美の創造と、同性への愛欲にもがき苦しむゲイの天才クリーエーター。映画「サンローラン」公開中

San Lauren

映画「サンローラン」、ついに日本で公開!

ファッションの世界に燦然と輝く「YSL」の金字塔。女性のモードに生涯を捧げた天才クリエーター、イヴ・サンローランの壮絶な「ある時代」を、大胆な映像と演出で見せる映画「サンローラン」がいよいよ公開されました。

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本作は、美を追求する天才クリエーターの苦悩と同時に、男との精神的&肉体的な繋がりを貪欲なまでに希求するゲイの苦悩を描いた作品としても秀逸な仕上がりです。

「ある10年間」にフォーカスした3部構成

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昨年日本で公開されたジャリル・レスペール監督による映画「イヴ・サンローラン」は、イヴ・サン=ローラン財団の公認を得たゆえに伝記映画として史実に忠実に描かれていました。

しかし、ベルトラン・ボネロ監督による本作は伝記映画ではなく、もっと自由にかつ大胆にサンローランという天才の「ある時代」に焦点を絞り、彼が苦しみのたうちまわった地獄のような日々とそこから産み出された「美」の素晴らしさとのギャップを、激しく、そして鮮やかに描きあげます

本作で描かれるのは、サンローランがもっとも精力的で、かつもっとも破壊的だったと評されている1960年代後半〜1976年までの10年間。この10年を3部に分け、それぞれに「昼」「夜」「煉獄」というサブタイトルがつけられています。

破滅的な生き方をせざるをえなかった美しき男

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アルジェリア独立戦争による兵役で繊細な精神を破壊されかけたサンローラン、そしてその後の美を産み出し続ける果てしない苦悩の人生を表現するためか、本作に登場するサンローランは常に何かを服用しています。それは煙草であり、酒であり、精神を高揚させる薬であり、精神を麻痺させるドラッグでもあります。ギャスパー・ウリエル演じるサンローランは、画面に登場するたびに必ずといっていいほどの確率で、その何かを服用し続けています。

煙草→酒→薬→酒→煙草→ドラッグ……と延々繰り返されて行く事で、サンローランが精神的に追い込まれ続けている状況が、くっきりと伝わって来ます。様々な物に追い込まれ続けて廃人寸前まで行ってしまったサンローランですが、2008年に亡くなるまで72歳の人生を生き抜いたのですから、その生命力はかなりのものだと思います。

美を産み出す男は粗野な肉欲の虜囚でもあった

女性を美しくすることに人生を捧げたサンローランにとって、顧客もそして仕事で関わるのも女性ばかりなのは当然のこと。しかし逆にプライベートでは、繊細で美しき男である自分とはタイプの異なる「雄」を求め続けます。

サンローランがクリスチャン・ディオールの後継者として華々しくデビューした21歳の頃に知り合った男性ピエール・ベルジュ。彼とはその後ビジネス・パートナーとしても人生を共にします。このピエール氏は長身で繊細なサンローランとは真逆の骨太ガッチビなタイプ。年を重ねてからの2人のポートレートを見ると、神経質そうなサンローランの横に立つピエール氏の見事なハゲ親父っぷりが際立っています。
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ベルジュと共に暮らしながらも、サンローランは夜な夜な屋外の公園で労働者階級の粗野な男たちを求め、その場限りの肉欲にはまっていきます。

そして本作でもっともフォーカスをあてて描かれるのが、男臭くマッチョで退廃的な雰囲気を纏ったセクシーな愛人ジャック・ド・バシャールとの関係です。ナイトクラブで運命的に出会ったジャックは、サンローランがそれまで知らなかった男同士の性愛の深淵を手ほどきしていきます。ジャックとの爛れた肉欲とドラッグの日々はサンローランの肉体も精神も蝕んで行くのですが、同時にその日々はあまりにも甘美であり、サンローランはそこから抜け出せなくなって行きます。
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R15の範囲内で映像化されたその肉欲の日々の断片もかなり激しいものではありますが、さらにセリフで補われている状況を加えると、ぬるいAVなど裸足で逃げ出すような相当どぎつくみだらで破廉恥な行為をしていたのだろうと想像できます。

繊細で美しき青年がはまるドス黒くえぐい肉欲の日々、そしてそこを通過したがゆえに産み出された究極の美、1976年秋冬コレクション「バレエ・リュス」。本作のクライマックスを飾る、そのコレクションのショーが鮮やかすぎるだけに、そこまでの煉獄の日々とのギャップの深さに驚かされます。

美を産み出す行為とはなんと難儀なものでしょうか。

そして、なんと業の深いものなのでしょうか。

耽美の権化ヘルムート・バーガーが見せる老境

作中で終盤に登場する老いたサンローランを、ヘルムート・バーガーが演じます。

あの名匠ルキノ・ヴィスコンティ監督の寵愛を公私共に受け続けたワイルドで美しき男がスクリーンに登場した瞬間に、くたびれ果てた老境の姿を堂々と晒す様に感慨を覚える40代以上の皆さんも少なくないでしょう。
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しかもヴィスコンティ監督と彼の代表作ともいえる「地獄に堕ちた勇者ども」を一人DVDで見ながら涙を流す場面は、サンローランの人生と、それを演じるヘルムートバーガー自身の人生がオーバーラップして、作品全体に深い余韻をもたらせています。

映画のリズムに身を委ねることが楽しむ秘訣

サンローランの生涯の一部分にフォーカスを宛て切り取って見せる演出と構成は、かなり激しく、大胆です。独特のリズム感とテンポで積み重ねられて行く映像に最初は戸惑いを覚えるかもしれません。

しかし、それに身を委ねてしまうと、「美」に生涯を捧げ、同性との「愛欲」に身を焦がし続けた男の、苦しく凄まじい生き方を実感できるでしょう。

ファッションに興味のある方はもちろん、肉欲の業から逃れられない方も必ずや何かを感じることのできる作品です。


『Saint Laurent/サンローラン』
監督:ベルトラン・ボネロ『メゾン ある娼館の記憶』
出演:ギャスパー・ウリエル『ハンニバル・ライジング』、ジェレミー・レニエ『しあわせの雨傘』、ルイ・ガレル『ドリーマーズ』、
レア・セドゥ『アデル、ブルーは熱い色』、ヘルムート・バーガー『ルートヴィヒ』
2014年/フランス/151分 配給:GAGA
TOHO シネマズシャンテほか 全国順次ロードショー

「サンローラン」映画オリジナル予告編:https://www.youtube.com/watch?v=sJRV8cFT-xo

© 2014 MANDARIN CINEMA – EUROPACORP – ORANGE STUDIO – ARTE FRANCE CINEMA – SCOPE PICTURES / CAROLE BETHUE

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いたる

LGBTに関する様々な情報、トピック、人を、深く掘り下げたり、体験したり、直接会って話を聞いたりしてきちんと理解し、それを誰もが分かる平易な言葉で広く伝えることが自分の使命と自認している51歳、大分県別府市出身。LGBT関連のバー/飲食店情報を網羅する「jgcm/agcm」プロデューサー。ゲイ雑誌「月刊G-men」元編集長。現在、毎週火曜日に新宿2丁目の「A Day In The Life」(新宿区新宿2-13-16 藤井ビル 203 )にてセクシャリティ・フリーのゲイバー「いたるの部屋」を営業中。 Twitterアカウント @itaru1964