新・老後どうする? 年収300万未満の人生サヴァイヴ術 001

過酷な残業を重ねても増えない収入、シングルで生きる老後像が思い描けない、パートナーがいても老後の安心感など見えてこない、知らん顔などできない親や家族の問題も降りかかってくる……。
「自分の人生、これから先どうなっていくのかなぁ?」
そんな漠然とした不安、感じたことありますよね。

セクシュアル・マイノリティ当事者が抱える不安を少しでも解消するべく、決してキラキラはしていないけど地に足つけた活動で学んできた偏屈者ライター永易至文が語り下ろす生活密着コラム。
第一回は「永易至文がどんな活動をしてきたのか」を語ります。

●3足のわらじを履くゲイライター

いたる(以下:I)ひー、ふー、ひーっ、やっと着いた。エレベータもない古ビルの4階は50歳超えたらキツいわ。永易さん、ちょっと、いるの?

永易(以下:N)あら、いたるさん。言うてくれたらこっちから出かけたのに。どうしたの、G-men連載でお世話になって以来のお久しぶり。もう10年になるかしら。

I:すっとぼけてんじゃねえよっ! おととい俺が火曜日にやってるバー「いたるの部屋」に飲みに来て、さんざん毒吐きまくって帰ってったじゃねえか。

N:あら、そうだったけ?(遠い目)

I:この調子じゃ、そこでしゃべったことも全部忘れてるね、 あんた。Letibee lifeで連載コーナー作ろうってことになって、きょうがその打ち合わせよ。

N:いつのまにそんな話が。でも、Letibeeといえば炎上させてナンボが身上のサイト。誠実な私にそんな記事は書けないわ。

I:失礼な! そんなの狙ってないわ。炎上でもすれば、俺の書く記事ももっとPV数増えてるってぇの。それはともかく、あんたもゲイ物書き業としてはキャリアだけは無駄に長いじゃない?

N:当年とって41だもんね。

I:51歳だろ。

N:だから10年(とおねん)取ってますやん。

I:そういう古典落語みたいなこと言って落ちぶれていった物書き、いっぱいいるからな。で、長いなりにずっとやってきたテーマが「ゲイの老後」、いまなら広げて「LGBTの老後」ってことでしょ。あの「火事」とかいう雑誌出してたの、いつだっけ。

N:『にじ』でしょ(怒)。さすがぼけ方も炎上狙いね。でも、2002年、いまから15年もまえだわ。そのころから同性カップルで公営住宅に入れるかとか、公正証書を作ってみるとか、銀行や保険会社で聞いてみましたとか、暮らしや老後に焦点を当てて、事実を取材した記事を入れてたのよね。いまならファクトチェックの鑑よ。それに私、誰もがカラフルに輝く街へみたいな、気分だけの歯が浮くポエム記事とか、あなたもきっと誰かを支えられるみたいな、いい人もどきの記事、嫌いなの。人のことより自分の心配せえ、って。

永易氏がかつて出版していた雑誌「にじ」 画像引用元 https://yomidr.yomiuri.co.jp/column/nijiirohyakuwa/

永易氏がかつて出版していた雑誌「にじ」 画像引用元 https://yomidr.yomiuri.co.jp/column/nijiirohyakuwa/

I:なんか毒あるわね。

N:あとは40代を迎える当事者のライフストーリーとか、身近で等身大な存在としてのHIV陽性者や性感染症の情報とか。行政は今年ゲイのHIV対策にいくら予算を使うのかなんて、厚労省と東京都を聞いて回ったルポも思い出深いわ。あいだになぜか「鯵を三枚に下ろす」とか生活情報が入ってて、「同性愛者の暮しの手帖」って言われた。足掛け3年、8号出したけど、いまでも引っ越しのたびに捨てずに持ってるという人がいるらしいの。

I:でも、あまりに売れないんで休刊して、そのあとG-menでコラム連載とかやったわけだ。

N それだけは言わないで! G-menでは、初めて会社を辞める人のための社会保険と税金とか、親の介護入門とか。そしてあなたと二人掛け合い漫才風コラム「老後、どうする?」。台湾マッチョがかわいい西門町ウハウハツアーとかの記事の合間に、嫌がらせのように入れてたわね。

I:合間にちょこちょこ本も出版。

N:取材で溜まった知識をもとに、同性カップルを守る方法になにがあるのか、法律もなにもない日本で、結婚式からお葬式、入院時や保険、相続、お墓まで実態を調べまくったのが『同性パートナー生活読本』(2009年)。そのあとFP(フィナンシャルプランナー)という資格の勉強してみたら、へえ、世の中の制度ってこうなってたんだ、という発見がわんさかあったのよ。でも、テキストはみんな「標準家族」仕様だから、おひとりさまだったり法律に規定のない同性ふたりだったり、HIVみたいに障害者手帳あったりトランスの人とかどうなるんだろ、と思って、そこで深掘りして調べ直したことを2010年から新宿二丁目のコミュニティセンターaktaで「同性愛者のライフプランニング研究会」ってぶち上げて話してみたら、老後情報がないもんだからけっこう人が来たのよね。

