アメリカで生殖医療サービスを提供するクリニック代表ガイ・リングラー医師インタビュー

この記事はJ babyの提供でお送りしています。

今回は、昨年レティビーライフでも取り上げた「J baby」の提携先であるIVFクリニック(※)を経営するリングラー医師にお話をききました。
この20年にどうアメリカ社会が変化したのか、この事業を立ち上げて、彼自身が感じてきたことをお聞きしました。また、代理母出産に関してはまだまだ国内国外においても批判的な立場をとる人も少なくありません。そうした意見に対してどのようなスタンスをとっているのか、インタビューしてきました。

※IVF(In Vitro Fertilization)…体外受精

この記事では男性同士のカップル、女性同士のカップルを合わせて、「ゲイカップル」と表記しています。

リングラー医師の紹介
「生殖医療に携わることをたいへん幸運なことだと思っています。私にできるのは、ご依頼者が赤ちゃんを授かり家族を作る手助けです。こんな素晴らしいことはありません。」

カリフォルニア・ファティリティ・パートナーズ(CFP)のパートナーであり、共同オーナー。ミシガン州立大学ウェイン校医学部を優秀な成績で卒業。シカゴ大学産婦人科にてレジデンシー研修、ペンシルバニア大学の生殖内分泌科と不妊治療科にて専門医研修。ジェローム・シュトラウス博士の研究室で胎盤機能の調整に関して分子生物学的研究を行い、高名な生殖外科医であるルイジ・マストロヤンニ博士とセルソ・ガルシア博士のもとで修練を積む。内分泌学会とセローノ・シンポジウム国際財団から第一回ネッティー・カルピン賞を授与。

20年間の臨床を通じて、国際的な紹介による治療受け入れを大きく進展。これは、ひとえに彼の優れた患者との信頼関係の構築と、外科的矯正、体外受精(IVF)、卵子提供、代理母による代理出産に至るまで、多種多様な不妊治療の高い成功率に起因している。さらに同性愛の人が家族を作るための大手の代理出産機関にも協力。子どもを授かるという夢の実現を世界中で支援。
患者教育にも関わり、アメリカ不妊治療学会の理事。

医師が選ぶ「全米ベスト・ドクターズ」ならびに、ロサンゼルス・マガジンが選ぶカリフォルニアの「スーパー・ドクターズ」のひとりとして選出。 2010年にはアメリカ不妊治療協会からファミリー・ビルディング賞を授与。

早速質問をさせていただこうと思います。IVFクリニックを始めたきっかけはなんだったんですか?

yuta始めはシカゴの産婦人科で、高齢の女性の出産におけるリスクの減らし方についての研究をしていました。
80年代後半に体外受精で子供を産むということがすごく話題になっていて、この分野が今後発展していくだろう思いました。そして、90年代に、IVFを行っているクリニックに応募して、そこからこの分野に従事するようになりました。

yuta初めてのゲイの患者さんが、サンタモニカから来たゲイカップルでした。片方の方のお姉さんが卵子ドナーとなって、二人の遺伝子に近い形で子供を授かりました。すごく素敵でした。

yutaただ、当時は代理母出産のエージェンシーは、ゲイコミュニティに対して門戸を開いていなかったんですね。だから、代理母出産をする際には、個人で代理母となってくれる女性を探す必要がありました。
20年間、少しずつ時代は変わって、今では人々の態度も変化し、アメリカではほとんどのエリアで、ゲイカップルが代理母出産を利用して子供を持つことが可能になりました。

いろんな人の出産に立ち会って、良かったことはなんですか?

yutaたくさんあります。昨日まさにそうでしたね。ロンドンに住んでいるとても面白くて、才能のある方が患者さんにいるんですが、彼自身はストレートでシングルでした。昨晩妊娠の検査で陽性反応が出たことを伝えた時に、とても喜んでいて、「今泣いてるよ。月を飛び越えちゃうくらい嬉しい」と話しているのを聞いて、とっても優しい気持ちになれました。

yuta人の人生の転機に立ち会えるというのは、とっても嬉しいことですね。
そういう瞬間や、LGBTの人たちが家族を持つ瞬間をサポートできるのは、とっても素敵なことですね。

yuta20年前は50代のゲイカップルが圧倒的に多かったけれど、今は若い人も来るようになりました。彼らは両親が孫を欲しがっていることをすごく気にしていて、中国はそういう意味では興味深くて、ゲイかどうかは聞かないし、言わない。例えば同性同士で一緒に同棲していても親にも言わない。
あるゲイカップルは、子供ができるまで両親にカミングアウトしなかったのですが、子供ができたことを伝えるのと同時に「ところでゲイなんだ」と。もう両親は「孫ができたらそんなことどうだっていい」と言っていたらしくて。
何回か中国人のそういうゲイカップルを見たよ。子供ができることが重要な文化なのでしょうね。
そういうのってなんか素敵だなぁって思いますね。

yutaアメリカでもかなりゲイカップルを取り巻く環境は変わってきています。
結婚もできる、子供も持てる、そういう生活を送れます。
僕が子供の頃は、誰にも言えなかった。アンダーグラウンドで、治安が悪い場所にゲイバーがあって、すごく怖かったですよ。結婚したり、子供を持つなんていう選択肢はなかった。

yuta私はデトロイトの医大に通っていましたが、すごく危険なエリアで、ショッピングセンターには銃をもった警備員がいたりしてまいしたからね。そこに車を止めて、ゲイバーに行くのも早足で歩いて、周りを気にしながら入っていました。すごく怖かった。
ゲイカルチャーはすごくアンダーグラウンドでしたから。中に入るととても楽しかったですけどね。

