ゲイフレンドリーな「しらかば診療所インタビュー「生バックした?」とカジュアルに質問される〜前編

しらかば診療所2

新宿三丁目から一駅、曙橋駅から徒歩5分の「しらかば診療所」
今回は性感染症(STD)を専門に、精神科なども備え、ゲイフレンドリーな診療所の院長 井戸田一朗先生にお話を伺いました。

Qしらかば診療所のコンセプトを教えてください

itoda_docter_icon井戸田院長:しらかば診療所はセクシュアル・マイノリティの人が来やすいような身近な診療所をめざしてます。

yuta_icon外山:なるほど。逆にHPなんかを見ると、はっきりとそういった文言を書いていない印象だったので、むしろセクシュアル・マイノリティだけに特化している、ではないのかと感じました。それよりも、男性二人の写真など、見る人が見ればわかるようにされている印象を受けました。

itoda_docter_icon井戸田院長:いいところに気づいてくれたね〜!そうなんです。実際は私自身がゲイで、STD(Sexual Transmitted Disease = 性感染症)の専門家でもあり、セクシュアル・マイノリティの方が気軽に来れる診療所を目指しているんだよね。しかし、ストレートの人が見えるところでそういった直接的な表現をすると、「この診療所に行ってばれてしまうといやだな」と思う人がいるかもしれない。だから、直接的な表現は避けています。

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外山:なるほど。日本の社会に対してはオープンにしていないけれど、見る人が見ればわかるようにしているんですね。

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井戸田院長:そうそう。そうしたサインを散りばめてるんですね。実際の広報としては、LGBT、特にゲイの人たちの多く集まるところやゲイメディアなんかで取り上げてもらったり。

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外山: aktaなんかにも置いてありますもんね。

itoda_docter_icon井戸田院長:そうですね。aktaさんはもちろん、ゲイバーにもポスターを貼って頂いたり、漫画家の歌川さんにも広報をお手伝いしてもらいました。

yuta_icon外山:そうすることで、ゲイの人たちに広く広報していきながら、ストレートの人たちには悟られないように、分けて広報されているんですね。

itoda_docter_icon井戸田院長:そうそう。そうすることで、結構バランスのとれたものが出来上がったんですよね。

Qしらかば診療所をどういう思いで作ったのか教えてください

itoda_docter_icon井戸田院長:それはちょっと話が長くなっちゃうんだけれど。AGPていう、団体があるんですね。「アソシエイション・オブ・ゲイプロフェッショナルズ」の略なんだけれども。これね、20年近くになる団体で今もあるんだけれども、ゲイやレズビアン当事者の、医療従事者とか、教育・福祉関係の人が集まって、当事者のために、何か出来ることはないだろうか、という事で始めた団体なんですね。

で、この団体で、セクシュアル・マイノリティのための①メンタル②身体に関する無料電話相談というのをやっているんですね。そうするとさ、STDや何かの病気の症状があるのに、自分がゲイということがばれるのが怖くて、病院に行けないっていう人たちが割といたんですね。

ですが、当時、安心して紹介できる医療機関というのが無かったんだよね。自分たちも若くて。その時、海外の医学雑誌で、アメリカのボストンにある、フェンウェイ・コミュニティ・ヘルスという、セクシュアル・マイノリティと地域のための医療機関の話が載っていた。1971年にボランティアの医学生3人がゲイのための夜間クリニックを始めてから、30年間で大きな機関に成長したという記事をみてね。実際に見学に行ってみて、日本でもやってみようという話になったんですよ。

yuta_icon外山:それがだいたいいつくらいの時だったんですか?

itoda_docter_icon井戸田院長:それが2001年の頃ですね。そして、その6年後、自分たちのキャリアを積んで2007年にやっと手探りで開業できたのが、このしらかば診療所です。その6年間の間にもいろいろ感じたことがあったんだよね。

東京女子医大でHIV診療を担当していたんだけれど、患者さん、女子医大なんかに来ると、もう一日がかりなわけですよ、ホントに。病院来るために、仕事休んで。

yuta_icon外山:なるほど。

itoda_docter_icon井戸田院長:それも、会社に苦しい言い訳をして、有給貰える人は貰って、貰えない人は何とかやりくりして病院に来ると。そのためだけに、1日をかけて女子医大に来てくれるというのも、ホントに大変だな、と思っていて。それよりも、夜間だとか、土日だとか、もっとみんなが通いやすい時間に、もっとHIVに関する医療を身近に提供すべきじゃないかとずっと思っていて、それを実現させたかったというのもありますね。

しらかば診療所1

Q簡単なしらかば診療所の(サービス面での)特徴を教えてください

itoda_docter_icon井戸田院長:ここはですね。
①複数の専門医による診察
②休日と夜間が主な診療時間帯
③メンタルヘルスを重視している
というこの三つが特徴的でしょうか。

