「住まいをめぐるエトセトラ(前編)」新・老後どうする? 年収300万未満の人生サヴァイヴ術 008

過酷な残業を重ねても増えない収入、シングルで生きる老後像が思い描けない、パートナーがいても老後の安心感など見えてこない、知らん顔などできない親や家族の問題も降りかかってくる……。
「自分の人生、これから先どうなっていくのかなぁ?」
そんな漠然とした不安、感じたことありますよね。

セクシュアル・マイノリティ当事者が抱える不安を少しでも解消するべく、決してキラキラはしていないけど地に足つけた活動で学んできた偏屈者ライター永易至文が語り下ろす生活密着コラム。
第八回は「住まいをめぐるエトセトラ」です。前編のテーマは、「永住の購入より、移動可能な賃貸を選ぶワケ」です。

●彼氏と家買って定住なんて、自分には無理無理

nagayasu年収300万円のライフプランニング、きょうは「住まい」について語ってみましょうか。この年収なんで、家を買う人はやっぱりいないかな……。

itaruいないだろうけど、購入か賃貸かは永遠のテーマとしてあるね。

nagayasu老後不安や根無し草感など、家買わないとダメかな的な思いにさいなまれる人は、やっぱりいるでしょう。家買うかどうかで悩んでる人、見かけます?

itaru家買うのは30代に多いんじゃないかな。

nagayasuそう、30代の末ごろ、家買いたい病にかかるみたいね。ちょうど稼ぎが乗ってくるころだし、ローンの期限からいってもこのへんかなって。固いところに勤めてたら、会社で家買えとか、指導されるかもね。

itaru私はずっと賃貸でいくつもりで、買うって考えたことないなあ。

nagayasuなぜ? 買うお金がないとか、フリーランスなんで住宅ローン借りるための信用力がないから?

itaru大きなお世話! 今より収入あったときでも家を買おうと考えたことない。第一、買ったらずっとそこにいなきゃいけないでしょ。それが苦痛。

nagayasuそれはゲイのライフスタイルと関係あるかしら。ノンケなら結婚して子育てして、それにはある程度の広さの家と定住力が必要よね。でも、ゲイの人って、急に沖縄に住みたいとか言い出したり、男でトラブってもうここにいたくないと思ったり、人生いろいろ(笑)。

itaruあのねえ、男絡みで住む場所を変えようとか考えたことは、人生の中で一回もない。自分はもともともと東京の人間じゃないし、このまま東京で暮らすという意識がないのかもね。小さいときから転勤族の家庭でもあったし。いまは老母と一緒にいるから公団にしばらく定住しているけど。巨大団地で、周りは公園みたいで環境はいいんだよね。まあ、最寄り駅まではバスで20分かかるけど。

nagayasuアハハ。でも、最近はLGBTブームの余波もあってか、住宅雑誌で、同性カップルでマンション買うなんて特集も見かけるじゃない。そんなマンションで末長くお幸せに、なんてのには憧れないの?

itaru おあにくさま。一人の相手と末長くご一緒にいられるわけがないし。家買って男と一緒に暮らして、犬とか猫とか買って、週末にはワイン開けたりしはじめたら、もうどこへも行けないじゃん。そんなの絶対いや、死んでもいや(笑)。

nagayasuそれが絶対いいと言う人が、家買うんでしょう。

itaru勝手に論評して申し訳ないけど、カップルだって永遠につづくかはわからないし、死別すればまた一人じゃん。そんな場合、自分は生き残るほうだと考えちゃうんだよね(笑)。

nagayasu年上が好きだから?

itaruいや、相手が年下でも、死ぬのは向こう(笑)。

nagayasuずうずうしいわねえ。

itaruそうやって、一人の自分が大前提で、そうなれば老後は老人ホームやサービス付き高齢者住宅がいいと考えるわけ。

N:買った家がかえって足手まといね。

●費用? 老人への貸し渋り? いまはどんどん解決中

itaruだいたいマンション買って、そのマンションといっしょに朽ちていくなんて、まっぴらゴメンなわけ。土地付きの一軒家なら別だけど、マンションなんて買った日から価値が下がるだけでしょ。35歳のときにキレイなマンション買ったと思っても、15年、20年たてばくすんでいくし、35年のローン払い終われば、築35年の古家に70の爺さんが住んでるだけで、これなにか嬉しい? 見回せばまた周りには新築がいっぱい建ってるのに。

nagayasu男とマンションは新しいに限るってか?

itaruかどうかは知らないけど(笑)。だいたいおふくろが死んだらいまの公団にいる理由もないし、東京では小さなアパート借りて少しの荷物置いて、今月は札幌、来月は福岡って、ウイークリーマンションを渡り歩きながら動き回る生活したいかな。ネットがつながれば仕事できる環境を整えてね。

nagayasuさすがマグロは回遊するのね。でも、買ったほうが安いか借りたほうが安いかは、みなさん気にするでしょ。

itaru前に一人か二人で住む物件なら、借り続けても買っても、トータル費用はそんなに変わらないって言ってたよね。買ってもローン(元金+利子)以外に管理費とか共益費とか固定資産税とかけっこうかかるし、買うときの売買手数料もバカにならないし、古くなったら修繕とかあるし。おまけに地震が起きて下に活断層でもあって、建て替えになって二重ローンなんて目も当てられないよ。賃貸なら逃げだせばいいだけだし(苦笑)。

