映画祭も中盤へ!L&G映画祭に行ってみた
メジャーの配給ルートにのる機会がほとんどない世界のLGBT映画に出会う一期一会のチャンス!
それが7月11日(土)よりシネマート新宿で先行連日レイトショー上映されている「第24回東京国際レズビアン&ゲイ映画祭(TILGFF)」。興味深いプログラムの上映が続いている映画祭、今回は2・3・5日目の上映作品についてご紹介いたしましょう。
(※シネマート新宿で上映されているどのプログラムも、17日(金)〜20日(祝・月)のスパイラルホールで上映されますので、見たい作品をまだ見る機会があります!)
(なお今回の企画にあたり、TIL&GFF代表の宮沢様、プログラミングご担当の林様、小此木様にお話をうかがいました。この場を借りてお礼申し上げます)
2日目:「ザ・サークル」
ゲイ弾圧の嵐の下で愛を育んだ男達のリアルな物語
猛暑の日曜日の夜、シネマート新宿は6割程度の席が埋まり、なかなかの集客ぶりでした。スタッフの方にうかがったところ、ゲイを扱った作品の集客力は強いのだとか。
この映画は、1950年代チューリッヒの地下組織でひっそりとゲイ雑誌を作り続けた男たちと彼らを弾圧してきた警察との実話を、あるカップルを中心に描いたドキュドラマ(実在の人物へのインタビューと、実話を再現したドラマで構成された作品)です。1人は組織に深く関わった女子校教師、もう1人は組織のマドンナとして女装パフォーマンスを演じる青年。同性愛であるだけで弾圧され、ダンスパーティーを開けば警察に踏み込まれ、路上で全裸に剥かれるという辱めを受ける。そんな時代を共に闘い乗り越えて、今も仲良くおだやかに暮すお2人の姿から映画は始まります。
「これは作品の出来がすこぶるいいので、今年のアカデミー賞外国映画賞スイス代表作品となりました。他国のゲイの歴史をひもといていくという面白さもあり、中心となる2人が如何に出会い、どういう風にリレーションシップを築き上げていったのかを見る面白さもあります」(プログラミング担当 林様)
クラシックでスマートなファッションからも「かつてこんな事があったんだね」と何処か遠い国の昔話のように感じるかもしれませんが、彼らはまだご存命、つまりこれはごく最近起きたことであり、今に繋がっていることなのです。日本は表立った差別はない、とよく言われますが、渋谷区の同性パートナー条例以降まともそうに見える大人の口から飛び出すヘイト発言を聞くたびに、日本人も根底にある差別意識は欧米各国と同じなんだと感じずにいられません。彼らの身に起きたことはまったく他人事ではないと、怒りや憤りを覚えながら見ていました。しかし、そんな想いよりも、ドラマ・パートの主人公がゲイである自分を受け入れ意識が変わり強く魅力的になっていく姿に圧倒され、かつての自分のことを悪戯っ子のような笑顔で語る現実のダディに魅了されるようになりました。
重くるしいドキュメンタリーのように感じるかもしれませんが、人生をあきらめない男達の闘いと愛のドラマは抜群のエンターテインメント性も併せ持っています。
「ザ・サークル」
7月20日(祝・月)11:20〜スパイラルホールにて上映。↓でトレイラーをチェック!
