HIV&STDの定期的な検査が格安で受検できるSH外来

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日本のHIV/エイズ治療の総本山「エイズ治療・研究開発センター(ACC)」を抱えるのが、東京・新宿区戸山に位置する「国立国際医療研究センター(NCGM)」。
2017年1月から、ゲイ・バイセクシュアルの男性を対象に、HIVを含む性感染症の検査と治療を行う「SH外来」をオープンしました。
どういう目的で始まった試みなのか興味津々で、さっそくお話をうかがいに参りました。

■お話を伺った方:岡慎一氏(ACCセンター長)、水島大輔氏(ACC医師)

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①SH外来は、どういう目的で始まった試みですか?
②実際の診療の流れを教えてください
③SH外来の試みの先に目指しているものは?

 

①SH外来は、どういう目的で始まった試みですか?

HIVに感染する可能性が高い人たちが安全で健康的な性生活を続けていくために

SH外来の正式名称は「セクシュアル・ヘルス外来」です。
対象としている人たちは、いわゆる肛門を使って性交渉するゲイ、バイセクシュアルの男性です。
そして、一番の目的は「HIV感染の予防」です。

世界的にもHIV感染症/エイズといいう病気は、予防できるものとして捉えられています。近年の研究によって薬を予防的に使って感染を防ぐことが可能だと科学的に証明されてきました。
※これは、曝露前予防(PrEP・プレップ)のことです。詳細はこちらをお読みください。

日本の場合、HIVに感染する可能性が高い人たちというのは、肛門で性交渉するゲイの人たちだと考えられています。日本で新しく感染する人の約80%はゲイの人たちです。
その中でも、肛門で性交渉して、なおかつ肛門に性感染症を持った人たちがもっともHIVに感染しやすいと考えられています。肛門に淋菌とかクラミジアを持っている人の方が、そうでない人よりも感染しやすいと考えられているのです。

一方ではどうしたら予防できるのかということが分かっている、もう一方では感染する可能性が高い人たちがいると分かっている。
これを
上手く結びつけられれば一番いいわけですけど、残念ながら、予防(PrEP)に関して日本ではまだ保険適用になっていないので、実施することはできません。PrEPという医療行為でHIVを予防することができないため、コンドームを適切に使用する・肛門を含めた性感染症をしっかり治療するなどの、皆さんの行動によってしかHIVの予防ができないのが現状なのです。
とはいえ、HIV感染のリスクが高まる肛門の淋菌、クラミジアの検査も保険適用になっていない、つまり、日本では通常実施できない検査なのです。

こうしたら良いと分かっているのにそれを医療として提供できないというジレンマがあって、その壁をまず超えたいと考えました。
今回のSH外来というのは、HIVに感染する可能性が高い人たちが、安全で健康的な性生活を続けていけるように、なおかつHIVに感染せずに暮らしていけるようにしていこうと。それが、一番大きな目的です。PrEPはできないけど、まず肛門の性感染症の検査はしっかりできるような体制を整えて、一歩ずつHIV予防に立ちはだかる壁を取り除いていこうという試みでSH外来を始めました。

SH外来のコンセプト

PrEPができない日本でHIV予防に対して何ができるかといえば、Safer sexの普及だけでなく、性感染症の診断と治療をしっかりしないといけない。

一般のSTDクリニックは、症状が出た時に行き薬をもらって、治ったらもう行かない、というのが普通ですよね。
でもSH外来はそうではなくて、定期的に通院してもらい、HIVに感染する可能性が高い人たちがいかに健康的な性生活を送れるかということをずーっと長い時間サポートしよう、というのが目的なのです。症状が出ていない人にも来てもらう、それがいわゆるSTDクリニックとの大きな違いです。
さらに肛門の性感染症というのは症状が出ないことが多いので知らずに感染している人が多いです。日本では先ほど述べたように保険の関係で受けることができない検査ですから、知らないうちに肛門の性感染症にかかっている可能性があります。そういった意味でも、SH外来が皆さんの健康な性生活をサポートする助けになればと考えています。

安価に検査を受け続けられること

症状のない人に定期的に来てもらうのがSH外来なのですけども、特に若者の場合はまだ自分の健康を守るのにお金がかかるという意識がないと思います。痛くなったらしょうがないけど、そうじゃない人が病院に来て数万円払うということはないでしょう。
さらに、さっき言ったように肛門の淋菌、クラミジアの検査への保険が現状では適用されないことがあり、通常の医療では実施できないという問題があります
このようなハードルを乗り越えるために、SH外来は「研究」という形をとって、通常だったら15000~20000円くらいかかる検査を、こちらで研究費を準備して無料にしました。
ただし、お金
かかること意識してもらうために、初回は初診料2,820、二回目以降は再診料730だけはご負担頂きます。

定期的な検査と治療でセクシュアル・ヘルスを維持してもらおうと考えています。
健康を維持するということの最終ゴールはHIVに感染しないというということなのですが、それがいわゆるSTDクリニックとはちょっと違う、SH外来の特徴ですね。

ゆくゆくは、研究でなく一般診療にしていきたいと思っています。
ただ、幾つかの検査は保険適用になっていないので、当面、研究としてやらざるをえないな、というところです。
今ある研究費と、なおかつ次の研究費を取って継続するというのが我々の大きな使命と考えています。

対象年齢は、16歳以上です。
通常、「研究」の場合の対象年齢は20歳以上です。未成年者の場合は親の同意が必要となります。
しかし、HIV感染に関しては本当にリスクが高い人たちって実は10代の若者だろうと思います。その人たちに「親の同意が必要です」なんて言ったら、絶対来ないですよね。
これは当センターの倫理委員会と議論した点ですが、本当にリスクの高い人たちが来やすいように、親の同意なしに本人の同意だけで受けられるようにしようと決まり、16歳以上を対象にすることができました。
ちなみに対象年齢の上限は設けていません。