養子縁組など、子供を持つにも様々な選択肢がある中で、ゲイカップルが自分のDNAを引き継いだ子供を持つ意味ってなんだと思いますか?

yutaすごく良い質問ですね。個人的な話にもなるけれど、なぜこれだけ多くの人が生物学的な自分の子孫を残したいと思うのか。
私はそれは自然に沸き起こってくる感情なんじゃないかと思うのです。
自分のイメージを子供の中に見るのでしょうね。
二人の愛の結晶として子供が欲しくなる、というのは多くの人にとって自然に若上がってくるものだと思います。

yutaいつか、二人の男性同士でも、細胞から卵子を作り出して、二人の遺伝子をもった子供を持つことができるようになります。

日本ではまだ批判的な意見も多くて、いくつかその点についても聞いていきたいと思います。子供の遺伝子、人種や目の色、学歴などを選べるという点も批判の対象として耳にしたことがあります。それについてはどう思いますか?

yutaヘテロセクシュアルのカップルが、自分のパートナーを選ぶとき、同じことが起こっていると思っています。髪の色や人種、同じような学歴を持った人、そういうことがパートナーを選ぶときの大切な要素の一つになり得ます。現在私たちのクリニックに来るゲイカップルも同じように自分と同じような教養を持った人に惹かれたりする、ということもありますよね。それと同じことだと思います。

次は代理母の安全についてです。どんなに安全であっても、数千組に一組は亡くなってしまうという事実がある中で、代理母をどうしてもリスクにさらしてしまうということについてはどう思いますか?

yutaそれも重要な質問ですね。確かにそのリスクはあります。そしてそれは最初に全て代理母となる女性には必ず伝えています。死亡のリスクだけでなく、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病など、妊娠することの様々なリスクについて事前に説明しています。そして代理母になる女性たちは、全員すでに子供を自分で産んでいる人に限っていますので、過去の妊娠した際に問題がなかったかもヒアリングし、スクリーニング検査もしています。
全員そのことを承知して、引き受けています。
また、代理母出産とは、他人の細胞を自分の中にいれることですから、どんなに卵子や精子の検査を行って安全だという結果が出ていても、100%安全、ということではありません。その点についても理解してもらってから代理母として登録されます。
私の目標は、この妊娠を、できるだけ一般的な妊娠と同じだけのリスクで提供できるようにすることです。

子供のアイデンティティクライシスについてどのように考えていますか?

yuta卵子ドナーになる際に、オープンドナーとして情報を公開してドナーになるか、非公開としてドナーになるかは個人の選択の自由がありますね。
私の患者さんで、ゲイカップルが子供を授かった方々がいるのですが、ドナーである母親と一緒に休みの日に出かけたりしています。彼らはどうやって自分が生まれたかを子供に伝えた上で、自分の出自もゲイの両親のことも受け入れていますね。
その子は僕のことも知っていて、名前も覚えてくれています。5歳の子です。

yutaIVFのプログラムを始めた最初の事は、母親がいない状況下で過ごす子供のことを考えると、とても不安でした。
私はカトリックの家庭に生まれて、母親との関係性がすごく近かったので、母親がいない人生のことを想像できませんでした。
でも、どっちであれ、子供が愛されていればいいんだと思ったんです。お父さんが二人いようが、お母さんが二人いようが、母親と父親がいようが、必要なのは愛されることと、親からのサポートです。

yutaまた、Pop Luck Clubと言われるコミュニティがあります。ここではゲイカップルの子育てに関する情報やイベントを共有したり、カップルのサポートをしています。もう既に何千ものメンバーがいて、お互いに支え合っています。
http://www.popluckclub.org/

宗教的には、アメリカではどのように捉えられているのか。また、人が人を創る、という倫理的な課題に嫌悪感を抱く人もいるのではないか、という批判に対してどう思われますか?

yutaアメリカには様々な宗教があります。カトリックは特に伝統的な関係性やルールがあったりもします。
そして、カトリックでは出生をコントロールすることはあまりよくはありませんが、現実的に98%程度のカトリックの女性は出生をなんらかの方法で調整していたり、コントロールしています。

yutaカトリックはゲイカップルの家族の構築に関しても確かにサポートしていませんが、個人的には、自分の思う神様は自分のこの仕事のことを認めて、大切に思ってくれていると信じてるよ。

yuta面白い話があるんだけど、8年前患者さんに誘われて、バチカン市国を訪れたときに
サン・ピエトロ大聖堂に入るときに、少し不安だったんです。だってIVFの医師がこんなところにいるんですからね!そしてたくさんのゲイカップルの患者さんを抱えている。カトリックは支援していませんからね。
結局サン・ピエトロ大聖堂に足を踏み入れたとき、当たり前ですけれど、何も起きなかった(笑)
歩き回っても何も起きなかったし、すごくいいエネルギーを感じたんですよ。
だから神様は私のやっていることを認めてくれているってことですよね(笑)
神様がそのように人間を作ったのだから。

批判的な立場をとる方は今後ももちろん存在するでしょう。しかし、既に子供を育てることを望んだ人たちが、それをサポートすることを望んだ人たちの助けと、生殖医療技術の向上によって生を受けた子供たちがいることも事実です。
問題が本当にないか、また、リスクを軽減するために、批判的な立場にたち今後も声を上げていく方々の存在も必要だと考えていますが、実際に生殖医療技術によって生まれてきた子供たちが、過ごしやすい環境を作っていかなければいけない、ということも同時に必要なことです。
そのために、ぜひ一緒に、今後も様々な活動の動向に注目しながら、様々な立場の人たちの話に耳を傾けてみませんか?

リングラー医師のクリニックの代理店を務める、J babyさんのインタビュー記事はこちらから

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