岩波書店「世界」特集”LGBTブームの光と影”を読んでみた

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20107年4月8日、岩波書店より発売された総合月刊誌「世界」5月号に「<LGBT>ブームの光と影」という特集が掲載された。興味深いタイトルの特集はどんな光と影が記されているのか、早速購入して読んでみたので、その内容をご紹介しよう。

特集 <LGBT>ブームの光と影

ダイバーシティから権利保障へートランプ以降の米国と「LGBTブーム」の日本
清水晶子(東京大学)
生きやすい空気を作るためにー<同性婚議論>のその先へ
上川あや(世田谷区議)×宇佐美翔子・岡田実穂(青森「そらにじ」)×砂川秀樹(文化人類学者)
誰にも身近な問題へー日本における性的少数者の法的トラブルの現在
山下敏雄(弁護士)
教育現場と<多様な性>ー誰も置き去りにしないために
遠藤まめた(活動家)
漂流するLGBT法案
二階堂友紀(朝日新聞)

 

ダイバーシティから権利保障へートランプ以降の米国と「LGBTブーム」の日本
清水晶子(東京大学)

欧米、いわゆる西側諸国の今世紀のセクシュアル・マイノリティの人権運動の流れをまとめ、同じく日本においての運動の流れと、清水氏が懸念する問題点を解説。
アンテナを広く張り様々な事象を分析されているので運動に関する世界の潮流が理解できるのはためになる記事である反面、少々イデオロギー的に偏った主張が前面に出過ぎていて、特に国内の流れに関してはともすれば陰謀論的に捉えているのでは? と勘繰りたくなる部分があるのは否めない。
例えば、渋谷区のパートナーシップ条例成立は宮下公園整備への批判から目を背けさせるためのピンク・ウォッシングだとか、自民党の特命委員会が取りまとめた理解増進法案は権利留保と引き換えに過ぎないとか。そこを是とする人もいれば、それゆえ受け付けないと感じる人も少なくないだろう。
特集の冒頭に、「差別禁止」を明らかにした法整備を勝ち取ることが求めるべきことである、と声高に主張するこの記事を配置することの真意を、読み進めて行くと理解できる興味深い構成であることは確実。

余談ではあるが、東京大学准教授の清水氏はインテリジェンスの塊、私のような凡人には馴染みがなさすぎる横文字単語が多用されていて読み進めるのに少々閉口した。
インターセクショナリティ、ポリティックス、アジェンダ、リソース、プライベート・セクターなど、言葉の正しい意味を調べながら読まねばならないテキストは、読む人を選ぶなあと感じた。

 

生きやすい空気を作るためにー<同性婚議論>のその先へ
上川あや(世田谷区議)×宇佐美翔子・岡田実穂(青森「そらにじ」)×砂川秀樹(文化人類学者)

「○○せねばならない!」という(ご本人が考える)理想像を声高に説く清水氏の記事の次は、実際に自治体に対して働きかけを継続してきた当事者による対談。
上川あや世田谷区議は、自治体を動かすための方法を熟知している政治家の立場から、セクシュアル・マイノリティの存在自体を見ないようにしている自治体幹部職員の認識を如何に変えてきたかという実例。そして同性カップルというコンセプトを一度認めた以上、何らかの手当をせざるをえないという自治体の考え方が語られる。
青森で「そらにじ」というコミュニティ・カフェを運営し、青森レインボーパレードの中心でもある宇佐美翔子氏・岡田実穂氏の同性カップルは、不平等・権利侵害であるという面から同性婚を実現させようと運動している具体例が語られる。また、地方都市におけるセクシュアル・マイノリティが直面する切実な問題も提示される。
対談全体を通じて、自治体に対して働きかけ変化が生まれることから波及していくことへの可能性など、具体的かつ実践的な運動の方法が語られている。理想像以外の有り様を否定するのではなく、試行錯誤してきた面も含めて、地に足がついた現実的な体験談であることがとても興味深いという印象が残った。

 

誰にも身近な問題へー日本における性的少数者の法的トラブルの現在
山下敏雄(弁護士)

2007年にLGBT支援法律家ネットワーク(現在は全国で100名以上のメンバーを有する)を立ち上げた弁護士の山下敏雄氏は、性的少数者にまつわるトラブルの実例を紹介する。
・アウティング
・強盗殺人事件等の刑事事件
・トランスジェンダー含む同性カップルの死亡に伴う法的問題
・外国籍パートナーの在留資格の問題
・親子関係、親権に関する問題
・カップルの関係解消に伴う問題
・家族から排除された当事者の問題
・学校においての対応の問題
・職場でのハラスメントや不当処遇に関して
・トランスジェンダーの不安感につけ込む悪質な業者・クリニックの問題
・性的少数者を罰する地域からの難民問題
など、現在の性的少数者にまつわる法的トラブルが如何に多岐にわたっているかということが実例をベースに端的にまとめられている。

 

