自分の人生、自分で決めてますか?
自分の生き方は自分で決める。当たり前のようだけど、人は周囲の状況などに流されてしまいがち。そちらの方が深く考えないでいい分、楽にいけるかもしれない。でも、ふと気が付いた時に、生き方の選択をしなかった大きな後悔に襲われてしまうかもしれない。ここでは、世代を超えて「どう生きるのか」という問題に直面する2本の新作映画をご紹介します。
『バレエボーイズ』
この映画の舞台はノルウェー、オスロのバレエ学校に通う3人の少年たち(ルーカス、トルゲート、シーヴェルト)の12歳〜16歳の4年間を追いかけたドキュメンタリー映画です。中学生である彼ら3人はともに、オスロ国立藝術アカデミー(KHiO)へ入学して、プロのバレエダンサーになりたいという夢を抱いています。肉体を使って表現する特性上、バレエダンサーの職業的ピークは比較的若い時期にやってきます。そのためにプロのバレエダンサーを目指す彼らは、同年代の男の子たちよりも遥かに大人として、自分の人生を考えざるを得ない岐路に立たされます。
事実は小説より奇なり、と申しますが、このドキュメンタリーもまさにそれを地でいく作品です。企画段階では予想もしていなかったはずの事件(事態)が次々と起こり、想像以上にドラマチックな展開を見せます。そのドラマチックさとは、カメラに収められた事象はもちろんのこと、彼ら3人の心情もまたそうなのです。
バレエダンサーを目指す男の子は決して多くはなく、女の子中心のバレエ学校に通う彼ら3人には、深い絆を感じさせる友情が育まれています。ところが、そのうちの1人だけ(まさに王子様的ルックスでバレエの申し子のようなルーカス)に、名門の英国ロイヤル・バレエスクールからオーディションの招待状が届き、繊細なティーンの友情にさざ波が立ち始めます。
4年間に及ぶ撮影期間は膨大な量の映像素材を生み出したと思います。それを75分の長さに収めた構成力と編集技術の巧みさは特筆もの。どの登場人物とも一定の距離を保った視点で撮られているがゆえに、逆に被写体となっている少年達の心情が如実に伝わってきて感情移入してしまうこと必至です。
同世代の少年達が楽しんでいる色々なものをあきらめてバレエのレッスンに取り組む彼ら3人の、二度と戻らない人生の瞬間は辛い面もありながら、最高に幸せであったでしょう。そんな時代にピリオドが打たれるのですが、プロのバレエダンサーと言う同じ目標を目指しながらも違う道を選んだ彼らの物語は、実はまだ始まったばかりなのだと気付かされるラストは秀逸です。
漫画「昴」「MOON」の愛読者である僕としては、アジア系でありながら白人文化のバレエの道を進もうとするシーヴェルトの行く末が気になって仕方ありません。
自分はどう生きていけばいいのか悩める若い方も、かつての自分の姿を重ねて青春の追想に浸りたい大人の方も、少年から青年へと肉体を研ぎすましながら成長して行く男の子たちに萌えたい邪な想いの方も楽しめること確実のこの映画。監督のケネス・エルヴェバックはオスロのゲイのハンドボール・チームを題材としたTVシリーズ「Hullabaloo」(2006年)を撮っているとか。それもぜひ見てみたくなりました。
バレエボーイズ
BALLET BOYS
監督:ケネス・エルヴェバック
出演:ルーカス・ビヨルンボー・ブレンツロド、シーヴェルト・ロレンツ・ガルシア、トルゲール・ルンド 2014/ノルウェー/75分/カラー
配給:アップリンク
8月29日(土)ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷アップリンク他全国順次公開
公式サイト http://www.uplink.co.jp/balletboys/
『しあわせへのまわり道』
ティーンの少年達を描いた「バレエボーイズ」とは対極の、アラフィフの中年男女が直面する生き方の選択を描いた物語です。この映画は、年齢には関係なく、強い意志さえあれば人生は変えることができるという希望を与えてくれます。そして、愛に破れた時の立ち直り方や、付き合い始めのぎこちなさを乗り越えるコミュニケーションのとり方など、誰もが参考にできるメッセージがつまっています。
長年の夫婦生活が破綻して人生に絶望してしまった翻訳家の女性は、助手席専門だった生き方を改め、自分で運転するために自動車教習を受けることにします。教官は、多分彼女よりもう少し年上のインド人男性。この2人の間で交わされる会話がお互いの人生を少しずつ、でも大きく変えて行くと言う物語は、性別・世代・人種・セクシャリティを超えて共感できるポイントがたくさんあります。
主演のパトリシア・クラークソンと、サー・ベン・キングスレーの2人の芝居は実に自然で、お互いの力量を信頼しあっている名優同士ならでのコラボレーションだなと感じられます。ベンさんは御年70過ぎとはとても思えない若さで、男女の機微には不器用な中年男性を見事に演じています。
物語の本筋はとても前向きなメッセージが詰まっているのですが、2つのマイノリティーの重たい事実が、さりげなく当たり前のように描かれていることがこの映画にさらなる深みを持たせています。ひとつはヒンドゥー教が大勢を占めるインドに於けるシク教徒への苛酷な弾圧。もうひとつは、新天地を求めて逃げて来たアメリカではターバンに髭というシク教徒の外見ゆえにアラブ系テロリストと認識され差別やヘイトの対象とされる理不尽さ。
監督は「死ぬまでにしたい10のこと」のイサベル・コイシェ。派手さはまったくない物語でありながら、見た後に心に遺るものはとても大きく、自分の生き方を考え直すきっかけをくれそうな作品です。
共に女優であるメリル・ストリープの2人の娘のうち、ウザさが控えめな妹グレース・ガマーが主人公の娘役で、とてもいい味を出しています。
しあわせへのまわり道
Learning to Drive
監督:イサベル・コイシェ
脚本:サラ・ケルノチャン
出演:パトリシア・クラークソン、ベン・キングスレー、ジェイク・ウェバー、サリター・チョウドリー、グレース・ガマー
2014/アメリカ/英語/90分/アメリカン・ビスタ/カラー
配給:ロングライド
8月28日(金)よりTOHOシネマズ日本橋&TOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国公開
公式サイト http://www.shiawase-mawarimichi.com/
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※予告編はYOU TUBEより転載
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