カミングアウトはアウティングにつながる?〜日本の”LGBT迫害戦争”は静かで陰湿

前回の記事
LGBTが見えてくると差別も激しくなるもの?〜”世界に広がるLGBT迫害戦争”と日本の状況
では、”ホモ狩り”と呼ばれる日本での暴力事件をご紹介しました。

しかし、日本ではセクシャルマイノリティに対する迫害が過激な暴力として表面化して報道されることは滅多にありません。
それゆえ
「欧米と違って、日本ではセクシャル・マイノリティの差別ってあんあまりないし」
と思っている人は当事者にも少なくありません。

日本でのセクシャル・マイノリティへの迫害はもっと違う形で行われることが多いのです。
静かに、そして陰湿に、真綿で首を絞めるように、じわじわと当事者が追い込まれていく……。

今回は、会社でカミングアウトしたことからアウティングに繋がり精神的に追い込まれて行った経験を持つ”ゆうま@ゲイ”さんのお話をご紹介します。
彼がどのように追いつめられて行ったのかという実際の経緯と、それを通じて考えた対処法は、必ずや多くのクローゼットの方の参考になると思われます。

カミングアウトから始まった ”ゆうま@ゲイ” さんの理不尽な体験

性的マイノリティが、昔よりも身近な存在になってきた実感がある反面、世の中の当事者への理解が進んでいない現状が事件があるたびに浮き彫りになります。
実際にカミングアウトすることでアウティング等どの様なリスクがあるのか、8~9年位前のゲイである私自身の実体験をお話します。

初めてのカミングアウトは深く考えていなかった

その頃の私は、カミングアウトによるリスクを甘く考えていました。
勤務して8ヶ月位が経過した時期、初めてのカミングアウトしたことで「ヘテロ中心社会の中のマイノリティ」の意味を実体験で知る事になったのです。
私がカミングアウトした相手は、どんな組織や集団にも1人はいるであろうゲイ感度の高いアンテナを持ちほぼ100%の確率でゲイを見抜く、おコゲ的な人でした。
自分はすぐにその人のアンテナにひっかかってしまった様で、その人の「ゲイの人と友達になりたい」「ゲイの人に偏見はない」という言葉に心を許し、自分がゲイである事をカミングアウトしたのです。

私が勤めていた会社は大企業の地方支部で、民間企業でありながら企業内部はお役所気質というか、保守的なムードがありました。


・会社内には細かな人間関係や派閥があり、他人の情報や噂話はそれぞれの関係内において水面下でやり取りされ、情報のやり取りは表面上見えづらい。
・何かあっても証拠は残さない。
・表向きは到って平穏に見える。

そんな風土の会社でした。

そんな環境の中、カミングアウトした女性社員と会話をしていた時、その人が別の人にもカミングアウトの件を話したという事を告げられました。
彼女が私のことを話した女性社員とは所属部署が違う為、1日の内でそんなに顔を合わせる機会もなかったのですが、会った時は到って普通に話をしていました。
別に誰にも話さないで欲しいとは言ってなかったのですが、このことがきっかけになり、私が意図しない形で個人情報が拡散されていくことになりました。

日が経つにつれ、周りの人の自分への態度や、自分を見る目が変わってきている事に気がつきました。
周りの人から徐々に避けられ、無視されだしはじめたのです。
部署の同僚達とは必要事項以外会話することがなくなり、距離を置かれる様になっていきます。
業務に関して大抵は1人で行う事が出来ていたのでそれ程困る事はなかったのですが、孤立する日々が続くにつれ、精神的な不安が大きくなってきます。
一体何が起こっているのか分からず、何も知らされない見えない恐怖、孤独感が日毎に増していきました。
カミングアウトする前は普通にコミュニケーションをとっていた人たちから、ある日を境にほとんどの状況で無視されるようになる。
オセロの盤面の白が、いきなり黒に変わっていくかのような状況は、他者とのコミュニケーションを軸に自己の存在や生業を確立している「人間という存在」にとっては、暴力に劣らず辛いものです。
私は何もしていないにも関わらず、ほとんど接した事がない人から突然怒鳴られた事もありました。

その様な環境に置かれおかしくなり始めた精神状態は体調にも表れるものです。
胃腸の体調不良で休む事も多くなったり、何故か人前で震えが起こったり、会社の内外で人に対して恐怖や抵抗を感じる様にもなりました。

