台湾の婚姻平權(婚姻平等の権利)を巡る動きをご紹介する【台湾:婚姻平權を追う】。5月24日、台湾で「同性同士の婚姻」に関する憲法解釈の審議結果が公表されました。中華民国憲法を司る大法官たちの出した結論は「(同性同士の婚姻が認められていない)現行の法制度は違憲」。期限付きでの法整備を関連機関に求める内容となりました。アジアの歴史上においても重要な意味を持つ台湾の決断は、これからどのような変化をもたらすのでしょうか。
2年以内に法整備、未完成の場合も婚姻登録が可能に。
今回の憲法解釈は、台湾の社会活動家・祁家威氏と台北市政府の要求に応える形で3月24日に開庭された「憲法法庭」での審議結果として発表されたもの。司法院より公表された憲法解釈文「釋字第748號」によると、同性カップルに婚姻の権利を認めないことは、中華民國憲法に定められている「婚姻の自由」と「平等権」に違反するものであり、「立法上の重大な欠陥である」と述べられています。
今回の解釈文の中では法整備の具体的な期限が定められ、「公表日(2017年5月24日)より2年以内」に同性カップルの婚姻制度を法的に保障することが要求されました。さらに、2年以内に法制度が完成しなかった場合についても言及されており、「2人以上の保障人があれば、公的機関は同性カップルの婚姻登録を受け付けること」とされています。
現行の法制度にメスを入れることで、同性カップルの権利を認めることが一番望ましいとしつつ、それが叶わなかった場合でも同性カップルの婚姻が認められる形に。結果の如何にかかわらず、最長でもあと2年で、台湾は同性婚を実現した国の仲間入りをすることが確実となりました。
同性婚反対派の意見にも回答した大法官たち。
LGBTに関する理解が進んでいると言われている台湾でも根強く聞かれる「同性婚反対」の声。解釈文には、反対派の意見に対する大法官としての見解も示されており、この話題について社会全体での正確な理解をさらに広げていきたいという姿勢も見ることができます。
按相同性別二人為經營共同生活之目的,成立具有親密性及排他性之永久結合關係,既不影響不同性別二人適用婚姻章,亦未改變既有異性婚姻所建構之社會秩序;且相同性別二人之婚姻自由,經法律正式承認後,更可與異性婚姻共同成為穩定社會之磐石。
(中略)
婚姻章並未規定異性二人結婚須以具有生育能力為要件;亦未規定結婚後不能生育或未生育為婚姻無效(中略)。相同性別二人間不能自然生育子女之事實,與不同性別二人間客觀上不能生育或主觀上不為生育之結果相同。故以不能繁衍後代為由,未使相同性別二人得以結婚,顯非合理之差別待遇。
出典:司法院釋字第748號解釋摘要(Press Release On the Same-Sex Marriage Case)
同性二人が共同生活を営むことを目的として、親密性かつ排他性を有した永続的な結合関係を築くことは、異性二人に婚姻制度を適用することに何らの影響を与えるものではなく、すでにある異性の婚姻によって培われた社会秩序を改変するものでもありません。同性二人の婚姻の自由が法律によって正式に認められた暁には、異性の婚姻と共に、より安定した社会基盤を築くことができるはずです。
(中略)
婚姻制度では、異性二人の結婚が「産み育てる」能力を必須の要件として規定していません。また産み育てることができない、あるいはまだ実現していないことを理由に婚姻が無効になるとの規定もありません。同性二人が自然な形で子供を持てない事実と、異性二人が客観的観点、あるいは主観的観点から子供を持てない(持たない)こととも、結果として何らの相違もありません。次世代を産み育てられないことが、同性二人に婚姻を認めず、差別待遇に追いやる合理的な理由でないことは明らかでしょう。
訳:Kazuki Mae
「同性同士の婚姻を認めないことは違憲である」とした今回の憲法解釈ではありますが、同性婚をテーマとした討論がこれで終結を見たわけではありません。公表を受けて、反対派グループは直ちに非難文を発表し、相応の対処に出る姿勢を見せるなど、未だ対立する意見は存在しています。「婚姻平權(婚姻平等の権利)」という言葉が代表しているように、あらゆる人がありのままに生きていける社会を作り上げるためには、より多くの市民に正しい理解を促していくことも鍵と言えるかもしれません。
「法改正」か「新法制定」か。
また、解釈文内では「2年以内に法整備を完成させること」とは記されているものの、どのような方法で合法化を実現するかについては「立法の範囲に属する」として、具体的には示されていません。憲法の面では「同性婚は合法化されて然るべき」との結論、これを受けての次なる討論の舞台は、法律の改正・制定を司る「立法院」に移ることとなります。
立法院では、憲法法庭が行われる以前から、二つの方向性で同性婚合法化を目指す審議が行われていました。婚姻に関する記述のある「民法」を改正することで合法化を目指す「民法改正法案」はもともと、婚姻の項にある「男女」の記載をなくすことを目的に提案されましたが、立法院内での反対意見が多く、審議が難航。最終的に「男女」の記述は残したままで、「同性間の婚姻は、双方の本人自らにより定められるものとする」の項目を追記するという形で、第一段階の審査を通過しています。審査は第三段階まで行われる必要があり、あとの二段階を残したままで保留となっているのが現状です。
解釈文の意図を踏まえると、「民法改正法案」での合法化が最も理想的な形であると期待されており、この法案の立役者でもある尤美女立法委員は「今会期中にも審議を再開させたい」考えを表明しています。今回の憲法解釈の結論を受けて追い風に乗れるかどうか、注目が集まっています。
もう一方の可能性として考えられているのが、同性婚に関する「新法の制定」。現状の婚姻制度とは別に、同性カップルにのみ適用される新たな法律の制定を目指すものです。現在考案されているものとしては「同性伴侶法」が挙げられますが、婚姻ではなく「婚姻に準ずる形」としての制定を目指していただけに、内容の見直しを迫られることは必須と見られています。また、「異性カップル」と「同性カップル」という区別をつけることが、憲法の言う「婚姻の自由」と「平等」に符合するのかという議論も巻き起こっている状況です。
同性カップルの法的な保障を「現行の法律改正」で実現するのか、「新たな婚姻法制定」で実現するのか、その決断は立法院に委ねられることに。また、蔡英文総統も今回の結果を踏まえて「各界の意見を広く取り入れて、具体的な方法を検討するよう」と行政機関に指示を出しており、現在討論されている方向性以外の新たな流れが生まれることも予想されています。どの程度のスピード感で討論が進められ、合法化へと漕ぎ付けることができるのかは、立法委員の熱量にかかっていると言えそうです。
「婚姻平權(婚姻平等の権利)」へついに王手。アジア初の合法化は目前!
憲法法庭での結論を受けて、さらに大きな一歩を踏み出した台湾。2年後、あるいはもっと早い段階で、アジア初の同性婚実現国に仲間入りを果たすことは確実です。果たしていつ、どのタイミングで実現を果たすことになるのか、今後の台湾の動向を今、世界中が注視しています。
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