同性婚によるLGBTの多様性文化への影響
衝撃的な見出しですが、LGBT当事者だからこそ感じる、同性婚の<負の側面>について、敢えて取り上げました。下記のニュースは、最近話題のアメリカにおける同性婚事情についてです。
米連邦最高裁は6月26日、同性婚を合憲と認め、州法で禁じることを違憲とする判決を下した。この判決によって州が定めている同性婚を禁じる法律は全て違憲となり、全米で同性婚が認められることになる。――(産経新聞 6月27日(土)7時55分配信)
アメリカでは、オバマ政権となってから、ほぼ一貫してLGBTを容認する動きが高まってきています。そのような中で、今回の判例が出たことは、アメリカのLGBTの権利をより推進するきっかけや材料となることと思います。しかし、「婚姻制度」というのはあくまで、異性愛の文化の中で優位とされ、「恋愛が素晴らしいもの」だと賞賛するものであるということを私たちは、忘れてはいけません。
「30にもなったら結婚しなきゃ」のおかしさ
「30にもなったら結婚しなきゃ」などという言葉、今でもよく聞きませんか?現状の日本の婚姻制度では、「祝福の機会」「ライフイベントの華やかさ」「世間体」「ステータス」など、本来の婚姻制度から離れた文化を形成しており、1人で多様に生きていこうとする人々に対する圧力が強いのです。
LGBTは、その呼ばれ方の通り、多様性を主においたコミュニティであり共同体であり、文化です。恋愛においても、多様な考えを包含してきました。そのため、「恋人がいなければならない」「結婚しなければならない」「モテなければならない」というような、目に見えない”強迫観念”からも、ある程度の距離を置くことが出来る文化でした。
しかし、同性婚が「LGBTは多様である」という文脈を忘れ、ただただマジョリティがLGBTの利権を取り合うという形で搾取されてしまえば、先述した強迫観念に曝されてしまい、「モテ」「非モテ」のレッテルを貼られるようなことが繰り返されるだけになるやもしれません。
現に今、もう既にLGBTは各カテゴリー毎に「らしさ」(王道/モテ)の追求が始まりだしていると考えます。「レズビアンらしさ」「ゲイらしさ」「バイセクシュアルらしさ」「トランスらしさ」――。自分らしく生きたいと願い溶け込んだ様に見えたコミュニティが、それぞれのカテゴリーの「マジョリティ文化」に押され始めているのです。
決して私は、全てのカテゴリーを破壊したいというわけではありませんし、「男らしさ」「女らしさ」を否定するつもりもありません。ただ、そのバランスが損なわれ画一化され、没個性化されてしまうのは、多様性の文化的な「排除」ではないかと考えているのです。婚姻制度をLGBT文化で運用するのであれば、多様な価値観の一つの選択肢として設けていく意識が必要となるでしょう。
「お前、結婚(同性婚)まだしてないの?」があってはいけない
私たちLGBTが、この婚姻制度をマジョリティの文化から輸入するのであれば、この制度の意味をもう一度見極める必要があるのです。婚姻制度は、法的には「祝福されるためのもの」ではなく契約関係であることを忘れてはいけません。制度に落とし込むこととなった理由としては、契約の履行/不履行こそが最重要事項であり、二者関係における煩わしさを解消するということが目的です。ただ、「祝福されたい」という気持ちは、もちろん誰しもが平等に持って良いものですし、「婚姻制度」と「2人が祝福されること」は分けて考えることでしょう。
つまり、結婚する当人たちが「祝福される」べき対象であり、決して婚姻制度が「祝福される」わけではないということです。例えば、学校の卒業式は、卒業生が「祝福される」のであって、卒業式が「祝福される」わけではありません。この違いさえ意識していれば、「結婚=幸せ」という普遍的な価値観に縛られず、あくまで「当人たち=幸せ」という構図に収まるのではないでしょうか。更に言えば、婚姻制度の有る無しにかかわらず、LGBTに何があろうとなかろうと、元々「祝福されていい」存在です!
話を戻しますが、「婚姻制度」には、「祝福」「ステータス」等ではない様々なメリットがちゃんと豊富にあるのです。例えば、それぞれの個人情報等を互いに利用していい、という取り決めによってクレジットカードの家族カードが作れたり、不動産契約がスムーズにできたり、金銭的トラブルにあった際の法的措置を行いやすい等と、メリットは多岐に渡ります。さらに、緊急入院や病院での面会、遺言や財産分与など、パートナーが居るLGBTの場合は、ライフイベントの多くの不具合に対処できる画期的な制度でもあります。
日本では、渋谷区が同性パートナシップ条例を打ち出し、可決されました。今後日本でも大きなムーヴメントとなるかもしれません。日本では、同性パートナーシップという形で条例化しそうですが、「パートナーシップ」という言葉は多様なあり方を認める言葉でもあります。「恋愛」を至上とする「婚姻」という言葉とは違い、色んな形の愛情を認める言葉でもあるからです。先行く文化としては、例えばフランスにはPACS法というパートナーシップ制度があり、多様な家族をあり方を認めています。
LGBT文化の中にも、いつか婚姻制度が“当たり前”となる時代が、もうすぐそこまで来ているかもしれません。そして同時に、「お前、結婚(同性婚)まだしてないの?」等のセクハラが起きたりする日が来ないことを、何より祈ります。