ゲイフレンドリーなしらかば診療所インタビュー「生バックした?」とカジュアルに質問される〜後編

新宿三丁目から一駅、曙橋駅から徒歩5分の「しらかば診療所」
今回は性感染症(STD)を専門に、精神科なども備え、ゲイフレンドリーな診療所の院長 井戸田一朗先生にお話を伺いました。
(こちらは後編になります)

前編はこちらから

Q.STDに関して、実際の知識と世間の認識で乖離していると思われる部分はありますか?

itoda_docter_icon井戸田院長:まずですね、人の考えを一般化することは出来ないんだけれども、HIVというのは、ある程度治療法が確立されて、そんなに大変な病気じゃないという意識を、多かれ少なかれ、みんな持っていると思うんだよね。あまり怖がりすぎるのもまた違うのだけど、HIVの予防に関して、ちょっと気が緩んできているんじゃないかな、という気がします。HIVというのは、ホントに大変な病気なのに、そこがちゃんと伝わってないな、という風に思います。

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外山:なるほど。

itoda_docter_icon井戸田院長:みんな、随分知ってるはずじゃないですか。ゴムなしでやれば、HIVに感染する危険性があることも、他の性感染症のリスクがあることも。やっぱり声を大にして言いたい。HIVというのは、そんなに簡単な病気じゃない。しっかりと薬を飲んでいても、老化が早い、若くして癌や認知症にはなる。知ってる?HIV持っている人は肛門癌や悪性リンパ腫(リンパ節の癌)になりやすいんだよ。みんながリラックスするような、そんな簡単な病気じゃない。

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外山:だから先程、バランスについて仰られたと思うんですけど。気をつけなきゃいけないんだよ、という所と、とは言え、気にしすぎてノイローゼみたいになっちゃってもどうしようもないよね、ということだと思うんですけどね。

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井戸田院長:メディアでどういうメッセージを流していくかということだろうね。

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外山:まさにそうだな、と思っていて。広告とかでも、どちらかと言うと、予防に関する情報のほうしか流れてこなくて、感染した後のことがなかなか流れてこない。

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井戸田院長:うんうん、そうだよね。リアリティを伝えていく必要があるんだと思う。

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外山:どういう風に伝えていくのがいいと思いますか?

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井戸田院長:むしろ教えてもらいたいくらいですよ。そういうハイリスクな行動をとる人たちがアクセスするような出会い系でメッセージを配信するだとかさ。

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外山:なるほど。最近は、ゲイ向けの出会い系アプリでもトップページで、検査の必要性を訴える広告がよく出ていますよね。あるゲイ・バイセクシュアル向けの調査で、その調査を受けると、ゲイのイラストレーターさんの画像がもらえるというキャンペーンがあって。よくSNSなどで使っている人を見ますよ。

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井戸田院長:あ〜面白いね。それは面白い。

Q.STDに関して、気をつけるべき重要なことはなんですか?

itoda_docter_icon井戸田院長:私は諦めることが嫌いな性格なんですが、そんな私でも、人の行動を変える事は、ホントに難しいと、二十年医者をやっていて実感します。リスキーなセックスからセーファーなセックスにね。期待はするんだけれども、やっぱり、どうしてもね、出来ないって人もいるんだよね。ゴムを付けられない、仕事してるとストレスがいっぱい溜まるからね。精神的にも追い詰められちゃったりすると、生でセックスでもしないと、もうスカッとしない、と言うかさ。
そういう人たちっているし、私もそこに関して否定は出来ない。ただ、少なくとも検査を定期的に受けて頂きたい。ゴムなしでやってしまう人だと、少なくとも半年に一回、そうじゃない人は、年に一回、今すごく流行っている梅毒も併せて検査を受けて頂きたい。あとは、気になる症状があったら、早めに医療機関に来て相談して頂きたい、という事ですね。

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Q.最後に皆さんに一言お願いいたします。

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井戸田院長:二つあるんだけども。

 

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外山:はい。

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井戸田院長:ひとつは、まあ、みんな、やっぱセックスしすぎじゃないだろうかと。

