今回は、映画監督・犬童一利氏にお話を伺いました。
監督は、ゲイの青年の葛藤を描いた映画『カミングアウト』を撮られたり、東京国際レズビアン&ゲイ映画祭でもご活躍しています。
なんと若干29歳!金髪にスポーティーな出で立ちであらわれた犬童監督は大変気さくな方で、色々とインタビューさせていただきました。
—東京国際レズビアン&ゲイ映画祭はいつから知っていましたか?
以前から知っていました。3年前に『SRS♂ありきたりなふたり♀』というトランスジェンダーの話のDVD映画を作った時に知って実はしていたんです。その時は落選してしまったので、2014年の『カミングアウト』では絶対上映したい!って思っていました。
(※『カミングアウト』は去年の映画祭で上映され、今年の東京国際レズビアン&ゲイ映画祭のパンフレットの上映作品募集欄にもビジュアルが使われていました。)
今年出品した『あかぎれ』はその流れもあって、最初から応募するつもりで製作しました。
—「映画を作りたい!」と思ったのはいつ頃からですか?
ものをつくるのが好きで、大学で学祭の実行委員をずっとやっていました。映画にも興味はあったんですけど、そんなに映画マニアというわけではなかったんです。
僕、大学の商学部を出てからは就職して、2年くらい営業をやっていたんですよ。それで24歳の時に「映画監督になる」って決めて親や会社に話して、営業職を辞めて…。
—「映画監督になる」という決意のきっかけは何だったんでしょう?
このままサラリーマンを続けるのはどうなんだろうと考えた時に、やっぱり “みんなでものをつくる”ことをしたいなと思って。
それに僕はあんまり、仕事とプライベートを区別したいタイプじゃなかったんです。映画ってそういう意味では、生きている中のすべてのものごとが何でも本当に活かせる、何でもテーマに成り得ることだと思いますし。絶対に一人では出来ないので、まさに“みんなでつくる”ものでした。
あとは、映画は国も時代も関係なく形になって“残る”ところが魅力的でした。
—犬童監督にとって、映画づくりの面白いところと難しいところは何ですか?
みんなでつくる面白さはやっぱりあるんですが、それと同時に監督は孤独だとよく言われます。本当に沢山の人が関わって作る分、孤独を感じる瞬間も時折あります。作品は自分の子どものようなものなので、自分もちゃんと愛さなきゃいけないし、人に愛されるものを作っていかなきゃと思っています。映画の可能性は無限で、もしかしたら100年後に外国の子どもが観てくれるかもしれない。そういうところが面白いです。
—映画づくりを始める時、LGBTを主人公にした理由はありますか?
最初に作った『SRS♂ありきたりなふたり♀』のトランスジェンダーの話は僕発信ではなく、音楽会社からの依頼で作ったものだったんです。そこで自分なりに勉強や取材をしました。それを経て、自分で劇場上映のための長編映画を撮ろうと思った時に『カミングアウト』が生まれたんです。でも、ゲイをテーマにしよう、LGBTの話を作ろうとは全く思っていなくて、「自分自身と向き合う」というのを描きたくて行き着いたのが、同性愛者のカミングアウトだったんですよ。
—『カミングアウト』では、テレビに出ているオネエタレントを観て笑う家族の中で主人公・陽が気まずそうにするなど、とてもリアルなシーンが多いですよね。その辺りの描写はどうやって出来ていったのでしょうか。
本を読んで勉強したり、あと取材を沢山しましたね。僕にはオープンなLGBTの友達がほとんどいなかったので、『カミングアウト』を撮る時に色んな人にコンタクトをとりました。表立って活動されている方にも沢山お会いしましたし、ハンドルネームを使ってブログをやっているゲイの方が会ってくれたりもしました。なので、取材で伺った体験やあるあるはかなり反映されています。だけどこの映画の中のあるあるって、ストレートの方でも共感出来ると思うんです。自分がちょっとうしろめたいなと思っていることをテレビでやっていたら気まずいとか、親から「まだ結婚しないの?彼女連れて来なさい」なんて言われたりとか。立場を問わず自分の体験とリンクする部分があった方が、映画って絶対感情移入出来ると思います。
—『カミングアウト』の舞台を大学にしたのはなぜですか?
進路について一番悩む時期だと思ったので、主人公を大学生にしました。日常的なシーンはなるべく普遍的にしたかったんです。それにサークルのメンバーと溜まる感じ、何かするわけでもなくだべり場に集まる感じって、高校生だと部活の練習になっちゃうからちょっと違うかな、と。自分の大学時代を思い出しながら製作しました。僕が大学で学祭の実行委員会をやっていた時と似たような感じなんですよね。暇があればとりあえず行く、学祭と関係ないことも喋る、みたいな(笑)。
— 監督にとって、学祭の実行委員をやった経験は思い出としても作品作りの上でも大きいんですね。
大きいですね。『SRS♂ありきたりなふたり♀』で脚本を担当した守口悠介も、実は大学の学祭実行委員会で一番仲が良かった親友で、その時からの付き合いなんです。卒業後たまたまお互い映画の世界に入っていて、次回作『つむぐもの』の脚本も彼が担当します。
—今年6月にDVDの発売とレンタルが開始した『カミングアウト』ですが、DVD化されて改めて印象的な観客の方からのリアクションはありますか?
ストレートの人からも「観たよ」と沢山言ってもらえました。中でも特に嬉しかったのは、「この映画がきっかけで今まで無関心だった世界を知ることが出来て良かった」という前向きな感想です。それと、「共感出来た」「LGBTだけの映画ではない」と言ってくれる方がすごく多くて。先ほどお話しした自分と向き合うというテーマが伝わったんだなと思いました。国立市で上映をした時にも、僕の倍くらいの年齢の方が挙手をして「この映画を観て改めて自分自身と向き合う大切さがわかった気がします」と言ってくださったのが本当に感動的で、ずっと印象に残っています。
—最後に、今後の作品について教えてください。
今後の公開予定が2つあって、『カミングアウト』の次に撮った映画『早乙女4姉妹』が今年中に公開されることになりました。もうすぐメインビジュアルが公開される予定です。これは芸能界で活躍する4姉妹の話です。長女から順にモデル、アーティスト、役者、アイドルなんですが、彼女達にはとある「秘密」があります。何よりも大切な存在、奇妙な姉妹愛を描きたくて作りました。
もうひとつ、Facebookページなどで宣伝している『つむぐもの』は、頑固な和紙職人のもとに韓国人のヘルパーの女の子がやって来るというあらすじなんですけど、結局描きたいのは“人と人”なんです。国籍じゃなくて、一個人として理解し合うことの大切を介護を通して描きたくて。国も性別も世代も何にも共通点のない二人が出会って、ケンカしながらもつながっていくという映画になっています。実際に僕も取材で介護施設に行って一日働かせてもらったりしました。
ぜひ観ていただけたら嬉しいです。
犬童監督、ありがとうございました!
監督の映画への情熱とこだわりが詰まった作品になっていますので、DVD『カミングアウト』はもちろん、『つむぐもの』、『早乙女4姉妹』もぜひ劇場でご覧ください。
『つむぐもの』公式Facebookページ
犬童監督 Twitter(@inud39)