薬だけではない、うつ病治療の手段としての「認知行動療法」
今月はじめに「LGBTに多い”うつ病”とその対処法」という記事を書きました。
うつ病と言うと、薬がたくさん処方されて薬漬けになるというイメージが広がっています。症状によって生活や身体に影響が出てきた場合は、薬を使って脳の神経細胞に働きかけて改善を図り、場合によっては抗不安薬や睡眠薬なども合わせて処方される事もあるので、薬を処方する事が全て悪いと言う事ではありません。
現在広く使われている抗うつ薬であるSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)は副作用が少ないですが、服用を始めた時や量を増やした時などに、不安や不眠、イライラやパニック発作など「アクチベーション・シンドローム(賦活症状)」と呼ばれる様々な症状が出る事があります。こうした事から「うつ病患者=危険な人」という悪いイメージが植えつけられてしまい、セクシュアルマイノリティで精神疾患を抱えている当事者は大変苦しい日々を過ごしています。最近は薬を増量したり新たな薬を足したりという治療について疑問を持つような流れもあり、薬物療法だけではなく心理療法のひとつである「認知行動療法」が注目されています。
認知行動療法とは
認知行動療法とは、「認知」と「行動」を変える事で辛い気持ちを軽減するやり方です。抗うつ薬は脳に働きかけますが、認知行動療法は精神面に働きかけます。性格を変えるわけではなく、あくまで抑うつを引き起こしやすい考え方の癖を直すというものです。薬物療法だけでは回復を実感できなかったり、薬をやめて再発する事が多々ありますが、そこに認知行動療法を併用する事で、症状の改善だけでなく再発予防にも繋がります。2010年より保険適用となり、うつ病患者は16回までは保険が利きますが、専門的に認知行動療法を行っているかどうかは医療機関によるので事前に確認が必要です。もし現在通院中でそこで認知行動療法を行っていない場合は、主治医や地域の保健福祉センターなどに聞いてみましょう。
それではこの療法で変えようとする「認知」と「行動」とは具体的にどんなものでしょうか。
認知=ある事象をどう感じ、理解するか
「認知」とは物事の捉え方の事です。何をしてもうまくいかないという認知を持っている人は、少しの間違いでも「自分はもうダメだ」と思ってしまいます。その流れをひとつの例から考えてみましょう。
「ゲイの友達に今朝メッセージを送ったが、夜になった今でも反応が無い」
出来事は些細な事であっても、先に書いた認知を持っている場合、ひどく落ち込んでしまいます。同じ出来事でも人それぞれに認知の形があり、忙しいから返事ができないのかもしれないと思う人もいれば、どうして早く返事をよこさないんだと相手へ怒りが向いたり、私が変な事を書いたからきっと呆れているんだと思うなど様々なものがあります。
行動=認知に準じて発生したアクション
落ち込みやすい「認知」を通って、「行動」に反応が出ます。その友人には自分からメッセージを送らないようにする、嫌な事をされたと他の友達に愚痴を言う、もう縁が無いだろうと相手の情報を削除したりブロックするなど様々な行動に出てしまいます。これも認知の違いによって生まれるものです。
また行動は感情に繋がっているので、気分が沈み部屋に閉じこもっているとさらに落ち込んでしまい、活動量が下がってしまい、さらに憂鬱な気分になりがちです。認知と行動、そして感情は密接な関係にあります。そこで苦しい感情を軽減したり取り除いたりするのが認知行動療法を行う目的です。軽度から中等度のうつ病であったり、急性期など症状が悪化している状態でなければ、書籍やネットなどを見ながら自分で行う事もできます。病院にはまだ行っていないけれども、落ち込みやすかったり不安を感じやすい人が、自分の思考パターンなどがわかり気持ちを改善していく方法として使えます。
単なるポジティブシンキングではなく、自分の”考え方の癖”を客観的に認識する
ポジティブに物事を考えるのと似ていると思われがちですが、一般的に言われるポジティブシンキングとはあくまで主観的であり、自分の考えが先行してしまいます。認知行動療法はそう考えてしまう根拠などをしっかりと検証していくので、客観的であり長く気持ちを安定させる効果があります。また、育った環境やトラウマなど過去という深層心理に焦点を当てるものとは異なり、認知行動療法は現在にフォーカスを当て短期間で問題を明確にしやすい療法です。LGBTについてまだ理解が足りず、生きづらい部分がたくさんあります。それを改善していく事は勿論大切でこれからも続けなければいけませんが、認知行動療法を取り入れる事で同じ出来事であっても落ち込み続ける事が減ってきます。自分自身の気持ちも合わせて改善し、実り多いLGBTライフをお過ごしください。
もしこの記事を見て気になった方は、認知行動療法についての説明やアドバイス、資料などが書かれているサイトがありますので、参考にしてみてはいかがでしょうか。
日本認知行動療法学会
URL:http://jact.umin.jp/