無職中年ゲイが聞く、「LGBT差別禁止法」ってなに?本当にいるの?

LGBT法連合会という団体がある。
正式名称は、『性的指向及び性自認等により困難を抱えている当事者等に対する法整備のための全国連合会』である。

わかりづらい。

そのわかりづらい団体は、『LGBT差別禁止法』という法案を成立させることを目的に結成されたのだという。

また自分に関係ないとこでなんかめんどくさそうなことやってんのね、と興味ゼロでいた私無職おじさんことサムソン高橋に、Letibee LIFEから、その『LGBT差別禁止法』についてインタビューをやってほしい、とのオファーが来た。

なして私?
※元・ゲイ雑誌編集者→現・無職ゲイ中年

サムソン高橋のプロフィール

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不思議に思いながらも、興味も知識もゼロのまま、LGBT法連合会事務局長の神谷氏にお話をうかがいに行った。

「この法があるから特別になるんだ」というものではなくて「この法があるから普通に生きていけるんだ」というもの

サムソン高橋(以下:S):まず、なぜ私をインタビュアーに指名されたんだろう、という疑問が(笑)。

神谷(以下:K):(笑)まあ、法律をとりまく話ってむずかしく感じてしまうので、少しでもわかりやすくお伝えしたい、という思いがありまして。それをLetibee LIFEさんに相談したら、サムソン高橋さんが適任ではないか、とご推薦いただいたのです。

S:私みたいにぜんぜん興味ないっぽい人間にも伝わるように、てことですね。
同性婚とかパートナーシップ法とかだとキャッチーですけど、『LGBT差別禁止法』って言われても、とっつきにくいというか堅苦しいというか、「何それ?」っていう。
まず、一番基本的なことをおうかがいしますが、『LGBT差別禁止法』というのは何ですか?

K:具体的には三つ+αの法案だと思ってます。
一つは、LGBTというかSOGI(性的指向と性自認)を理由に、企業が解雇とか配置換えとか昇進取り消しとか、あるいは学校から転校させるとか、行政の窓口で拒否されちゃう、民間サービスが使えない、というようなことが起こる場合、「こういうのがダメ」っていうのは当たり前の話ですけど、きちんと「こういった差別は言語道断でやめましょう」と、行政から企業や学校に指導してもらおうということですね。
人によっては『差別禁止法』ということで「冗談も言えなくなっちゃうわけ?」ととらえられる方もいらっしゃるかもしれないですが、そういうわけではなくて、あくまで「行政」から「企業」へっていう枠の中での話であって、個々人に対して直接どうこう、というものではありません。。男女雇用機会均等法などと一緒ですね。

もう一つはハラスメントの話で、LGBTというかSOGI(性的指向と性自認)を理由にしての職場や学校でのいじめは禁止するとともに、研修をしたり、相談窓口を設けたり、実際にいじめや差別が起こった場合の対処やカウンセリングをちゃんと決めておこう、ということです。

三つめはお手洗いや更衣室の利用を含めて「これはないんじゃないか」という場合に、話し合いで落ち着き場所を探ってもらうこと。特にトランスジェンダーの課題などは、会社のほうもどう扱っていいかわからないかもしれない。そういう場合は、国が一定のガイドラインを提示しながら話し合ってもらうようにする。
あとは、地方の自治体とかで啓発・相談窓口の設置・居場所作りを行ってもらう。
いずれにせよ、この法案は個人にはかかってこなくて、行政や企業を対象としたものなんです。

S:内容をうかがうと、普通に基本的人権の問題ですよね。

K:「この法があるから特別になるんだ」というものではなくて、「この法があるから普通に生きていけるんだ」というものですね。
もちろん人というのは一人一人違うわけなんですが、「皆を一定水準の同じラインに立たせますよ」という法律だと思ってます。

S:この法案が成立すると、なんか世の中がちょっと変わったりしますかね?

K:具体的な例をあげると、居酒屋とか飲み会とかで揶揄されたり肩身の狭い思いをすることが徐々にでも減っていくんじゃないかな、とは思ってるんですよ。
僕なんかもそうですけど、LGBTだと、生活の場面場面で、パートナーのことを偽るとか、週末は何をしたかは黙っておこうとか、そういうストレスって肩こりのようにたまっていくじゃないですか。

S:それでまた週末にゲイバーやハッテン場に行って発散しなきゃいけないという(笑)。

K:朝まで騒がなきゃやってらんない、っていう(笑)。
例えば、セクハラに関する法律ができたことで何が変わったかっていうと、「それってセクハラですよ」って言えるようになったことですよね。抑止力ができた。
我々がいちいち言わなくても、法律ができることによって、非当事者の人からも指摘が入る状態になるし、そういう発言をする側にも自覚ができる。この法律でも同じことが期待できると考えています。

