ゲイ社会の残酷さを差別された相手にぶつけるのは、いささか乱暴じゃない?
先日、東京MXテレビの『バラいろダンディ』にて、ポケモンGOのポケストップが多発している新宿2丁目に迷い込んでしまったノンケのインタビューが流されたらしい。
私はその番組を見ていないのだが、その画像をキャプチャしたツイートが話題になっていた。
それによると、彼らはこのようなことを言っていた。
「襲われたりしないか怖いです」
「いつでも逃げられるようにスニーカーで出歩くしかない」
「後ろから捕獲されないようにはしてる」
個人的に、最後の発言は小粋だと思う。
で、そのツイートには
「お前らキモメンは女にすら相手にされないから」
という言葉が添えられていた。
微妙な気持ちになった。
ゲイを馬鹿にされることに反する対策は、いちいち抗議の声を上げていくことが一番有効だとは思うが、「うるせえブス!」とざっくりとした返しはいかがなものか(そういう言葉を多用する自分は棚に上げて)。
なにより、イケメンにそういうことを言われたら反論ができないということではないか(確かに反論できなくて興奮しちゃう、と思っている自分は棚に上げて)。
また、ゲイの世界ではルックスによる差別が残酷に横行しているのは皆が知るところだ。
そのゲイ社会の残酷さを差別された相手にぶつけるのは、いささか乱暴ではなかろうか?
私もわりかしそういう残酷で乱暴な方法をとることがあるのだが、キモメンの名で拡散されてしまった一般市民の彼らが多少かわいそうになった。
なにより、一番ひどいのはこういう企画を面白おかしく考えたTV局だ。キモメン、いや、インタビューを受けた彼らも反応したゲイも、テレビ局の掌で踊らされているだけなのではないか。
そんなわけで、私としてはいつもの「うるせえブス!」という言葉を抑えて、多少やさしい気持ちで以下のツイートをしたのである。
その時の私は瀬戸内寂静そっくりだったと思う(もともとそっくり)。
東京MXの番組で、ポケモンGOをやってて2丁目に迷い込んだノンケ男が「襲われないか心配」とかインタビューされてたのを、ホモがいっせいに「お前なんか襲わねえよ! ブス!」と反発してるのだが、なんというか、多様な人間が平和に暮らすのは難しいと端的に感じる
— サムソン高橋 (@samsontakahashi) 2016年8月3日
そしたら、ごく一部の女性から以下のような意見が寄せられたのだ。
「ゲイへの差別発言も、男が言えば『多様な意見』の1つとしてゲイに受け入れてもらえるのか」
「ゲイは女に差別されると怒るけど男に差別されると泣き寝入りする傾向があるって言ってる人がいたけどその通りだな」
私の頭の中にはでっかいクエスチョンマークしか浮かんでなかった。「なぜ?」の嵐だった。
曲解としか思えない。
そして、彼女たちから私は「ミソジニスト」の称号をいただいた。
これにはさすがの私も反論したくなった。
「私はフケ専なので、30代では性的対象になりません!
どちらかといえばイソジニストです!」
調べてみたら、ミソジニーとはそういう意味ではまったくなかった。
ミソジニー=女性蔑視。ミソジニストとは女性蔑視主義者のことだった。
私の頭の中はさらにでっかいクエスチョンマークが浮かび、「なぜ?」の嵐が吹き荒れた。
ゆらゆら帝国と吉沢秋絵が脳内で同時に流れた。
私が憎しみを抱き蔑視しているのは、シャイニーなゲイの方々であり、女性をどうこうとか考えたこともない。
女性というものを意識したのは、母の産道を通り抜けたときが最後だっただろうか。
普段の生活でまったく気に留めたこともないのである。
私は、意識的に発言した侮辱よりも、無意識に発言した侮辱のほうが罪深いと思っている。
自分の中に差別意識があるとしたら、自覚的でありたい。
例えば私の無自覚にあふれ出る美しさが他の方々を無意識に傷つけているというのは、十分ありうる話だ。
そう思って私のことをミソジニスト呼ばわりした方に
「美しさは罪ってこと?」
とたずねてみたが、返答はなかった(当然)。
愛の対義語は無関心だというマザー・テレサの有名な言葉があるが、私も女性に関しては愛がまったくないのかもしれない。
最初にあげたMXテレビのインタビューだが、多くの人はあるインタビューを思い出したのではないだろうか。
10年以上前の話である。首都圏の電車に女性専門車両が設けられた時、
「これで痴漢に遭わなくて安心」と答えた女性たちのインタビューが話題になったのだ。
ご丁寧に、比較的個性的な女性のインタビューの後に「私はどこでもいいです」とかわいらしい女性が答えるというオチがついていた。
例のMXテレビのインタビューはこのひどいインタビューの裏返しであり、差別を糾弾する側が差別を利用してどうするよ、という気持ちが私に多少あったのだ。
MXのホモフォビアインタビューはもう忘れられたようだが、その10年前の女性専門車両インタビューは笑いものやネタ扱いとして、未だに引用され続けている。
おそらく女性への差別や蔑視は、ゲイ差別よりもっと根っこが深いのだ。