nagayasuいわゆる「持つことのリスク」ですな。

itaru関西に親戚がいて、阪神大震災で被災して苦労してるの見てたから、マンション買う選択はないわ、と思った。

nagayasuでも、年寄りには家を貸してくれないから、若いうちに家を買ったほうがいいという話もよく聞くんだけど……。

itaruいま、世間は部屋が余ってるんでしょ? もともと余っているところに、どんどんマンション建ってるけど、人口は減る一方だし結局埋まらなくて、10年後には大量に空き部屋として放出されるんじゃないかな。そのうちワンルームマンションも改修して、老人マンションになるかも(笑)。

nagayasu一階部分は介護ステーションが入って、上でボタン押したら下から人が見にきてくれます。

itaruそれよりも私、モノを捨てたいんですよ。断捨離? 昨今流行りのミニマリストっていうの。

nagayasuモノ捨てられない人いますよね。年収300万のライフスタイルとしては、なるたけモノを買わない、置かないというスタイルは、サバイバル戦略として身につけてほしいかなあ。借りられる部屋もそう広くはないんだろうし。

itaru本も買わないし、CDも買わない、みんなデータで読んだり聴いたりすればいい。夏物と冬物の服を入れ替えるだけ。そりゃマニアはレコードが欲しい、アンプにスピーカーにこだわる、服もほしいかもしれないけど、私は、聞けりゃいいから。ブルーレイ集める趣味もなく、映画や海外ドラマは配信で見てるし。スマホにダウンロードして移動中に見たりできる方が自分のライフスタイルには合ってるしね。Netflix利用したらいいじゃない。一生かかっても見切れないくらいコンテンツが揃ってるし。

nagayasu都市の暮らしは、お江戸の昔から借家だし、持ち家政策は高度成長のための戦後の一時期だけだったわけ(郊外に一戸建て買って、2時間通勤(痛勤))、そんなスタイルも、そのためにあくせく努力するのも、われわれはウンザリなわけよ。家を構えて一人前と思い、それができない自分を引け目に感じるなら、早くそんな呪縛から逃れなさいだわね。

itaruLGBT市場押しで、企業とタイアップしている人らからは、目の敵にされそう(苦笑)。

nagayasuモノの豊かさではなくて、人間関係の豊かさ、孤立しない生き方が、いまはなによりの財産よ。お金持ちより、人持ちへ(©上野千鶴子)でしょ。

<家を買いたくないあなたのための言い訳集>

・買ったほうがかならずしも安いとは限らない。購入した場合も、ローン(元金+利子)以外にも、管理費や修繕積立金、税金などいろいろかかる。一人か二人で暮らす広さなら(1DK,1LDKなど)、購入も賃貸も最終的にはあまり変わらない。どっちを選ぶかは、ライフスタイル観の問題。
・買ったらそこで永住。むしろ賃貸で移動の自由を保持しているほうがライフスタイルに選択肢の幅があるのでは?
・ローン払いつづけても手元に残らないのは虚しいというが、完済後には古家が残るだけ。
経年劣化は人間関係もおなじ。区分所有者らが入れ替わり、管理が行き届かなくなったマンションのスラム化が課題になっている。
・所有をすれば、自分の死後の処理(相続)も考える必要ある。築うん十年のマンションは、相続人(甥姪)に迷惑になるだけ。
・首都直下地震や東南海地震などを控え、持つリスクも上昇している。
・高齢者に家貸してくれない問題は、物件の増加で緩和に向かう。高齢社会で行政も対策せざるをえない。
・家を売り抜けて儲かった話もないわけじゃないけど、そのために所有者はものすごーく勉強もしている。それに使う時間と頭と努力が難しいなら、はじめから手を出さないが吉。

itaruありゃまあ、言いも言いたりだねえ。

nagayasu身も蓋もない話だけど、子孫に美田を残す必要がないわれわれとしては、自分が生きているあいだの住まいのことだけ考えておけばいいのじゃないかしら。

あなたは住まいのこと、どうしようとお考えですか? 後編のテーマは「高齢期こそ、団地暮らしが狙い目かも?」です。次回もお楽しみに。

新・老後どうする? のバックナンバーはこちらから

<今週の永易さん>

永易さんが運営するNPO法人パープル・ハンズでは、性的マイノリティの暮らしや老後の「確かな情報センター」として、当事者の専門家の立場からかずかずのご相談に応じています。
お話を共感的にうかがい、課題を整理し、現行の法律や制度を活用し、多大な費用をかけないで、まずは具体的にできることを紹介したり、一緒に解決策を考えているそうです。
相談は通常、2時間程度・5千円の相談料がかかりますが、現在、一般財団法人ゆうちょ財団さんの助成金を得て、無料で提供されているので、生活や老後のことできになることがある方は、積極的なご利用をお勧めします。

お申し込みは、相談内容のあらましと相談希望日時(土日や夜間も対応可)を記して、パープル・ハンズ( info@purple-hands.net )までメールでお送りください。

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ABOUTこの記事をかいた人

永易 至文

永易至文(ながやす・しぶん) 1966年愛媛県生まれ。90年代にいわゆるゲイリブサークルにかかわりゲイである自分を受容。出版社を経て2002年からフリーランスライター/編集者。2013年からNPO法人パープル・ハンズ事務局長、行政書士(東中野さくら行政書士事務所)。 NPO法人パープル・ハンズ http://purple-hands.net