「老後資金いくら必要?」新・老後どうする? 年収300万未満の人生サヴァイヴ術 004

過酷な残業を重ねても増えない収入、シングルで生きる老後像が思い描けない、パートナーがいても老後の安心感など見えてこない、知らん顔などできない親や家族の問題も降りかかってくる……。
「自分の人生、これから先どうなっていくのかなぁ?」
そんな漠然とした不安、感じたことありますよね。

セクシュアル・マイノリティ当事者が抱える不安を少しでも解消するべく、決してキラキラはしていないけど地に足つけた活動で学んできた偏屈者ライター永易至文が語り下ろす生活密着コラム。
第四回は「老後資金」について語る前編です。

●お金は一生続くのか、という難問にどう答える?

itaruきょうは老後の資金計画とやらを語ってもらいましょうか。

nagayasuまあ、元手が年収300万ですから、そんな「ハッピーシニアライフ!」とはいかないけど、そもそも私たち性的マイノリティにとってのハッピーライフってなによ、ってことですわね。

itaruそんな哲学者気取りで「現代幸福論」のご高説はいいから、具体的にどうやってしのぎゃあいいのよを語りなさいよ。

nagayasuなかなか手厳しい(苦笑)。まあ、老後というのはよく「定年後」と表現されて、仕事を辞めると給料がなくなります。「お金は死ぬまでもつのか」の問題は、東京は諸国の吹き溜まりですから、「田舎に置いてきた老親どうする?」、そして「子のない自分の老後はどうなる?」とともに、セクマイの3大難問です。

itaruへ〜、3大難問ね。

セクシュアル・マイノリティの3大難問

「田舎に置いてきた老親どうする?」
「子のない自分の老後はどうなる?」
「お金は死ぬまでもつのか」

nagayasuその一方で、人の人生に必要なお金としてよくFP(ファイナンシャルプランニング)なんかの教科書には、住宅、子育て、老後の3大資金に備えなさい、ってことが書いてあるんだけど、住宅についてはいずれ話すとして、子育て資金は私たちには基本、不要ですよね。

itaruウチの兄貴一家とか見てたら、子ども抱えて家のローンもあったりすると、もう大変、ヨレヨレだよね。それが20年以上続くわけで、子育てしない俺なんか、申し訳ないぐらいラクに生きてます。

nagayasuなんらかの事情でお子さんがいるかた(異性婚時代の配偶者とできた子など)や養育費払っているかたは大変だとはお察ししますが、一般的にはうちらは子育て資金不要で、その分、お金には余裕があるはずです。老後資金だけ考えりゃいいというわけですね。

itaru理屈上は、そうなるのかね。

nagayasu死ぬまでお金が続くかにどんな備えができるというのかというと、

収入>支出

つまり収入の範囲内で暮らせば死ぬまでお金はもつわけで、これは欧州債務危機からLGBTの家計簿まで、財政の大原則は変わりません。アベさんとアソウさんはわかってないようですが……。

itaru老後の収入ったって、もう給料はないわけでしょ?

nagayasu給料は終わるわけだけど、退職金、預貯金、老後のベースの公的年金、それから個人保険、資産運用(株式、投信、債券等)、親からの相続や親の死亡保険金……。

itaru親の保険金って、あんたも怖いわねえ。

nagayasuでも、入ってきたらありがたいでしょ? 親が現役時代は利率もよくて「お宝保険」の時代だしね。ま、ある人はある人なりに、ない人はない人なりに、現実を見つめるしかないですよね。

itaru支出のほうはどうするのよ? 

nagayasu自分はひと月いくらあれば暮らせるか、把握できてます? 3〜4か月、金額メモだけでいいので家計簿つけてみると把握できますよ。退職すると外食費や飲み代、クリーニングはじめ衣服費など、7割ぐらいに縮小すると言われています。ただ、老後は医療費や介護費用が増えたり、老後相応に余暇も楽しみたい、ということもありますね。

itaruひと月25万円なら17万5千円、年210万円。60〜70代は旅行に、80代は医療費に、ということで別腹で年30万円。
年の合計240万円を、60歳から人生90年時代、90歳まで30年で、……7200万!
ヒェーーっ、早死にしたい!

