早見優とライフネット生命社長が語る、同性パートナーの捉え方とは?

11月18日(金)、新橋ヤクルトホールにて開催された映画「ハンズ・オブ・ラブ〜手のひらの勇気」の試写会で、歌手の早見優さんとライフネット生命株式会社の岩瀬大輔 代表取締役社長が登壇。映画について、そして同性パートナーについて熱く語ったトークショーの模様をレポートします。

レズビアン・カップルの実話に基づく感動のドラマ

11月26日より全国順次ロードショー公開される「ハンズ・オブ・ラブ 手のひらの勇気」は、ニュージャージー州を舞台に描く実話の映画化。

仕事に打ち込む優秀な警察官・ローレル(ジュリアン・ムーア)はレズビアンであるセクシャリティは誰にも秘密にしていた。だが、ある日、レズビアンのバレーボール・サークルの練習で年の離れたステイシー(エレン・ペイジ)と出会い、結ばれる。2人は施行されたばかりの州の同性パートナー条例(ドメスティック・パートナー制度)に登録し一緒に暮らし始める。だが、ローレルは末期の肺癌にかかっていた。自分の遺族年金をステイシーに遺したいと願うローレルだが、保守的なストレート男性によって構成された郡政委員会によって却下されてしまう………

映画について、LGBTについての熱いトーク

試写会の前に登壇したお2人は、LGBTにも縁の深いお2人。

IMG_9093

早見優さんは、今年21年ぶりに発表する新曲を含むアルバム「Delicacy of Love」(藤井隆プロデュース)をリリース。そのアルバムに収録された「恋のブギウギトレイン」が国連の掲げる「持続可能な開発目標(SDGs)」のテーマソングに選ばれました。このSDGsの一項目に「ジェンダー平等を実現しよう」というセクシャル・マイノリティにとっても重要なテーマが入っています。
■参考記事
80年代アイドルレジェンド”早見優”のニューアルバムに3つのレインボーな仕掛けがあった!

ライフネット生命株式会社 岩瀬大輔 代表取締役社長

ライフネット生命株式会社 岩瀬大輔 代表取締役社長

ライフネット生命株式会社では2015年10月29日より、同性パートナーを受取人に指定可能にすると発表。また、東京レインボープライド2016、関西レインボーフェスタ2016、YOKOHAMAダイバーシティパレード、九州レインボープライド2016などにも積極的にブースを出展し、「レインボー・フォト・プロジェクト」を展開。この企画は、ブースのレインボーフラッグをバックに撮影した画像を、【①TwitterかInstagramにハッシュタグをつけて投稿する】【②会場のボードに貼りだす】のいずれかをすることで、ライフネット生命保険株式会社が100円をサポート資金として募金。集まった募金はライフネット生命の取り組みが事例として掲載されたLGBT当事者の子供に関する本の寄贈に充てられる、というものです。
■参考記事
ライフネット生命、同性パートナーも保険受取人に指定可能に
【TRP2016】東京レインボープライドに出展している企業ブースをひたすら回ってみえてきたLGBT市場への熱い期待感
YOKOHAMAダイバーシティ・パレードに感じた可能性

早見優(以下H):LGBTの”アライ”という風に今は言うんですね?私は、LGBTという言葉が今のように普及する前から、男性同士のパートナー、女性同士のパートナーのお友達もいましたので、特別に”アライ”なんだという(構えた)感じではなく、自然に捉えていました。
岩瀬大輔(以下I):昨年、渋谷区がパートナーシップ条例というものを発効したタイミングに合わせて、生命保険でも男女に限らず同性でもご夫婦と同じようにみなせる場合は扱いを同じにしようと始めました。

