ゲイカップルの子育てってどんな感じ?ドイツのゲイペアレンツに聞いてみた

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ゲイペアレンツとして子育てをされているドイツ人のミヒャエルさんとカイさんにお話を伺いました。

ベルリンはヨーロッパのゲイの首都と呼ばれるほど、ゲイフレンドリーな町です。女性同士、男性同士で手をつないで歩いているカップルを見かけることも珍しくはありません。そして、多くのゲイカップルが同性婚(ドイツでは結婚と同等の権利が与えられるライフパートナーシップと呼ぶ)をし、幸せに暮らしています。

そのようなカップルの中には里子を引き取り子育てをしているカップルもいます。(ドイツの里子制度については「ドイツでゲイカップルが子供を持つための3つの方法」を参照ください)

今回、ゲイペアレンツとして、3人の里子を引き取り子育てをされている、ミヒャエルさん(以下、ミヒャと表記)とカイさんにお話をうかがいました。

現在、ミヒャさんとカイさんは長女のヤナちゃん(7歳)長男のジェロム君(6歳)、次男のマクシミリアン・ポール君(11ヶ月)の3人の里親となり、子育てをされています。(写真右上:ミヒャエルさん、左上:カイさん、右下:ヤナちゃん、左下:ジェロム君。一番下のポール君は後継人の手続きが完了していない為、写真に入ることはできませんでした。)

ミヒャさん、カイさんへインタビュー

私:パパが2人だと、お子さんたちはどのようにお二人を区別して呼んでいるのですか?

ミヒャ:子供達は私をパパ(Papa)と呼び、カイをパピ(Papi)と呼びます。というのは、私の名前が、ミヒャ(Micha) で、彼の名前がカイ(Kai)なので、名前の最後がaで終わる私がPapaで、iで終わるカイがPapiです。

私:お二人はいつ頃出会われたのですか?

ミヒャ:1993年に付き合い始め、出会ってからは22年が経ちました。結婚をしたのは2008年で、ヤナが生まれる3週間前でした。結婚してからは約7年が経っています。

私:ヤナちゃんは何歳の時に、里子としてこちらに来たのですか?

カイ:生まれて6週目の時に引き取りました。それまでは、ヤナは病院にいました。引き取る5日前に「里親が必要な子供がいるのでお願いします」との電話をもらい、その日からの5日間は毎日病院に彼女を訪ねに行きました。家に彼女を連れて帰れる日を楽しみに、毎日通いましたね。それと同時に5日間で子ども用品を全て揃えなければならなかったので、とても忙しかったです。

里親として子供を引き取るまで

私:お二人はいつ頃から子供が欲しいと思い始めたのですか?

ミヒャ:はっきりとした日は覚えていませんが、結婚するだいぶ前から漠然と子供を持ちたいとは思っていました。ですが、ゲイカップルとして子供を持つこと自体、イメージがまだできなかったので、本当にただ漠然と思っていただけでした。

カイ:初めは本当に手探りでインンターネットで色々調べ始めたんです。そんな時に、あるドイツの政治家が養子をとったことを知ったのです。そこで、再度色々詳しく調べ始めたのですが、養子を引き取ることはとても大変な事だと分かりました。
ドイツ以外の国で養子取ることも考えましたが、莫大なお金がかかることや、最低限数ヶ月その国で暮らさなければならないなどの条件があり、その当時の私たちには不可能に近かったのです。そんな事を考えていた時に、私たちのどちらが言い出したのかは覚えていませんが、里親制度を利用して子育てをしようという話になったのです。

私:里親になると決めてから、実際にお子さんを引き取るまでどのくらいの時間がかかりましたか?

ミヒャ:たまたまですが、妊娠期間と同じ9ヶ月です。(笑)

私:9ヶ月というのは一般的な長さですか?それとも、9ヶ月は早い方なのでしょうか?

ミヒャ:そうですね、言い切ることは難しいですが、一般的にそのくらいはかかるように感じます。ただ、赤ちゃんを授かるということはコントロールできることではないので、その時々で多少違ってはきますね。

私:初めて赤ちゃんを迎えた時、どうのように赤ちゃんの世話の仕方を学んだのですか?