S:そう考えると、同性婚とかよりも身近な問題ですよね。法律が制定されることによって、当事者じゃない人の意識も変えていこうという。

K:そういうのが進んでいくと、結果的にカミングアウトしやすい社会になるかもしれません。
もちろん別に「カミングアウトしなきゃいけない」という無言の雰囲気ができることもないんですよ。あくまで「しやすく」なるだけで、強制されるわけではない。
なにかしなきゃいけない、というよりは、この法案が成立することによって周り(非当事者)も含めて変わっていくといいなあ、と思います。

S:リブ的じゃなくても、当事者も当事者じゃない人も含めて、普通の人の意識をちょっとだけ変えていく。

K:誰もがカミングアウトできるわけじゃない。そういう人ばかりじゃない。
もちろんそういう人が切り拓いていったものは大切だけど、皆がそういう状況にあるわけではない、でも法に守られればちょっとは安心かな、と。
「週末は会社の飲み会かあ……」という暗い気持ちが、ちょっとだけでも気楽になったら、と思います。

S:デメリットはというと、言葉狩りみたいに規制が激しくなっちゃうんじゃないかな、というのがあると思うんですが。

K:セクハラが法規制されたときもそういう意見はあったんですけど、もちろんあまりにみんながどうかと思うような冗談とかは無くなったと思うんですけど、別に言葉狩りとかいう感じにはなっていないですよね。法が制定されてそれが今では当たり前で、少しは生きやすい世界にはなっているわけで。
そういう感じを目指してるんですよ。理解を進めることと差別を無くすことは両輪なんです。
法に定められていたり、どこかに書いてあると、「あそこに書いてあるからダメだよね」というのが「普通」の人の意識の中に入ってくる。
そのうえでお互いより良いコミュニケーションを得ることができるんじゃないかと思いますね。

「時代がそのうち」なんて言ってると、「いつまで待てばいいんだ!」ということになっちゃう

S:具体的に政治の場ではどのへんまで進んでるんですか?

K:もしかしたら臨時国会内で法律が成立するんじゃないか、というところまできているんですよ。
前国会では、法律案が詰めに入りそう、というなんとなくの見通しがあったんですけど、いろんな議論があって、参院選もあって、この秋に持ち越しになりました。秋の国会では与党も何らかの法案を出すと言われており、野党案も前の国会に出たものが継続審議中なんで、最終的にどういう形になるかはわかりませんが、何らかの形で成立していく可能性は少なくないと思います。
法連合会が、参院選挙前に各党に対してとらせていただいたアンケートでは、私たちが思っていたよりも、各党積極的な回答になっていて、そういう意味でも可能性は高いと思います。

S:与野党で温度差はあります?

K:入り乱れてるんですよ。
公明党さんは民進党さんと遜色ないくらい積極的で、細野さんが「選挙の時だけなのだとは思うが、公明党が舵を切ったのであれば、参院選後、しっかり対応してもらおう」なんてツイートをするくらい(笑)。
自民党さんは慎重で、ラインを探っているという感じでしょうか。
だから、最終的に法律がどういう形になるかはまだはっきりしていません。

S:LGBT差別禁止法は海外の国では制定されているところも多いと聞いたんですけど。

K:EUの国ではすべてありますね。逆に、EUに加盟しようとしたらそういう法律が無いと加盟できないんですよ。

S:日本としても将来的にはそういう法律を制定しないといけない流れなんですね。

K:東京五輪開催自体への是非もあるかと思いますが少なくとも現段階で、これから五輪や海外からの観光に力を入れていこうという中で、そういう法律が無いと日本が損な思いをするかもしれないですね。

S:そういや最近、企業のほうからもLGBTと一緒に生きていこうみたいな取り組み方針があったじゃないですか。30社がそういう基準指針を発表したという。

K:そういう取り組みは重要で、色んな企業が制度を導入すると、国も法律として必要だよねという流れにもなりやすいわけです。企業がそういう基準や指針を掲げるのは素晴らしいけれども、皆がそういう場所で働けるわけでもないので、企業の取り組みを見ながら実際の法律に反映させていくのも必要だと思います。

S:その30社を見たときは大企業様ばかりで、正直「こんなとこで働ける人間ばかりじゃねえよ」と思ったんだけど(笑)、時代が進んでいけばそのうち裾野まで意識が広がるんじゃないかという意味では、まずは大企業でそういう取り組みがあるのもいいことなんだろうな、と思うんですが。

K:ただ、緊急性を要する場合もあるんですよ。そういう流れを加速化する部分では、法の整備はなんらかあったほうがいいと思うんですよね。「時代がそのうち」なんてことを言ってると、「いつまで待てばいいんだ!」ということにもなっちゃう。
選択肢が無いってのがやはり困ることだと思うんですよ。
LGBTを平等に扱っている立派な企業で働きたいと思っても、全員がそうできるものではないわけです。そういう大企業に勤められないと安全に働けないのか、という。もちろん企業の取り組みも必要だけど、それだけじゃないですからね。
あと、……カップルの話も重要だけど、それだけじゃないでしょ?

