サムソン高橋の非シャイニー宣言③「ババア女装と、ゲイ告白して大失敗ツィートから人生を想う春」

non_shiny_title

※本記事には刺激的な表現が用いられています。著者の意向を尊重して掲載しています。

コラムの本質よりも執筆者で判断する風潮

かつてバディ編集部に在籍し、今ではライターとしてだけではなくババア女装としても大活躍しているブルボンヌ嬢が、映画『人生は小説よりも奇なり』のコラムを先日某サイトに寄稿していた。

ババア女装界では随一の知性と、ババア女装にしては穏やかで平等的で平和的な資質をお持ちの彼女にしか書けない、ババア女装とは思えないほど洞察に富んだすばらしく質の高い文章だった。

それにしても世に出てくるババア女装はどうしてこぞってバディ出身なのだろうか。あそこは、女装の虎の穴なのだろうか。

勢いに乗って、今回はババア女装をテーマに書きそうになってしまった。止めよう。

non_shiny_0301

そのババア女装が書いたすばらしい文章が、Yahooニュースに配信された。そしたら、真っ先にきた反応が、

「キモい」
「読んでないけどぶっちゃけ気持ち悪い」

というものだったのである。

ひどい話である。
何よりも、ババア女装に対する冒とくではないか。
ブルボンヌ嬢は、(※ババア女装にしては)という注釈付きでだが、まだ比較的美しい部類に入る。
もっと、悪夢のようなババア女装は、たくさんいる。
「キモい」と脊髄反射をしたそいつらに、ナイトメア女装を目の前に突き付けるという拷問をして、泣き叫びながら懺悔するという改心を望みたい。
その役割にはどんなババア女装が適役だろうか。みなさんも一緒に考えてほしい。

勢いに乗って、今回はどのババア女装がノンケにとって一番ショッキングかを決める原稿になってしまいそうだ。止めよう。

そのとき私は最近twitterをにぎわしたある件についてふと考えていたのだった。

25年来の友人にゲイ告白して起きたこと

とあるゲイのかたのツイートが発端である。
ノンケの友人に、ゲイであることがうっかりばれてしまった。
そして、25年ものあいだ付き合ってたその友人に、絶交を言い渡されてしまった。
その内容は以下のようなものである。

「ホモは生きてる価値まったくない」
「生き物としてアウト」
「早く野垂れ死にますように」
「病院行ったほうがいい」

そのかたの報告によると、借りたCDや受け取った祝儀をわざわざ返却する際にその友人は母親にもアウティング、ゲイであることをばらしたそうである。

ひどい話である。
何よりも、ババア女装に対する冒とくではないか。いや、この件に女装は関係なかった。

「ひどい話だ」と思って私はどうしたかというと、そのつぶやきを即、頭の中から消去した。
「これはでっちあげの釣りではないか」と思ったからである。

その友人のゲイに対する反応がいかにもテンプレ通りの絵に描いたようなひどさだったからというのと、普通25年も付き合ったら、その人間がどんな反応をするかくらいはわかるのではないか、と思ったからだ。こんなことを万が一でも言いそうなやつとは、絶対に友人になんかはならない。そして何より、もしこれが釣りでもなんでもなく本当に起きた事件だったとすれば、騒ぎ立てるだけでこのかたはよりいっそうダメージを受けるはずだ。

私が最初に見たときは100もリツイートされてなかったが、その後このツイートは3万以上リツイートされて、数多くの励ましが寄せられたが、その後「釣りではないか」という追及や非難にさらされて、結局その方のアカウントは消えてなくなってしまっていた。

ある意味私の予感は的中したわけだ。
ひどい話である。

多くの人に心にあのツィートが刺さった理由

この話が釣りだったのか真実だったのかは、わからない。ただ、釣りだとしても、これはそうせざるを得ない背景があっての釣りだったと思う。
田舎にいて、中小企業に勤めをしていて、年老いた親がいて、自分も若くなくてそんなイケメンでもなくて、その環境から逃げることができないゲイの魂の叫びだったのかもしれない。

そして、

・同性婚についての記事が15RT
・海外ゲイセレブニュースが10RT
・ LGBTフレンドリーな企業情報が7RT
・ デブも専ナイト告知が30RT
・ glass gem popcornのフォロワー数が40……

ざっと調べてtwitterではそんな程度のゲイ情報にあってこれが3万RTとバズったのは、多くのゲイにもこれがゾッとするような印象で刺さったからだろう。

ババア女装、いや、ブルボンヌ嬢がおごらない目線でわかりやすく丁寧に語っても、それを「キモい」のひとことで片付ける人間。
そんな短絡的で暴力的な人間は存在する。
だいたい私自身が、誰かのスキャンダルを耳にしたら2ちゃんねるに駆けつけて喜々として死体蹴りをするような人間のクズなのである。

だが、現実社会でそんなことはしない。気が弱く、それなりに知性と自制心があるからだ。
しかし、世の中には私並みに根性が悪いながらも、知性も自制心もない人間は存在する。
私はゲイ関連以外では、工場や建築現場や警備や倉庫などの肉体労働しか経験がない。同僚の人々は多くがいい人だったが、ごく一部には暴力的でとんでもない人もいた。
そこでカミングアウトするなど考えられなかった。
「LGBTに理解のある企業」とやらの平均年収はいくらだろうか。
そこは私のような高卒でも入れるだろうか。

その3万リツイートのつぶやきを頭の中から消したのは、そういった現実の暴力が自分にふりかかったとき、どう対応するかがまったくわからなかったからでもある。
何のとりえもない私に人並みの責任感と真面目さがあったら田舎で親の面倒をみていて、同じ目にあっていたかもしれない。
あるいは、そんな風な釣りをでっちあげるしかなかったかもしれない。

あれは、ひょっとしたらの自分だ。

海外のゲイ・セレブリティのゴシップニュースや、LGBTフレンドリーな企業や、パートナーシップ証明書の発行や、代理母による新しいかたちの家族や、ガチムチによる海外プールパーティーとかはその自分には何の助けにもならないだろう。

そのひどさを糧に、他人に優しくする、そして自分にとっていいことだけを探していくことしか答えはないかもしれない。

と結論付けて、それがババア女装、いや、ブルボンヌ嬢の信条とほぼ一緒だということに気付いて、なんだか女装でもしたい気分の春の午後だ。
私の女装はおそらく悪夢のような仕上がりになると思うので、その暁にはホモには生きる価値なしとかホモきもいとか言うノンケをなまはげのように襲いたいものである。

画像出典:
ブルボンヌ画像
映画「人生は小説よりも奇なり」公式サイト

参考文献:
■ブルボンヌの新作映画批評 第16回『人生は小説よりも奇なり』 遺伝子を遺せない老いたゲイたちが、 この世界に「生きた証」とは

もっと読む

READ  サムソン高橋の非シャイニーゲイ宣言①「ホモには無職もホームレスもいる」
READ  【サムソン高橋の「ゲスの極み放談」】差別意識って本当に根深く困ったもの
READ  頻発する性的マイノリティ差別発言を見逃してはならない理由

non_shiny_title