カイ:ヤナを引き取ることが決まった時、ヤナはまだ病院にいたのですが、そこにとても親切なベテラン看護師の女性がいたんです。毎日ヤナの様子を見に病院へ行くたびにその看護師さんが、いろいろ教えてくれました。抱っこの仕方や、ミルクの飲ませ方、そしてオムツの替え方など全てです。人生で初めて経験することばかりだったので、とても助かりました。彼女にはとても感謝しています。

ドイツの同性カップルの里親制度について

私:今までドイツではゲイカップルが里親になることについてどのように法律が変わってきたのですか?

ミヒャ:ドイツではゲイカップルが里親になることを一度も禁止されたことはありません。2004からはゲイやレズビアンカップルの一方が子供の保護者となっている場合、そのパートナーも子供の保護者になることができる法律ができましたが、以前からゲイやレズビアンでもパートナーとしてではなく、個人として里親になることは可能でした。
2010 年にベルリンで、ゲイの里親についての大きなキャンペーンが行われました。その成果が出ているのか、最近ではゲイカップルが里親になるのは普通になってきているように感じます。

カイ:私たちが里親になろうと考え始めた時には既にベルリンでは何人かのゲイカップルが里親として子供を迎えていましたので、ゲイカップルが里親になれなかったわけではなく、ゲイカップルが行動に移していなかっただけだと思います。
昔はゲイカップルとして子供を迎えることは想像もできなかったことだったと思います。そこで、私たちは2010年に大きなキャンペーンを行いました。そのキャンペーンを通して、ゲイやレズビアンでも里親になることが可能であることや社会にもそのようなライフスタイルがあることを理解してもらうことができたと思っています。

私:キャンペーンではどのような活動をしたのですか?

カイ:新聞やラジオでインタビューを受けたりして、できるだけ多くの人へ私たちのような新しい形の家族が在る事を伝えてきました。

ゲイフレンドリーなベルリンでの子育て

私:お2人はゲイペアレンツとして家庭内で役割分担などはありますか?

カイ:子供を持つ前から私の方が働く時間も多く、お給料もミヒャよりちょっと高かったので、僕が外で働くことにして、その間、ミヒャが家で子供の面倒を見てくれたり、家事をしてくれたりしています。ドイツではエルタン・ツァイト(英語でParents Time)と言って、お給料はもらえないですが、子供の面倒を見るため、親が3年間仕事を休める制度があります。なので、その制度を利用して、ミヒャは仕事を休んで子供の面倒を見ています。

私:以前、ニューヨークで養子を引き取り育てているゲイカップルの記事を読んだのですが、その記事では多くのゲイカップルが子育てをしているニューヨークですら、ゲイカップルが子供を連れて街を歩いていると写真を勝手に撮られたり、嫌な言葉を投げかけられたりすることが度々あると書かれていました。ベルリンに住んでいてそのような経験をしたことがありますか?

カイ:人々は自分が見たいと思うものを見ているように思います。そういう人たちには、ゲイカップルが子供を連れて歩いているようには見えないようです。特に私たちは、結婚した時に苗字を同じにしたので、例えば、ホテルにチェックインする時でも苗字が同じと言うことで、カップルとしてではなく、兄弟と思われることが多く、兄弟のどちらかの子供を連れていると思われることが多いです。
でも、たまに私たちがゲイカップルであることに気がつく人達もいますが、話しかけられたり、写真を撮られたりということは一度も経験したことはありません。話しかけられたとしても、ポジティブなことを言われることが多く、嫌なことを言われた経験は一度もありません。
ベルリンの人々は常にカッコよくいたいと思うので、何があってもクールに振舞う人が多いからだと思います。
特に、ゲイフレンドリーな街であるベルリンで、ゲイが子供を連れて歩いているくらいで大騒ぎするのはクールではないと考えられているのもあるのだと思います。

私:一度も嫌な思いをしたことがないとは、やはりベルリンはとてもゲイフレンドリーな街なのですね。

カイ:今思い出しましたが、一度だけ、ちょっと嫌な思いをしたことがありました。
数年前に子供を連れて家族でプールに行った時に、ファミリー用のチケットがあったのでそれを買おうとした時に、一度だけ「あなたたちは家族ですか?」と聞かれた事がありました。その時は「はい、そうです。」と言っただけで、すぐチケットを買うことができましたし、特に問題にはなりませんでした。それくらいです。

私:ヤナちゃんの学校ではどうですか?お父さんが2人ということで、他の子供から何か言われたり、他の親御さんから何か言われたりした経験はありますか?

