本当の自分を生きたトランスジェンダー女性の物語「ダイ・ビューティフル」

「レインボーリール東京〜第26回東京国際レズビアン&ゲイ映画祭」では予告編が上映され、一部で話題を呼んでいたフィリピン映画「ダイ・ビューティフル」の公開が、7月22日(土)よりスタートしました。
予告編ではコメディ色が強調されていますが、本編はもっとシリアスに「なりたい自分」の人生を生きたトランスジェンダー女性の短い生涯が描き出されています。
第29回東京国際映画祭コンペティション部門で主演男優賞と観客賞を受賞して、上映後はスタンディング・オベーションに包まれたというこの映画の魅力をご紹介しましょう。

まずは、予告編からご覧ください。

ダイ・ビューティフル

無理解な周囲に傷つけられながらも、なりたい自分を選んだ女性。
娘として、母として、友として生きた人物の短い生涯を描く一代記。

 

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■こんな人にオススメしたい

・なりたい自分になれなくて、本当の人生を送れていないと感じている人。
・違うセクシュアリティの人が考えていることを理解するきっかけが欲しい人。
・人生でもっとも大切なのは、心から信頼できる友人を得ることだと確信している人。

■物語

子供の頃から着飾ってミスコンごっこに楽しそうに興じるパトリック。
しかし、保守的で厳格な父はそんなパトリックを厳しく叱責する。
年を経て、ミス・ゲイ・フィリピーナに選ばれたパトリック改めトリシャ。
ところがトリシャは受賞直後に倒れ、そのまま亡くなってしまった。
子供の頃からの親友で共に生きてきたバーブは、生前のトリシャの希望を叶えるため、葬儀期間中に日替わりでセレブ・メイクを施すことになる。
パトリックはいかにしてトリシャになったのか。
短くも美しく生きたトリシャの人生に様々なアングルからフォーカスを当てて、彼女の人生が描かれていく。

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■解説

近年、世界の映画祭で高い評価を受ける作品が続々と誕生し、注目を集めているフィリピン映画。
今年のレインボーリール東京でも、レズビアン女性と親友の恋を描く「たぶん明日」や、台湾原住民のゲイとストレートのフィリピン人男性の友情ドラマ「迷い子たちの物語」が上映され話題となった。
この「ダイ・ビューティフル」は2016年の第29回東京国際映画祭コンペティション部門で、最優秀男優賞(パオロ・バレステロス)と観客賞を受賞。
ゲイであることをカミングアウトしているジュン・ロブレス・ラナ監督は、孤独なゲイの老人と愛犬の交流を描いた「ブワカウ」、スペインの田舎町で初めて理髪師になった女性を描く「ある理髪師の物語」が東京国際映画祭で上映されている。
主人公トリシャを演じるパオロ・バレステロスは、俳優であり司会者としても活躍するフィリピンの人気タレントだが、それ以上に彼のインスタグラムで公開されている、世界のセレブ女性のものまねメイクの巧さで知名度が高い。
映画の中でも、彼のセレブ・タレントなりきりメイクはたっぷり披露されている。

Happy New Years from MARUYAH KERI! 🙈😁😘👍🏼❤ #makeupTransformation #transformLangNangTransform #MariahCarey

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作中でも描かれているが、キリスト教の影響が強いフィリピンでは、セクシュアル・マイノリティに対する偏見やあからさまな差別は少なくない。
そんな状況でも、パオロ・バレステロスは今作がフィリピンで上映された後に、ゲイであることをカミングアウトし、ファンや映画界から応援の声が多く上がったという。

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■注目点

かなりコメディ色の強い予告編ですが、本編はもっとシリアスな面が強調されていることに最初は戸惑いを覚えるかもしれません。
ミスコン女王となった直後に急死したトリシャの人生の様々な断片をぶちまけて、パズルのピースのように一つずつはめ込んでいくかのような構成にも、最初は戸惑いを覚えるかもしれません。
それぞれ短いエピソードが、一見、時制もバラバラに描かれていくのですから混乱して当然です。
でも、映画が進んでいくうちに、パズルのピースがどんどん埋まって行き、トリシャの人生が浮かび上がってくる快感のようなものを覚えてきました。
そして、一見、時制がバラバラに描かれていたことには、大きな秘密が隠されていたことが最終的に明らかになります。
そのエピソードに関わった人々の、どうしようもない深い悲しみと、あまりにも強い愛情が一挙に押し寄せてきて、文字通り胸を締め付けるような切なさを実感できます。

マイノリティを決して許容しない厳格な父親の無理解、高校の体育会系男子たちの非情な残酷さ、彼女の愛情を裏切っていく恋人など、男たちに心身ともに深く傷つけられていくトリシャ。
しかし、すべてのピースがはまったトリシャの人生は、決して暗く悲惨ではなく、美しく着飾ったトリシャそのものの輝きに満ちています。
なりたい自分の生き方を選び取ったトリシャの周りには、深い愛でつながった人たちの絆が生まれていたからです。

お葬式を見ると、その人がどう生きてきたのかが見えてくると言われています。
日替わりのセレブ・メイクで華やかに彩られたトリシャのお葬式から、あなたは何を感じるでしょうか。

秋に向けて、全国で順次公開されていく「ダイ・ビューティフル」。
是非、お近くの劇場でご覧になってください。

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『ダイ・ビューティフル』
【原題】Die Beautiful
監督・脚本・原案:ジュン・ロブレス・ラナ
製作総指揮:リリィ・モンテベルデ、ロッセル・モンテベルデ
出演:パオロ・バレステロス、クリスチャン・バブレス、ジョエル・トーレ ほか
2016|フィリピン|120 分|英語、タガログ語
配給:ココロヲ・動かす・映画社◯
宣伝:太秦株式会社
シネマカリテ新宿ほか全国順次ロードショー

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ABOUTこの記事をかいた人

いたる

LGBTに関する様々な情報、トピック、人を、深く掘り下げたり、体験したり、直接会って話を聞いたりしてきちんと理解し、それを誰もが分かる平易な言葉で広く伝えることが自分の使命と自認している51歳、大分県別府市出身。LGBT関連のバー/飲食店情報を網羅する「jgcm/agcm」プロデューサー。ゲイ雑誌「月刊G-men」元編集長。現在、毎週火曜日に新宿2丁目の「A Day In The Life」(新宿区新宿2-13-16 藤井ビル 203 )にてセクシャリティ・フリーのゲイバー「いたるの部屋」を営業中。 Twitterアカウント @itaru1964