「結婚して子どもを作りなさい」
僕も母から言われたことがあります。女性と結婚して子供を作れば幸せに暮らせると。子供ができたら、離婚すればいいのよと母は孫欲しさに僕に言いました。
僕は8歳の時に父を亡くし、その後父の急死にショックを受けた母も病気がちになり、父を亡くしたと同時に母をも亡くしたように感じていました。でも、人生とは不公平なもので何が起きようとそのまま進んでいくのです。父がいなかろうと、母が入院していようとそんなことはおかまい無しに時は進んでいくのです。小さいながらに僕は自分の人生は自分でどうにかしないといけないだと悟ったのを今でも覚えています。
早くに父を亡くし、母も入院する事が多かったため、僕は「幸せな家庭」というものに人一倍憧れがあります。母が孫を欲しがる以上に僕も自分で「幸せな家庭」を築きたいという思いは人一倍強かったと思います。その憧れをも押しつぶして、僕がゲイである事を隠して女性と結婚をしなかったワケが3つあります。
1. 相手の女性に失礼であること
僕は高校留学中に一度女の子と付き合った事がありました。彼女は大阪からアメリカへ留学に来ていました。可愛いというよりは、スラリと背の高い綺麗という言葉の方がしっくりくるような女の娘でした。僕は一目見て綺麗だからきっとお高くとまっていて、性格が悪いんだと勝手に決めつけ、最初はあまり近寄らなかったのですが、話をしてみると大阪弁がとても似合う気取らなくて、明るいとてもいい子だった事に驚き、その後はとても仲良くなりました。そして、彼女と一緒に過ごす時間がとても楽しくなり、時間が許す限りよく一緒にいたのを覚えています。そして、しばらくして僕たちは付き合う事になりました。
僕が初めて好きになった女の子が彼女でした。彼女となら、もしかしたら憧れ続けた「幸せな家庭」が作れるかもしれないと思いました。彼女の事が本当に好きでした。でも、僕は彼女のコトをずっと好きでいられるのかがとても不安でした。今は彼女の事が好きだけど、きっと結婚して何年かしてしまえば、僕はまた男性を好きになってしまうかもしれない。その時、彼女はどうするのだろうか?僕はずっと彼女を騙し続けて、影で他の男の人と浮気をするようになるのだろうか。騙され続ける彼女の気持ちは?彼女の幸せを僕が奪ってしまう事になるのではないだろうか?僕と結婚しなければ、きっと彼女は他の男性と結婚してきっとその人は浮気もせず、心から彼女を愛し、彼女が望む幸せがそこにはあるのではないだろうか?僕と結婚する事で、その幸せを彼女から奪ってしまう事になるのではないだろうか。いろいろな葛藤がありました。
そして、僕の出した結論は…彼女との別れでした。
僕には彼女を幸せにできる自信がなかったし、彼女を愛し続ける自信もなかった。でも、彼女の事は本当に好きだったからこそ、彼女には幸せになって欲しかった。別れる事は僕も彼女も辛かったけれど、これが将来のためだと思い、僕たちは恋人から友達に戻る事にしました。
留学先のアメリカから日本へ戻り働き始めて、3、4年が過ぎた頃、彼女から結婚する事になったと連絡をもらいました。そして、結婚式にも来て欲しいという連絡を頂きました。僕が行っていいのだろうか、とも迷いましたが、他の高校の同級生の男友達も出席するという事なので結婚式にも出席しました。彼女の幸せな姿を見て、嬉しい反面、胸が強く締め付けられるような悲しい気持ちにもなりました。それは、僕には手に入れられない幸せがあったからかもしれません。でも、それ以上に彼女の幸せそうな姿を見て、あの時別れたのは間違えではなかったと実感しました。その後も、子供が1人生まれ、ついこの間は2人目が生まれたと連絡をもらいました。彼女が幸せに暮らしているという事を、今では心から嬉しく思います。
2. 親の幸せより自分の幸せがまず重要だから
母が、僕に日本で女性と結婚をして欲しいと訴える最大の理由は孫が見たいという理由からでした。大抵の親は孫が欲しいために結婚をしろという事が多いのではないでしょうか。ですが、僕は母にこう告げました。