I:ほう。

N:そこで語ったことをまとめたのが『にじ色ライフプランニング入門』(2012年)。そして、研究会にもコアメンバーが集まってきたから、セクマイの老後問題を腰据えてやるかぁってことで、NPO法人「パープル・ハンズ」を立ち上げたのね。パープル(紫)とかラベンダーって、本来、由緒正しいセクマイのシンボルカラーよ。インフレ気味のレインボーとか虹色とかって名前はつけたくなかったのね。

I:いちいち毒のある人だなぁ。

N:あと、現代社会は自己決定が決め手、それを書面にしておくことが大事じゃん、ということが見えてきて、私でも取れる法律家ということで、行政書士という国家資格をとって、事務所も開いたのが同じ2013年。弁護士と違って裁判とかはできないけど、書面作るとか身の回りの法律関係の相談とかは小回りが利いていいかもよ。大きな声で言いたくないけど、料金も行政書士のほうが安めだし。いまは、ライターと、行政書士と、NPO法人事務局の、3足のわらじで、セクシュアル・マイノリティの暮らしと老後の情報センターやサポート機関として活動模索中ってとこかしら。あいかわらず低空飛行だけど。

●地味で非キラ系な仕事はどこまで届く?

I:なるほど、聞いてきて、あなたは昔からやってることが変わらないわねぇ。

N:それはたぶん褒め言葉じゃないですよね。続けてはきても、このLGBTブームのご時世なのに、パッと花咲いた気配もないし。

I:まあ、その辛気臭いことをずっと続けていること(だけ)はご立派よ、キラキラも狙わずに。でも、そこがゲイ、セクシュアル・マイノリティのリアルなわけでしょ?

N:暮らしや老後の話をしようというわけだから、あえてキラキラさせないようにしてるんでしょうね。キラキラってしょせんイミテーションだし、キラキラばかりしてたら途中で息切れしちゃう。セクシュアル・マイノリティはやはりノンケに対してコンプレックスがあるのか、キラキラして見せて跳ね返さなくちゃと思ってて、思えば思うほど空回りして、それで命縮める短命なゲイって多くないかって勝手に思ってるの。私は長生きしたいし、これからの時代の変化も見届けたい、そのためにも80、できれば90歳まで生きたいと思ってて、そのためにはどうしたらいいか。たとえ低空飛行でも、まずは息切れせず、落ちずに生きながらえることを考えてる。

I:あなたが15年まえ、『にじ』を出してたころと比べると、世間のバブル感もどんどんなくなってきて、みんなつましい生活でどうやっていくかを真剣に考えてるので、その点では嫌な時代だけど、逆にあなたにこれから波が来るかもね。

N:そう言われ続けて15年だけど、私に波が来たとこ見たことある?

I:勘違いしている人には気づかれないけど、あなたの言葉や仕事はよりリアリティをもってみんなに受け止められてるんじゃないかしら。

N:そうだったら書き手の一人としては嬉しいけど。PV数稼ぎの読み捨て記事とか、ブームに乗ってその場かぎりの関心を示して終わるんじゃなくて、みなさんが身で読む、「身読(しんどく)」してくれる記事が書ければ本望だわ。どっかのさ、「◯◯への反応を集めてみました」ってツイッターの切り貼りで一丁あがりの記事とかラクよね~~。

I:失っ礼だな、それ俺の記事のことかっ! 意見のバランス取りから背後に忍ばせた俺の主張まで、「集」めて「編」む編集の技のキレがキミにはわからんかね!

N:ウソウソ、わかってますとも。

I:ただ、地味な非キラの仕事も、あなたの手の届く範囲内で細々届けるだけでなく、必要な人には必要なんだからもう少し広げたいと、Letibee LIFEというメディアにかかわっているものとしては思ったわけ。メディアは幕内弁当。メインにサワラの西京焼きがあれば、そばに生姜の甘酢漬けや大豆とヒジキの煮物がないと、サマになんないでしょ。いろいろ揃えたいのよ。

N:わたしゃヒジキかよ! たしかにLGBTブームに乗り切れてないけど、いまの人って検索ワードをいろいろ思いついて検索することが下手だっていうし。

I:逆よ。あなたが検索に乗りやすい、みんなが関心をもっているような言葉をちりばめた発信をしないからよ。

N:拙著の『二人で最後まで安心して暮らすための本(2015年)もさ、同性カップルのライフプラン指南本の決定版だと勝手に自負してんだけど、タイトルにドウセイコンとか入れてないのよ。で、みんなアマゾンとかで「同性婚」で検索するから、見事に引っかからないのよ。同性婚で浮かれてる場合じゃないってへんな運動家意識があると、こういうところでヘマするのかしら。1500刷って2年近いのに重版かからないのは、日本に続いているカップルがいないからって自分を慰めていたんだけど……。

