ゲイと娘がノンケ男を大人に成長させる?映画「あしたは最高のはじまり」

9月9日より公開が始まった映画「あしたは最高のはじまり」。
かつて映画「最強のふたり」で強烈な印象を残したオマール・シーと、クマ系ゲイが娘を育てる映画ということで、早速初日に見てきました。
事前の予想は覆され、全く異なる感動が残ったこの作品をご紹介します。

まずは予告編をご覧ください。

あしたは最高のはじまり

少女とゲイが、ノンケ男を成長させる?
過酷な現実を最高の未来に変える方法

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■こんな人にオススメしたい

・大人になりきれない彼氏をなんとか成長させたいと願う全ての人
・(誰の子供でも)子育てに関わる人生を送りたいと願う全ての人
・過酷な人生にひるまずに立ち向かっていく方法を探している人達

■物語
南仏コートダジュールの海辺の町で、観光客向けヨットの船長として、毎日がバカンスのような気楽な暮らしを送るサミュエル。そんなある日、クリスティンと名乗る女性が現れる。前年にコートダジュールを訪れ、サミュエルと関係を持ったという彼女は、生後3か月の赤ん坊を「あなたの娘、グロリアよ」と託していく。慌てたサミュエルはクリスティンを追ってロンドンへと向かうが、クリスティンは見つからない。
言葉も通じない異国で、財布を落として全財産を失くしたサミュエルを救ったのは、彼にひと目惚れしたゲイのベルニー。TVのプロデューサーのベルニーは、サミュエルにスタントマンの仕事を斡旋し、グロリア共々居候させてくれる。
それから8年、ベルニーが製作するTVドラマをはじめサミュエルはスタントマンとして大成功し、明るくたくましい聡明な少女に成長したグロリアと2人、おもちゃ箱のようにカラフルに改装したアパートメントで楽しく暮らしていた。
ベルニーは一緒に暮らしているわけではないが、サミュエルにとっては仕事のパートナー、グロリアにとっては精神的支柱として深く結びつき、
3人はあらゆる意味で“普通じゃない”、そして誰よりも幸せいっぱいの家族でもあった。
一見、全てが順調のような3人の暮らしだが、大人たち2人が懸念しているある事態は静かに進行していた。
そして、全く音信不通だったクリスティンから突然、グロリアに会いたいとメールが届き……。

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■解説

日本では20012年秋に公開され大ヒットしたフランス映画「最強のふたり」。この作品で、偏屈で裕福な障がい者の介護人を演じて強烈な印象を残したオマール・シーの主演最新作。
命知らずの売れっ子スタントマンと、優秀なマネージャー代わりの娘、そして2人をサポートするゲイの友人。
風変わりな家族が巻き起す騒動と感動の嵐は、フランスからヨーロッパ全土に広がり大ヒット。この映画の原案となった作品はアメリカで大ヒットしたメキシコ映画、すでに5カ国でのリメイクも決定しているとのことなので、このフランス版以外の作品も今後見られるかも。

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身体能力抜群で、いくつになっても子供っぽさの抜けないヤンチャな男というサミュエルは、「最強のふたり」でオマール・シーが演じたドリスにも共通する点が多く、まさにオマールが演じるための役柄と言えそう。
クマ系ゲイを演じるアントワーヌ・ベルトランはカナダ人俳優。大ヒット映画「人生、ブラボー!」では、主人公の友人の弁護士役で有名(主人公と彼がゲイ・カップルのふりをせざるをえなくなる場面は印象深い)。舞台版「最強のふたり」がカナダで上演された時にドリス役を演じたことから、今回のキャスティングにつながったという。大成功しているTVプロデューサーという勝ち組ゲイの役を、巧みに演じて役に説得力をもたせている。

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■注目点

明るくて、楽しくて、散々笑えるのだけど、最後には深い感動が押し寄せる。
そんなハートウォーミングな人間ドラマのお手本のような作品です。

見る前は、”ノンケ男とゲイが娘を育てる”という部分にばかり注目していたのですが、そこは実にあっさりとしか描かれていません。
生後3か月の娘を抱え、言葉の通じないイギリスで立ち往生していたサミュエルが、その後の8年間で如何に娘との生活を成り立たせるための努力をし、子育てをしたのかという部分は、あっと言う間に描ききってしまうからです。

表面上は、あくまでサミュエルと娘グロリアの物語であって、ゲイのベルニーはハリウッド映画の脇役でよく出てくる”気のいいゲイの友人”扱いのように見えます。
そして、とにかく明るく楽しい夢のようなサミュエルと娘グロリアの暮らしは、カラフルなおもちゃ箱のようで現実感に乏しく、絵空事のように感じてしらけてしまう人もいるかもしれません。

しかし、凄まじい感動が押し寄せるラストまで見ると、そんな印象は一変します。
どうしてサミュエルが、夢のように楽しい毎日を作り続けてきたのか。
その事情を理解しているベルニーが、どんな想いで2人を見守り手助けしてきたのか。
表面上は夢のように楽しい毎日ですが、そこが明るく輝けば輝くほどに、その影に潜む闇の深さが見えてきます。
そして、サミュエルがその深い闇に立ち向かうには、ベルニーの助けがなくては無理だったことは想像に難くありません。

女の子は男子に比べると早熟で大人っぽいものですが、大人になりきれない父親に育てられた割に8歳のグロリアは妙に大人っぽいなあと、違和感を覚える人もいるかもしれません。
作中ではっきりとは描かれませんが、ベルニーの台詞や行動の端々に、グロリアの成長に関してベルニーの存在が大きかったのだということが感じられます。
父親が子供っぽい分、自称”母親代わり”のベルニーは娘グロリアに現実を教え込んできたのでしょう。

”ノンケ男とゲイが娘を育てる”物語という事前の予想は見事に覆されました。
この映画は、”娘とゲイが、大人になりきれないノンケ男を成長させる”物語だったのです。

蛇足ですが、男性キャビン・アテンダントのゲイ2人組が育児に妙に詳しい部分は笑えます。

明るく、楽しく、そして最後には胸熱くなること確実の人間ドラマ。
デートでも、一人でも楽しめる作品です。
ぜひ、お近くの映画館でご覧ください。

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『あしたは最高のはじまり』
【原題】Demain tout commence

監督:ユーゴ・ジェラン
製作総指揮:レティシア・ガリツィン
出演:オマール・シー、クレマンス・ポエジー、アントワーヌ・ベルトラン ほか
2016|フランス、イギリス|117 分|フランス語
配給:KADOKAWA

東京・角川シネマ有楽町、新宿ピカデリー、渋谷シネパレスほか全国順次ロードショー

公式サイト
公式FACEBOOKページ

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ABOUTこの記事をかいた人

いたる

LGBTに関する様々な情報、トピック、人を、深く掘り下げたり、体験したり、直接会って話を聞いたりしてきちんと理解し、それを誰もが分かる平易な言葉で広く伝えることが自分の使命と自認している51歳、大分県別府市出身。LGBT関連のバー/飲食店情報を網羅する「jgcm/agcm」プロデューサー。ゲイ雑誌「月刊G-men」元編集長。現在、毎週火曜日に新宿2丁目の「A Day In The Life」(新宿区新宿2-13-16 藤井ビル 203 )にてセクシャリティ・フリーのゲイバー「いたるの部屋」を営業中。 Twitterアカウント @itaru1964