愛想づかしも金から
意味:女が男に思想を尽かし、見捨てたりするのも原因は金である場合が多いということ。
財布を出さない女
これは、実際にあった出来事です。社会人5年目の頃、SNSで大学生のミホ(仮名)と知り合いました。
何度かメールのやり取りをして、2人で食事に行くことになりました。会計の時、ミホは財布を出そうとしてくれましたが、わたしはとめました。「(払わなくて)いいよ。まだ学生なんだから」と言うと、彼女は「ごめんね。ありがとう」と言いました。
ミホは18歳の時に進学のために上京して、アルバイトをしながら学生寮で暮らしていました。
彼女がアルバイトで稼ぐお金は、それほど自由に使える額ではないということも、話の中で分かりました。
それから何度か食事に行きました。わたしから誘ったり、彼女の方から声を掛けてくれたり。
会計の度に、わたしはミホの手を止めて自分の財布から支払うようにしました。
そのうちに、ミホは財布を出すことをやめましたが、「食事代ぐらいは(わたしが払おう)」という気持ちで始めたことなので気にしないことにしました。
その頃には、もうすっかり彼女のことを好きになっていましたから。でも、それが結果的によくなかったのかもしれません。
「買い物に行きたい!」
ミホと付き合いだしてからしばらくのことでした。
それまでのデートといえば夜に食事に行くぐらいでしたが、昼から会うことが多くなりました。
「どこに行きたい?」と聞くと、彼女は決まって「買い物に行きたい!」と答えました。
ショッピングモールへ行きました。ミホは気に入った物を見つけるとわたしのところへ持ってきて、「これにする!」と言うのでした。まるで子供が親にお菓子をねだるように。それがあまりに自然で、わたしもつい「いいね、これ」と受け取っていました。
(あ、わたしが払うんだ…)と内心思いながらも、断る言葉が思きませんでした。
「ありがとう!ほんとに嬉しい!」「大切にする!」「幸せ!」
欲しがるもの買ってあげると、彼女はキラキラした笑顔ですごく喜んでくれました。人前でぎゅっと抱きしめられて、大声で「幸せ!」と言われたこともありました。大袈裟な、と思いながらもわたしには嬉しかったのです。
ミホが「これにする!」という物は、雑貨などのちょっとしたものから始まり、服や生活用品へと変わっていきました。
デート代がかさんでキツイと感じることもありましたが、彼女が好きでしたから連絡がくると嬉しく思いました。
「来週旅行に行かない?」
そんなある日、「来週旅行に行かない?」と彼女からメールがきました。
給料日前だったので、「金欠だから、旅行は厳しいかな」と返事をしました。
(家で2人でゆっくり過ごせればいいかな)と思っていましたが、彼女の返事は「じゃあまた今度ね!」でした。
この時、わたしは気付かされたのです。「この人が会いたいのは、お金を出してくれるわたしなんだ」と。
しまいにはアルバイトを辞めてわたしと一緒に暮らしたいと言い出しました。
付き合っている彼女から「一緒に暮らしたい」と言われれば大抵の人は嬉しいと思うでしょうが、わたしには違いました。
ミホが求めているのはわたし自身ではなく、養ってくれる相手だと気付いたからです。
最初は彼女の喜ぶ顔が見られれば良かったはずが、愛情が不信感へと変わっていきました。
いつものように、支払いを終えたわたしに「大好き!」と腕を絡ませてくる彼女が、以前とは別人に目に映るようになりました。
(……本当に、そう思ってるの?)
ミホに触れられると、虚しい気持ちでいっぱいになりました。
わたしは、彼女と別れたいと思うようになりました。
ただ、彼女が悪気があるようにはとても見えなかったので、どう話していいか分からずメールで伝えることにしました。
「別れたいです」
そう一言書いたメールを送りました。
彼女からの返事はありませんでした。
あなたは気をつけて
それから何の音沙汰もないまま半年が過ぎました。
彼女がいい人だったのか悪い人だったのか、わたしには分かりません。
半年振りに街で見かけた彼女に声をかけました。
「元気?」
「うん」
「そっか」
じゃあ、と真新しい赤いバッグを揺らし、走っていく彼女の後ろ姿はキラキラと輝いていました。
画像出典:cc-library010000842