過酷な残業を重ねても増えない収入、シングルで生きる老後像が思い描けない、パートナーがいても老後の安心感など見えてこない、知らん顔などできない親や家族の問題も降りかかってくる……。
「自分の人生、これから先どうなっていくのかなぁ?」
そんな漠然とした不安、感じたことありますよね。
セクシュアル・マイノリティ当事者が抱える不安を少しでも解消するべく、決してキラキラはしていないけど地に足つけた活動で学んできた偏屈者ライター永易至文が語り下ろす生活密着コラム。
第五回は「老後資金」について語る後編です。
●自分の年金履歴は「ねんきんネット」で確認できます
:老後の収入のベースといえば、公的年金。きょうは年金について、じっくり語りましょ。
: 公的年金ってさあ、どう考えても破綻するんじゃない?
:そうそう。まずはそのご不安の思いの丈を吐露していただきましょうか。
:支える人数が全然変わってきてるじゃん。年金って世代から世代への仕送りって言われるけど、少子高齢化で若者と高齢者の人口比が変わって、騎馬戦型(4〜5人の現役世代で1人の高齢者を支える)からついには肩車型(1人で1人を支える)とかさ。私はね、自分が子ども作らないわけだから、街中でベビーカー押してるお母さんには優しくするし、子どもにはニッコリ微笑んでとても親切にしてますよ。この子らが私の年金を支えてくれる人たちだから。情けは人のためならず、ってこれよね。
:不審者も多いそうですから、母親に通報されないよう気をつけてくださいね。とはいえ、ご不安はわかりますが、不安だ不安だといって、年金のかわりに、あるいは年金以外に、なにかやってるんですか?
:だって、お金もないし。年金もたいしてもらえるわけじゃないだろうし、かといって保険会社の商品とかやってるわけでもないし、どうしたらいいんだろうね。
:そもそも日本は国民皆年金、年金制度も強制加入です。勤めている人は厚生年金に、自営業やフリーの人は国民年金に。入らないという選択はありません。
:公務員や私立学校の先生の共済は、いまは厚生年金に一本化されたんだってね。
:年金の基礎の基礎をおさらいしましょう。現行制度では、20歳から60歳まで40年間(480カ月)加入して、65歳から満額の年金を受け取れるんでした。未払いがあると加入月数に応じて減額されます。ただし通算25年以上加入していないと、そもそも受給資格がありません。
:おれなんかフリーランスで国民年金だけだから、これで暮らせるわけねえじゃん(怒)。
:でも、会社勤めの時代があれば2階部分である厚生年金が上乗せされますよ。あなたも某会社に勤めてゲイ雑誌作っていた時代があるんでしょ?
日本年金機構の「ねんきんネット」で、ご自身の加入履歴を確認しましょう!
ログインのためのユーザーIDは、毎年お誕生月に送ってくる「ねんきん定期便」にある「アクセスキー」で即メールで発行してもらえます(送付から3か月以内。それ以外は申込んで郵送してくれるまで数日かかります)。
めんどくさければ年金手帳をもって直接、住所地の年金事務所で相談しましょう。
:まずは自分の年金支払い状況を知ることから始める、と。
●10年で元が取れ、終身もらえる超お得年金は、コチラ!
:結局、いま年金っていくらもらえるんだっけ?
:よく年金は2階建てって言われますが、1階部分にあたる基礎年金(国民年金)の平成29年4月からの満額月額は64,941円。実際は加入月数に応じて減額します。
:ただでも少ないのに、実際はもっと減るのかよ。
:でも、公的年金は死ぬまでもらえる終身保険。これは民間では出せない強みです。いま国民年金(厚生年金の人は基礎年金部分)の保険料はいくらですか?
:ええ?
:会社の人はアーもウーもなく給料から天引きされてるけど、自分で払う国民年金のあなたが知らないとは、納付をサボっておられるのかしら?
平成29年4月~平成30年3月までは、16,490円/月。
年ごとに改定されますが、約1万6千円/月として、20歳〜60歳の480カ月払えば総支払額は768万円。平成29年の年額は779,292円。
つまり、10年でモトが取れることになります。
現行65歳で貰いはじめて10年後は75歳、まだまだ死なないお年頃。そこから先はすべて貰い得なんです。
:そうなんだ?
