母のアウティング
実の母親にカミングアウトをして、それをアウティングされたとしたら…皆さんはどう思いますか?アウティングとは、セクシュアルマイノリティの人々がカミングアウトした相手に、セクシュアリティの秘密を他者へ暴露されることを指します。10年前、私は母親にカミングアウトをし、そしてアウティングをされました。
母のヒヤッとする発言「1人くらいゲイはいるだろ」
子どもの頃、母が、「(子どもが)男3人もいるんだから、一人くらいゲイいるだろ」と、さらっと言いのけたことがありました。少しドキッと、わずかにヒヤッとしたのを覚えています。でも、「理解は示してくれるかもしれない」という希望が芽生えたのも確かでした。
学校の教員をしている母は、性教育にも熱心で、リベラルな思想の持ち主。青春時代には「ベルサイユのばら」などにハマり、ジェンダーを強く考えさせられたそうで、性の多様性を知識の面からも情緒の面からも多面的に知っている人だと私には映っていました。
母「話してくれてありがとう。大好きだよ」
その後数年経ち、母にカミングアウトをしました。LGBTに関する短編映画を観て。親の墓参りに行ったLGBTの主人公の気持ちを自分なりに汲み取り、
「親に秘密を隠したまま死別するなんて、自分はイヤだ」
そう思い、母親に思い切ってカミングアウトをしました。カミングアウト後、
「話してくれてありがとう。大好きだよ」
と、母は言ってくれました。「もし万が一嫌われたらどうしよう」と気を張っていたのが一気に解れ、お互いに涙していました。
「良かった、本当に伝えられて良かった…」
ところが、その後異様な事態に発展するとは、その時点では予想だにしていませんでした。
母の”ニヤけた表情”
カミングアウトを済ませた数日後、リビングで家族とTVを観ていたら、スポーツニュースが始まり、柔道選手が画面に映りました。するとその時、
「ゲイの人ってこういう人がタイプなんでしょ?」
と母が言ってきたのです。表情は少しニヤけていました。ゾクッと身体に嫌なものが入りこんできた感じがしました。そこには何も知らない兄もいたのです。
「そういう言い方は辞めて」
と伝えると、
「我が家は隠し事無しにしようよ。オープンな家族でいようよ」
と、言われました。
母の表情はずっとにやけていて、特異なものを好奇の視線で眺められているような気がしました。私は自分の部屋へ逃げこみました。こんなはずじゃなかったのに…なんでカミングアウトなんてしてしまったんだろう、とその時は後悔で胸がいっぱいになりました。
「嬉しかったから」
「大事なことを伝えてくれたのが嬉しかったから」。嬉しかったから….感激して周り(兄弟や知り合い)に、私がゲイであることを話していったそうです。母親だけに知ってもらいたい秘密の話だったのに、頭が真っ白になりました。けれど、いまでは、少しずつではありますが、あの時の母の行動は母なりの愛情表現だったのではないかと考えられるようになりました。
カミングアウトについては様々な意見がありますが、私なりの結論は「カミングアウトしても期待通り満足の行く結果が得られるとは限らない」ということです。
カミングアウトは悪い結果をもたらすこともある
カミングアウトは良いもの。いろんな人がそう言ってくるかもしれません。カミングアウトは瞬間的なもの。相手との関係は持続的なものなのだから、予期せぬ結果になったとしてもいずれ変化していく可能性を内包していると信じることも出来ます。
後日談ですが、今は、母とも良好な関係が保てられています。自分が傷付いたことも時間を掛けて母なりに気付いてくれたようです。ただカミングアウト、する側も、される側も、期待通りに行くと考えない方が良いのかもしれません。そういったことを考えてカミングアウトをするかどうか、決定した方が良いと、私は自身の経験から思います。
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画像出典:Real Men Do Cry