nagayasuそれを60歳の定年時に貯めておくのは至難の技で(とくに年収300万の人には不可能)、退職後も入ってくるお金で補い、そのうえで足りない分はどうしましょう、って話。というか、誰だって足りませんから。

itaru宝くじでも当てるの?

nagayasuまさか(笑)。

●社会関係の維持とボケ防止のために、高齢期も働いては?

itaruところで、定年の60歳からは収入がなくなる前提のお話なんだけど、私の場合はサラリーマンではないので定年があるわけじゃない。今の仕事がやれなくなっても、スーパーの品出しでも駐輪場の整理でも、ビルの清掃でも、なんだっていいから、私って、死ぬ直前まで仕事したいタイプなのね。私の父親も死ぬ直前まで働いてて、入院して3週間で逝ったの。ああいうのは理想だなって、親戚中で評判だったね。働いて体うごかしてたから、介護も必要なかったし、頭もぼけなかったし。

nagayasu絵に描いたようなピンピン、コロリですね。足りないお金の埋め方は3つしかなくて、

 ① 収入を増やす
 ② 支出を減らす
 ③ お金自身に働いて増えてもらう(運用など)

①の 収入を増やす については、「定年後はもう働かない」んじゃなくて、まだ体も元気なら働いたら? ってことだよね。
いまは希望すれば65歳までは定年延長できるし、そのあとだって70歳、75歳、あるいは80歳ぐらいまでは、体も動くじゃない。
アルバイトでも有償ボランティアでも、小銭を補う方法はいろいろあると思うのね。
海外駐在とか華やかなご経歴で英語も堪能とかなら、自宅でお教室やってゲイの生徒さん集めるとかさ。あ、”エリットサラリーマン”は年収300万じゃないか。

itaruまあ、それはともかく、高齢者を活用する以外、社会も人手不足解消の道がなくなってる。気付いてみりゃ、コンビニでもファーストフードでも、高校生や若い子の職場と思われてたところに、ずいぶん高齢者がいるわけ。

nagayasu近所の松屋にも腰の曲がったお婆さん働いているよ。

itaruうちのそばのマクドナルドもお婆さんがスマイル売ったりしてるから。あそこWiFi使えるから、私よく行って仕事するんだわ。

nagayasuコーヒー1杯100円で粘るのねえ、ノマド族の鏡。

itaruやかましい!

nagayasu定年後はやりたいことが決まっているーー私の存じ上げてるかたで、60歳でスパッと会社辞めて、読書と毎年、NYのメトロポリタンオペラ通いに明け暮れているかたとかもいるけど、お金もさることながら、遊ぶにも能力がいりますからね。
そこまでの胆力がないかたは、仕事を続ける。それは収入の補填もそうだけど、社会的関係を切らないことと、体を動かすことでの健康維持が目的です。

itaruなるほどね。お金足らなきゃ、働いて補え。これはしごくあたりまえのことだし、老後も働くなんて生活苦の極み、というひと時代まえのイメージを捨てて、体の動くうちは、あるいは体が動き続けるように、働くという選択肢を積極的に検討してみたいね。

nagayasuただ、会社で65歳や70歳まで働く場合、厚生年金などの社会保険料がかかったり、65歳から支給される公的年金がまだ支払われなかったり、少し制度で複雑なところもあるので、そのときがきたら会社の総務などともよく相談してみることですね。
あとは、いわゆる「地域デビュー」のときに、これまで海外駐在や英語堪能、取締役までやってましたなんてかたが、つい偉そうな口をきいて鼻つまみになるってあるじゃないですか。
グローバル企業の経営戦略とアルバイト先の地域の手作りNPOの運営システムじゃ、そりゃ違うでしょうからね。それをふまえないで偉そうなこと言い出すと、うっとおしいよね(苦笑)。

 

●老後1千万貯金の作り方。肝炎ワクチンもじつは「保険」

nagayasu老後資金についての考え方はまだまだありますよ。

itaruたとえば?