3日目:スターライトの伝説
熱くて長い祭りが終わる時のような切なさと寂しさ
以前猛暑が続く月曜日の夜。日本では誰も知らないブルックリンのゲイバーのドキュメンタリーにしては、客席の5割程度は埋まるという予想以上の集客で上映はスタートしました。
これは、マンハッタンの伝説的ゲイバー「STONEWALL Inn」と同じく、60年代にブルックリンに生まれ愛され続けたバー「Starlite Lounge」の最後の1ヶ月を追いかけたドキュメントです。
公民権運動が盛り上がり、STONEWALLが注目されても、そこに居場所はなかった黒人LGBTたちにとって、いわば家であり、教会でもあるような存在だったゲイバーが「Starlite Lounge」。ビルのオーナーが代わり、30日以内の立ち退きを迫られたスターライトのスタッフ達の闘いと、常連客達が語る店の歴史、亡くなっていった仲間たちの物語は、とても優しくて、かつ哀しいです。
「マンハッタンのSTONEWALL Innのような派手で注目度の高い店ではなく、ブロンクスにある黒人LGBTが集う地元のスナックのような店が舞台です。収入が高くない人が多く暮らす地域だから皆な夜遅くまで仕事していて、町に帰って来た時には色んな店は閉まっているけど、ここだけはやっているという、ほっとできる存在の店だったようです。性的にも人種的にもマイノリティが集まる店って、今、きっとどんどん無くなっていると思います。色々な意味でマイノリティの歴史は誰のものなのか、という複雑な気持ちにさせられる作品です」(プログラミング担当小此木様)
筆者が見た感想としても、スターライトは決して洒落たカッコいい店ではなく、むしろあか抜けないバーなのですが、だからこそ愛した人達の想いの深さが伝わってきます。店が盛り上がりたくさんの人々が集った70年代、そして80年代エイズの時代を経てもなお存在し続け、黒人LGBTたちの心の拠り所であった店の歴史が閉ざされて行く。人生なんてままならない事の方が多いのだと身もって知っているからこそ、見終わった後、今、自分がいる場所を強く抱き締め大事にしていこうと強く思いました。
店の最後の日、多分閉店直前の時間に行われたスターライトの専属パフォーマーJasminの最後のショーで表現された深い愛と哀しみは心に刺さります。
「スターライトの伝説」
7月17日(金)18:30〜スパイラルホールにて上映。↓でトレイラーをチェック!
5日目:「トゥルー・カラーズ〜愛について考えた一年間〜」
自分自身を見つめ直し、居場所を作っていく若者たち
果てしなく続く暑さにげんなりするような水曜日の夜。ドキュメンタリー作品ゆえか、シネマート新宿は少々寂しい入りでした。
これは、15~22歳のLGBTが所属するボストンの劇団の一年を描くドキュメンタリーです。個性的なメンバーと、その家族や友人たちが語る言葉だけでも興味ぶかいのに、さらに撮影中に発生した予期せぬアクシデント(主要メンバーの脱退や、ボストン・マラソン爆弾テロ)までを収録した膨大であることは確実な素材を、68分にまとめてテーマをくっきり浮かび上がらせるって、かなり至難な技。この場面のチョイスと、全体の構成のセンスの良さは脱帽ものです。
「彼らが演じる芝居は、自分達の体験を基に寸劇を創り上げ積み重ねていくものです。それを何処で演じるかというと、小学校や中学校、高校なんです。親へのカミングアウトや恋愛、友人との関係など、他人にはちょっと隠しておきたくなるような事を、自分達と年の近い人の前で赤裸々に演じることのスゴさ。そしてこういう題材の芝居を小学生や中学生に見せるなんて5年くらい前には考えられなかった事で。今、アメリカではどんな状況になっているのかと。彼らと同世代の人はもちろん、今は大人になった方が見てもきっと興味深い作品です」(プログラミング担当小此木様)
一年に渡る長期間の撮影となると、制作サイドにも個々のメンバーや劇団全体に対しての思い入れが深くなるのは確実。にも関わらず、それぞれの場面はコンパクトにまとめられ、冗長さはまったく感じません。「もっと見ていたい」と感じさせる尺にまとめあげた思いっきりの良さゆえに、上映後にはとても深い余韻が残ります。
頭も心も柔軟な若いうちに様々なセクシャリティを持つ仲間ができることは、グラデーションのように折り重なるセクシャリティの違いを身を以て知る絶好の機会です。そして、マイノリティ故に心に抱えざるをえない孤独な闇から抜け出せる最高のチャンスでもあります。それは劇団のメンバーだけでなく、彼らの芝居を見る高校生や中学生にも当てはまることでしょう。
私たちLGBTを取り巻く環境が音を立てて大きく動いていると実感している今だからこそ、この愛らしい集団のドキュメンタリーはとても見る価値が高いです。
「トゥルー・カラーズ〜愛について考えた一年間〜」
7月18日(土)16:45〜スパイラルホールにて上映。↓でトレイラーをチェック!
★7月17日(金)までのシネマート新宿の上映作品
※開場21:05/上映開始21:20
7月17日(金)ハンパな私じゃダメかしら?
★シネマート新宿 当日券情報
シネマート新宿では連日20:30よりシネマート新宿内に設ける映画祭受付にて当日券を販売いたします。
※ シネマート新宿の受付では販売しませんのでご注意ください。