:年金はみんなの保険料のほかに税金が半分投入されているので、払った保険料に比べて貰える割合が高いんです。加えて厚生年金は保険料の半分を会社が負担してくれることも大きなメリットです。そんなこんなで、公的年金をバカにしてほかに入れる保険を探したり、自分で投資や貯蓄に励もうとし、肝心の公的年金の加入年数が足りずにみすみす年金を貰える権利をフイにしちゃうなんて、これこそ愚の骨頂。
:国は宣伝下手だし、マスコミも叩くのが商売だから、年金不安ばかりあおるけど、日本最大の国営保険システムって、まずは払い続けることが大事みたいだねえ。
:老後にもらう老齢年金のことが注目されがちだけど、年金制度には若いうちでも障害者になったときに受け取る障害年金があります。交通事故とか、ゲイの人でエイズ発症で一命とりとめたものの障害が残ったなんてときの頼みの綱です。これは初診日(事故の日とか診断を受けた日)に年金が未払いだと、そもそも対象外。払い続ける大事さはこんなところにもあるんです(未払いでも後述の手続きをしているならOKです)。
●追加納付や繰り下げ受給、年金を増やすあの手この手
:ところで、前回、年金にはあっと驚く増額法もある、なんて吹いてましたねえ。そっちからうかがいましょうか。
:そう切り口上でこられると恐縮しますが、老後に年金を多くもらうには、なんといっても1か月でも多く保険料を多く払うことが前提です。
:そりゃそうだわな。
:一つの方法として、60歳で終わりの年金払いですが、まだその先も働くなら、65歳まで任意加入といって払い続けることができます。それだけ年金額が増えることになります。
:現役中に未払いになったりした分も、あとから払えるなら埋めたほうがいいのかねえ。
:おっしゃるとおり。会社にいるあいだは厚生年金が強制天引きですが、そうでない場合、未払いになる可能性として、
①会社を辞めて国民年金だけになったが、収入がないので保険料が払えない
②そもそもフリーターで、収入が乏しく月1万6千円の保険料が払えない
③20代の学生時代も収入がないので払ってない
:そういう場合もあるわなあ。
:払えないときは、きちんと手続きをすることが大事です。
学生中は学生納付特例の届け出をすることで、納付を10年待ってもらえます。
私は「就職したら、最初の給料は親へプレゼント、最初のボーナスは納付特例の年金4年分を一括払い」と言ってます。
若い人は学生時代の年金をどうしていたか、チェックしましょう。
この学生納付特例は社会人になってまた大学院へ行くときにも使えますから、大人の人も覚えておいてね。
:会社辞めたりフリーターで払えないなんてときは?
:これも届け出が大事。まず免除申請をする。決定により、全額、半額、4分の1が半年や年単位で免除されます。これをすると届け出中は、25年が必要な納付期間に繰り入れてもらえる、年金額も税金投入部分は保証される、といったメリットがあります。
免除にならなくても、50歳未満なら猶予制度の届け出をしておくと、期間への繰り入れはしてもらえます。
どちらも10年以内ならあとから保険料を納付して老後にもらう年金額を増やすことができますから、ただの未払いでほったらかしておかないことですね。それが一番ダメなこと。
:未払いで放ったらかしたら、あとから払うことはできないの?
:5年以内なら後払いできます。延滞料がつきますけどね。
それから払えるなら付加保険料といって、月400円上乗せして払うと、将来の年金額をちょっとだけ増やすことができる制度もあります。
:ちなみにさ、海外留学とか一人海外就職とかは、なんか関係ある?
:海外にいたって年金は払うことができるし、海外にいても老後に年金をもらうことはできますから、これまでの加入歴や保険料を無駄にしないためにも、海外へ出るまえには年金事務所で相談することが大事です。
:外専の人なんか、意外にありそうな話かも。
:さらに、65歳からもらう年金ですけど、まだ働いているからいいやということで、70歳まで繰り下げると42%増しでもらえて、それが死ぬまで続くんです。
:それって65歳からもらうのと、5年分もらわないであとから増やしてもらうのと、どっちがトクなんだろ?
