隠れゲイの“素晴らしきゲイライフ”
突然ですが、あなたはオープンリーなゲイですか? だとするならば、本コラムは非常にイライラする内容だと思われますので、「戻る」ボタンをポチッとしてください。どうしてって? それは、本コラムが「隠れゲイ」の鬱屈した日常を描いているものだからです。オープンリーでキラキラした毎日を送っている方からすれば、「なんだこりゃ」な要素満点。でもね、「隠れゲイ」って一定数存在するもの。彼らを無視することはできないと思うんです。
ここ最近、LGBTにかんする人権運動が盛んになりました。その一方でひしひしと感じるのは、「隠れゲイ」にたいする無言の圧力のようなもの。「オレらがこんなにがんばってるのに、どうしてお前らは隠れてるんだよ」「なんでゲイをひた隠しにするの? もっと自分に自信を持て」。
でも、ここで声を大にして言いたい。
別に迷惑かけてるわけじゃないし、オープンにできない人だっているんだし、事情なんて人それぞれだし、仲間割れしてる場合じゃないし、そもそも隠れゲイだって良いじゃん!!!!!!
……すみません、取り乱しました。でもまあ、常日頃からこんなことを思っているわけなんです。
そこで、本コラムでは、これまで隠れゲイとして生きてきたぼくの、“素晴らしき隠れゲイライフ”を綴りたいと思います。これを読んだ全国の隠れゲイの方々が、「オレも隠れたままで良いんだ」「隠れゲイだって楽しいじゃん」「よく眠れるようになった」「ご飯がおいしい」と元気になってくれれば幸いです。
ほんじゃ、いきまーす!
「ゲイ疑惑」との闘い
隠れゲイとして生きるうえで、どうしたって外せないのが「ゲイ疑惑」との戦い。いくらノンケぶっていても、類まれなる嗅覚をもってしてこちらのセクシャリティを見抜き、ゲイ疑惑をかけてくる人っているんですよね。え? それはお前がゲイゲイしいからだろって? んなことねーわ! オレ、まじでノンケっぽいから!
……すみません、取り乱しました。まあ、強がっちゃいましたけど、ぼく、普段はおとなしくて物腰柔らかなんです。言い換えると、ゲイゲイしいとも言いますが。
そんなんだから、どこのコミュニティに行っても、必ず「あの人ゲイなんじゃない?」って噂されたりもしていたんですよね。若かりし頃はそれでいちいち傷ついていたりもして。自分って女々しいのかな。男らしくしなきゃ。でもどうしたら良いのかわからない……。そんな風に落ち込んだりもしましたよ。
でも、大人になるにつれてそういう事態に巻き込まれることも減ったわけです。だって、他人のセクシャリティで盛り上がるなんて、せいぜい高校生くらいまでじゃないですか? 大人になってまだそんなことで盛り上がっているとしたら、知能レベルがヤバすぎ。そんなことを考える暇があるなら、仕事しろっての。
ぼくをゲイだと疑ってかかる派遣OLとの激闘
ところが、残念ながらそういう暇な人って一定数いるものなんですよね。ぼくがフリーライターになるまで働いていた制作会社にもいました。それが派遣OL(推定42歳)の、通称“座敷女”さん。こう呼んでいたのはぼくだけですけど。
その座敷女さんは、とにかくぼくのことを「ゲイだゲイだ」と騒いでいたみたいで、仲の良い同僚(この子にはカミングアウト済み)からは、「アシルくん、疑われてるから気をつけて」と注意されていました。なにをどう気をつけるんだ、と内心思っていたんですけど、とにかく座敷女さんには近寄らないようにして、なるべくトラブルの火種が生まれないようにしていたわけです。
でも、神様の手違いか、ぼくの不注意からか、なんの因果かよくわからないんですが、あるとき、会社の飲み会で座敷女さんと隣同士になっちゃったんですよ。これは万事休す。どうやって乗り切るか……なんてことを考えつつ、会社のお金で飲めるビールを楽しんでしまったのです。
派遣OL・座敷女さんからの攻撃
そうしたら、突然座敷女さんが仕掛けてきました。「アシルさんって、彼女はいないんですかあ?」。思わずビールを噴き出しそうになったものの、ぼくは冷静に返しました。「残念ながらいないんですよ」。それはそれは爽やかに返事しましたよ。てめえの悪意には気づいているけど、こっちは大人だから大人の対応をしてやる、なんてことを思いながら。
でも、その対応がおもしろかったのか、彼女は調子に乗ってしまって、言葉のナイフを何度も何度も突き刺してくるんです。
「いつから彼女いないんですかあ?(てか、彼女なんていないよね?)」
「どんな女の子がタイプなんですかあ?(どうせ男の子が好きなんでしょ?)」
「結婚したいとは思わないんですかあ?(ゲイなら結婚できないもんねえ)」
「どうしてどうしてどうして???(答えられないってことは、ゲイ確定?)」
悪意に満ちたその表情からは、会社の飲み会という場でぼくのセクシャリティを暴いてやろうという意気込みが十分感じ取れました。質問するたびに薄ら笑いを浮かべているし。なんて性格悪いんでしょう。悪いのは顔だけにしてよ!
しかも、周囲の人たちもただならぬ空気を感じ取って、なんだか気まずそう。こりゃまずい。……よし、ここらでこの座敷女を退治せねば。この瞬間、薄幸の青年・隠れゲイ・渋谷アシルと、推定年齢42歳の座敷女との戦いの火蓋が切って落とされたのです。
隠れゲイのぼくの反撃
一向にやまないマシンガントークを沈めるには、一発で仕留めないとならない。そこでぼくがぶちかました爆弾がこれ。
「ぼくの心配をするよりも、自分の心配をした方が良いんじゃないですか? ぼくはまだ若いですけど、座敷女さんは40代ですよね? しかも派遣OL。知ってますか? いま、結婚もできず、定職にもつけない貧困女子が増えてるみたいですよ」
クリーンヒット!その瞬間の座敷女さんの顔が忘れられません。この世の終わりを迎えた人みたいに目をパチパチさせて、二の句を継げない様子でした。
すかさずぼくは息の根を止めにかかりました。
「もしご希望があれば紹介しましょうか? 若い男子は厳しいと思いますけど」
これで座敷女さんは完全に沈黙。グラスを持って違うテーブルへと逃げて行きましたとさ。ちゃんちゃん。
それからというもの、座敷女さんがぼくのゲイ疑惑で騒ぐこともなくなったみたいです。ざまあみろ。
隠れゲイにとっては、ゲイバレは避けたいもの。だからといって守りに入ってばかりでは、相手を調子に乗せるだけです。攻撃は最大の防御。ゲイだと嗅ぎまわる下品な人は、一発で仕留めちゃいましょう。
【2016/03/03】
今回の記事が公開され、さまざまなご意見をいただきました。冷静になって振り返ってみれば、ぼく自身、相手を傷つけたのは事実で、もっと上手な逃げ方はあったと思います。
彼女とはすでに疎遠になってしまいましたが、もしも顔を合わせることがあったならば謝罪し、それでいて当時の発言は「セクハラ」にあたることを伝えられれば、と。
ぼくはやり方を間違ってしまいましたが、もしも似たような境遇にいる方が本記事を読まれた際は、自分を守ろうとするあまり相手の状況を悪いように仕立て上げて貶めるような手段はとらないようにしていただければと思います。