「保険はいらない?」新・老後どうする? 年収300万未満の人生サヴァイヴ術 002

過酷な残業を重ねても増えない収入、シングルで生きる老後像が思い描けない、パートナーがいても老後の安心感など見えてこない、知らん顔などできない親や家族の問題も降りかかってくる……。
「自分の人生、これから先どうなっていくのかなぁ?」
そんな漠然とした不安、感じたことありますよね。

セクシュアル・マイノリティ当事者が抱える不安を少しでも解消するべく、決してキラキラはしていないけど地に足つけた活動で学んできた偏屈者ライター永易至文が語り下ろす生活密着コラム。
第二回は「同性愛者に保険はいらない!?」の前編を語ります。

いたる(以下:I):あなた前回の掲載からもう1か月以上も放置して、なにしてたのよ。

永易(以下:N):いや、まあ、パレードがらみのイベントなんかでバタバタしておりまして、読者のかたにはお詫び申します。

I:とかく高収入で消費感度良好みたくキラキライメージで語られるLGBTだけど、そういう人もなかにはいるだろうけど、そうでない人もけっこういる。具体的に言えば、年収300万で暮らすLGBTもいくらでもいるわけね。で、メディアはキラキラばっかりフューチャーしないで、貧乏人のことも書け、て言ってもいいけど、そんな記事、誰も読みたくないわけじゃん(笑)。

N:まあ、「おいらがゲイなのもみんな貧乏が悪いんだよ、ゴホゴホ」「お兄ちゃん、それは言わない約束でしょ」とかやってもつまらないし、社会にプロテストするのも、もちろん大事だけど、そればかりやっても幸せになる感じがしない。

I:あなた本当にリブの人なの? プロテストしてこそ、闘ってこそ、リブなんでしょ?

N:なにかイメージ歪んでません? まあいいや。で、社会運動は運動で折れない止めないで息長くやっていくことにして、でも運動の目的は自分が幸せになることなんだから、年収300万でもなんとか自分の人生を幸せにしましょうよ、というのがこのおしゃべりエッセーの狙いなんですね。

I:人生の幸福論とか語って、なにかへんな宗教でも開こうっていうんじゃないでしょうね。

N:私は唯物論の共産趣味者ですよ。経済(お金)と物理的時間経過(老化)で考えます。ということで、年収300万で暮らす・各論その1ですよ。

●支出の見直しのコツ

I:そもそも年収300万、ボーナスなしで月25万を確保するのも、もしかしたら難しい現実があるかもしれないけど、それで暮らすって、どうするわけ?

N:25万から税金や税金的お金である社会保険料が差し引かれたものが可処分所得(手取り)なんで、それで暮らすのはさらに厳しいですよね。そんなとき、どこかの国みたいに大借金して今までどおりの暮らしを続ける人もあるかもしれないけど、やはりこのへんで目を覚ます必要があるわね。で、冷静な目で支出を見直して、削れるものをまず削る。代表格は保険。とくに保険は、不動産につぐ人生二番目の大きな買い物って言われてます。

I:都会で暮らす分には車は不要だし、田舎で暮らす場合にはこれは生活必需品、生命線だからこれ以上論じてもしょうがないか。じゃ、保険の検討ね。

N:それで、私としてはこれからLGBTーーとくに同性愛者に保険はいらない、という話をするわけですが……。

I:えっ、なんで? だって心配じゃない、病気になるかもしれないし! 年取ったら病気になるじゃない、明日ガンになったらどうしよう、高度先進医療とか使わなきゃいけなくなったらどうしよう、って医療ドラマ(グレイズアナトミー)を見ながら私、いつも心配なんだけど。てか、私、医療ドラマ(グレイズアナトミー)大好きなの(笑)。

N:もうさっそく生命保険と医療保険とをごっちゃにしてるみたいだけど、それぞれ分けて考えなきゃダメね。そのまえに、保険て、そもそもなに?

I:保険は……ホケンだろ(汗)。

N:ま、私も聞きかじりなんだけど、保険のはじめはルネサンスのころのイタリアの地中海貿易商人なんだって。彼らはアラビアと交易して財を成すわけだけど、まだ航海術が未熟でよく船が沈んだの。それで商人たちが組を作ってお金を出し合っておき、船や積み荷を失った商人を保障したのが保険の始まりだそう。日本最初の近代的保険会社も東京海上保険(1879=明治11年設立)だって。損害保険、火災保険、自動車保険、みんなおなじ原理で、それを人間の生き死にや病気に応用したのが生命保険や医療保険ね。

I:組を作ってお金を出し合い、誰かが死んだらその人(の遺族)にお金をあげるというわけか。

N:保険会社は昔は相互会社って言ってたね。会社は統計と確率論を駆使して掛け金(保険料)と保険金を設計。加入者を募集するわけだけど、加入者の平等のために特別リスクの高い人は加入を断ることになる。私たちに関していえば、保険会社の目にはHIV陽性者やホルモン投与をしている人がこれにあたり、加入できないか、割増保険料を払うことになってるみたい。

I:それを「差別!」と言うかは、また別問題かな。他の加入者との平等にもからんでくるからね。

N:ということで、まずは生命保険の検討ね。

●同性カップル受取り可の生命保険で気をつけること

N:生命保険って、死んだ時にお金がおりる保険。これまでいわゆる二親等規定に阻まれて同性パートナーを受取人にできなかったわけだけど(これって完全な保険会社の内規、横並び)、“渋谷区の同性パートナー条例”以来、「わが社は同性パートナーのかたも受け取り可能にしました」という保険会社がどんどん増えているね。

I:そうそう、パレード会場にも何社か保険会社のブースも出てたし。

N:愛するパートナーに保険を、って関心が高まって、同性愛の人の加入者も増えてるのかね?