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外山:しすぎ。

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井戸田院長:しすぎ。

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外山:しすぎ、と。

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井戸田院長:そう、しすぎ!
セックスで得られる快感もあるけども、「やりすぎ」ですり減らしてるものも、あるんだよね。それは、自分や相手の健康だったり、相手への思いやりだったりとか。まずは、そうだね、セックスしすぎかな。だから梅毒もこれだけ流行る。

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外山:なるほど。

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井戸田院長:二つ目は、医療資源が限られているっていう事を意識していない人が多いんじゃないかな、ということ。自分の好きな時に、医療機関に行って、当然、自分の必要な欲しいサービスを受けるのが、自分の権利だと勘違いしている人たちがいる。そうじゃないよね。医療資源って限られていて、もっと困っている人もいれば、そうでない人もいる。例えば、身障者手帳の高い級数が欲しいから、今は治療を始めたくないとか。それによって、あなたの寿命が短くなるだけならともかく、治療を遅らせることでより多くの合併症に苦しみ、将来あなたが必要とする医療資源はどんどんかさむ。ルールを守って病院に受診して欲しいし、日頃から自分の健康管理をして頂きたい。病院だけが医療の現場じゃない。HIVの有無に関わらず、自分で日頃から、気を付けてセックスをするだとか、検査を定期的に受けるとか、より健康的な生活を心がけるだとか、という事も日頃からできる医療の一つです。

 

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外山:日常の生活の中からすでに医療の現場は始まっていると。

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井戸田院長:HIVの治療というのは、公的な医療制度を使うわけじゃないですか。莫大な医療費がかかるわけです。HIVの治療に一人当たり、実費で一生の間におよそ一億円かかるんですよ。ほとんどが、健康保険と地方自治体の財源によって賄われるわけ。それは血友病の患者さんが命を張って国を相手に闘ってくれたお陰なんですよね。
ほとんどのHIVを持っている人達は、頑張って社会生活を送りながら、税金も沢山納めて、ルールを守って、病院に通ってきてくれていると思う。でも、一部に、医療は限りがある資源だと意識しない人達がいて。今後は生産人口がどんどん減り、健康保険料や税金を納めてくれる若い人たちが減るだろうから、ますます全体のパイは少なくなる。「医療や社会資源は、自分の思うままに使える」それが当たり前と思っているのなら、そうではない、という事を伝えたいですね。

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外山:なるほど。

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井戸田院長:我々はこれまでテレビや雑誌なんかにも取り上げられてきたけれども、アンテナショップみたいな役割じゃないかなと思っています。しらかば診療所自体が、我々が提供する医療を、必要としている日本の全てのセクシュアル・マイノリティに届けることはできないし、もちろんそう望んでいない人たちもいるでしょう。
だから同じようにセクシュアル・マイノリティフレンドリーな医療を提供してくれるところが増えるといいなと思います。もちろんそれはセクシュアル・マイノリティ専門である必要もないし、もっと言えば、セクシュアル・マイノリティに対して別に共感しなくてもいいと思うんです。普通の町の先生方が、普通にセクシュアル・マイノリティの人たちにも、他の患者さんと同じように接して、同じような医療技術を提供してくれれば、それでいいと思うんです。
いずれ、我々のようなクリニックが無くても良い時代が来る事を、私は希望しています。

 

yuta_icon外山:ありがとうございました。
セクシュアル・マイノリティの人が通いやすいように、と隅から隅まで設計された「しらかば診療所」
ぜひ一度検査にも訪れてはいかがだろうか。

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保険医療機関 指定自立支援医療機関
しらかば診療所

院長:井戸田一朗先生

内科:一般内科 感染症内科 HIVおよび各種STD検査・治療 ワクチン接種
形成外科・皮膚科:一般皮膚疾患 感染症に伴う皮膚症状 小手術
精神科:一般精神科 心理カウンセリング(要予約料)

〒162-0065 東京都新宿区住吉町8-28 B・STEPビル 2階
(都営新宿線曙橋駅 徒歩3分)
TEL 03-5919-3127
FAX 03-5919-3137

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