I:そういう運動家の矜持? そんなものにこだわっていたら、一部の昔からの読者の人は知ってはくれても、いまの人はだれもついてこないわよ。そうでなくたってあなたは偏屈に見えて、取っ付き悪い人なの。偏屈に見える自分というのをわかったうえで情報出していかないと。

N:私、偏屈に見られることを嬉しがってるところがあるのかねえ。

I:あるでしょ! 昔の運動家あがりって、ホントそう。もっとかろやかで意識高いNPO活動家を演出しなさい!

永易至文の著作3冊

永易至文の著作3冊

●キーワードは年収300万円以下?

I:この連載では、あなたがやってきたような同性パートナーシップの現実的な保証とか、老後について、偏屈にならずに、わかりやすく伝えていきたいのよねえ。

N:その偏屈という言葉は気になるけど、私も気分だけキラキラした話じゃなくて、根拠や裏付け、法制度の正確な情報を伝えていきたい。こういう話って、みんなきちんと調べないわりに、なんとかさんはどうだったとか、こんなひどい目にあったとか、噂や個人的経験ばかり語られるじゃない。でもそれって制度を正確に理解して使いこなさなかっただけかもしれないのよね。ちゃんとアナリストが見立てを示すような話をしたいのよ。どうすればいいんだ? そう、ゲイの森永卓郎とか狙えばいいの?

I:やっぱり偏屈・オタク路線で行く気? 

N:じゃ、二丁目の荻原博子でいいわ。

I:どっちにしても古いけどね。テーマを決めましょう。森永卓郎さんっていえば、年収300万で楽しく暮らすよね。一部のキラキラ系はともかく、年収300万前後で収入も伸びず、アラフォーで、老後に不安を抱いている人は、セクシュアル・マイノリティ当事者の中では少なくないと思う。パレード前後ということもあって、ネットにはLGBTがらみで景気のいい話、「前向き」な話はあふれてるけど、そういうのをフェイスブックで見ては「ホンマかいな?」と思ってる人も少なくないんじゃないかな。俺だってフリーランスとして不安だしね。そういう人が、ひとり暮らしでも、相方と二人でも、あるいはHIVやうつを病んでいても、生まれたときの性を変えて生きていても、なんとか落ちずに生き抜くための情報をあなたに話してもらいたいのよ。

N:タイトルはどうするの?

I:そうね、G-menのときのタイトル使って、「新・老後どうする~年収300万未満の人生サヴァイヴ術」でどう。これはにじ色の夢を語る連載ではなくて、リアルな情報をシェアする連載よ。これは話題になるよ!

N:やっぱり炎上狙いなのね。

I:四の五の言わずに、いままでしゃべってきたこと、とっとと原稿にまとめな!

N:へーい。

ということで偏屈者ライターの自己紹介でした。次回からは、当事者のみなさんの生活にリアルに役にたつ情報を、毎回1テーマで語り下ろしてまいります。ご期待ください。

■東京レインボーウィーク2017でイベント開催!
NPO法人パープル・ハンズでは、5月3日、東京・中野の公共施設で講演会と活動報告会を開催します。長く活動にかかわるミドル世代からの貴重な講演と交流の機会に、ぜひお出かけください。
※当日参加も可能ですが、なるべく事前お申し込みをお願いします。

<パープル・ハンズ講演会 &活動報告>
90年代ゲイブームから10年代LGBTブームへ
札幌・台湾・東京、30年間考えてきたこと、そして未来へ願うこと
講士:鈴木賢(ドメスティックパートナー札幌代表、明治大学教授)

日時:5月3日(水・祝)18:00〜20:30
会場:中野区産業振興センター大会議室(中野区中野2丁目13−14)
ご予約はこちら
NPO法人パープルハンズ

https://twitter.com/Tokyo_R_Pride/status/849819079070371840

◉東京レインボーウィーク2017期間中(04.28〜05.07)は毎日新記事更新中!
04.28公開 東京レインボープライド2017を3倍楽しむ直前ガイド
04.29公開 【Netflix】GWにイッキ見したい秀作LGBT映画
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ABOUTこの記事をかいた人

永易 至文

永易至文(ながやす・しぶん) 1966年愛媛県生まれ。90年代にいわゆるゲイリブサークルにかかわりゲイである自分を受容。出版社を経て2002年からフリーランスライター/編集者。2013年からNPO法人パープル・ハンズ事務局長、行政書士(東中野さくら行政書士事務所)。 NPO法人パープル・ハンズ http://purple-hands.net