やっとわかった。ポケモンGOで新宿2丁目に行ったノンケインタビュー画像になんか違和感あるなーって感じてたの、男の方には「僕はゲイにアナル掘られてもいいです」ってイケメン(二丁目的な意味で)に言わせてる画像がなくてオチてないからだ pic.twitter.com/N8ZHxB91Mf
— さちゃ (@searcher_ep) 2016年8月7日
BLも政治的に正しくあらねばならぬプレッシャーがかけられている
私を「ミソジニー」と断定した方は、多くがBLマンガのファンの方々だった。
そこで私は、2ちゃんねるの同性愛板に巣食っている住人を思い出した。
彼らはいわゆる腐女子に対して非常に態度が厳しい。
それらしいふるまいを察知されると、乱暴に女性器の名で罵倒されるのだ。
私もフケ専サウナでのハッテン話をカキコしたのに女性器で呼ばれて、非常に不本意な思いをしたことがある。
彼らこそはミソジニストに間違いないだろう。
この夏にアニメ化されたBL作品に『腐男子高校生活』というマンガがあるのだが、BL愛好家だが自分がゲイだと思われるのは嫌悪するノンケ男子が主人公のこの作品が、一部で「ゲイ差別ではないか」と物議を醸した事件があった。
私はこの件に関してはBLとゲイはほとんど別個のものと考えてるから「別にどうでもいいんじゃね?」と思ったのだが、BLもLGBTの文脈的に、政治的に正しくあらねばならないプレッシャーがかけられているのである。
それに加えてゲイから攻撃されるとなれば、一部の方々が先鋭化してしまうのは無理もないかもしれない。
なんだか、昨今の世界情勢や政治みたいだ。
女優への人種差別・女性差別・ルックス差別を先導した右翼のゲイ
とりとめのない話が続くが、先日、ちょっと気になる記事を見た。
映画評論家の町山智浩がトランプの記事を週刊文春に書いていたが、そこで触れられていたのがトランプ支持の右翼のゲイについて。
『ゴーストバスターズ』がキャストを女性に替えてリブート版として新作になったが、この映画がアンチ・フェミニスト(これもミソジニストと言ってよいのだろうか)の格好のターゲットになっているのである。
記事ではこれを、メニニズムと言っている。フェミニズムの反対で、「フェミニズムによって男たちが逆差別されている」という人たちがやっている女性嫌悪運動で、主にネットで盛り上がっているそうだ。
既視感のある話だ。
リブート版『ゴーストバスターズ』主演の黒人女性、レスリー・ジョーンズにはツイッターで人種差別・女性差別・ルックス差別の攻撃が殺到したそうだ。
■レスリー・ジョーンズが受けたネット上での差別攻撃に関する記事
女優が受けたヒドすぎる黒人差別。仕事仲間がサポート
この攻撃を扇動したのが、その右翼のゲイ、マイロ・ヤノプルスである。
彼はどういう人物か。
愛想がよく博識で頭が切れて弁が立つゲイで、ルックスはかなりのイケメン。
匿名掲示板を利用してネット右翼を煽り立てるイギリス人の自称ジャーナリスト。
女性差別主義者。ルックス差別主義者。イケメンのゲイだから痛くもかゆくもない。
ゲイは昔のようにクローゼットであるべきという主張もしている。
彼のことを調べていて見つけた数少ない記事には、このようなことが書かれていた。
「アメリカの支配階級のエリートも、その支配を正当化するものとして
浅はかな『ダイバーシティ』しか提示できていない現状がある。
とある大学の講演では
『私はゲイの黒人で大学を生き延びてきましたが、来年からはゴールドマンサックスで働きます!』
と結ばれて、まわりの皆が爆笑していた。
マイロのファンは経済的に見捨てられた若者であり、マイロはそこを巧みに扇動する。
『リベラルの言う多様性や反差別主義など、エリートどもの道徳の押し付けでしかない』
かつてファシズムが成功した理由は、かっこよく、慣習に逆らっており、新しいものだったからだ。
マイロはこれを誰よりも理解している」
LGBT運動のまっとうで道徳的な活動も、欺瞞にしか思えない層がいる、おそらくLGBT当事者にも。
私はマイロ・ヤノプルスみたいな人間ではない、とは思っているが、ひょっとしたらそういう要素はまったくないわけではないのかもしれない。
ネットを見回したら、ちっちゃなマイロ・ヤノプルスみたいなゲイはたくさんいる。
複雑なのが、彼らの多くも現実社会では被差別者だということだ。
そして彼らの攻撃で差別された人間も攻撃的にならざるを得ない。
冒頭のMXインタビューの反応にも、マイロ・ヤノプルスの要素が隠れてはいないだろうか。
先の参院選や都知事選で思ったが、今の日本では左右が極端になりすぎ、中間層は置いてけぼりになってしまいやすい。
そしてそれは日本だけの問題ではなく、世界全体の傾向だろう。
33万人のフォロワーがいたというマイロ・ヤノプルスのツイッターアカウントは、レスリー・ジョーンズへの嫌がらせ行為によって、永久凍結処分を受けたという。
しかしそれでこの問題が終わったわけではないのである。
■参考サイト
町山智浩 共和党大会とオルタナ右翼とゴーストバスターズ出演者ヘイトを語る
マイロ・ヤノプルスとは何者なのか(nymag.comから転載)