ミヒャ:ヤナのクラスには、もう一人、お父さん2人に育てられている子がいます。その他にも2人、お母さん2人に育てられている子がいますし、担任の先生はレズビアンなので、今のところ特に問題があったことはありません。

カイ:でも、一番上のヤナはまだ7歳なので、その年齢の子供達はまだそういうことに興味もないので、今のところ問題はありませんが、もう少し大きくなってきたらどうかわかりません。

子供たちに対してもオープンに

私:お子さん達には里子であることについてどのようにお話しされていますか?

カイ:子供が私たちに聞いてくるのを待つようなことはしていません。今、子供が3人いますが、彼らの誕生に関してはそれぞれのストーリーがあります。なぜ僕たちの家で暮らすことになったのか、どのようにしてここへ来たのか、はいつも彼らに話をしています。まだ、言葉が分からないくらい小さな頃からベットタイムストーリーとして伝えたりしています。
それは大きくなってから知るのではショックが大きいと思うので、それを避けるためです。いずれは知ることになるので、初めから伝えています。子供たちにはそれぞれのお母さんの名前も伝えています。

私:将来、子供たちが生みの親に会いたいと言ったとしたら、会うことはできるのですか?

ミヒャ:もし会わせることが可能であり、本人がそう望むのであれば会わせてあげたいと思います。ですが、現在ヤナの母親はどこにいるかわからない状態なので、それは無理ですが、息子シャゴムやポールの母親とはたまに連絡を取ったりもしているので、本人たちが望めば会うことも可能です。

今までで一番大変だったこと

私:里親になる準備期間も含め、今までで一番大変だったことは何ですか?

カイ:里親になるために、ソーシャルワーカーの方と会ったり、たくさんの書類に目を通さなくてはいけなかったり、それに多くの時間を割かなくてはならないという点です。たくさんの官僚制度を乗り越えなくてはいけないので、その点が一番大変でした。
子供が来てからも里親ネットワークの一部として定期的に人と会わなくてはいけないのも大変です。自分の子供を持っているのであれば、そういったことはしなくて済むのだと思いますが、里親になるということは、その制度の一部としての務めが多少なりとも出てくるのです。

インタビューを終えて

今回のインタビューはミヒャさんとカイさんのご自宅へお邪魔させていただきました。私が見た彼らの家庭は日本にある一般家庭と何ら変わりのない、愛情に溢れたものでした。インタビュー中にもミヒャさんやカイさんに子供達がまとわりつき、頬にキスをしたり、内緒話をしたり、そこには愛情に溢れた家族の温かい風景がありました。もちろん、姉弟で喧嘩が始まって、ミヒャさんの声が大きくなりインタビューが中断することも度々ありましたが、それが親であり、兄弟であり、家族なのです。

ヤナちゃんやジェロム君、まだ11ヶ月のマクシミリアン・ポールくんの幸せそうな笑顔を見るとミヒャさんとカイさんから沢山の愛情を注がれて毎日幸せに暮らしていることが一目でわかりました。私たちも近い将来、彼らのような愛情溢れる家庭を築きたいと強く思いました。

また、日本でも多くの子供達が里親を必要としています。ゲイカップル、異性愛カップル問わず、里親制度や養子縁組制度を利用して親を必要としている子供達を受け入れやすい社会になればいいと思います。それには日本の社会がそのようなライフスタイルや家族が在ることを理解し、受け入れ、偏見や差別のない社会にならなくてはなりません。

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ABOUTこの記事をかいた人

高校、大学の6年間をアメリカで過ごしたあと、2004年5月に日本へ帰国。働き始めると同時期に、今のパートナーと日本で出会い、すぐに同棲生活をスタート。 パートナーの出身国であるドイツでは同性婚(正式名所はパートナーシップ)が可能なことから、将来を考え、ドイツへの移住を決意。同棲から10年が経った2014年12月にドイツにて、パートナーシップを行い、 現在は新しい家族(ラブラドール レトリバーのメス)と共にベルリンで暮らす。