①の複数の専門医による診察に関しては、例えば、形成外科・皮膚科は、形成外科の専門医が担当し、精神科は、精神科専門医が担当する、と。それぞれのエキスパートが、それぞれの科を担当している、というクリニックですね。

②に関しては、エイズ拠点病院とタッグを組んで、平日・夜間・土日の診療をやっています。

yuta_icon外山:土日や夜間の診療はカレンダー通りに働いてる人には嬉しいですよね。

itoda_docter_icon井戸田院長:そのために遠くから来ているという人もいますね。

yuta_icon外山:特にSTDの三種検査パック(HIV・梅毒・B型肝炎の三種セット税込3,780円)が非常に安く、それを利用する方が多いように思いますが、いかがですか?

itoda_docter_icon井戸田院長:これもね〜 (笑)

yuta_icon外山:これすごいですよね。友人では同じ三種類を受けて、別の病院で2万円程度かかったと聞きました。

itoda_docter_icon井戸田院長:うーん、そうなんだよね。まずさ、私が、前々から思っていたのは、病院でエイズの患者さんを診てきたんだけども、有効なHIVの治療薬が出てきたと言ってもね、HIVの発見が遅れて発症して、病院に担ぎ込まれて来た場合、ホント悲惨な亡くなり方をした方々を見てきて。で、その人たちがそんな状態になる前に、HIVが分かっていれば、恐らく今も、社会生活を送れていた可能性のある人もいるんだろうな、と。どうしてHIV検査をそんなになるまで受けられなかったんだろうと。

考えるとさ。まず、その検査が身近に無いんですよね。都内の保健所だって、勿論、無料匿名だけども、ほとんどが、週に1回平日しか開かれないとか、予約が必要だとか。もう、ふざけんなっていう話だよね。ホントに検査を受ける必要がある人が、そんなの行けるわけないじゃない。とはいえ東京には、幸い南新宿検査相談室というところがあるので救われています。

そして、一人でも多くの人に、思い立ったらとにかく検査をすぐに受けて貰いたいと思っていて。そうしたら、やっぱりお金を安くしないと、受けないだろうなと思って、この値段でやっています。開院以来3,500円プラス消費税。試薬代と採血のための針足出ちゃうぐらいで(笑)
当然、赤字なんだけれども。

yuta_icon外山:赤字でやられてたんですね…!その、恩恵に、僕めっちゃ預かってるわけですけれども(笑)

itoda_docter_icon井戸田院長:まあ、これはね〜。やっぱり経営判断になるんだけれども、それでも私は、やっぱり一人でも多くのゲイの子に、HIV検査を受けて貰って、それがきっかけで、セーファー・セックスに繋がればなお良しと思っています。早くHIV感染が見つかれば、それでその子の命がその分確保されるわけだし、ゲイの子に悲惨な死に方を欲しくないなっていうのが、この値段でやっている理由なんです。

yuta_icon外山:確か、こうした検査って、症状が出ていないと保険が使えないんでしたよね?

itoda_docter_icon井戸田院長:そうなんですよ〜

yuta_icon外山:僕もしらかば診療所はお世話になっているわけですが、非常に通いやすくてですね。
凄く安く、検査を受けられたりだとか、広告のアプローチもあって、自分がゲイである事を隠さなくても良いんだ、と。以前検査を受けた際に「生バックはした?」とすごくカジュアルに聞かれたことがあったんですが (笑) そういう時に、こういうことを先入観なくフランクに言っていいんだ、というのは、すごく安心感がありました。
STDのような症状だと疑った場合には、医療を提供する側にとってその人が「ゲイ」であるということは重要な情報のように思うんですね。ただ、そういうのって、その場で伝えるのって、すごく難しいなって。そういう人にアドバイスがあれば教えて欲しいなと。

itoda_docter_icon井戸田院長:もし先生からセクシュアリティを聞かれたら、その先生が本当に必要としている情報である可能性があって、生死の別れ目になることもあるので是非伝えて欲しい。性感染症を専門にしている先生だったら、そんなにビックリしないので(笑)
性感染症の現場では、むしろ正直に話したほうが良いんじゃないかな、と思う。その方が、あなたにとっても、よりよい結果になると思うんだよね。

例えば、性感染症の診療の現場で言えば、我々医者が必要としている情報と言うのは、エモーショナルな話ではなくて、①いつエッチがあったのか、②エッチの相手は誰だったのか、③どんなプレイをしたのかということくらいなんですよね。そういうことを淡々と教えてくれればそれで良いです。困ったらうちに来てくれてもいいし。

後編につづきます!

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