教育現場と<多様な性>ー誰も置き去りにしないために
遠藤まめた(活動家)

10代後半よりトランスジェンダー当事者として、セクシュアル・マイノリティの若者支援についての啓発活動を行ってきている遠藤まめた氏は、トランスジェンダーの学生の実例を中心に、若者たちが学校現場で直面している困難を紹介する。
また、学校の授業などに呼ばれ話をした時の体験をベースに、セクシュアル・マイノリティへの知識・関心に対して、先生と生徒との間にある大きなギャップがあることが判明した話は特に興味深い。
遠藤氏が実感している教育現場での最大の問題点は、学校側の理解が足りていないこと。それゆえに生じる配慮不足や、当事者の子供達が自己肯定感を持てなかったり、自殺を考えるまでに追い詰められる例も語られる。
さらに多くの学校で話をしてきたことから学んだ、当事者視点だけでなく語ることの重要性にも言及されている。

制度ができることの重要性はもちろんなのだが、当事者を取り巻く同級生や先生の理解が進むことで大半の困難は解消できるということが伝わるこの記事は、セクシュアル・マイノリティに関して取り組まなければと考える教育現場に携わる人にも大いに参考になるものだと思う。

 

漂流するLGBT法案
二階堂友紀(朝日新聞

特集”<LGBT>ブームの光と影”のラストを飾るのは、まさに2017年4月の今だからこそ読むべき記事と言える。
Letibee LIFEでも「日本にLGBTに関する法律を!その動きの現状と問題って?」でレポートしたように、LGBTに関する法整備の問題は、その経緯や現状が非常に分かりづらくて、きちんと理解している当事者は決して多くない。
朝日新聞の二階堂氏は、この件に関して当初から取材を積み重ねてきたので、誰よりも詳しく、客観的に経緯と現状をレポートしている。
・2015年3月、超党派のLGBT議連が作られたきっかけ
・法整備を目指す細野氏(民進党)と当事者の相談相手になることからと考えた馳氏(自民党)の方向性の違い
・超党派議連ができた当初の自民党内での理解のなさ
・民主党(当時)の「差別解消法案」国会提出の動きを止めるために馳氏が超党派議連での法制化検討を行うと方針転換した経緯
・2015年9月、訪米で「性的少数者の運動=左派」との固定観念が崩れた稲田自民党政調会長(当時)
・以降、稲田氏がLGBTに関する法案を自民党主導で進めようと特命委員会を作っていく経緯
・特命委員会トップの古屋圭司委員長が、LGBT法連合会が目指す「差別禁止法案」の動きと自民党の動きは相容れないと明言したこと
・自民党内に深く根ざしている人権問題に関する懸念事項と、それが生まれた理由
・のちに自民党特命委員会のアドバイザーとなる繁内氏の提案した「理解促進」という考えに自民党が前向きになった理由
・特命委員会が動き始めた以降も自民党内にくすぶる反対派を説得し理解を求めようとする古屋委員長の奮闘
・党内の反発の大きさを前に「自民党内の理解を広げる必要がある」と古屋委員長が考えるようになった経緯
・自民党内の反対論に配慮した公明党が与党合意を優先させる方針に転換したこと
など、緻密な取材でしか知りえない法案を取り巻く状況が、分かりやすくまとめられている。

そして、最後にとても重要なことが記されている。
「議員立法の場合、与野党で法案の一本化が図られなければ成立は難しい」
つまり、当事者が「差別禁止法でなければならない」「せめて差別解消法だ」と主張するような段階ではすでにないのだ、ということがこの記事を読むと理解できるはずだ。
LGBTに関する法案に関して興味を持っている当事者はこの記事は必読である。

イデオロギーに囚われた(とすら思える)声高な主張から始まり、自治体を動かすための具体的な闘い方の実例、当事者が直面している問題を法的な面と教育現場という2つの視点からレポートして、何らかの法律としての制度が必要だという実感を読者に持たせ、最後に客観的な状況を突きつけるという考え抜かれた構成の特集”<LGBT>ブームの光と影”。
興味のある方は、ぜひお近くの書店で手に取ってほしい。

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世界 2017年5月号
本体850円+税
発行:岩波書店

公式サイト
Amazon

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ABOUTこの記事をかいた人

いたる

LGBTに関する様々な情報、トピック、人を、深く掘り下げたり、体験したり、直接会って話を聞いたりしてきちんと理解し、それを誰もが分かる平易な言葉で広く伝えることが自分の使命と自認している51歳、大分県別府市出身。LGBT関連のバー/飲食店情報を網羅する「jgcm/agcm」プロデューサー。ゲイ雑誌「月刊G-men」元編集長。現在、毎週火曜日に新宿2丁目の「A Day In The Life」(新宿区新宿2-13-16 藤井ビル 203 )にてセクシャリティ・フリーのゲイバー「いたるの部屋」を営業中。 Twitterアカウント @itaru1964