増えて来た“LGBT特集”
“LGBT特集”。書店に足を運ぶと、こうした見出しを見ることが増えて来ましたね。「いつ頃からこの特集は増えたの?」「実際のところ、面白いの?」こんな風に、テーマが何であれ特集が多発すると情報の多さに少々混乱します。今回はLGBT当事者の筆者の経験をもとに、雑誌のLGBT特集について数回に分けて解説記事をお送りします。
話題を呼んだ『東洋経済』と『週刊ダイヤモンド』
まだ「LGBT」という言葉が今ほど知られていない頃、二大有名ビジネス雑誌が同時にLGBTを特集しました。記憶に新しい方もいらっしゃるのではないでしょうか。それが、『東洋経済』『週刊ダイヤモンド』の2012年7月14日号でした。サラリーマンを主な読者層としているこの二誌にLGBTが特集されるのは衝撃的で、大きな話題となりました。愛読者の中には、表紙に書かれた「LGBT」の文字を見て新しい経済用語かと思った、という感想が出たほど。
当然ながら当事者間でも多くの反響がありました。SNSでもこの話で持ちきり。「いよいよLGBTが日の目を見る時代が来た」と感動したのを覚えています。当時筆者は学生でしたが、このLGBT特集が目当てで、生まれて初めてビジネス誌を購入しました。
注目された”LGBT市場”特集
どちらも特集はビジネスの観点から見て、当時の表記で約6兆円規模のLGBT市場に着目した内容。
『東洋経済』では、同性婚への世界の取り組みやカミングアウトについて、LGBTフレンドリーな企業の紹介など14ページに渡っての特集でした。中でも筆者に強い印象を残したのは、マツコ・デラックス氏のインタビューページでの「今さらLGBT市場を狙えと言っても遅い。20年前に気づくべきだった。」という言葉。確かにそうかもしれない、ビジネス誌にLGBT特集が!と単純に感動していた自分は甘かったのかもしれない、と気づかされました。
『週刊ダイヤモンド』の特集は18ページ。図解でBBTに関するデータが多岐にわたって解説されていました。企業のLGBTへの具体的な取り組みが詳しく書かれており、より市場として読者の関心を引く構造に。企業だけでなく、情報ソースやNPOなどLGBTにまつわる団体も、当事者や関係者への取材を基に紹介されています。
LGBTたちのSNSでの反応
この特集に、驚きと喜びの声が上がる一方で、『週刊ダイヤモンド』内の「トランスジェンダー(性同一性障害)」という表記が一部で波紋を呼びました。性同一性障害は一定の基準を満たしたトランスジェンダーに対する医学的用語であり、イコールではない、用語を正しく理解していないのではないかといった疑問の声が上がったのです。LGBTが特集される社会の動き、その嬉しさと同時に非常にデリケートな題材であることを実感させられますね。
週間ダイヤモンドはその後も誌面にとどまらず、LGBTに関する記事をダイヤモンドオンラインというWEBに積極的に掲載しました。それがこちらのページLGBT――もはや、知らないでは済まされない―― 。現在でも閲覧が可能です。また、東洋経済オンラインにもLGBT最前線 変わりゆく世界の性というページがあります。
誌面には賛否両論が巻き起こりましたが、こうしてWEBでもLGBTに関するページがもうけられたということは、反響の大きさと需要の多さが作り手に響いたということではないでしょうか。これはLGBTやアライにとって大きな一歩だと思います。
でも…LGBTが忘れてはいけないこと
前述のように、LGBTはとてもデリケートなテーマです。それだけに情報の伝え方が難しいところもありますが、ひとつ忘れてはならないことがあります。それは、誰かが企画を練って「LGBTを取り上げましょう」と社内に訴えかけ、プレゼンをした結果、LGBT特集が生まれたということ。今回の記事に書いた背景は2012年。編集部の人々はLGBTって何?というところから説明をし、特集する必要性を説いたのだと思います。「それで売れるのか」「コケたらどう責任をとるのか」と言われたかもしれませんし、きっと様々な壁があっただろうと思います。それを想像すると、筆者はLGBT特集のために行動したその人に感謝をしたい気持ちです。
次回は最近のビジネス雑誌のLGBT特集について分析してみたいと思います。今回ピックアップした2012年の雑誌とどんな違いがあるでしょうか?メディアの方に伝えたいメッセージも書く予定です。どうぞお楽しみに。
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