S:(笑)確かに! 30の企業の指針はカップルに向けての取り決めが多かったんですよね。同性婚の祝い金や福利厚生とか言われても、俺としては「そんなもんどうでもいいよ!」とかってなっちゃう。

K:(笑)福利厚生の話は具体的だしわかりやすいけど、もっと広く見てもらいたいという気持ちもありますよね。

S:同性婚とかパートナーシップ法とかだと当事者の賛成反対も含めて盛り上がりやすいですけど、確かにもっと身近な問題ですよね。

派手じゃない日常生活の片すみで生きていても、少しは楽になれる場所を一緒に目指そう

S:LGBT法連合会さんはこの法律のために設けられた団体なんですか?

K:そうです。去年の4月に結成されたんですけど、それまで個人やいろんな団体でそれぞれ政治的に働きかけてたんですよ。しかしそれがわかりづらい、一本化してほしいということで。
やっぱり集まっているほうが強いんですよね。そういう形じゃなく、あっちこっち向いてると、都合のいいように、いいとこ取りならぬ悪いとこ取りで処理されちゃうこともある。
そういう意味で窓口を一つにまとめてやっていくというのは、政治の場では大切ですね。

S:セクシャル・マイノリティってみんなで集まってひとつの目標に向かって、ていうのが基本苦手ですよね。それもいいことだとは思うんだけど。

K:基本みんながバラバラで自由なのはいいと思いますし、もちろんガチガチに一致する必要はないですけど、政治の場で意見が認められるためには多少意見をまとめたほうが通りやすくなると思います。
あと、我慢するのはもうやめたいかな、と。僕の周囲には意外と謙虚な人もいたりするんですよね。私たちにお金を使うぐらいだったら別のことに使って、とか言っちゃったりすることもある(笑)。

S:ひとりひとりはみんなわがままだったり図々しかったりするけど、『LGBTの権利』とかになると確かに消極的ですよね。「うちらはいいわ」とか。

K:もうちょっと図々しくならないと。それこそ、ある意味で、臆面もなく図々しい主張をしてる団体はいっぱいいるわけですよ。そういう団体は山と永田町霞ヶ関にいつも殺到している。いわゆる左右を問わず、昔から、ずっとです。そこでうまく、手練手管で?(笑)、意見を通せる人が最終的に政策を実現するシステムになっている面もあるわけです。
そんな中で「うちらはいいわ」なんて言ってると、どんどん順番が後にまわされちゃうし、ひどい話、永遠に回ってこないかもしれない。

S:よく言われるのが、「日本はLGBTに対してそんなに迫害したり優しくない国でもないから、今のままでいいんじゃない?」という意見があるじゃないですか。

K:ただ、日本には『世間様』という恐ろしいものがあって(笑)、同調圧力というか、みんなと一緒じゃないといけないというプレッシャーがあるんですよ。そういうのにあきらめたり我慢してたりという現実があると思ってるんです。
そういうのを我慢しなくてもいいんじゃないか、もうちょっと自由に、気楽に生きて行けるようになってもいいんじゃないか、と思うんですよね。

S:日本だとゲイリブに対する内部からのアンチな意見って絶対出るじゃないですか。それについては?

K:今までの運動も先人たちの積み重ねで、素晴らしいものだったと思いますが、今回の動きがこれまでと異なる部分があるとすれば、例えばカミングアウトに関するところもかしれません。カミングアウトというのはもちろん重要なことだと思うんですよ。

それを表明して世の中を変えていくってのはカミングアウトの重要な側面です。その一方でそんなもの簡単にできないという人も、それはそれで実情だと思うんですよ。だからそういうことを強制もできない。
そういうことをしなくても生きやすくなるというか、日常生活の片すみで細々と生きていても、それでも少しは楽になるという場所を一緒に目指そうよ、というのがこれまでとは違うところかもしれませんね。

S:この法案は日陰のゲイにもすごく役に立つぞ、ということですね。今、なんで私が指名されたか、ものすごく納得できました。

K:(笑)LGBTに対して「こうあらねばならない」というのはまったくないんで。
普通の生活の中で、ささやかでいいから、生きやすくなったらいい。そう願う人に対しての法律なんです。

LGBT法連合ウェブサイト
LGBTsite 

このインタビューは一橋大学のアウティング転落事件が発覚する前に行われたものである。
私のめんどくさがりと遅筆で盛大に遅れてしまったのだが、インタビュー起こしをして記事にまとめる際に頭に浮かんでいたのは、やはりあの事件だった。

「時代が進んでいけば、そのうち」と私が言ったら、神谷さんが即座に「それでは遅い場合もある」と否定された。

あの悲劇が起こった最大の要因として大学の対応がまずかったことがある。
LGBT差別禁止法がもっと早く成立していたら、あの事件は未然に防げた可能性が非常に高い。

この法案が今国会で成立するか、見守りたい。
もし成立しなくても、この問題に興味を持ち続けることが一番大切だ。

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