nagayasu貯金できないという話はいたるところで聞きますよね。
「40歳なのに自分ぜんぜん貯金ができない」
「老後どうしよう」
というかたもいます。
もし勤めていらっしゃるなら、たとえば 月3万円+2度の賞与で7万円ずつ=年50万円 貯金できないかしら。
会社に財形貯蓄があれば給料から天引き、それがなくても給与振り込み先の銀行で振り込み当日に自動引き落としの積立
そうやって取りのけたお金ははじめから無かったと思うこと。
40歳から20年続ければ、1年50万円×20年=1千万円+利子 になる計算です。
途中で定期に積み替えたり、元本割れがない個人国債で運用するのもいいかも。
利子で増える時代じゃないけど、増やそうと思わず減らすまいと思え、かな。
公的年金とは別に 60歳のときに1千万円あるとずいぶん安心ですよね。

itaru60歳で退職後、65歳から年金が出るまでの(むかしよく言われた「空白の5年間」)、つなぎ資金にも使えるわけだね。

nagayasu支出を減らすことでは、前回までお話しした民間保険(生命保険、医療保険)の見直しかな。保険不要論には賛否もあることだろうけど、納得して、なくてもすむと思うなら、支出削減には大きな効果だよね。
実際、公的な社会保険ですでにたくさんの保険料を払っているわけなんだし。その分は貯金に回すこと。

itaruそして、病気をしないが貯金のはじめ、って、俺のでかい腹ジロジロ見ながらいうことないっしょ(笑)。

nagayasu病気するな、って言っても、なったらどうするんですか! って怒られると困るんですが、病気も介護も予防できる部分は大きいですよね。
前回も話したけど、禁煙、節酒、減量、これかな。モテるガチムチ体型も歩く成人病予備軍。
まずは早期発見・早期治療、これが一番の節約かも。 

itaruよけいな病気にかからないという点では、ゲイはセーファーセックスするのも「効果あり」じゃないの? コンドーム一個で防げるものはでかいと思うな。

nagayasuま〜た、そんな優等生発言しちゃって。でも、実際そうよね。コンドームで防げない病気もあるけど(流行中の梅毒など)、A型・B型肝炎はセックスでうつって、高熱や黄疸で入院することもあります。肝炎にはじつはワクチンがあるから、自費だけど(数万円)、これこそ本当の保険。東南アジアへ行くんですとか言って打ってもらうのはいいかも。一生ものよ。

itaruそれから公的年金

nagayasu気になる年金の損得と真実アッと驚く活用法、さらにいま話題の確定拠出年金などは、次回にまとめることにしましょう!

ということで、老後資金に関するお話は後編に続きます。次回もお楽しみに。

■新・老後どうする? 年収300万未満の人生サヴァイヴ術  バックナンバーはこちら

<今月の永易さん活動報告>

7月8日(土)立教大学池袋キャンパスで開催された公開シンポジウム
おひとりさまのおカネと老後~おひとりさまを支えるプロここにいます~
に登壇しました。

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WAN(ウイメンズアクションネットワーク)理事長の上野千鶴子 氏をはじめ、諸星裕美 氏、金子祐子 氏、角田朋子 氏など、公認会計士やファイナンシャル・プランナーなどお金のプロの方々と共に、永易さんはこの「新・老後どうする? 」にも共通する保険や年金、貯金の方法などに関して話をしました。
広い階段教室は上野さんファンの妙齢の御婦人方を中心にほぼ満席。
その御婦人方からドッカンドッカンと笑いをとる、立て板に水の喋りはお見事。
その姿は、まさに「LGBT界の”きみまろ”」と評したいほど。
人に頼らず生きて行く「おひとりさまゲイ」としても、とても参考になることが多いシンポジウムでした。

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ABOUTこの記事をかいた人

永易 至文

永易至文(ながやす・しぶん) 1966年愛媛県生まれ。90年代にいわゆるゲイリブサークルにかかわりゲイである自分を受容。出版社を経て2002年からフリーランスライター/編集者。2013年からNPO法人パープル・ハンズ事務局長、行政書士(東中野さくら行政書士事務所)。 NPO法人パープル・ハンズ http://purple-hands.net