I:それをパートナーのいない私に聞かれても困るんですけど。でも、パートナーがいる人は入ってるんじゃないですか? 

N:なんで入るんですか?

I:え? だって愛する人へお金を残せるから。

N:自分がお金を残さないと相方は明日から困るの? 小さな子がいるわけでもないし、共働きだし、自分が死んでもだれも困らないでしょ。つまり同性カップルには保険に入るニーズがないのよ。

I:え、もう結論? 

N:保険は保険会社と自分(加入者)との賭けで、加入者は自分が死ぬ方に掛け金を賭けて、勝てば賞金(保険金)がドンと降りるけど自分は死んでる。負ければ掛け金は胴元(保険会社)が総取りするけど、自分は生きてるもの。相手はお金もらって嬉しいけど、でも、それよりあなたにずっと生きていてほしかった、て思うんじゃない?

I:そうとも限らないでしょ、人によっては。

N:鬼畜ねえ。怖い怖い。私は死んでお金を渡すより、生きてるうちに二人で使おう、使わないなら貯金して、いつでも必要なときは使えるかたちにしておこう、て言ってるの。保険だと、もう死ぬときまで引き出せないようなものでしょ。人生、途中でどんな必要があるかわからないから、お金は自由になるかたちで持っておくほうが賢いんじゃないかな、って。

I:ふーん。

N:それに同性カップルも異性カップル同様に平等に加入できるようになったのはいいことだけど、税金は法律が変わらないので、じつは不平等もあるの。
年末調整や確定申告のとき、生命保険料控除というのがあるけど、これは親族(法律上の配偶者)が受取人の保険の場合でなければ控除の対象にならない。5万円までとはいえ、不平等ね。それから実際、亡くなって保険金がおりるときは、保険金もみなし相続財産として相続税の計算のなかに繰り入れられるんだけど、親族受け取りの場合は、500万×法定相続人数が控除されます。1千万でも、相続人が2名いたら実質ゼロ円扱い。でもパートナー受け取りの場合はこれがまるまる課税対象に繰り入れられるので、ほかの財産とも合わせて場合によったら相続税がかかる可能性が出てくるわけ。おまけに、パートナー(非親族)が相続税を払う場合は、税額を2割増で払うの(それだけ親族が優遇されているということ)。なので、相方を受取人にできたと喜んでると、意外に税金の面では負担が重いことには注意が必要なのね。保険会社がいうように、「愛情の証」だけで入るもんじゃないってことかも。

●生命保険に入ったほうがいい人、入らなくていい人

I:でも、本当に必要な人もいるんじゃない? この春、富久町の公園でみんなでお花見したじゃん。

N:平日昼間に空いてるダメの人が集まった花見ね。

I:あんたもいただろ! ていうか、シフト制勤務の人とか、有給とった人も多かったから、ダメ人間はあんたと私と他数名よ。で、その中に稼ぎのいいダンナがいる専業主夫のゲイがいたじゃん。ああいう人はダンナになにかあったら困るだろうから、ダンナにパートナー受け取りの保険に入ってもらったほうがいいんじゃない。あと、子育てビアンカップルでも、二人のうち一方が子育て・家事専門、もう一方が稼ぐという組み合わせもあったりして?

N:もちろんそういうかたの場合は加入を要検討だけど、たぶん年収300万家庭ではないだろうね。

I:ほかには?

N:そうそう、家を買っていて自分が名義人で、万一の時には相方に渡すように遺言を書いておいても、親が存命なら法律上は3分の1の遺留分がある。家を3分の1だけ切って渡すわけにもいかないし、ローンに使って現金もない。親族対策用に親を受取人にした保険に入っておくというのはあるかもね。親が死んだら即、解約よ。ちなみに、きょうだいには法律上、遺留分の権利はありません。

I:ふむふむ

N それからローンの名義者は団体信用生命保険(団信)に入るから途中で死んでもそれで完済されるけど、ローンを折半している相方が先に死んだ場合、残ったほうはローンがきつくなるじゃない。それに備えてそれこそ相方を保険の受取人にするのはいいかも。新規で同性パートナー可の保険を探してもいいし、ほら、みんな親戚やら先輩やらのしがらみで入ってる保険があるなら、こういうご時世、受取人を相方に変更できないか、まずは今の保険会社に聞いてみるのもいいかもね。

I:ああ、よかった。この人、せっかく保険会社がLGBT向けにいろんなサービスを提供し始めているのを全否定して、敵に回す気か? つくづく清貧に生きる人だな、と思ったけどそうでもなさそうね。

N:でも、年収300万では家買わないかもしれないし、いずれの回で話すと思うけど、むしろ私は家は買わないほうがいい論者なので、住宅ローンと保険をからめた話も関係ないかもしれない。もし所得も少ないのに「私たち、相方受け取りの保険に入ってないと、愛がないことになるのかしら?」と勝手に苦しい思いをしている人がいたら、そんなこと全然ありません、むしろ保険入らないほうがいいですよ、と言ってあげたい。

I:もーう、つくづくあんたって人は!

ということで、保険に関するお話は後編に続きます。後編は、病気や入院時の医療保険について語りますよ。

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ABOUTこの記事をかいた人

永易 至文

永易至文(ながやす・しぶん) 1966年愛媛県生まれ。90年代にいわゆるゲイリブサークルにかかわりゲイである自分を受容。出版社を経て2002年からフリーランスライター/編集者。2013年からNPO法人パープル・ハンズ事務局長、行政書士(東中野さくら行政書士事務所)。 NPO法人パープル・ハンズ http://purple-hands.net