と挨拶されたお2人。さっそく映画「ハンズ・オブ・ラブ」の感想からトークショーがスタート。

H:ハンカチやティッシュをすごく用意して見させてもらったのですが、感動して涙する場面よりも笑うシーンのほうが結構多くて、あとは勇気付けられるシーンもたくさんあって、すごく面白い映画です。仕事をしている女性として、ジュリアン・ムーアが扮するローレルが長年相棒として仕事をしている刑事のデーンに「あなたはストレートで白人男性でしょ。あなたは私のようにものすごく闘ってきた立場ではないから分からないのよ」と言うシーンがあるんです。表面に出すかどうかはともかく、働く女性って常に闘ってきてるので、女性として共感できるなあと思いました。
I:ローレルとステイシーの2人の愛情がベースにあるんですけど、視点を変えてみると、別の作品的魅力がありました。一つは主人公を取り巻く職場の仲間たちが、少しずつ重い腰を上げてみんなで支え合い、助け合うということから得られる感動。もう一つは、動くことによって社会は変わるんだなと実感させてくれることです。これは実話なわけでこの後に法制が動いたと思うのですけど、世の中の仕組みを変えるためには、元気良く主張するやり方もあれば、ローレルのように静かに主張することで人の心を動かし、世の中を動かすこともあるんだって。ラブストーリーとしての魅力だけじゃなく、力強く社会を動かしていった一人の女性の物語としても共感できました。
H:アメリカのすごくいいところが映し出されているなと思ったのですが。社会の中で生きているとそういうことってあると思うのですが、本当はローレルをサポートしたいのだけどなかなか実行できない人もいて、でもその人たちがだんだん自分のことだけじゃなく、社会もしかしたら世界を変えられるんじゃないかって思考が変わっていくんですね。その意識が変わった瞬間がこの映画の山場だと思いました。
I:この映画の舞台ってすごく田舎の感じがしてたんですけど、ニュージャージーだったんですね。ニュージャージーってニューヨークの隣なので、千葉県や神奈川県みたいな感じなんですよ。大都会に近接したところなんですね。そしてアメリカはもっとセクシャル・マイノリティに対して理解が深いと思い込んでましたが、これ実話がベースなんですよね。それまで英雄扱いされていた方が、カミングアウトすることによって周囲の見方が変わって差別を受ける、そういう厳しい現実がまだまだあるんだなって感じました。
H:実際、ステイシーを演じるエレン・ペイジさんも2012年にカミングアウトされてますし、以前に比べると自分に素直に生きられる社会になってきているとは思うっていました。でも、この映画で描かれたローレルが訴えを起こしてから全米で同性婚が認められるまで7年もかかってるんですよね。
I:アメリカに留学してた時に、100人弱のクラスに2人ゲイのクラスメートがいまして、飲み会に恋人を連れてくるんですね「This Is my boyfriend」と言って。そういう風に身近に接していると感覚が全然変わるなと思いました。やっぱり知らないと色々な偏見を持ちがちですが、身の回りに(オープンにしている人が)いると偏見は持たなくなるので、町や環境にもよると思いますが海外の方が自分に素直に生きられる人が日本より多いのかなという気がします。

IMG_9057

続いて司会者から、ライフネット生命が昨年・2015年より始めた「同性パートナーも保険受取人に指定できる」という制度について岩瀬氏に話が振られた。

I:前例がなかったので、色々な懸念を口にする人がたくさんいました。ただ、様々な論点を詰めていったら気が付いたことがあったんです。それは、同性か異性かの違いじゃなくて、法律上夫婦じゃないってことが問題だということです。病院で診断書を出してもらおうとしても「家族じゃないなら出せません」といわれる可能性もあるわけです。ただ、実際は未婚の男女でも同居期間が一定期間あれば、内縁・事実婚でも認めていたんですね。だから、どんどん詰めていけば詰めていくほど、これは法律上の家族ではない人が「家族としての権利」を認められるか否かの問題だと気付きました。僕らとしては、それは「新しい家族の形」を選ばれた方々が「伝統的な家族の形」を選ばれた方々と同じ扱いを受けることだけなんだなと考えるようになりました。
映画の中でローレルが「何も特別な扱いをしてほしいわけじゃなく、同じ扱いをしてほしいだけだ」と言ってるのも、本当にその通りだと思いました。新しい家族の形を選ばれた方が同等の権利を受けられるという当たり前のことをしただけなんですけど、意外と金融業界は保守的なので、「金融機関が私たちの思いを汲み取ってくれるのは嬉しい」と、たくさんの当事者の方々に言われました。

保守的な街で知り合った年の差のある同性2人のラブストーリーという面はもちろん、愛する人が病に倒れた時に何ができるのかということ、同性パートナーや同性婚の必要性、保守的な考えとの対立やその打開策、職場における女性の闘い方、正義を訴えて世の中を変えていくこと、 など様々な視点で楽しみ、考えさせられる映画「ハンズ・オブ・ラブ〜手のひらの勇気」は11月26日(土)より全国順次ロードショー公開されます。

ogpimg

ハンズ・オブ・ラブ 手のひらの勇気
原題:Freeheld
監督:ピーター・ソレット
脚本:ロン・ナイスワーナー
出演:ジュリアン・ムーア、エレン・ペイジ、マイケル・シャノン、スティーヴ・カレル、ルーク・グライムス、ジョッシュ・チャールズ ほか
主題歌:マイリー・サイラス「ハンズ・オブ・ラブ」
配給:松竹 2015年/アメリカ/103分
11/26(土)より 新宿ピカデリー、角川シネマ有楽町ほか全国順次ロードショー
公式サイト
公式Facebookページ

READ  アイルランド、宗教機関などに認められていたLGBT差別禁止法の例外規定を廃止!

ABOUTこの記事をかいた人

いたる

LGBTに関する様々な情報、トピック、人を、深く掘り下げたり、体験したり、直接会って話を聞いたりしてきちんと理解し、それを誰もが分かる平易な言葉で広く伝えることが自分の使命と自認している51歳、大分県別府市出身。LGBT関連のバー/飲食店情報を網羅する「jgcm/agcm」プロデューサー。ゲイ雑誌「月刊G-men」元編集長。現在、毎週火曜日に新宿2丁目の「A Day In The Life」(新宿区新宿2-13-16 藤井ビル 203 )にてセクシャリティ・フリーのゲイバー「いたるの部屋」を営業中。 Twitterアカウント @itaru1964