②実際の診療の流れを教えてください

SH外来で受けられる検査

対象となるのは
・16歳以上であること
・肛門性交をしているゲイ、バイセクシュアルの男性
・日本語を理解できる方
・日本在住者で、定期的に通える方
研究参加に同意して下さった方が対象となります。

SH外来で三ヶ月ごとにルーチンで検査するのは
・HIV(第4世代抗原・抗体検査) ※スクリーニング検査
・梅毒(TPHA定量、RPR定量)
・肛門淋菌・クラミジア(遺伝子診断法)
です。これは初診料、再診料を払っていただくだけで検査を受けられます。
大きな病院にかかる時は紹介状が必要ということが多く、当院のホームページにも紹介状が必要と書いてありますけど、このSH外来に関しては紹介状は必要ないです。紹介状がない場合、特定療養費と言って通常は5400円かかりますが、研究として行なうSH外来に関しては紹介状がなくても5400円は請求されませんので、かなりお得です。

梅毒は、最近東京でも一般の男女で増えています。
肛門淋菌・クラミジアの検査はこの研究の目玉です。残念ながら今の日本では保険適用がないので、実態の把握が全然できておらず、正直言って野放しみたいな感じです。実際、感染していても症状が出やすい尿道と違って無症状の人が多いので、知らずに性行為に及んで感染が広がっている可能性があります。
ACCに通院している患者さんに協力してもらい検査を行ったのですが、肛門のクラミジアに無症状のまま20%ぐらいの人が感染しているという結果になっていて、驚いているところです。

これ以外のSTDを検査したいというご希望があれば、それは自費でお支払いいただくことになりますが、こちらをオプションで検査することができます。
・尿道淋菌、クラミジア
・咽頭淋菌、クラミジア
・A型肝炎
・B型肝炎
・C型肝炎
・アメーバ性腸炎
・HIV-1核酸定量検査
・生活習慣病検査(肝機能、腎機能、脂質、尿酸、血糖、HbA1c)

SH外来の診療は月曜日、木曜日の週2回

月曜と木曜、朝の8時半から15時までの受付です。
初診時は予約はできませんので、直接来院してください。
初診受付で保険証を提示して「SH外来希望です」と言って下さい。カルテと診察券を作ります。SH外来は泌尿器科外来という場所を使って運営していますので、そちらに行っていただき診察に入るという形になります。

初診の際に研究のご紹介をして、同意して下さった方に研究にご参加いただきます。
梅毒とHIVの検査に関しては採血が必要なので、採血室に移動していただきます。
肛門淋菌・クラミジアの検査に関しては、初回は医師が肛門のぬぐい液をとって検査に回します。二回目以降は事前に検査キットをお渡ししますので、ご自分で採取したものを持参していただきます。

診察時間は一枠30分をとっていますが、実質はそこまでかからないと思います。特に再診の場合は肛門検査を事前にやっていただいているので、採血室で少々待つ場合があるかもしれませんが、もっと短くなるでしょう。
検査は三ヶ月ごとに受けていただくので、毎回診察が終わる時に次回の予約を入れていただきます。

検査の結果に関しては受診される方のご希望によって、登録していただいたメールに連絡するか、あるいは再来院していただきお伝えします。

検査で感染していることが分かったら

保健所などの検査場と、SH外来の違いは、治療と直結しているということです。

もしHIVに感染していると分かった場合は、当院はエイズ治療・研究開発センターを抱える専門医療機関ですので、安心してHIVの治療を受けられます。
梅毒に感染していると分かった場合は、
飲み薬を処方します。
クラミジアに感染していると分かった場合も、同じく飲み薬を処方します。
淋菌に感染していると分かった場合は、こちらで30分程度の点滴を受けていただき、一回で治療は終わります。

③SH外来の試みの先に目指しているものは?

先ほども申し上げたように、日本ではPrEPを実現するには、まだハードルが高く実施できません。
だから今は、HIVに感染する可能性が高い人たちの性感染症の検査と治療、その後のフォローアップをしっかり行っていこうと考えています。HIVのリスクとなる感染症の実態を明らかにしていきます。
データを集積していくことで、例えば肛門淋菌・クラミジアがあったらHIV感染のリスクが高い、というような情報を得ることができると思います。そういう情報を提供してていくことでPrEPの実現に近づけていきたいです。

SH外来で研究に参加して、定期的にご自分のセクシャル・ヘルスをきちっと考え続けていける人が、日本でPrEPが可能になった時に最初にその対象者になるだろうと思います。

HIVだけじゃなく、STDの検査も定期的に受けられるSH外来。健康で安心な性生活を続けていくために、自分の体の状態を常に把握していくのは大切なことなのだと実感しました。ご興味を持たれた方は、ぜひ受診を検討してみてください。

■受診方法の詳細はこちらをご覧下さい。 SH外来ホームページ
■お問合せはこちらまで Info_shcacc.ncgm.go.jp

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ABOUTこの記事をかいた人

いたる

LGBTに関する様々な情報、トピック、人を、深く掘り下げたり、体験したり、直接会って話を聞いたりしてきちんと理解し、それを誰もが分かる平易な言葉で広く伝えることが自分の使命と自認している51歳、大分県別府市出身。LGBT関連のバー/飲食店情報を網羅する「jgcm/agcm」プロデューサー。ゲイ雑誌「月刊G-men」元編集長。現在、毎週火曜日に新宿2丁目の「A Day In The Life」(新宿区新宿2-13-16 藤井ビル 203 )にてセクシャリティ・フリーのゲイバー「いたるの部屋」を営業中。 Twitterアカウント @itaru1964