検査の結果…
陽性……?
そう告げられた僕の頭は真っ白になりました。Yさんからの感染だという疑念が確信になってしまった瞬間でした。
治療の説明
そこから検査医の方から治療の説明がありました。
病院のリストを見せられ、行きやすい病院を選ぶように言われました。当時、千葉県に住んでいましたが、千葉市の拠点病院は遠すぎる距離にありました。かといって実家がある埼玉県に引っ越し通うにも、埼玉の拠点病院もかなり遠い。新宿に出て、病院に行くのがもっともよい状況でした。
あとの決めた理由としては検査医が言うにはですが、東京医大病院の場合、性病科や血液内科等の名称ではなく、臨床検査医学科という名前である為、会社や知人に疑われにくいということを説明されました。まぁ、その人が進めるなら、そこでいいや。そう思いました。
『じゃあ、そこでいいですよ。』そう医師に伝えると『わかりました。』と答え、スラスラと紹介状を書き始めました。紹介状が書き終わった時に、
『何か聞いておきたいこととか、ありませんか?』
と尋ねられましたが、特に何も考えれない状況だった為、
『いえ、特に。』
と答えると医師は不思議そうな顔をして
『普通の人は陽性を告げると泣いたりするんだけどね。泣かない人は久し振りだよ、君は……強いのか強がっているんだね。』
と言われ、紹介状をもらいました。
部屋を出た後に
僕は部屋を出て違和感を覚えました。
さっきまで人が出てきた所と違うことに。
そう、ここから出てくるということは陽性であるということなんだなと、今になり身に染みてしまい泣きそうになりましたが、ぐっと堪えました。
しかし、他の人とすれ違うように出来ていない為、他の人には検査結果が分かる状況ではなく、待合室に戻ることが出来ました。
しばらく待っているとYさんが待合室に来ました。
『帰ろっか。』
僕がそう伝えると、Yさんは言葉を発さず、静かに、こくんと頷きました。
Yの告白「僕は自分がHIVだと知っていた。」
エレベーターに乗り、扉が閉まった時、Yさんが小さく
『ごめん』
と僕に言いました。
『何が?』
そう返した時、ドアが開いた為、僕は外に出ました。
『待って!』
振り返った僕の顔に映ったのは今にも泣きだしそうな顔で僕を見つめるYさんでした。
『僕は自分がHIVだと知っていた。』
Yさんはそう言い、今までの思いを話始めました。
『それでも君と付き合いたくて、僕は嘘をついていた。』
『ずっと罪悪感に苛まれていた。』
『悪いことをしているってわかってた。』
『Aさんは元彼で自分から感染した。』
僕は漠然としてしまい、真っ白になってしまいました。
白い画用紙に、乱雑に黒いインクを塗りつぶされ、汚された気分でした。
そんな僕に気付いているのかいまいのかYさんはずっと
『ごめんなさい、本当にごめんなさい。』
と泣きながら僕にしがみつき、謝り続けました。
Yさんがこんな状態なのに、僕が泣くわけにはいかない。そう、思いました。
複雑な心境
『Yさん、大丈夫だから。気を付けなかった自分も悪い、Yさんだけの責任じゃないよ。』
本当は憎んでいました。
けれど、それ以上にYさんと別れたら次の人が犠牲になる、そう思っていましたし、好きな気持ちが消えたわけではありませんでした。
とりあえずなだめることが先決だと思った僕は、幸いなことに設置されていたベンチでYさんが落ち着くまでなだめ、
『家に帰ろう』
そう伝えることが、その時の私が唯一出来ることでした。
画像出典:http://jamaicatakeout.com
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