「僕の人生はお母さんを幸せにすためにあるのではない。僕が幸せになるためにあるのだと僕は思っている。お母さんが孫ができないから不幸だと感じのであれば、それは僕の問題ではなく、お母さんの中にある問題で、それを僕のせいにしないで欲しい。」
「僕だって、自分で選んでゲイになったわけではない。なれるものなら異性愛者になって、女性と結婚して幸せに暮らしたいと思う。その方が何倍も楽で、楽しく暮らせるとも思う。でも、それは僕にはできないし、嘘をついて女性と結婚もできるが、それはその女性にとても失礼な事だから僕はしたくない。僕も精一杯生きていて、精一杯幸せになろうと努力をしている。目先の幸せではなく、本物の愛のある家庭を築こうとしている。それには時間もかかるし、労力も必要。だから、僕達が一生懸命生きている姿を見守っていて欲しい。」
それから、母は何も言わなくなりました。
そして、僕達(僕とパートナーです)も将来子供が欲しいと思っています。今、海外ではゲイカップルでも子供を持つ方法がいくつかあります。養子を取ったり、レズビアンカップルと一緒に子供を作ったり、代理母を利用して子供を産んでもらうなどといった方法があります。僕たちが日本からドイツに移り住んだ理由の一つは、ゲイカップルとして子育てをする環境が日本にはまだないからというのもありました。少しづつではありますが、一歩ずつ着実に、僕は自分の思い描いた未来像へと近づいていると思います。それを、母には見ていて欲しいと思っています。そして、いつか新しい形の幸せな家族を見せてあげたいと思います。これが僕たちが育んだ本当の幸せの形だ、と。
3. (偽装結婚する人は)本当の愛を知らないと思うから
ゲイの人の中には、ゲイであることを隠して女性と結婚をする人がいます。それはそれで一つの生き方であると僕は思いますが、それは浮気をしなければの話であり、女性と結婚するのであれば、最後までその女性一人を愛し続けて欲しいと思います。ですが、ゲイである限り男性が好きなわけで女性と結婚したところで欲望は満たされることはありません。そのため、当然浮気という行動に出ます。それが問題だと僕は思います。その事は自分がゲイだということに結婚前に気づいてさえいれば誰でもわかることで、その上で結婚を決めるというのはとても自己中心的な考え方であり、女性を軽視していると僕は思います。なぜそのような考えを良しとできるのか僕にはとても理解ができません。
誰かを愛する事とはその人の事を一番に考え、自分の命でさえも犠牲にできるのが愛だと思います。だから、人は愛する人ができた時に強くなれるのだと思います。それを考えると、彼氏がいるのに、カミングアウトさえできずに自分の見栄のために女性との結婚生活を続けている事は、本当の愛を知らないのではないかとさえ思ってしまいます。でなければ、愛する人をそのように扱う事はできないはずだからです。きっと、そういう人は本当の愛を知る事はできないのではないのでしょうか。
偽装結婚は人を騙している
僕は女性と結婚をしているにも関わらずゲイだと言う人が嫌いです。とても卑怯な生き方だと思います。自分のしている事で沢山の人が傷ついてもなんとも思わないのだろうか、好きな人を裏切りながら毎日生活をしていて良心が痛まないのか、僕には理解ができません。人間は物事に必ず順位をつける生き物です。奥さんか彼しかのどちらかが必ず一番なのです。その一番の人と結婚をするか、一緒にいると決めればいい事なのです。自分の都合や見栄のために人を騙して生きるなんて最低だと私は思います。
親に孫を見せたいから、女性と結婚して子供を作り、奥さんを騙して、影で彼氏を作り欲望を満たす。たくさんの人を傷つける生き方だと思います。彼氏もそうですが、奥さんも事実を知ったらとても傷つくと思います。そして、お子さんはどう思うのでしょうか?なぜそこまでして親の理想の息子になろうと思うのかが僕には理解ができません。それは自分の人生を生きているのではなく、親の理想の人生を歩もうとしているようにしか僕には思えません。親に認めてもらいたい気持ちはわかるけれど、だからと言って嘘をついて人を騙して生きていくのはどうかと僕は思います。
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