪魔していないか?
森永貴彦氏
日本って多分、歴史的な背景で一つにまとまろうって考え方が支配的じゃないでしょうか。それは1970年代の高度経済成長期に「成長しなければならなかった」ために、チーム一丸となっていく傾向があるのかと思います。
経済成長が少し緩やかになってきた中で、みんなが今求めているのは、楽しいこととか、いろんな考えがあることで新しいことが生まれてくることが快感になるような経験なのかなと。そんなものを一つずつ、作っていく時代なのかなって思っています。
今は過渡期というか変革の時、変わっていく時なのであって、なかなかバラバラになっていくことの恐怖感は抜けないと思うのですが、少しずつ教育も変わってきていますし、新しい世代が多様なカルチャーを面白く作っていければ日本も変わるのではないかと思います。
Q LGBTコミュニティにとっての大きい課題、コミュニティにとってのチャレンジは何だと思いますか?
マイケル・クレモンズ氏
LGBTは、日本社会の中でも新しいこと、現象、概念ではない。日本でも昔からいる。LとGとBとTの間に結構な距離があって、それぞれが助け合おうという、思いやりのある行動でサポートしあうことが有効ではないか。銀行員の世界ではLGBT的なことが話題になることは少ないが、実際カミングアウトしてみたら自然に受け入れられている。だからカミングアウトすること、バレることが致命的だと思い込まない方がいい。
後藤純一氏
僕はずっと二丁目に根ざして、ほぼ二丁目に住んでいるような状態できたので、コミュニティというとまずは二丁目を思い浮かべる人間です。二丁目にはすごくたくさんのお店があって、それぞれの店が小さなコミュニティなんですね。パートナーシップが生まれたら、その店のみんなでお祝いするような。
そういうたくさんのお店の中には、ゲイ、レズビアン、トランスジェンダーの店などあるのですが、それらが大きなコミュニティとして一つになったと思える瞬間がかつてありました。
2000年に「東京レズビアン&ゲイパレード」というちゃんとした大きなパレードが初めて開催された時に、そのアフターパーティー、後夜祭として二丁目でイベントをやろうということになり二丁目振興会という組織が作られました。そして「レインボー祭り」というイベントが開催されたんです。
その時に誰も知らなかったんですけど、二丁目の空に花火が上がったんですよ。それでみんな感動してワーワー泣いてたっていう。
あとですね、二丁目にはですね。aktaというコミュニティセンターがあります。これはHIVの情報提供をしたり相談したりすることができる場所で、誰でもフラット立ち寄ることができます。
2000年代の頭くらいまではすごく大きなHIV啓発イベントが開催されていて、四谷区民ホールで500人くらいのホールで、お楽しみ的な出し物があってHIVの事を学べるというイベントがあったんですけど、今はそういうものはないんですね。
レインボー祭り自体も、今はパレードとは無関係に行われていて、かつては5000人くらいの大きな規模だったんですけど、今は数百人規模の寂しいものになっています。
多分、二丁目コミュニティが前に比べると弱くなっているかなって気がしていて、なので、もっと色々なところからエンパワーが必要ではないかと思っています。
例えば、TRPにはいろいろな企業の協賛があるのに、二丁目にはそういうものがないんです。
Q 自治体から助成金は出ないんですか?
後藤純一氏
レインボー祭りに関しては新宿の商工会議所だったかな、ちょっとだけ助成金が出るんですけど、それはお祭りを開催して終わり。年に一回だけ、祭りのためだけです。
※注……新宿二丁目振興会とレインボー祭りに関して筆者が把握している情報とは異なります。あくまで後藤氏の発言をそのまま記載しています。
Q 企業に対して LGBTに関してのセミナーなどやっていますか?
森永貴彦氏
研修をやっている企業、やりましたという企業さんから、「LGBTってなんですか?」って質問を受けてビックリしたんです。義務だと思ってやっている企業さんが多く、それではダメだと思うんです。
やっぱり必要なのはコミュニケーション。当事者と企業の交流会のようなものをもっとやっていかないとダメだと思います。
黙っていても状況はだんだん変わっていくと思うけど、その速度は遅い。声を上げ続けることが大事かなあと思っています。
僕は今、博報堂DIYホールディングスという広告会社の中でLGBT総合研究所という会社を立ち上げました。実は社内で5年間提案し続けていたんですね。
その度にホールディングスの偉い人たちに、「LGBTは身近じゃない」「そんな人たちはいるのか」と言われ続けたんですが、私は毎年「いるんです」と「目の前にいる私、これがリアリティですよ」と声を上げ続けました。そう言った当事者の声というのは粘り強く訴えれば必ず伝わると僕は思っています。
諦めないで声を上げ続けるのが何よりの近道かなあとは考えます。
Q 私は行政の人間なんですけど、さっき職場でのLGBTの差別てのが出てましたね。それにちょっと補足したいのですが、私が業務で関連している法律があって、男女雇用機会均等法という法律がですね、ちょうどこの1月に改正されて、職場でのLGBTへの差別的な発言がいわゆるセクシュアル・ハラスメントとみなして企業としてちゃんと対応しなさい、というのが入ったというのがあります。なので、福利厚生とか研修だけではなく法律の規制的なところでも変えていこうというムーブメントがあるのかなってのはあります。
後藤純一氏
すいません、訂正させてください。それは違います。僕も気になって弁護士さんに確認したんですけど、今回の法改正ってのはですね、セクシュアル・ハラスメントの対象に男女間だけじゃなくてLGBTも含まれますよ、ということでしかない。
要は、僕らはLGBT差別と言うものを含めた改正にして欲しかったんだけど、残念ながらそうはならなかったんです。
Q 差別というところで明言されなかったとか、具体例が示されなかったってところはあります。はっきり言って、追加というか明記なんですよね、今回の改正は。
後藤純一氏
明記なんですけど、ある意味、当たり前のことが書かれたにすぎないんです。
要は「LGBTもセクハラの対象ですよ」そんなの当然じゃないですか。
その内容について、陰口を叩いたとか、性志向とか性自認に関する悪口があった時にそれをセクシュアル・ハラスメントとみなしてちゃんと会社は対応しなければならない、ていうところまではいってないんですよ。
Q 確かにおっしゃる通り、職場でのセクハラに限定されたところと、社会にある差別ってのは捉え方も違うと思いますし、今回の改正でそこまで到達しなかったというのはおっしゃる通りだと思います。
会場からも多くの意見が出て熱く盛り上がったトークセッションの雰囲気はお分かりいただけましたか? この熱気は、新雑誌「Oriijin」に対する期待の大きさ故、そしてセクシュアリティ、性自認を超えて激論が交わせる場こそ、まさにOriijinが提案するインクルージョン(お互いの違いを認めて受け入れること)のあるべき姿だと感じました。
全国書店、ネット書店で発売中の「Oriijin」創刊号。ご興味のある方は、ぜひお読みになってください。
創刊に合わせてOriijin公式サイトがオープンしました。
誌面の詳細はこちらをご参照ください。