「カミングアウトしなければよかった」
という後悔は、周りの人間関係が悪化していくにつれ日に日に強くなっていきます。


「誰かにカミングアウトすれば、噂はある程度広まるとは思っていたが、こんな事になるはずではなかった…」
「でも、受け入れてくれるかどうかは実際カミングアウトしなければ分からなかった事だし…」
「嫌がらせの証拠をとって訴えたいが、自分がゲイである前提の公開が必要になるかもしれないし、それが更なる嫌がらせに繋がるかもしれない」
「嫌がらせの確実な証拠自体を掴めないし、嫌がらせは確実にカミングアウトした後から始まった実感はあるが、それらを関連付ける事ができない」
「個人で確実な証拠もなく声をあげても、逆に巨大な組織に訴えられかねない」

出口の無い迷路の様な中、色々な事を考えながら、どうしようもない無力感から、段々と思考が麻痺していく様になりました。
自分はあまり新宿二丁目やゲイスポットにも行かず、ゲイの知り合いもいなかったので、
誰にも相談出来ない状態でした。
そんな状態で「誰も自分を理解してくれない」という疑念と恐怖に追い込まれて行きました。
まともな神経なら仕事を辞めればいいと思うのですが、その時の自分はまともな判断ができない状態でした。
また、仮にまともな判断ができたとしても、収入面の事を考えると簡単に仕事を辞めれる訳ではなかったです。

自分が孤立化させられてしまった原因はトップにあった

苦しみなのか恐怖なのか緊張なのか自分でも訳が分からない日々が経過していったのですが、僅かな理性は残っていたようで無視には人や状況によって傾向がある事に気づきました。
大抵の人は仕事に必要な事に関しては最低限の話をするのですが、その最低限の会話すらしなくなる時がありました。
それは、管理職や支部長(地方支部の中で実質1番偉い人)が近くにいる時です。
この時は最低限必要な業務の相談でさえ無視されます。

年に数回、偶然支部長と2人きりになる時がありましたが、カミングアウト後は必ず自分を蔑んだ様に睨みつけ、仕事上落ち度も何もないのに難癖つけられては怒鳴られる様になりました。
カミングアウトする前は、むしろ自分に対して丁寧に、温かく、長たる者の威厳を持って接してくれていて尊敬できる人だと思っていたのです。
それがまるで別人のような変わり方でした。

私がゲイであるとアウティングされたことは、支部長にまで伝わっていると理解しました。
そして、支部長はゲイに対して偏見を持っていることも理解しました。

属する組織のトップがゲイに対して偏見を持っている。
そしてトップの顔色をうかがうように周囲の人たちが自分を無視し始める。
そんなどうしようもない無力感と恐怖と疑念の中でしたが、支部長の前でも自分を避けず、どんな状況でも自分と変わらずに接してくれていた人達がいました。
皮肉なことに、それはカミングアウトした女性社員とアウティングによって自分をゲイだと知った女性社員の2人だったのです。
ほとんどの人に無視され、避けられ、蔑まれる一方で、この2人はどんな状況でも私に対して態度が変わりませんでした。
当時、唯一自分が人間らしくいられると思えたのが、この2人といる時でした。

結局、カミングアウトから約1年半後に、別の仕事の目処がつき、退職しました。

会社でのカミングアウト通じて分かった3つのポイント

1)カミングアウトはほぼアウティングに繋がる
転職を経験し、何回かカミングアウトしたことから実感しました。
現状においてカミングアウトは、アウティングと背中合わせにあるリスクは決して小さくないと思います。
情報はどこからでも知れ渡っていきますし、他人に自分の秘密を守らせる事は非常に困難です。
マジョリティにはマイノリティである事を隠す理由が本質的には分からないし、たとえ説明したとしてもそのリスクを実感できないのです。

2)アウティングする人は悪意がない場合も多い
ゲイフレンドリーなヘテロの人達は、周囲の人も自分と同じような感覚を持っていると思う傾向があるようで、「あの人ゲイなんだってー」ってサラッと周囲に漏らします。
ゲイフレンドリーだからといって、ゲイと同じ知識や感覚をもっている訳ではありません。
ゲイフレンドリーな人へのカミングアウトは、ゲイを嫌う人へのアウティングにも繋がる危険性が高いです。

