『ベルばら』作者の漫画から紐解くLGBTの世界

おにいさまへ...

華やかな少女漫画にLGBTが多く登場?

自分はレズビアンなのか?と悩んでいた10代の頃、フィクションの世界に“はっきりとセクシュアリティが明言されていなくてもLGBTを匂わせるキャラクター”が登場するだけで、私は嬉しかったものです。
とりわけ、少年愛ブームも起きた70年代前後の少女漫画にはそういった作品が多く見受けられました。
今回はその中から、大ヒット作『ベルサイユのばら』でお馴染みの池田理代子先生の作品を2つご紹介したいと思います。

『おにいさまへ…』

おにいさまへ...

愛憎渦巻く名門女子校!少女たちの光と影

主人公・奈々子が入学した青嵐学園。
そこには“ソロリティ”と呼ばれる選ばれし生徒だけの社交グループが根付いている。
ソロリティのメンバーとなるために火花を散らす少女たち。そしてソロリティを率いる宮さまこと一の宮蕗子と、奈々子の憧れの人サン・ジュストこと朝霞れいには、ある秘められた確執があった。

個性豊かな登場人物

名門女子校を舞台に少女たちの青春と成長、そして愛憎劇を描いた本作では、なんといっても登場人物の個性の強さに注目したいところ。

例えば、入学式で奈々子を気に入ったクラスメイトのマリ子は「おねえさまをよろこばすため」と唇を噛んで紅く染めている激情の少女です。彼女の行動には今でいう「ヤンデレ」風の一面も。
ソロリティ、そして学園に君臨する女王様的な存在である宮さま。そのたぐいまれな気位の高さは特筆すべきポイント。
奈々子が心惹かれるサン・ジュストは、高校生でありながらタバコや様々な薬を服用、作中で「生きる意欲なし」と言われるように厭世的に過ごしています。
サン・ジュストの唯一の友人である薫の君(この学校では人気のある生徒はどうも二つ名で呼ばれるらしい)は明るくさわやかな人柄で人望も熱いのですが、彼女にもまた、ある秘密があったのでした。
タイトルになっているのに“おにいさま”をはじめとした男性キャラクターはあくまでも脇役。物語の核は少女たちなのです。

軟禁されたり流血したりと、かなりドロドロとしたシーンもありながら、きらびやかな画風が生臭さを中和しているので読みやすい一作です。
不器用ながら健気な主人公・奈々子と一緒に、読者も青春を過ごし、読後にはひとまわり成長したような気分になれるのではないでしょうか。
明確にLGBT漫画とは言えませんが、女性キャラクターが女性キャラクターに対して「好き」と口にするなど、少なくとも友情以上の感情を思わせる描写が多々あります。
詳しく書きたいところですが、衝撃的なシーンは予備知識なしで読んでいただきたいです。ぜひご一読を!
(かなり個人的な余談ですが、サン・ジュストが私の初恋の人(女性)にそっくりで、奈々子にのめり込むように感情移入してしまう私は、この作品を読む度に号泣しています…)

『クローディーヌ…!』

女性の体と男性の心を持ったクローディーヌの愛と悲劇

精神科医ドクトルのもとに連れて来られた10歳のクローディーヌは、「じぶんは今は女の子だけれどまえは男性だった」「そしてこれからまた男性にもどっていく」と語る子どもだった。
年を重ねるごとに美青年へと成長を遂げたクローディーヌだが、想いを寄せた女性とは“(周囲から見れば)女同士である”という理由で引き裂かれ、やがてさらなる悲劇がクローディーヌを襲う。

他の漫画とは違うクローディーヌの苦悩

クローディーヌは『ベルサイユのばら』のオスカルのような男装の麗人ではなく、女性の体を持っているが心は男性のキャラクター。物語の語り部であるドクトルはクローディーヌに関して以下のように語ります。
「精神科医としてわたしはクローディーヌをトランスセクシアル(原文ママ)と規定づけることにやぶさかではないが」
手塚治虫の『リボンの騎士』のサファイア王子は「神様の間違いで女の子のハートではなく男の子のハートを飲んでしまった」というファンタジーな設定なのに対して、クローディーヌの物語はもっと痛切。自分は本当に男性だとうったえるクローディーヌとその周囲との間には、偏見や葛藤といった溝も描かれています。
悲しいストーリーではありますが、ドクトルが電話越しにクローディーヌに伝えた
「たまたま女性の肉体を持って生まれたけれど、しかしきみは誰よりも男らしい男性だとわたしは思うよ」
という言葉には胸を打たれます。
『ベルサイユのばら』ほど広く知られてはいませんが、これらは池田理代子先生屈指の名作だと思っています。
特にキスシーン、ロマンチックなシーンの美しさは必見!少女漫画好きで未読の方はぜひ読んでみてくださいね。

img via:
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ABOUTこの記事をかいた人

角 亜維子

平成生まれのレトロ育ち。 女子美術大学卒。 幼少期より抒情画やアングラ演劇に親しむ。 憧れの女性像は山口小夜子、イーディ・セジウィック、大島弓子作品のキャラクター。 レズビアンであり、特定非営利活動法人ReBit のメンバーとしてLGBTに関する出張授業や講演にも参加している。 同法人運営WEBサイト「LGBT就活」編集長兼ライター。 雑誌編集インターン、広告会社ライター等を経て現在はフリーランス。 随筆、評論、インタビューからフィクションまで、執筆お仕事募集中。