:65歳からもらい続ける年数をX年として、
100X<142(X−5)
この不等式を解くと、X>16.9、17年以上で得になります。つまり65+17、82歳以上から得ということで、たぶんまだ生きているなと思うかたは、ぜひこちらをお試しください(笑)。
●上乗せ年金を2つ、ご紹介
:老後の年金を増やすのに、なにかほかにいいものがあるかな?
:フリーターやアルバイトの人も、厚生年金に加入できる場合がありますので、当面の手取りが減ったとしても将来のためには有利ということもあるでしょう。あと、知っておきたい公的制度を二つ。一つは国民年金基金。
:ラジオでよく流れてる優香の「♪コクミンネンキン キキン!」ってCM耳に残って離れないよ(笑) あれはなんなの?
:国民年金だけの人の2階だて部分で、自分で加入口数を決めて加入します。途中で脱退はできないので注意が必要。払いづらいときは減額で対応します(国民年金を脱退できないのとおなじ)。再就職したら厚生年金に振り替えられます。
:それでお得というのは?
:まず月々の保険料が全額、所得控除(社会保険料控除)になって節税効果が高いということ。民間の年金商品だと4万円までしか控除できませんが、基金だと月3万としても36万円まるまる控除。その分、所得税や住民税のかかりが減ります。また、老後に受け取るときも公的年金所得になり、民間保険の雑所得より有利です。
:けっこうあるのねぇ。もう一つっていうのは?
:最近話題の、個人型確定拠出年金、通称イデコ(iDeCo)。こっちは払ったお金を自分で「運用」によって増やすもの。企業型だけでなく個人にも開放されて、いま、銀行や証券会社がお客獲得に懸命ですね。
:運用ってことは、自分でその掛け先を決めて、定期貯金だ、株だ、投信だって、振り分けたりするんだ。
:そう。だから得するときもありますが、損するときもあります。そうやって60歳までにお金を増やして、晴れて60歳から受け取るもの。あなたみたいな面倒くさがりやで勉強嫌いの人には向かないかもね。
:大きなお世話。でも、得だっていうのは?
:こちらも掛け金は全額所得控除(小規模企業共済等掛金控除)で節税効果があるうえ、運用益は非課税です。ただし60歳まで引出せません。そしてね、国民年金基金も個人型確定拠出年金も、ちょっと知っておいてほしいことが……。
:なにさ、もったいぶって。
:満期までに死んだらそれまでの掛け金はどうなるか、ってこと。
そのときはどちらも遺族一時金が払われるんだけど、その対象は、配偶者や父母・子・兄弟などであって、「同性パートナー」は入ってないの。
法律には「婚姻(届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある場合を含む)」という文言があるけど(国民年金法39条など)、これに同性パートナーが入るかどうかは、これまでだれも確かめた人がいないし、遺言で指定できるかも判例がないの。
年金制度の解説で、遺族年金や3号被保険者について触れなかったのも、そのせいなんです(興味のある人は調べてみてください)。
:最後はゲイリブの闘士らしく、同性婚制度を求めるアピールということで締めていただきましたね。
二回に渡って「老後資金」に関して色々と教えていただきましたが、参考になりましたでしょうか? 一番お得な公的年金をベースに、収入に応じた準備をするのがベストのようですね。
さて、次回は「お金の管理と節約の仕方」に関して教えてもらいます。
<今週の永易さん>
永易さんが運営するNPO法人パープル・ハンズでは、性的マイノリティの暮らしや老後の「確かな情報センター」として、当事者の専門家の立場からかずかずのご相談に応じています。
お話を共感的にうかがい、課題を整理し、現行の法律や制度を活用し、多大な費用をかけないで、まずは具体的にできることを紹介したり、一緒に解決策を考えているそうです。
相談は通常、2時間程度・5千円の相談料がかかりますが、現在、一般財団法人ゆうちょ財団さんの助成金を得て、無料で提供されているので、生活や老後のことできになることがある方は、積極的なご利用をお勧めします。お申し込みは、相談内容のあらましと相談希望日時(土日や夜間も対応可)を記して、パープル・ハンズ( info@purple-hands.net )までメールでお送りください。