LGBTに関することは経営的に大変重要な課題
Mixiのような廃墟になりそうな感じのTwitter界の出羽守ことMay_Romaです。簡単に自己紹介いたしますと、ワタクシは、日本と欧州を往復して暮らしているアラフォー子持ちのノンケです。親友は、夫がウクライナ人のベトナム系アメリカ人(男)とか、元外交官なんだけど修道僧になってしまったトルクメニスタン人のゲイの人です。なぜかLGBT界隈に縁があります。ところで、好きなのはその辺の綺麗系BLじゃなくて、ヤマジュン先生とか山田参助画伯です。
さて、ワタクシの本業は、ITガバナンスとか、内部統制とか、コンプライアンスです。この分野は、人事とか組織の運営のあり方なんてものが深く関わってくるのですが、LGBTに関することは、欧州のまともな組織であれば、経営的に大変重要な課題の一つです。なぜかと申しますと、まともな組織の多い欧州の北の方は(つまり南は微妙ということですが)、日本に比べると、職場でLGBTをカミングアウトするのが珍しくないからです。なぜそんな風になったのか、というお話は今回はおいておきますが、職場でカミングアウトした人に対して、組織はどんな対応をとるのか、という例を今回はご紹介します。
英国では「LGBTなんているの?」と言う人の方が「おかしい人」
これはロンドンの某超有名企業のお話です。40代既婚子持ちのBさんはイギリス人ですが、男性として、かなり高い専門性が必要な仕事に従事してきました。Bさんは、実は長いこと自分の性的アイデンティティーに悩んでいたのですが、ある時、決意して、女性として生活することにしました。Bさんは早速職場の上司に「来月から女性として勤務することにしました。」と告げます。さて、みなさん、ここでどんなことが起こったと思われますか?日本だと会社中で大騒ぎになったり、同僚はドン引き、最悪な場合、様々な方法で嫌がらせされたり、退職に追い込まれたりというのが想像できます。カミングアウトした人はそもそも就職で差別されるのが当たり前です。そもそも、日本の職場では「うちの会社にはLGBTはいないから、LGBT対応は必要ないのです」といってしまう大手企業が珍しくないのです。
ところが、LGBTが大勢いるロンドンでは違います。同性婚は合法ですし、同性カップルが子育てするのは当たり前。前の外務大臣はゲイという土地柄。お堅い職場でもLGBTが職場にいるのが当たり前なので、カミングアウトするのが「当たり前」であり、「LGBTなんているの?」という人の方が「おかしい人」なのです。
LGBTに対する職場の同僚の反応
Bさんのカミングアウトに対する職場の対応も「LGBTの人がいて当たり前」というものでした。上司は「ふーんそうなんだ。性転換手術用の休暇とか必要ならいってね。プロジェクトが最近忙しいし、なかなか新しい人がこないじゃない。一応人事にいっておくからね。色々やることがあるので。ほら、アカウント名の変更とか、ヘッドカウントの性別の登録とか」という、極めて実務的かつ淡々とした対応です。同僚の反応も日本だと考えられない感じです。
「なんか、Bさん、来週から女として出勤なんだって」「ああ、そう、じゃあまだメイクとか慣れないから、教えてあげた方がいいかも。一緒に買い物とか行きたいかな」「そういえば、運用チームのトムも、去年ゲイからストレートに戻ったっていってたけど、最近彼女とうまくいってるのかね」
性別を変えるのも当たり前
この職場は、マスコミやファッション業界とは無縁の、かなりお堅い仕事をしている会社で、Bさんの同僚の8割は男性専門職で、マッチョな雰囲気ムンムンです。しかし、そんな職場でも、LGBTの人はいるのが当たり前なので、明日から女になるからだからどうだ、という感じなのです。人事の対応も手慣れた感じというか、淡々としたものでした。Bさんの件が報告されると、給料支払いシステムや入館システム、人員登録の性別変更などは、迅速に、サクッと行われ、なぜ性別を変えるのか、なぜ来月からメイクして出勤するのか、などの質問は一切なしです。性別変えるのは当たり前、LGBTはいて当たり前なのです。
優秀な人材の確保は企業にとって死活問題
報告一週間後には、人事の企画で、全社の社員向けトレーニングが行われました。社員だけではなく、非正規雇用のスタッフに幹部も全員参加が強制で、日程の都合で参加できない人々には、後日別の日程で実施という徹底ぶりです。集合研修の他に、各チームのマネジャーは、チーム毎に最低一時間ほどのトレーニングを行いました。チームトレーニングの実施も強制で、実施したか否かは幹部に報告され、四半期末の業績評価に反映されます。トレーニングの内容は、少数派への差別とは何か、LGBTの人の権利、Bさんに対してどのように対応するか、などです。講義の一部は外部の弁護士が担当します。LGBTがいるのが当たり前の環境でも、会社側はBさんを保護するための施策を徹底的に行うのです。
この会社は知識産業に属するので、優秀な人材の確保は、会社の死活問題に値すると考えています。転職が当たり前な労働市場なので、従業員の在籍率(リテンション)を維持するのも重要な経営課題です。少数派の保護に熱心な会社は、働きやすい会社として認知されるので、優秀な人に来てもらいやすいですし、リテンションもアップします。LGBTをはじめとする少数派の保護は、会社の競争力を高めたいなら、職場としてやって当たり前のことなのです。
というわけで、Bさんが働きやすい環境を作るために「教育」されたのは、多数派の方というわけです。