3)組織のトップが偏見を持っているとキツい
組織のトップが偏見を持っていると、例外はあっても、その組織のほとんどの人間が「トップ・偏見側」につきます。
本来ゲイフレンドリーな人であっても、その人の上司が差別側の人だと自分の身を守る為に差別側に同調する可能性が高いです。
そして直接可視化できる場面ではなく水面下の見えない場所で、なるべく証拠が残らない様にトップ自身が自らの手を汚さない方法で嫌がらせをして、排除しようとしてくる可能性が高いと思います。
「あいつは勤務態度が悪い」
「業務ミスが悪い」
など、様々な相手の負のイメージを周りの人間に植え付け、孤立させ、自発的に出ていく様に仕向けます。
偏見を持っているマジョリティのトップに対して、1人のマイノリティがどんな説得をしても無駄です。
成果を出して組織の為に貢献しても、偏見そのものは根本的に変わる事はないですし、認めてくれません。

経験から学んだ偏見からくる差別への対処法

1)精神的に孤立しないよう相談出来る相手をみつける
苦境に陥ってしまった場合に、相談できる窓口や、ゲイフレンドリーな支援団体をチェックしておくことは必要です。
カミングアウトや、それに伴うアウティングなどへの対処を少しでもサポートして貰える体勢を整えて、私みたいに孤立しない様に備えておいてほしいです。

2)ゲイフレンドリーでパワフルな女性を味方につける
個人的な見解ですが、ヘテロ男性中心社会の中でゲイへの偏見から来る嫌がらせを封じるを為には、組織の上下関係をいなす事が出来る位パワーを持ったお局的なゲイフレンドリー女性の力が不可欠だと思いました。
カミングアウトしなくても、そういう女性が組織の中にいたら、仲良くなっておくのもよいかもしれません。
自分は過去の何回かのカミングアウトで、いずれもそういう女性に助けられてきました。
精神的にも実質的にも。
もちろんゲイフレンドリーで味方になってくれるのであれば、男女は問いませんが。
ただし、繰り返しになりますが、ゲイフレンドリーなヘテロの人達は、周囲の人も自分と同じような感覚を持っていると思う傾向があり「あの人ゲイなんだってー」と、周囲にアウティングする可能性が最も高い人達である可能性も高いです。
カミングアウトする際は、くれぐれもご注意ください。

カミングアウトにおいて、自分に都合のよい最適解はありません。
様々な方法を駆使して、カミングアウトやアウティングの際、嫌悪者からの攻撃を牽制したり、悩みを相談したり、誰かに味方になって貰える態勢を整えておきましょう。

今回お話した事は8~9年位前の事であり、現在の状況とは合わないかもしれませんし、
それぞれのセクシャリティの人の環境によっても状況は変わりますし、私個人の主観も含まれています。
それでも、この体験談を読まれた方がカミングアウトを考える際に、少しでも参考になれば幸いです。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました!

ゆうま@ゲイ さん 東京レインボープライド2016会場にて

ゆうま@ゲイ さん
東京レインボープライド2016会場にて

ゆうま@ゲイさんの体験駄から、会社でセクシャリティをオープンにするには多様性を認める社風であるのか、またTOPが多様性を認める人であるのか、ということが大きい条件だということが窺えます。
近年、LGBTフレンドリーであることを表明する企業が増えてきている現状は、私たち当事者にとって就活、転職活動の際に希望のもてることだと思いました。

■TOP画像引用元
http://www.forbes.com/forbes/welcome/?toURL=http://www.forbes.com/sites/jacquelynsmith/2013/09/09/8-tips-for-dealing-with-a-know-it-all-coworker/&refURL=https://www.google.co.jp/&referrer=https://www.google.co.jp/

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ABOUTこの記事をかいた人

いたる

LGBTに関する様々な情報、トピック、人を、深く掘り下げたり、体験したり、直接会って話を聞いたりしてきちんと理解し、それを誰もが分かる平易な言葉で広く伝えることが自分の使命と自認している51歳、大分県別府市出身。LGBT関連のバー/飲食店情報を網羅する「jgcm/agcm」プロデューサー。ゲイ雑誌「月刊G-men」元編集長。現在、毎週火曜日に新宿2丁目の「A Day In The Life」(新宿区新宿2-13-16 藤井ビル 203 )にてセクシャリティ・フリーのゲイバー「いたるの部屋」を営業中。 Twitterアカウント @itaru1964